2月第一週の木曜日の午後8時半頃。久しぶりに、全員で練習した「朱鷺色ワーカーズ」の面々が、
打ち上げ代わりに、吉祥寺駅北口商店街にある佐藤シンサクの店、居酒屋「シンサク」に飲みに来ていた。
「今日は俺も飲むよ。久しぶりの全体練習は良い感じで終われたし、シンイチの「君」って曲も良かったし」
と、店長でもある佐藤シンサクは、店を副店長に任せ、気持ちいい感じで酔っていた。
「うん。俺も「君」って久々にいい曲の手応え掴んでいる感じだな」
と、ドラムの清水コウタがはしゃぐ。
「うん。確かにいい曲だ」
と、ベースの左右田タスクも、のんびりと話す。
「皆がそう言ってくれると嬉しいよ。俺的にも手応えを感じる。この感じ、久しぶりだよ」
と、道明寺シンイチも、酒で顔を赤くしながら、朗らかにしゃべる。
「イントロのキーボードなんだけど、もう少しやわらかい感じがいいかな。なんか春的なイメージを表現するような・・・」
と、シンサクがシンイチに聞いている。
「そうだな。やわらかな女性のイメージから、大人のイメージに成長していくような、そんな楽曲にしたいんだ」
と、シンイチは言う。
「俺がマイからミキに愛する女性が変わったように・・・大人の女性に目覚めたように、さ」
と、シンイチは珍しく、そんな言葉を自ら吐く。
「へー。ミキさんを愛したきっかけって、そういうことだったのか?」
と、シンサクがツッコむ。
「いや、そういうわけじゃないんだが・・・結果的に俺は、ミキに大人の女性を求めていたんだって、最近気づいてさ」
と、シンイチが言う。
「最近、気づいた?」
と、コウタがツッコむ。
「ああ・・・このところ、俺も自分のこれまでの恋について、真面目に考えてきたんだ。俺って、どうして、マイを好きになったのか。ミキと結婚したのかってね」
と、シンイチは言う。
「で、どうだったんだ?」
と、タスクがのんびり聞く。
「マイに関して言えば・・・俺、純粋なマイの気持ちに応えたかったんだよ・・・なんにも染まっていない純白な白のようなマイを俺色に染めたかったんだ」
と、シンイチ。
「俺色に染まりたいマイに・・・俺はそれを欲していたんだと思う。誰のものでもないマイを、俺だけのモノに、俺だけのマイにしたかったんだよ・・・」
と、シンイチ。
「あいつと初めてエッチした時・・・誰もいないあいつの家で、あいつの部屋でエッチしたんだけど、あいつ泣いてさ・・・でも、嬉し泣きだったんだ。それ」
と、シンイチ。
「ちょっと出血して・・・俺だってそれが初めてだったし、俺が拭いてあげたら、あいつ笑顔で俺に抱きついてきた・・・あの時のあいつのホッとしたような笑顔・・・」
と、シンイチは遠くを見るような目。
「忘れられないよ」
と、シンイチ。
「マイちゃん・・・天使のようにかわいかったからな。その彼女もお前にゾッコンだって聞いて、俺達の学年の男たちは皆嫉妬してたんだぜ」
と、一年上のシンサクが言う。
「そう言えば、シンサクさん、そんな感じのこと、僕に言いましたよね。軽音楽部の練習の時、ちょっと嫉妬した感じで」
と、シンサクと同じ軽音楽部だったシンサクが言う。
「お前は彼女いるから、いいけど、みたいな。しかも、かわいい彼女で・・・なんて感じでしたっけ」
と、シンイチは懐かしい記憶を思い出す。
「まあな。だって、俺もあの頃は高校生だ。多感な頃だったよ」
と、シンサクは少し照れながら話す。
「でも、そのマイちゃんが死んで・・・その後に、ミキさんを愛したのは、どんなきっかけが?」
と、コウタが聞く。
「きっかけは、俺も忘れたよ。でも、気がついたら、アイツを愛してた。あいつはマイと違って、男ってものをよく知っていた・・・」
と、シンイチは言う。
「俺の心はアイツにいいように弄ばれたのさ・・・気がついたら、俺はアイツに夢中になってた」
と、シンイチは言う。
「マイとは全然違う・・・大人の女だった。ミキはね・・・」
と、シンイチは言う。
「エッチだって、あいつから仕掛けてきたんだぜ。一緒に酒を飲んで、酔いがまわったところで、ディープキスされて・・・そりゃ、男は欲望のままになっちゃうだろ」
と、シンイチは言う。
「あいつのアパートで一緒に酒飲んでたからさ・・・とめどなかったよ・・・あの頃の俺たちは・・・」
