カズオ・イシグロ著 『私を離さないで』
最初、映画を観、そして原作を読みました。
臓器移植のために準備されたクローン人間。
主人公のキャシィを通して彼らが育った施設ヘールシャムでの生活と、そこを出て提供者になるまでの話しです。
解説にも書いてありましたが、「細部まで抑制がきいた」「入念に構成された」小説でした。
静かに流れる話の中で、人間は必要とあればどこまでも貪欲になり、それが人間らしさをことごとく無視してゆく、そんな印象を持ちました。
タイトルはジュディ・ブリッジウォーターの『夜に聞く歌』というアルバムの三曲目にあるという「私を離さないで」。
それと臓器移植とどのようにつながるのかしら、と思いつつ読み進んでいったのですが、終盤に施設ヘームシャルのマダムと言われる女性が、キャシィに語る言葉は心に打ち響きました。
その歌を聴きながら、一人部屋で目を閉じて、どこか遠くを漂うように、何かを願うように、踊っているキャシィを見てマダムは涙ぐみます。
キャシィの歌の解釈は 「ある女の人がいて、赤ちゃんを産めない体だと言われ、でも、奇跡が起こって赤ちゃんを授かる・・・それが嬉しくて、赤ちゃんをしっかり抱きしめる。でも、離されるのではないか、との恐れを持つ、それで、ベイビー、ベイビー、わたしを離さないで・・・と歌う・・・」というものでした。
しかし、涙したマダムの解釈は違うのです。
「・・・新しい世界が足早にやってくる。科学が発達して、効率もいい。古い病気に新しい治療法が見つかる。すばらしい。でも、無慈悲で、残酷な世界でもある。そこにこの少女がいた。目を固く閉じて、胸に古い世界をしっかり抱きかかえている。心の中では消えつつある世界だとわかっているのに、それを抱きしめて、離さないで、離さないでと懇願している・・・・」
何か、今の時勢に重なるような、胸に迫るものがあります。
全体を流れるキャシィの静かな語りが、かえって事の深刻さを伝えているように読み終えた一冊でした。
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店のHPはこちら→画と本のある喫茶店『after-studio』
最初、映画を観、そして原作を読みました。
臓器移植のために準備されたクローン人間。
主人公のキャシィを通して彼らが育った施設ヘールシャムでの生活と、そこを出て提供者になるまでの話しです。
解説にも書いてありましたが、「細部まで抑制がきいた」「入念に構成された」小説でした。
静かに流れる話の中で、人間は必要とあればどこまでも貪欲になり、それが人間らしさをことごとく無視してゆく、そんな印象を持ちました。
タイトルはジュディ・ブリッジウォーターの『夜に聞く歌』というアルバムの三曲目にあるという「私を離さないで」。
それと臓器移植とどのようにつながるのかしら、と思いつつ読み進んでいったのですが、終盤に施設ヘームシャルのマダムと言われる女性が、キャシィに語る言葉は心に打ち響きました。
その歌を聴きながら、一人部屋で目を閉じて、どこか遠くを漂うように、何かを願うように、踊っているキャシィを見てマダムは涙ぐみます。
キャシィの歌の解釈は 「ある女の人がいて、赤ちゃんを産めない体だと言われ、でも、奇跡が起こって赤ちゃんを授かる・・・それが嬉しくて、赤ちゃんをしっかり抱きしめる。でも、離されるのではないか、との恐れを持つ、それで、ベイビー、ベイビー、わたしを離さないで・・・と歌う・・・」というものでした。
しかし、涙したマダムの解釈は違うのです。
「・・・新しい世界が足早にやってくる。科学が発達して、効率もいい。古い病気に新しい治療法が見つかる。すばらしい。でも、無慈悲で、残酷な世界でもある。そこにこの少女がいた。目を固く閉じて、胸に古い世界をしっかり抱きかかえている。心の中では消えつつある世界だとわかっているのに、それを抱きしめて、離さないで、離さないでと懇願している・・・・」
何か、今の時勢に重なるような、胸に迫るものがあります。
全体を流れるキャシィの静かな語りが、かえって事の深刻さを伝えているように読み終えた一冊でした。
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