2月第二週の金曜日の夜8:00。鈴木タケルとミサトとミウはカフェ「アルカンシェル」で、マスターのジュウゴとカウンターでお酒を飲んでいた。
ジュウゴは、もちろん店があるから、控えめだが、それでも3人と会話するのは楽しいらしく、ほんの少しのアルコールでやさしい表情で付き合っていた。
「でも、もう、次の日曜日はバレンタインですよ・・・なんだか、あっという間にバレンタインが来たみたい・・・」
と、ミサトは言葉にする。
「そうね・・・わたしたちがタケルさんに出会って・・・一ヶ月とちょっと・・・あっという間だったわね」
と、ミウもそう口にする。
「そうだな・・・思ったより、早くバレンタインが来ちゃった感じだよ。僕的には、なんだか、大きなやり残しがあるような、ちょっと気持ちが悪い感じだけどねー」
と、鈴木タケルはそう言葉にする。
「大丈夫だよ。マミちゃんだって、シンイチの為にがんばっているだろうし、さ。君たちの頑張りを最初から見ていたのは、この僕だし」
と、ジュウゴはマンハッタンをタケルに出しながら、やさしく言葉にする。
「ま、それなら、いいんですけどね。恋のガイド役としては、少し失敗な感じですね」
と、少し苦笑するタケル。
ミサトとミウとジュウゴは、苦笑しながら、顔を見合わせる。
「タケルさんは、がんばり過ぎです。今はマミを信じましょ」
と、ミウが言う。
「そうです。ミウの言うとおりですよ。マミだって、いざって時は、がんばってくれますよ。タケルさんの為にも」
と、ミサトが言葉にする。
ジュウゴはニヤリとしながら、やさしくタケルを見ている。
「そうだな。どうも、俺は苦労性らしい」
と、苦笑するタケル。
と、そこへ、「華可憐」の森田ユキが慌てた感じで、入ってくる。
「あ、いたいた、タケルくん、実は、シンイチがこんな書き置きを残して店を出て行ってしまったの」
と、森田ユキは、旧知のタケルに緊急事態を報告しようとしていた。
それは、まだ、マミがシンイチに恋に落ちて間もない頃だった。
タケルは配達に出たシンイチを見届けると、一人店番をしていた。森田ユキに事の次第を打ち明け、マミの恋のバックアップを、してくれるように頼んだのだった。
「どうりで・・・マミがいつもユキさんにやさしくされていたのは・・・そういう理由だったんですか」
と、ミサトが言う。
「いや、隠すつもりはなかったんだけど、それを言ったらマミちゃんが意識しちゃいそうで・・・だから、今まで黙っていたんだ」
と、タケルが言う。
「なるほど・・・確かにマミの性格じゃあ、絶対にユキさんを意識しちゃうから・・・それ正解でしたわね」
と、ミウも言う。
「それより・・・これ・・・」
と、ユキがタケル達に見せたメモには・・・次のようなことが書いてあった。
「大事なことを思い出した。俺は最低だ。俺は女性に愛される資格なんてないダメ男だ。責任をとって、数日消える。探さないでくれ シンイチ」
メモを見た、鈴木タケル、ミサト、ミウ、ジュウゴは、顔を見合わせた。
「バレンタインは、明後日なんですよ・・・」
と、ミサトがタケルに言う。
「何があったのかしら・・・」
と、ミウが言葉にする。
「これだけじゃ、推理のしようがないな・・・ユキさん、今日、シンイチさんに何か変わったところはありませんでしたか?」
と、タケルはユキに聞いている。
「午後6時頃に、タケルの携帯が鳴ったのは、聞いていたの。でも、すぐにお客さんが来ちゃったから、その応対で・・・話の中身はわからないの・・・」
と、ユキは話している。
「うーん、手がかりなしか・・・」
と、鈴木タケルもお手上げ状態だった。
カフェ「アルカンシェル」は、深刻な雰囲気になっていた。
誰も言葉に出来なかった。
2月第3週の日曜日が明けた・・・。