と、シンイチは言う。
「二人はいつも一緒だったからな・・・こっちが恥ずかしくなるほど、ミキちゃんはシンイチのことを熱く愛してた」
と、シンサクが言う。
「求められる喜びを初めて知った・・・そんな感じだったよ、ミキは・・・マイは求めるというより、愛して・・・って感じだったからな」
と、シンイチが言う。
「タイプの違う2人の女性か・・・で、次のおんなは、どんなタイプなんだ?」
と、シンサクが質問する。
「ん?それがよくわからないんだ・・・まるっきり子供のようだったけど・・・中身は違うような・・・マイともミキとも違う・・・そんな気がする」
と、シンイチは言う。
「ほう、新しく恋をしているのか、シンイチは・・・」
と、タスクが言う。
「だから、新しい楽曲が書けたんだろ。それくらいわかるぜ、俺だって」
と、コウタが言う。
「恋というところまで、行ってるとも思えないけど・・・気になっている女性がいるって話さ。それにその女性につい、冷たくしちゃって・・・今は会えてないし」
と、シンイチはなんとはなしに言う。
「ふーん、俺達としては、その恋、成就させたい気分だけどな。な、皆」
と、シンサク。
「おう。だって、シンイチも曲書けるようになったんだし」「そうだな」
と、コウタとタスクが言う。
「ふ。まあな。だが、そこだけは、勝手にやらしてもらうよ」
と、赤い顔で静かに言うシンイチだった。
「ま、昔からそういう性格だからな。シンイチは」
と、シンサクが言う。
「だな」「確かに」
と、コウタとタスクも言葉にした。
「いずれにしろ、潮目が変わった。そういうことだ」
と、シンサクが言うと、コウタもタスクも笑顔になった。
シンイチは遠くを見るような目で、何かを確かめようとしていた。
2月第一週の土曜日の朝6時過ぎ。秋田県角館町をアミとマミが華やかなジョギングウェア姿で走っていた。
アミはクリーム色ベース、マミは桜色ベースのジョギングウェアで、颯爽と走っていた。
「マミ、少しあげるわよ」
と、アミが言うと、
「うん。大丈夫、お姉ちゃん」
と、ペースをあげたアミに余裕で付いて行くマミだった。
「わたしも中学時代はテニスやってたんだし、大学でもテニス・サークルにいたんだから・・・」
と、アミはそれとなくプライドを持っていたが、
「お姉ちゃん、もう少しあげるね」
と、重点的にトレーニングを積んできたマミの方が一枚も二枚も上だった。
「う、うん」
と言いながら、付いて行くだけでいっぱいいっぱいのアミだった。
「やるわ・・・マミ」
と、アミは目の覚める思いで、すっかり細身になったマミの背中をみるのだった。
2月第一周の土曜日の午後8時過ぎ。
鈴木タケルはカフェ「アルカンシェル」で、ミサトとミウ、そして、マスターのジュウゴと「朱鷺色ワーカーズ」のシンサクと飲んでいた。
「まさか、ミウちゃんが、シンイチとマミちゃんの恋のバックアップを、そんな早くから、していたとはなー・・・」
と、シンサクはビールを飲みながら、笑っている。
「ジュウゴに連絡を貰って驚いたよ。今回のことは、すべて繋がっているってことなんだな」
と、シンサクは「マミ恋愛プロジェクト」の責任者である、鈴木タケルに言葉を出している。
「えー、まあ、そういうことなんです。元々は、マミちゃんが、シンイチさんに恋に落ちたのが発端なんですが・・・」
と、鈴木タケルは頭を掻きながらシンサクに言う。
「まあ、でも、それが元でミウちゃんとも出会えたんだから、俺としては、御の字かな」
と、シンサクは笑顔で言っている。
「あら、そんなこと言って頂いて嬉しいわ。シンサクさん」
と、ミウは大人っぽく微笑する。
「それを言うなら、僕もミサトちゃんに知り合えたから・・・」
と、ジュウゴもカウンターの向こうで負けじと言葉にする。
「そうですね。マスターとお友達に慣れたのは、光栄ですね」
と、ミサトも言葉に出す。
「僕らとしては、打つべき手はすべて打ちました・・・肝心のマミちゃんが実家に戻ったのは誤算でしたけど・・・それ以外はやるだけのことをやり尽くしました」
と、タケルが言葉にしている。
