after-studio (画と本のある空間)

経営する喫茶店の名前です。

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Never Let Me Go

2011-04-28 10:52:34 | 書物・文学・詩
カズオ・イシグロ著 『私を離さないで』

最初、映画を観、そして原作を読みました。
臓器移植のために準備されたクローン人間。
主人公のキャシィを通して彼らが育った施設ヘールシャムでの生活と、そこを出て提供者になるまでの話しです。
解説にも書いてありましたが、「細部まで抑制がきいた」「入念に構成された」小説でした。
静かに流れる話の中で、人間は必要とあればどこまでも貪欲になり、それが人間らしさをことごとく無視してゆく、そんな印象を持ちました。

タイトルはジュディ・ブリッジウォーターの『夜に聞く歌』というアルバムの三曲目にあるという「私を離さないで」。
それと臓器移植とどのようにつながるのかしら、と思いつつ読み進んでいったのですが、終盤に施設ヘームシャルのマダムと言われる女性が、キャシィに語る言葉は心に打ち響きました。

その歌を聴きながら、一人部屋で目を閉じて、どこか遠くを漂うように、何かを願うように、踊っているキャシィを見てマダムは涙ぐみます。
キャシィの歌の解釈は 「ある女の人がいて、赤ちゃんを産めない体だと言われ、でも、奇跡が起こって赤ちゃんを授かる・・・それが嬉しくて、赤ちゃんをしっかり抱きしめる。でも、離されるのではないか、との恐れを持つ、それで、ベイビー、ベイビー、わたしを離さないで・・・と歌う・・・」というものでした。

しかし、涙したマダムの解釈は違うのです。
「・・・新しい世界が足早にやってくる。科学が発達して、効率もいい。古い病気に新しい治療法が見つかる。すばらしい。でも、無慈悲で、残酷な世界でもある。そこにこの少女がいた。目を固く閉じて、胸に古い世界をしっかり抱きかかえている。心の中では消えつつある世界だとわかっているのに、それを抱きしめて、離さないで、離さないでと懇願している・・・・」

何か、今の時勢に重なるような、胸に迫るものがあります。
全体を流れるキャシィの静かな語りが、かえって事の深刻さを伝えているように読み終えた一冊でした。


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優しさと・・・

2011-04-06 18:00:44 | 人事・生活・世間
「目は美しいものを見よ・・・」
と、先回のブログに書きましたが、これには続きがあるようです。

「目は美しいものを見よ。
 口は正しさを伝えよ。
 手はよいことを行え。」

元中学校校長の前川原良氏のお言葉のようですね。
PHP研究所出版 『人間を磨く言葉』 に見ることができます。
その説明の後半にこうありました。
「私たち人間は、接するものに気持ちが似てきます。暗いものに接すれば、心も暗くなり、明るいものに接すれば、心も明るくなります。・・・同じように、手もいいことに使うと、いいことを頭で考えるようになるものです。」
確かにそうですね。

震災から最早一カ月を過ぎようとしています。
人により痛み方は様々で、実際の被害とは違う思いがけない痛みを抱えてしまう方もいらっしゃることでしょう。
尋常ではない事態に長く置かれていますと、思いがけないことが起こり得るものですものね。
ですから、できるだけ優しく、優しく、人とかかわっていく大切さを感じています。
そうするなら、少なくともこれ以上人に痛みを加えずに居れるような気がするのです。

未曾有の災害
誰にも分かりえない事態が起きております
「自分は分かっている」
という考えが、案外人には痛いかもしれませんね。


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