バレンタインデーの朝は、気持ちよく晴れ渡り、楽しい一日を約束してくれているかのようだった。
吉祥寺の朝早く・・・そこには、ジョギングウェアで、走るミサトとミウの姿があった。
「わたしも、マミに負けられないから・・・」とミウが言う。
「そうね。わたしも元祖スポーツウーマンとしては、マミに負けられないもんね・・・」とミサトも言う。
二人はいっぱいの笑顔になると、さらに加速して、走っていくのだった。
二人共楽しそうな笑顔だった。
吉祥寺の街は、バレンタインデーに起こる男女の楽しい騒動をやさしく見守るかのように、やさしい表情をするのだった。
そして、バレンタインデーの一日はすぐに過ぎ、夕方6時。
ミサトとミウと鈴木タケルは、吉祥寺北口商店街の真ん真ん中にある、ラバーズ広場に集まっていた。
愛する恋人同士が中央の鐘を鳴らすと恋は永遠になるという伝説の広場だった。
この場所で、6時半から、毎年恒例の吉祥寺音楽祭が行われる。
たくさんのプロのバンドが演奏するこの音楽祭に「朱鷺色ワーカーズ」はエントリーすることが出来たのだった。
タケルの予定では、演奏前のシンイチにマミがチョコを渡す算段だったが・・・シンイチもマミも姿を現さなかった。
「シンイチさんの方は仕方ないとしても・・・マミちゃんが来ないのは、どういうことだ・・・」
と、さすがのタケルも、少しいらっとしていた。
「そうね・・・マミなら、もう着いていてスタンバイくらいしないと・・・上がっちゃう子だから、彼女・・・」
と、ミウが言う。
「そうね・・・気を落ち着けないと、何にも出来ない子だから、マミは・・・」
と、ミサトも不安そうに口にする。
と、そこへ、アミとマミの姉妹が登場する。
「マミ!」「マミ!」
と、ミサトとミウは、マミの姿を見て、息を飲んだまま、言葉が出ない。
「ほーーーー・・・マミちゃん、やったな。大人の美しい細身の女性になれたじゃないか!」
と、鈴木タケルは言葉にする。
そこには、ピンク色のトレンチコートを着た細身になったマミが。
・・・赤いメガネもコンタクトに変え、髪の毛も肩のあたりにまで長くし、ゆるいウェーブをかけた、大人の女性のマミが立っていた。
黒いストッキングこそ履いているが細くスラリとした脚は美脚だった。そこに赤いヒールを合わせて、大人の女性らしく演出されていた。
「マミ、コートを脱いでタケル君達に見せてあげたら?」
と、アミは笑顔でマミに言う。
「はい。お姉さん」
と、マミは笑顔でアミに駆け寄ると、後ろを向いてコートを脱いでアミに手渡した。
マミが笑顔でこちらに向くと・・・。
白いボウタイフリルブラウスにピンク色の膝丈のプリーツスカートを合わせ、デコルテ部分には、カルティエのピンクサファイアのネックレスをしていた。
「そのネックレス・・・カルティエか・・・」
と、鈴木タケルが驚くように言うと、
「わたしからのご褒美なの・・・マミ、思った以上に一生懸命毎日トレーニングしてたから・・・大人の女性になったご褒美ね」
と、アミが笑顔で言う。
「それ買ってたから・・・少し遅れちゃった」
と、アミが舌を出す。
「そういうことなら・・・でも、ちょっといらっとしたよ。なあ、ミサトちゃん、ミウちゃん」
と、タケルは横にいるミサトとミウにそう話しかける。
「ええ・・・でも、そういう理由なら・・・」
と、笑顔でマミを見つめるミサトが言う。
「そうね。そういう理由なら・・・」
と、笑顔でマミを見つめるミウ。
「美しくなったわ。マミ・・・今のあなたなら・・・この恋は大丈夫」
と、ミウが言ってくれる。
「うん。わたしもそう思う・・・今のあなたなら・・・かなりの男を落とせるわ」
と、ミサトも笑顔で言ってくれる。