「うん。この間、シンイチと久しぶりに飲んだんだが・・・奴も、恋なのかどうか、わからないけどって言いながら、でも、マミちゃんのことを気にしてたのは、確かだ」
と、シンサクも言葉にしている。
「あいつ、マミちゃんが来なくなってから、明らかに動揺していたし・・・十分気持ちは動いていると思う」
と、ジュウゴも言葉にしている。
「そうですか・・・それなら、十分結果が出そうですけど・・・ただひとつ・・・肝心な最後のパズルの1ピースがわからないんです」
と、タケルが言葉にする。
「それは?」「何かな、それ」
と、ジュウゴとシンサクが言う。
「シンイチさんが、マイさんの恋の呪縛から解かれて、ミキさんの大人の女性の恋に落ちた「明確な理由」が、わからない・・・」
と、タケルは言葉にする。
「でも、それは・・・シンイチも言ってたけど、その理由、自分でもわからないらしいぜ」
と、シンサクが言葉にする。
「シンイチ自身が、わからなくちゃ・・・ミキちゃんに聞く以外ないだろう・・・」
と、ジュウゴが口にする。
「つまり、誰も知り得ない情報だってことだな、それは」
と、シンサクが口にする。
「ふー・・・」
と、タケルは大きなため息をつきながら、椅子に座り直す。
「はい、マンハッタン・・・君の好きなカクテルだったな・・・にしても、君はよくやったよ。あとはマミちゃんに任せてもいいんじゃないのかな」
と、ジュウゴが言う。
「そうですよ。今のマミなら・・・シンイチさんを恋に落とせるポテンシャルだって、絶対についていると思うし」
と、ミサトは言って、タケルの左手をそっと握る。
「そうよ・・・マミなら、タケルさんの期待に絶対応えてくれますよ」
と、ミウも言いながら、タケルがマンハッタンを持つ、右手に、そっと手を添える。
「なら、いいけどね・・・俺、そういうところ、完璧主義者だからさ。頼まれたら、最後まで諦めない・・・それが俺の信条だから」
と、タケルは静かに言う。
「ほう、君はだいぶ女性達に信頼されているようだ・・・」
と、シンサクはニヤリとしながら、タケルに言う。
「そ。羨ましいくらいにね」
と、ジュウゴも言葉にする。
「それは、まあ・・・」
と、言いながら、言い淀む鈴木タケルだった。
吉祥寺の夜は静かに更けていった。
(つづく)
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打ち上げ代わりに、吉祥寺駅北口商店街にある佐藤シンサクの店、居酒屋「シンサク」に飲みに来ていた。
「今日は俺も飲むよ。久しぶりの全体練習は良い感じで終われたし、シンイチの「君」って曲も良かったし」
と、店長でもある佐藤シンサクは、店を副店長に任せ、気持ちいい感じで酔っていた。
「うん。俺も「君」って久々にいい曲の手応え掴んでいる感じだな」
と、ドラムの清水コウタがはしゃぐ。
「うん。確かにいい曲だ」
と、ベースの左右田タスクも、のんびりと話す。
「皆がそう言ってくれると嬉しいよ。俺的にも手応えを感じる。この感じ、久しぶりだよ」
と、道明寺シンイチも、酒で顔を赤くしながら、朗らかにしゃべる。
「イントロのキーボードなんだけど、もう少しやわらかい感じがいいかな。なんか春的なイメージを表現するような・・・」
と、シンサクがシンイチに聞いている。
「そうだな。やわらかな女性のイメージから、大人のイメージに成長していくような、そんな楽曲にしたいんだ」
と、シンイチは言う。
「俺がマイからミキに愛する女性が変わったように・・・大人の女性に目覚めたように、さ」
と、シンイチは珍しく、そんな言葉を自ら吐く。
「へー。ミキさんを愛したきっかけって、そういうことだったのか?」
と、シンサクがツッコむ。
「いや、そういうわけじゃないんだが・・・結果的に俺は、ミキに大人の女性を求めていたんだって、最近気づいてさ」
と、シンイチが言う。
「最近、気づいた?」
と、コウタがツッコむ。
「ああ・・・このところ、俺も自分のこれまでの恋について、真面目に考えてきたんだ。俺って、どうして、マイを好きになったのか。ミキと結婚したのかってね」
と、シンイチは言う。
「で、どうだったんだ?」
と、タスクがのんびり聞く。
「マイに関して言えば・・・俺、純粋なマイの気持ちに応えたかったんだよ・・・なんにも染まっていない純白な白のようなマイを俺色に染めたかったんだ」
