4月の上旬の土曜日の午前11時半・・・タケルとアイリは、ショウコと、青山の、とあるビルの前で待ち合わせた。
その日は、晴天で、気分のいい春の日だった。
気持ちのいい陽光が差していた。
タケルとアイリが、連れ立って、そのビルに近づくと、クリーム色のレースのワンピースを着て、うれしそうに手を振る、ショウコがいた。
すらりとしたショウコが満面の笑顔で手を振ると、タケルとアイリの周りの男達がざわついた・・・それくらい、ショウコは美しかった。
「ショウコさん・・・すごいでしょうー」
と、アイリはショウコに近づいていきながら、自慢するように、タケルに言った。
「ああ・・・化粧と服装を変えただけで、あんなに、女性って、美しくなるんだな」
と、タケルは笑顔で言っている。
「ショウコさんは、中身から変わったから、さらに美しくなったのよ・・・さ、走りましょう」
と、アイリはタケルの背中を押しながら、走りだす。
満面の笑みのショウコとの距離が縮まっていく・・・。
「いやあ、すみませんねー。お休みの日にお呼び出てしちゃってー」
と、タケルは笑顔でショウコに言う。
3人はビルの8Fにある、フレンチレストラン「relation delicieuse」で、早速サングリアを飲んでいた。
「最近タケルは仕事が忙しくて・・・金曜日は、本社で会議の後、また、鎌倉に戻って深夜まで仕事だったんです」
と、アイリが説明している。
「だから、土曜日の午前中はタケルには、休んで欲しくて・・・それで、こんな時間にショウコさんに会うことに・・・」
と、アイリが説明している。
「システムエンジニアの仕事は忙しいって言うものね・・・知り合いにシステムエンジニアを夫にしている女性がいるけど・・・まあ、愚痴ばかり聞かされるわ」
と、ショウコは苦笑している。
「アイリは大丈夫?タケルくんの仕事は、そういう仕事らしいわよ」
と、ショウコはいたずらっぽくアイリに聞いている。
「全然?・・・わたしはタケルを支えるために存在しているんだし・・・望むところです」
と、アイリは笑顔。
「それにしても・・・ショウコさんは、大人の美しい女性そのものですね・・・お美しい・・・特に今日のファッションは、春の日の大人の妖精って感じです」
と、タケルは笑顔でショウコのファッションを褒める。
「タケルは、背の高いすらりとした、美人の女性が大好きなんですよ」
と、アイリは、ショウコに、少し笑顔になりながら、言う。
「それを知っていて、白いワンピースを着て僕を落としに来た、美しいすらりとした女性を僕は知っていますけどね」
と、タケルもいたずらっ子のような表情で言う。
「あらあ・・・アイリはそうやって、タケルくんを落としたの・・・初耳ね」
と、洞察力の高い、ショウコは、それだけで、わかってしまう。
「もう・・・タケルったら・・・」
と、アイリは口をつぐむが・・・すぐに笑い出してしまう。
タケルも笑顔、ショウコも笑顔だ。
気持ちのいい陽光の中、皆、サングリアで、楽しそうに前菜をつまんでいる。
「沢村イズミが、この間のことで、お礼を言ってました。ショウコさんのおかげで、母親の呪縛から解かれた、と言って・・・」
と、タケルがショウコに言っている。
「まあ、あいつが、ここに来て直接言えばよかったんですけど・・・まあ、彼も週末はなにかと忙しい身で・・・」
と、タケルが言うと、
「まあ、「ところで、ショウコさんって、何歳?」「36歳だったかな」「あ、それなら、俺、パス」・・・的な会話が交わされたんじゃないの?」
と、ショウコは、洞察力の高いところを見せる。
「ま、多分、見破られるとは、思ってましたけどね・・・彼はおんなとデートしてます。今の時間・・・」
と、タケルは、素直に話している。
「そのイズミくんって、どんな恋愛をする子なの?」
と、女性の恋愛には、一家言あるショウコが、興味を示している。
「そうですねー。彼は自分の恋愛を「猫」と表現していますね。機嫌のいい時はやさしくするけれど、やばくなるとすぐ逃げる・・・そういう恋愛だそうです」
と、タケルは説明する。