「マミちゃん、アミちゃん・・・よくがんばったよ。マミちゃんなんて、本当に美しい大人のレデイになったよ・・・」
と、タケルも感心している。
マミは、3人に褒められて、少し恥ずかしそうにしている。
「タケルくん・・・わたしもがんばって、体重2キロも落としたのよ。2週間で」
と、アミもタケルにアピールしている。
「うん・・・アミちゃんも、さらに綺麗になったよ・・・特に脚が・・・前から綺麗だったけど、さらにね・・・」
と、タケルも素直にアミを称賛している。
「ふふ・・・ありがと、タケルくん・・・」
と、上機嫌のアミ。
「あのー・・・それで、シンイチさんは?」
と、マミ。
「おっと、それを話すのを忘れてた・・・」
と、タケルは表情を曇らせる。
「何か、あったんですか?」
と、マミが聞く。
「実は・・・ 僕らの知らない、何かがあったらしくて、金曜日の夜から、シンイチさんは行方不明なんだ・・・」
と、タケルがシンイチの状況を説明する。
「突然いなくなったんだって・・・シンイチさんの義理の姉のユキさんが知らせてくれたの」
と、ミウも説明する。
「それから一回もシンイチさんから連絡がないの・・・わたしたちも困っちゃって・・・」
と、ミサトも説明する。
「ユキさんって・・・シンイチさんの義理のお姉さん・・・皆さん、知り合いだったんですか?」
と、マキは不思議そうに聞く。
「実はかなり早い段階から、俺が、マミちゃんがシンイチさんを好きだってこと、話していたんだよ、ユキさんに・・・」
と、タケルが説明する。
「ユキさんがバックアップしてくれれば、マミちゃんの恋もうまくいくだろうって、そう考えてね・・・」
と、タケルは説明する。
「実際、シンイチさんの前で話しやすかったんじゃない?マミちゃん」
と、タケルが言うと、
「そういうことだったんですね・・・確かにユキさんはいつもやさしくしてくれましたから・・・」
と、マミは言う。
「しかし、だ・・・」
と、タケルは言う。
「今日のこの吉祥寺音楽祭は、シンイチさんの朱鷺色ワーカーズにとっても大事な舞台なんだ」
と、タケルは説明を始める。
「少し前に、朱鷺色ワーカーズの音楽プロデューサーの北川ミチコさんに話を聞いてきたんだが・・・」
その時二人は、吉祥寺北口商店街にある、バー「chanteuse」に来ていた。
「シンイチはあなたが言ったように、復活したわ」
と、マティーニを飲みながら、ミチコは言う。
「そうですか・・・それはよかった。アーティストは恋するからこそ、歌が書ける、と言ったのは、あなたの方ですよ」
と、マンハッタンを飲みながら、タケルは言う。
「今年のバレンタインデーの吉祥寺音楽祭に朱鷺色ワーカーズをエントリーさせたわ。ゴリ押しだったけど、そこが彼らにとって、最後の賭けの場所になるわ」
と、ミチコは厳しい顔をして話す。
「最後の賭けの場所?」
と、タケルは疑問の表情でミチコに聞く。
「シンイチは「君」という歌を書いたの。その歌は、多分、マイちゃんやミキちゃん、そして、あなたのマミちゃんへの思いを元に書いた歌だわ。いい曲なのよ」
と、ミチコは言う。
「その曲を吉祥寺音楽祭で、シンイチのパフォーマンスも含めて業界の音楽プロデューサー達に聴かせる予定なの」
と、ミチコは言う。
「そのパフォーマンスに音楽プロデューサー達が満足すれば、シンイチのデビューが決まるわ。満足しなければ・・・」
と、ミチコが言う。
「満足しなければ?」
と、少し青い顔でタケルが聞く。
「朱鷺色ワーカーズは解散。今までやってきたことは、すべて無駄になるってことよ・・・」
と、ミチコは厳しい顔で言う。
「マイちゃんの思いも、ミキちゃんの思いも・・・そして、あなたのマミちゃんも涙に暮れる結果になるわ」