と、シンイチ。
「俺色に染まりたいマイに・・・俺はそれを欲していたんだと思う。誰のものでもないマイを、俺だけのモノに、俺だけのマイにしたかったんだよ・・・」
と、シンイチ。
「あいつと初めてエッチした時・・・誰もいないあいつの家で、あいつの部屋でエッチしたんだけど、あいつ泣いてさ・・・でも、嬉し泣きだったんだ。それ」
と、シンイチ。
「ちょっと出血して・・・俺だってそれが初めてだったし、俺が拭いてあげたら、あいつ笑顔で俺に抱きついてきた・・・あの時のあいつのホッとしたような笑顔・・・」
と、シンイチは遠くを見るような目。
「忘れられないよ」
と、シンイチ。
「マイちゃん・・・天使のようにかわいかったからな。その彼女もお前にゾッコンだって聞いて、俺達の学年の男たちは皆嫉妬してたんだぜ」
と、一年上のシンサクが言う。
「そう言えば、シンサクさん、そんな感じのこと、僕に言いましたよね。軽音楽部の練習の時、ちょっと嫉妬した感じで」
と、シンサクと同じ軽音楽部だったシンサクが言う。
「お前は彼女いるから、いいけど、みたいな。しかも、かわいい彼女で・・・なんて感じでしたっけ」
と、シンイチは懐かしい記憶を思い出す。
「まあな。だって、俺もあの頃は高校生だ。多感な頃だったよ」
と、シンサクは少し照れながら話す。
「でも、そのマイちゃんが死んで・・・その後に、ミキさんを愛したのは、どんなきっかけが?」
と、コウタが聞く。
「きっかけは、俺も忘れたよ。でも、気がついたら、アイツを愛してた。あいつはマイと違って、男ってものをよく知っていた・・・」
と、シンイチは言う。
「俺の心はアイツにいいように弄ばれたのさ・・・気がついたら、俺はアイツに夢中になってた」
と、シンイチは言う。
「マイとは全然違う・・・大人の女だった。ミキはね・・・」
と、シンイチは言う。
「エッチだって、あいつから仕掛けてきたんだぜ。一緒に酒を飲んで、酔いがまわったところで、ディープキスされて・・・そりゃ、男は欲望のままになっちゃうだろ」
と、シンイチは言う。
「あいつのアパートで一緒に酒飲んでたからさ・・・とめどなかったよ・・・あの頃の俺たちは・・・」
と、シンイチは言う。
「二人はいつも一緒だったからな・・・こっちが恥ずかしくなるほど、ミキちゃんはシンイチのことを熱く愛してた」
と、シンサクが言う。
「求められる喜びを初めて知った・・・そんな感じだったよ、ミキは・・・マイは求めるというより、愛して・・・って感じだったからな」
と、シンイチが言う。
「タイプの違う2人の女性か・・・で、次のおんなは、どんなタイプなんだ?」
と、シンサクが質問する。
「ん?それがよくわからないんだ・・・まるっきり子供のようだったけど・・・中身は違うような・・・マイともミキとも違う・・・そんな気がする」
と、シンイチは言う。
「ほう、新しく恋をしているのか、シンイチは・・・」
と、タスクが言う。
「だから、新しい楽曲が書けたんだろ。それくらいわかるぜ、俺だって」
と、コウタが言う。
「恋というところまで、行ってるとも思えないけど・・・気になっている女性がいるって話さ。それにその女性につい、冷たくしちゃって・・・今は会えてないし」
と、シンイチはなんとはなしに言う。
「ふーん、俺達としては、その恋、成就させたい気分だけどな。な、皆」
と、シンサク。
「おう。だって、シンイチも曲書けるようになったんだし」「そうだな」
と、コウタとタスクが言う。
「ふ。まあな。だが、そこだけは、勝手にやらしてもらうよ」
と、赤い顔で静かに言うシンイチだった。
「ま、昔からそういう性格だからな。シンイチは」
と、シンサクが言う。
「だな」「確かに」
と、コウタとタスクも言葉にした。
「いずれにしろ、潮目が変わった。そういうことだ」
と、シンサクが言うと、コウタもタスクも笑顔になった。
シンイチは遠くを見るような目で、何かを確かめようとしていた。
2月第一週の土曜日の朝6時過ぎ。秋田県角館町をアミとマミが華やかなジョギングウェア姿で走っていた。
アミはクリーム色ベース、マミは桜色ベースのジョギングウェアで、颯爽と走っていた。