「まあ、彼は子供が嫌いなんですけど・・・友人の見立てによると、それは好きな女性を独占したいから、で・・・子供すらライバル視する、強い独占欲を持っているとか」
と、タケルは説明する。
「まあ、彼の場合、あの母親が中1で男と逃げていますから・・・恋愛もものすごく短期で終わる・・・彼に言わせると、母親の代わりに、女に復讐しているんだそうです」
と、タケルは説明する。
「実際会うと、やさしい・・・少し線の細い、傷つきやすそうなところもある、イケメンって感じなんですよ。イズミさんは」
と、アイリはフォローする。
「まあ、タケルの説明だと、すごい感じですけど、実際会うと、いいひとでしたけどね」
と、アイリは言う。
「まあ、僕自身も一緒に住んでるわけですけど・・・まあ、いい奴です。はい」
と、タケル。
「なるほどね・・・猫とは、言い得て妙、というところかしら」
と、すべての情報を聞き終わったショウコは、口をナフキンで拭きながら、赤ワインを飲む。
「そのイズミくんは・・・そのイズミくんの恋愛年齢は母親に捨てられた年・・・つまり中1で止まっているということね」
と、ショウコさんは言う。
「え?恋愛年齢・・・それが中1、つまり、13歳で止まっているってことですか?イズミの場合」
と、タケルはびっくりして聞く。
「ええ・・・今の話を総合すると、そういう結論にならない?」
と、今度は、ショウコの方が、少しびっくりした表情で、話す。
「わたしは、女性のしあわせについて、ずっと考えてきたの・・・もちろん、自分がしあわせになるためにだけど・・・ずっとああいう状態だったからね」
と、ショウコは説明する。
「それは、アイリから僕も聞いてます。男女がお互い自然に笑顔になる関係が最高だと・・・そういうお話だったんですよね」
と、タケルは確認する。
「そう・・・だから、タケルくんとアイリは、今、最高の関係なの・・・だって、最高にしあわせでしょ?二人共」
と、ショウコは二人に言う。
「はい」「はい」
と、二人は頷く。
「「大人の愛、子供の恋」っていう言葉、知ってる?」
と、ショウコが言う。
「いや・・・僕は初耳です」「わたしも・・・」
と、タケルとアイリが言う。
「まあ、いいわ・・・恋というのは、基本、相手から奪うモノなの・・・だから、十代の恋は・・・相手に求めるの。特に女性は、男性になにかしてもらうことが喜びよね?」
と、ショウコ。
「はい・・・男性から誘われたり、キスされたり、思い切り抱きしめられたり・・・それが十代の頃の喜びでしたね」
と、アイリ。
「それは逆も同じよね。男性だって、女性に好きになってもらいたいから、誘うわけだし、・・・まあ、男性的に言うと奪う恋と言った方がいいかしら」
と、ショウコ。
「心を奪う、唇を奪う、処女を奪う・・・男性の十代の恋は、奪う恋・・・いずれにしろ、相手に求めるのが恋なの・・・それは子供の恋なのよ」
と、ショウコ。
「それに引換え・・・愛は与えるモノなの・・・父親は小さい娘に無償の愛を与える。母親は、男の子に無償の愛を与える・・・それが大人の愛」
と、ショウコ。
「つまり、私が言いたいのは、その人がやっている恋愛行為が、与えているのか、求めているのかで、大人か子供か、わかる、ということを言いたいのよ」
と、ショウコ。
「だから、「大人の愛・・・与えるモノ」「子供の恋・・・求めるモノ」というくくりなんですね」
と、タケル。
「そう。だから、イズミくんの恋愛年齢は、13で止まっているから、子供の恋なのよ・・・相手に求めてばかりいて、自分からは与えられないの」
と、ショウコ。
「だから、機嫌のいい時はやさしくする・・・駄目な時は逃げる・・・猫じゃないの・・・子供の恋なのよ」
と、ショウコ。
「だから・・・母親に捨てられた腹いせに、つきあっている女たちに復讐しているって、言ったけれど、それ、要は捨てた母親に責任をとらせようとしているだけなのよ」
と、説明するショウコ。
「母親に一度捨てられたから・・・その責任を母親が取るまで許さないと決意している・・・だから、母親がやさしく謝ってくるまで、わがままし放題で許されると思っている」