と、ミチコはタケルの目を見ながら、厳しい表情で言った。
「それだけは何としても避けたいですね・・・」
と、タケルが言うと、
「でも、もう私にも時間がないの・・・」
と、ミチコはタケルの目を見ながら、そう言った。
「時間がない?」
と、タケルが言うと、
ミチコはコクリと頷いたのだった。
「じゃあ、シンイチさんが、今日この吉祥寺音楽祭を欠席してしまったら・・・」
と、マミが言う。
「終わりだ。すべてね・・・」
と、タケルが言う。
「どうしよう・・・」
と、マミはミサトやミウと目を合わせながら、少しパニックになる。
「大丈夫よ。マミ、あなたは、シンイチさんが来ることを信じて、じっと待っていればいいの」
と、ミウが言ってくれる。
「そう。大丈夫。これだけ、マミはがんばったんだから・・・強い大人のおんなになったんでしょ。だから、大丈夫よ、マミ」
と、ミサトも言ってくれる。
「でも・・・」
と、戸惑うマミに、
「大丈夫と言える程でもないが・・・俺なりに手は打っておいた・・・だから、最後には、それが効くと思う。恋のガイド役たる俺の、最後の仕事をしておいたから」
と、鈴木タケルが強い目でマミに言った。
「マミ・・・タケルくんがこう言うんだから、大丈夫よ。タケルくんが手を打った時は、かならず、うまく行くんだから」
と、アミは笑顔でマミに言う
「今までだって、ぜーんぶ、うまく行ってきたんだから」
と、笑顔でマミを励ますアミだった。
「タケルくんを最後まで信用なさい、マミ」
と、笑顔で言うアミだった。
マミはその言葉に・・・パニックから抜け出し、笑顔になった。
「そうですね、お姉さん・・・お姉さんの言葉と、タケルさんを信用します」
と、やわらかな笑顔になるマミだった。
「最後まで・・・」
と、マミは言うと、やさしい笑顔になるのだった。
マミの心は晴れていた。
(つづく)
→前回へ
→物語の初回へ
→「ラブ・クリスマス!」初回へ
ジュウゴは、もちろん店があるから、控えめだが、それでも3人と会話するのは楽しいらしく、ほんの少しのアルコールでやさしい表情で付き合っていた。
「でも、もう、次の日曜日はバレンタインですよ・・・なんだか、あっという間にバレンタインが来たみたい・・・」
と、ミサトは言葉にする。
「そうね・・・わたしたちがタケルさんに出会って・・・一ヶ月とちょっと・・・あっという間だったわね」
と、ミウもそう口にする。
「そうだな・・・思ったより、早くバレンタインが来ちゃった感じだよ。僕的には、なんだか、大きなやり残しがあるような、ちょっと気持ちが悪い感じだけどねー」
と、鈴木タケルはそう言葉にする。
「大丈夫だよ。マミちゃんだって、シンイチの為にがんばっているだろうし、さ。君たちの頑張りを最初から見ていたのは、この僕だし」
と、ジュウゴはマンハッタンをタケルに出しながら、やさしく言葉にする。
「ま、それなら、いいんですけどね。恋のガイド役としては、少し失敗な感じですね」
と、少し苦笑するタケル。
ミサトとミウとジュウゴは、苦笑しながら、顔を見合わせる。
「タケルさんは、がんばり過ぎです。今はマミを信じましょ」
と、ミウが言う。
「そうです。ミウの言うとおりですよ。マミだって、いざって時は、がんばってくれますよ。タケルさんの為にも」
と、ミサトが言葉にする。
ジュウゴはニヤリとしながら、やさしくタケルを見ている。
「そうだな。どうも、俺は苦労性らしい」
と、苦笑するタケル。
と、そこへ、「華可憐」の森田ユキが慌てた感じで、入ってくる。
「あ、いたいた、タケルくん、実は、シンイチがこんな書き置きを残して店を出て行ってしまったの」
と、森田ユキは、旧知のタケルに緊急事態を報告しようとしていた。
それは、まだ、マミがシンイチに恋に落ちて間もない頃だった。
タケルは配達に出たシンイチを見届けると、一人店番をしていた。森田ユキに事の次第を打ち明け、マミの恋のバックアップを、してくれるように頼んだのだった。
「どうりで・・・マミがいつもユキさんにやさしくされていたのは・・・そういう理由だったんですか」
と、ミサトが言う。
「いや、隠すつもりはなかったんだけど、それを言ったらマミちゃんが意識しちゃいそうで・・・だから、今まで黙っていたんだ」
と、タケルが言う。
「なるほど・・・確かにマミの性格じゃあ、絶対にユキさんを意識しちゃうから・・・それ正解でしたわね」
と、ミウも言う。
「それより・・・これ・・・」
と、ユキがタケル達に見せたメモには・・・次のようなことが書いてあった。
「大事なことを思い出した。俺は最低だ。俺は女性に愛される資格なんてないダメ男だ。責任をとって、数日消える。探さないでくれ シンイチ」
メモを見た、鈴木タケル、ミサト、ミウ、ジュウゴは、顔を見合わせた。
「バレンタインは、明後日なんですよ・・・」
と、ミサトがタケルに言う。
「何があったのかしら・・・」
と、ミウが言葉にする。
「これだけじゃ、推理のしようがないな・・・ユキさん、今日、シンイチさんに何か変わったところはありませんでしたか?」
と、タケルはユキに聞いている。
「午後6時頃に、タケルの携帯が鳴ったのは、聞いていたの。でも、すぐにお客さんが来ちゃったから、その応対で・・・話の中身はわからないの・・・」
と、ユキは話している。
「うーん、手がかりなしか・・・」
と、鈴木タケルもお手上げ状態だった。
カフェ「アルカンシェル」は、深刻な雰囲気になっていた。
誰も言葉に出来なかった。
2月第3週の日曜日が明けた・・・。
バレンタインデーの朝は、気持ちよく晴れ渡り、楽しい一日を約束してくれているかのようだった。
吉祥寺の朝早く・・・そこには、ジョギングウェアで、走るミサトとミウの姿があった。
「わたしも、マミに負けられないから・・・」とミウが言う。
「そうね。わたしも元祖スポーツウーマンとしては、マミに負けられないもんね・・・」とミサトも言う。
二人はいっぱいの笑顔になると、さらに加速して、走っていくのだった。
二人共楽しそうな笑顔だった。
吉祥寺の街は、バレンタインデーに起こる男女の楽しい騒動をやさしく見守るかのように、やさしい表情をするのだった。
そして、バレンタインデーの一日はすぐに過ぎ、夕方6時。
ミサトとミウと鈴木タケルは、吉祥寺北口商店街の真ん真ん中にある、ラバーズ広場に集まっていた。
愛する恋人同士が中央の鐘を鳴らすと恋は永遠になるという伝説の広場だった。
この場所で、6時半から、毎年恒例の吉祥寺音楽祭が行われる。
たくさんのプロのバンドが演奏するこの音楽祭に「朱鷺色ワーカーズ」はエントリーすることが出来たのだった。
タケルの予定では、演奏前のシンイチにマミがチョコを渡す算段だったが・・・シンイチもマミも姿を現さなかった。
「シンイチさんの方は仕方ないとしても・・・マミちゃんが来ないのは、どういうことだ・・・」
と、さすがのタケルも、少しいらっとしていた。
「そうね・・・マミなら、もう着いていてスタンバイくらいしないと・・・上がっちゃう子だから、彼女・・・」
と、ミウが言う。
「そうね・・・気を落ち着けないと、何にも出来ない子だから、マミは・・・」
と、ミサトも不安そうに口にする。
と、そこへ、アミとマミの姉妹が登場する。
「マミ!」「マミ!」
と、ミサトとミウは、マミの姿を見て、息を飲んだまま、言葉が出ない。
「ほーーーー・・・マミちゃん、やったな。大人の美しい細身の女性になれたじゃないか!」
と、鈴木タケルは言葉にする。