と、説明するショウコ。
「だから、女を冷たく捨てても、オバサンをパスしても、女性には何をやっても許されると勘違いしている・・・そういう子供なのよ・・・そのイズミくんは」
と、説明するショウコ。
「イズミくんが、その悲しい勘違いに気づくまで・・・その行為は止まないし・・・母親の呪縛から逃げられないと思うわ、わたし」
と、説明するショウコ。
「だって・・・もし、わたしだったら、そんな幼い子供を相手にしないもの・・・そういうイズミくんを相手にするのは、幼い「子供の恋」しか出来ない女性だけよ」
と、説明するショウコ。
「そう思わない?大人のおんなとして・・・どう?」
と、ショウコは、アイリに聞く。
「うーん、確かに、恋の仕方が拙いというか・・・確かに子供っぽいですよねー・・・わたしは、タケルに大人になることを求めているし・・・」
と、アイリ。
「タケルも、私の為に、大人になろうと日々努力してくれるし・・・そういう二人から見れば、確かに、イズミさんの恋の仕方は、ちょっと拙く感じますね」
と、アイリ。
「でしょ?タケルくんは、アイリの為に大人になることが、今の人生のテーマになっているんでしょ?」
と、ショウコは今度はタケルに振る。
「ええ・・・女性をリード出来る大人の男性になる・・・これが、僕の今の生きるテーマですから・・・ということは、大人になることって・・・」
と、タケルは少し口ごもる。
「大人になることって、大人の女性に、愛を与えられるようになる・・・そういうことになりますよね?」
と、タケルはショウコに聞く。
「そう。男性の、大人の愛は、無償の愛を、女性にも子供たちにも与えられるようになることよ。女性の大人の愛も、無償の愛を、男性にも子供にも与えられることよ」
と、ショウコは、話す。
「そういう意味じゃ、アイリは無償の愛を僕にくれてます。僕も出来るだけ早く、無償の愛をアイリに与えられるようにしなくっちゃ・・・」
と、タケル。
「タケルも、無償の愛を私にくれているじゃない・・・大人になってる証拠じゃない?それ」
と、アイリ。
「それが本当だったら、二人共大人!ってことになるけど・・・でも、二人だけの時は、甘えまくってるんじゃないのー?」
と、ショウコは笑う。
「え、まあ、それは当然・・・」「まあ、それは、ねー」
と、笑顔のタケルとアイリ。
「しかし・・・そうかー・・・イズミはまだまだ、母親の呪縛に囚われているのか・・・恋愛年齢は、13歳のまま止まってるのか・・・」
と、タケル。
「子供はいつか大人にならなくては、いけないの・・・イズミくんも子供のままだと、回りに置いていかれちゃうと思うけどな」
と、ショウコは、静かに言う。
「「大人の愛、子供の恋」か・・・だから、イズミさんの恋は相手に求めてばかりなのね・・・与えることが出来ないから、うまくいかなくなるのね・・・」
と、アイリも赤ワインを飲みながら、考えている。
「ま、それとなく、本人に知らせておきますよ・・・あいつ、もう、母の呪縛から抜け出せたと勘違いしてるから・・・」
と、タケル。
「でも・・・ショウコさんって、すごいですね・・・あのイズミの上を行く人がいるとは・・・」
と、タケルは素直に驚いている。
「私も長く苦しんできたから・・・経験がいつしか知恵になるのよ・・・」
と、ショウコは素直に言う。
「タケルくん、どうやら、借りの10分の1くらいは、返せたようね」
と、笑顔のショウコ。
「ええ。10分の1なんて・・・けっこうな割合で返してもらいましたよ」
と、タケル。
「ううん・・・わたしはあなたに本当に感謝しているの・・・こんなのことでは、まだまだ、返せないくらいにね」
と、笑顔のショウコは、美しい。
「さ、話題を変えようか・・・そういえば、二人は将来、どんな場所に住みたい?ロンドン?パリ?ニューヨーク?」
と、ショウコは、話題を変え、さらに楽しい時間を過ごそうとしていた。
土曜日の午後は、楽しい時間だけが過ぎていった。
(つづく)
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その日は、晴天で、気分のいい春の日だった。