そこには、ピンク色のトレンチコートを着た細身になったマミが。
・・・赤いメガネもコンタクトに変え、髪の毛も肩のあたりにまで長くし、ゆるいウェーブをかけた、大人の女性のマミが立っていた。
黒いストッキングこそ履いているが細くスラリとした脚は美脚だった。そこに赤いヒールを合わせて、大人の女性らしく演出されていた。
「マミ、コートを脱いでタケル君達に見せてあげたら?」
と、アミは笑顔でマミに言う。
「はい。お姉さん」
と、マミは笑顔でアミに駆け寄ると、後ろを向いてコートを脱いでアミに手渡した。
マミが笑顔でこちらに向くと・・・。
白いボウタイフリルブラウスにピンク色の膝丈のプリーツスカートを合わせ、デコルテ部分には、カルティエのピンクサファイアのネックレスをしていた。
「そのネックレス・・・カルティエか・・・」
と、鈴木タケルが驚くように言うと、
「わたしからのご褒美なの・・・マミ、思った以上に一生懸命毎日トレーニングしてたから・・・大人の女性になったご褒美ね」
と、アミが笑顔で言う。
「それ買ってたから・・・少し遅れちゃった」
と、アミが舌を出す。
「そういうことなら・・・でも、ちょっといらっとしたよ。なあ、ミサトちゃん、ミウちゃん」
と、タケルは横にいるミサトとミウにそう話しかける。
「ええ・・・でも、そういう理由なら・・・」
と、笑顔でマミを見つめるミサトが言う。
「そうね。そういう理由なら・・・」
と、笑顔でマミを見つめるミウ。
「美しくなったわ。マミ・・・今のあなたなら・・・この恋は大丈夫」
と、ミウが言ってくれる。
「うん。わたしもそう思う・・・今のあなたなら・・・かなりの男を落とせるわ」
と、ミサトも笑顔で言ってくれる。
「マミちゃん、アミちゃん・・・よくがんばったよ。マミちゃんなんて、本当に美しい大人のレデイになったよ・・・」
と、タケルも感心している。
マミは、3人に褒められて、少し恥ずかしそうにしている。
「タケルくん・・・わたしもがんばって、体重2キロも落としたのよ。2週間で」
と、アミもタケルにアピールしている。
「うん・・・アミちゃんも、さらに綺麗になったよ・・・特に脚が・・・前から綺麗だったけど、さらにね・・・」
と、タケルも素直にアミを称賛している。
「ふふ・・・ありがと、タケルくん・・・」
と、上機嫌のアミ。
「あのー・・・それで、シンイチさんは?」
と、マミ。
「おっと、それを話すのを忘れてた・・・」
と、タケルは表情を曇らせる。
「何か、あったんですか?」
と、マミが聞く。
「実は・・・ 僕らの知らない、何かがあったらしくて、金曜日の夜から、シンイチさんは行方不明なんだ・・・」
と、タケルがシンイチの状況を説明する。
「突然いなくなったんだって・・・シンイチさんの義理の姉のユキさんが知らせてくれたの」
と、ミウも説明する。
「それから一回もシンイチさんから連絡がないの・・・わたしたちも困っちゃって・・・」
と、ミサトも説明する。
「ユキさんって・・・シンイチさんの義理のお姉さん・・・皆さん、知り合いだったんですか?」
と、マキは不思議そうに聞く。
「実はかなり早い段階から、俺が、マミちゃんがシンイチさんを好きだってこと、話していたんだよ、ユキさんに・・・」
と、タケルが説明する。
「ユキさんがバックアップしてくれれば、マミちゃんの恋もうまくいくだろうって、そう考えてね・・・」
と、タケルは説明する。
「実際、シンイチさんの前で話しやすかったんじゃない?マミちゃん」
と、タケルが言うと、
「そういうことだったんですね・・・確かにユキさんはいつもやさしくしてくれましたから・・・」
と、マミは言う。
「しかし、だ・・・」
と、タケルは言う。
「今日のこの吉祥寺音楽祭は、シンイチさんの朱鷺色ワーカーズにとっても大事な舞台なんだ」
と、タケルは説明を始める。
「少し前に、朱鷺色ワーカーズの音楽プロデューサーの北川ミチコさんに話を聞いてきたんだが・・・」
その時二人は、吉祥寺北口商店街にある、バー「chanteuse」に来ていた。
「シンイチはあなたが言ったように、復活したわ」
と、マティーニを飲みながら、ミチコは言う。
「そうですか・・・それはよかった。アーティストは恋するからこそ、歌が書ける、と言ったのは、あなたの方ですよ」
と、マンハッタンを飲みながら、タケルは言う。
「今年のバレンタインデーの吉祥寺音楽祭に朱鷺色ワーカーズをエントリーさせたわ。ゴリ押しだったけど、そこが彼らにとって、最後の賭けの場所になるわ」
と、ミチコは厳しい顔をして話す。
「最後の賭けの場所?」
と、タケルは疑問の表情でミチコに聞く。
「シンイチは「君」という歌を書いたの。その歌は、多分、マイちゃんやミキちゃん、そして、あなたのマミちゃんへの思いを元に書いた歌だわ。いい曲なのよ」
と、ミチコは言う。
「その曲を吉祥寺音楽祭で、シンイチのパフォーマンスも含めて業界の音楽プロデューサー達に聴かせる予定なの」
と、ミチコは言う。
「そのパフォーマンスに音楽プロデューサー達が満足すれば、シンイチのデビューが決まるわ。満足しなければ・・・」
と、ミチコが言う。
「満足しなければ?」
と、少し青い顔でタケルが聞く。
「朱鷺色ワーカーズは解散。今までやってきたことは、すべて無駄になるってことよ・・・」
と、ミチコは厳しい顔で言う。
「マイちゃんの思いも、ミキちゃんの思いも・・・そして、あなたのマミちゃんも涙に暮れる結果になるわ」
と、ミチコはタケルの目を見ながら、厳しい表情で言った。
「それだけは何としても避けたいですね・・・」
と、タケルが言うと、
「でも、もう私にも時間がないの・・・」
と、ミチコはタケルの目を見ながら、そう言った。
「時間がない?」
と、タケルが言うと、
ミチコはコクリと頷いたのだった。
「じゃあ、シンイチさんが、今日この吉祥寺音楽祭を欠席してしまったら・・・」
と、マミが言う。
「終わりだ。すべてね・・・」
と、タケルが言う。
「どうしよう・・・」
と、マミはミサトやミウと目を合わせながら、少しパニックになる。
「大丈夫よ。マミ、あなたは、シンイチさんが来ることを信じて、じっと待っていればいいの」
と、ミウが言ってくれる。
「そう。大丈夫。これだけ、マミはがんばったんだから・・・強い大人のおんなになったんでしょ。だから、大丈夫よ、マミ」
と、ミサトも言ってくれる。
「でも・・・」
と、戸惑うマミに、
「大丈夫と言える程でもないが・・・俺なりに手は打っておいた・・・だから、最後には、それが効くと思う。恋のガイド役たる俺の、最後の仕事をしておいたから」
と、鈴木タケルが強い目でマミに言った。
「マミ・・・タケルくんがこう言うんだから、大丈夫よ。タケルくんが手を打った時は、かならず、うまく行くんだから」
と、アミは笑顔でマミに言う
「今までだって、ぜーんぶ、うまく行ってきたんだから」
と、笑顔でマミを励ますアミだった。
「タケルくんを最後まで信用なさい、マミ」
と、笑顔で言うアミだった。
マミはその言葉に・・・パニックから抜け出し、笑顔になった。
「そうですね、お姉さん・・・お姉さんの言葉と、タケルさんを信用します」
と、やわらかな笑顔になるマミだった。
「最後まで・・・」
と、マミは言うと、やさしい笑顔になるのだった。
マミの心は晴れていた。
(つづく)
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