気持ちのいい陽光が差していた。
タケルとアイリが、連れ立って、そのビルに近づくと、クリーム色のレースのワンピースを着て、うれしそうに手を振る、ショウコがいた。
すらりとしたショウコが満面の笑顔で手を振ると、タケルとアイリの周りの男達がざわついた・・・それくらい、ショウコは美しかった。
「ショウコさん・・・すごいでしょうー」
と、アイリはショウコに近づいていきながら、自慢するように、タケルに言った。
「ああ・・・化粧と服装を変えただけで、あんなに、女性って、美しくなるんだな」
と、タケルは笑顔で言っている。
「ショウコさんは、中身から変わったから、さらに美しくなったのよ・・・さ、走りましょう」
と、アイリはタケルの背中を押しながら、走りだす。
満面の笑みのショウコとの距離が縮まっていく・・・。
「いやあ、すみませんねー。お休みの日にお呼び出てしちゃってー」
と、タケルは笑顔でショウコに言う。
3人はビルの8Fにある、フレンチレストラン「relation delicieuse」で、早速サングリアを飲んでいた。
「最近タケルは仕事が忙しくて・・・金曜日は、本社で会議の後、また、鎌倉に戻って深夜まで仕事だったんです」
と、アイリが説明している。
「だから、土曜日の午前中はタケルには、休んで欲しくて・・・それで、こんな時間にショウコさんに会うことに・・・」
と、アイリが説明している。
「システムエンジニアの仕事は忙しいって言うものね・・・知り合いにシステムエンジニアを夫にしている女性がいるけど・・・まあ、愚痴ばかり聞かされるわ」
と、ショウコは苦笑している。
「アイリは大丈夫?タケルくんの仕事は、そういう仕事らしいわよ」
と、ショウコはいたずらっぽくアイリに聞いている。
「全然?・・・わたしはタケルを支えるために存在しているんだし・・・望むところです」
と、アイリは笑顔。
「それにしても・・・ショウコさんは、大人の美しい女性そのものですね・・・お美しい・・・特に今日のファッションは、春の日の大人の妖精って感じです」
と、タケルは笑顔でショウコのファッションを褒める。
「タケルは、背の高いすらりとした、美人の女性が大好きなんですよ」
と、アイリは、ショウコに、少し笑顔になりながら、言う。
「それを知っていて、白いワンピースを着て僕を落としに来た、美しいすらりとした女性を僕は知っていますけどね」
と、タケルもいたずらっ子のような表情で言う。
「あらあ・・・アイリはそうやって、タケルくんを落としたの・・・初耳ね」
と、洞察力の高い、ショウコは、それだけで、わかってしまう。
「もう・・・タケルったら・・・」
と、アイリは口をつぐむが・・・すぐに笑い出してしまう。
タケルも笑顔、ショウコも笑顔だ。
気持ちのいい陽光の中、皆、サングリアで、楽しそうに前菜をつまんでいる。
「沢村イズミが、この間のことで、お礼を言ってました。ショウコさんのおかげで、母親の呪縛から解かれた、と言って・・・」
と、タケルがショウコに言っている。
「まあ、あいつが、ここに来て直接言えばよかったんですけど・・・まあ、彼も週末はなにかと忙しい身で・・・」
と、タケルが言うと、
「まあ、「ところで、ショウコさんって、何歳?」「36歳だったかな」「あ、それなら、俺、パス」・・・的な会話が交わされたんじゃないの?」
と、ショウコは、洞察力の高いところを見せる。
「ま、多分、見破られるとは、思ってましたけどね・・・彼はおんなとデートしてます。今の時間・・・」
と、タケルは、素直に話している。
「そのイズミくんって、どんな恋愛をする子なの?」
と、女性の恋愛には、一家言あるショウコが、興味を示している。
「そうですねー。彼は自分の恋愛を「猫」と表現していますね。機嫌のいい時はやさしくするけれど、やばくなるとすぐ逃げる・・・そういう恋愛だそうです」
と、タケルは説明する。
「まあ、彼は子供が嫌いなんですけど・・・友人の見立てによると、それは好きな女性を独占したいから、で・・・子供すらライバル視する、強い独占欲を持っているとか」
と、タケルは説明する。
「まあ、彼の場合、あの母親が中1で男と逃げていますから・・・恋愛もものすごく短期で終わる・・・彼に言わせると、母親の代わりに、女に復讐しているんだそうです」
と、タケルは説明する。
「実際会うと、やさしい・・・少し線の細い、傷つきやすそうなところもある、イケメンって感じなんですよ。イズミさんは」
と、アイリはフォローする。
「まあ、タケルの説明だと、すごい感じですけど、実際会うと、いいひとでしたけどね」
と、アイリは言う。
「まあ、僕自身も一緒に住んでるわけですけど・・・まあ、いい奴です。はい」
と、タケル。
「なるほどね・・・猫とは、言い得て妙、というところかしら」
と、すべての情報を聞き終わったショウコは、口をナフキンで拭きながら、赤ワインを飲む。
「そのイズミくんは・・・そのイズミくんの恋愛年齢は母親に捨てられた年・・・つまり中1で止まっているということね」
と、ショウコさんは言う。
「え?恋愛年齢・・・それが中1、つまり、13歳で止まっているってことですか?イズミの場合」
と、タケルはびっくりして聞く。
「ええ・・・今の話を総合すると、そういう結論にならない?」
と、今度は、ショウコの方が、少しびっくりした表情で、話す。
「わたしは、女性のしあわせについて、ずっと考えてきたの・・・もちろん、自分がしあわせになるためにだけど・・・ずっとああいう状態だったからね」
と、ショウコは説明する。
「それは、アイリから僕も聞いてます。男女がお互い自然に笑顔になる関係が最高だと・・・そういうお話だったんですよね」
と、タケルは確認する。
「そう・・・だから、タケルくんとアイリは、今、最高の関係なの・・・だって、最高にしあわせでしょ?二人共」
と、ショウコは二人に言う。
「はい」「はい」
と、二人は頷く。
「「大人の愛、子供の恋」っていう言葉、知ってる?」
と、ショウコが言う。
「いや・・・僕は初耳です」「わたしも・・・」
と、タケルとアイリが言う。
「まあ、いいわ・・・恋というのは、基本、相手から奪うモノなの・・・だから、十代の恋は・・・相手に求めるの。特に女性は、男性になにかしてもらうことが喜びよね?」
と、ショウコ。
「はい・・・男性から誘われたり、キスされたり、思い切り抱きしめられたり・・・それが十代の頃の喜びでしたね」
と、アイリ。
「それは逆も同じよね。男性だって、女性に好きになってもらいたいから、誘うわけだし、・・・まあ、男性的に言うと奪う恋と言った方がいいかしら」
と、ショウコ。
「心を奪う、唇を奪う、処女を奪う・・・男性の十代の恋は、奪う恋・・・いずれにしろ、相手に求めるのが恋なの・・・それは子供の恋なのよ」
と、ショウコ。
「それに引換え・・・愛は与えるモノなの・・・父親は小さい娘に無償の愛を与える。母親は、男の子に無償の愛を与える・・・それが大人の愛」
と、ショウコ。
「つまり、私が言いたいのは、その人がやっている恋愛行為が、与えているのか、求めているのかで、大人か子供か、わかる、ということを言いたいのよ」
と、ショウコ。
「だから、「大人の愛・・・与えるモノ」「子供の恋・・・求めるモノ」というくくりなんですね」
と、タケル。
「そう。だから、イズミくんの恋愛年齢は、13で止まっているから、子供の恋なのよ・・・相手に求めてばかりいて、自分からは与えられないの」
と、ショウコ。
「だから、機嫌のいい時はやさしくする・・・駄目な時は逃げる・・・猫じゃないの・・・子供の恋なのよ」
と、ショウコ。
「だから・・・母親に捨てられた腹いせに、つきあっている女たちに復讐しているって、言ったけれど、それ、要は捨てた母親に責任をとらせようとしているだけなのよ」
と、説明するショウコ。
「母親に一度捨てられたから・・・その責任を母親が取るまで許さないと決意している・・・だから、母親がやさしく謝ってくるまで、わがままし放題で許されると思っている」
と、説明するショウコ。
「だから、女を冷たく捨てても、オバサンをパスしても、女性には何をやっても許されると勘違いしている・・・そういう子供なのよ・・・そのイズミくんは」
と、説明するショウコ。
「イズミくんが、その悲しい勘違いに気づくまで・・・その行為は止まないし・・・母親の呪縛から逃げられないと思うわ、わたし」
と、説明するショウコ。
「だって・・・もし、わたしだったら、そんな幼い子供を相手にしないもの・・・そういうイズミくんを相手にするのは、幼い「子供の恋」しか出来ない女性だけよ」
と、説明するショウコ。
「そう思わない?大人のおんなとして・・・どう?」
と、ショウコは、アイリに聞く。
「うーん、確かに、恋の仕方が拙いというか・・・確かに子供っぽいですよねー・・・わたしは、タケルに大人になることを求めているし・・・」
と、アイリ。
「タケルも、私の為に、大人になろうと日々努力してくれるし・・・そういう二人から見れば、確かに、イズミさんの恋の仕方は、ちょっと拙く感じますね」
と、アイリ。
「でしょ?タケルくんは、アイリの為に大人になることが、今の人生のテーマになっているんでしょ?」
と、ショウコは今度はタケルに振る。
「ええ・・・女性をリード出来る大人の男性になる・・・これが、僕の今の生きるテーマですから・・・ということは、大人になることって・・・」
と、タケルは少し口ごもる。
「大人になることって、大人の女性に、愛を与えられるようになる・・・そういうことになりますよね?」
と、タケルはショウコに聞く。
「そう。男性の、大人の愛は、無償の愛を、女性にも子供たちにも与えられるようになることよ。女性の大人の愛も、無償の愛を、男性にも子供にも与えられることよ」
と、ショウコは、話す。
「そういう意味じゃ、アイリは無償の愛を僕にくれてます。僕も出来るだけ早く、無償の愛をアイリに与えられるようにしなくっちゃ・・・」
と、タケル。
「タケルも、無償の愛を私にくれているじゃない・・・大人になってる証拠じゃない?それ」
と、アイリ。
「それが本当だったら、二人共大人!ってことになるけど・・・でも、二人だけの時は、甘えまくってるんじゃないのー?」
と、ショウコは笑う。
「え、まあ、それは当然・・・」「まあ、それは、ねー」
と、笑顔のタケルとアイリ。
「しかし・・・そうかー・・・イズミはまだまだ、母親の呪縛に囚われているのか・・・恋愛年齢は、13歳のまま止まってるのか・・・」
と、タケル。
「子供はいつか大人にならなくては、いけないの・・・イズミくんも子供のままだと、回りに置いていかれちゃうと思うけどな」
と、ショウコは、静かに言う。
「「大人の愛、子供の恋」か・・・だから、イズミさんの恋は相手に求めてばかりなのね・・・与えることが出来ないから、うまくいかなくなるのね・・・」
と、アイリも赤ワインを飲みながら、考えている。
「ま、それとなく、本人に知らせておきますよ・・・あいつ、もう、母の呪縛から抜け出せたと勘違いしてるから・・・」
と、タケル。
「でも・・・ショウコさんって、すごいですね・・・あのイズミの上を行く人がいるとは・・・」
と、タケルは素直に驚いている。
「私も長く苦しんできたから・・・経験がいつしか知恵になるのよ・・・」
と、ショウコは素直に言う。
「タケルくん、どうやら、借りの10分の1くらいは、返せたようね」
と、笑顔のショウコ。
「ええ。10分の1なんて・・・けっこうな割合で返してもらいましたよ」
と、タケル。
「ううん・・・わたしはあなたに本当に感謝しているの・・・こんなのことでは、まだまだ、返せないくらいにね」
と、笑顔のショウコは、美しい。
「さ、話題を変えようか・・・そういえば、二人は将来、どんな場所に住みたい?ロンドン?パリ?ニューヨーク?」
と、ショウコは、話題を変え、さらに楽しい時間を過ごそうとしていた。
土曜日の午後は、楽しい時間だけが過ぎていった。
(つづく)
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→前回へ
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