「マミ、少しあげるわよ」
と、アミが言うと、
「うん。大丈夫、お姉ちゃん」
と、ペースをあげたアミに余裕で付いて行くマミだった。
「わたしも中学時代はテニスやってたんだし、大学でもテニス・サークルにいたんだから・・・」
と、アミはそれとなくプライドを持っていたが、
「お姉ちゃん、もう少しあげるね」
と、重点的にトレーニングを積んできたマミの方が一枚も二枚も上だった。
「う、うん」
と言いながら、付いて行くだけでいっぱいいっぱいのアミだった。
「やるわ・・・マミ」
と、アミは目の覚める思いで、すっかり細身になったマミの背中をみるのだった。
2月第一周の土曜日の午後8時過ぎ。
鈴木タケルはカフェ「アルカンシェル」で、ミサトとミウ、そして、マスターのジュウゴと「朱鷺色ワーカーズ」のシンサクと飲んでいた。
「まさか、ミウちゃんが、シンイチとマミちゃんの恋のバックアップを、そんな早くから、していたとはなー・・・」
と、シンサクはビールを飲みながら、笑っている。
「ジュウゴに連絡を貰って驚いたよ。今回のことは、すべて繋がっているってことなんだな」
と、シンサクは「マミ恋愛プロジェクト」の責任者である、鈴木タケルに言葉を出している。
「えー、まあ、そういうことなんです。元々は、マミちゃんが、シンイチさんに恋に落ちたのが発端なんですが・・・」
と、鈴木タケルは頭を掻きながらシンサクに言う。
「まあ、でも、それが元でミウちゃんとも出会えたんだから、俺としては、御の字かな」
と、シンサクは笑顔で言っている。
「あら、そんなこと言って頂いて嬉しいわ。シンサクさん」
と、ミウは大人っぽく微笑する。
「それを言うなら、僕もミサトちゃんに知り合えたから・・・」
と、ジュウゴもカウンターの向こうで負けじと言葉にする。
「そうですね。マスターとお友達に慣れたのは、光栄ですね」
と、ミサトも言葉に出す。
「僕らとしては、打つべき手はすべて打ちました・・・肝心のマミちゃんが実家に戻ったのは誤算でしたけど・・・それ以外はやるだけのことをやり尽くしました」
と、タケルが言葉にしている。
「うん。この間、シンイチと久しぶりに飲んだんだが・・・奴も、恋なのかどうか、わからないけどって言いながら、でも、マミちゃんのことを気にしてたのは、確かだ」
と、シンサクも言葉にしている。
「あいつ、マミちゃんが来なくなってから、明らかに動揺していたし・・・十分気持ちは動いていると思う」
と、ジュウゴも言葉にしている。
「そうですか・・・それなら、十分結果が出そうですけど・・・ただひとつ・・・肝心な最後のパズルの1ピースがわからないんです」
と、タケルが言葉にする。
「それは?」「何かな、それ」
と、ジュウゴとシンサクが言う。
「シンイチさんが、マイさんの恋の呪縛から解かれて、ミキさんの大人の女性の恋に落ちた「明確な理由」が、わからない・・・」
と、タケルは言葉にする。
「でも、それは・・・シンイチも言ってたけど、その理由、自分でもわからないらしいぜ」
と、シンサクが言葉にする。
「シンイチ自身が、わからなくちゃ・・・ミキちゃんに聞く以外ないだろう・・・」
と、ジュウゴが口にする。
「つまり、誰も知り得ない情報だってことだな、それは」
と、シンサクが口にする。
「ふー・・・」
と、タケルは大きなため息をつきながら、椅子に座り直す。
「はい、マンハッタン・・・君の好きなカクテルだったな・・・にしても、君はよくやったよ。あとはマミちゃんに任せてもいいんじゃないのかな」
と、ジュウゴが言う。
「そうですよ。今のマミなら・・・シンイチさんを恋に落とせるポテンシャルだって、絶対についていると思うし」
と、ミサトは言って、タケルの左手をそっと握る。
「そうよ・・・マミなら、タケルさんの期待に絶対応えてくれますよ」
と、ミウも言いながら、タケルがマンハッタンを持つ、右手に、そっと手を添える。
「なら、いいけどね・・・俺、そういうところ、完璧主義者だからさ。頼まれたら、最後まで諦めない・・・それが俺の信条だから」
と、タケルは静かに言う。
「ほう、君はだいぶ女性達に信頼されているようだ・・・」
と、シンサクはニヤリとしながら、タケルに言う。
「そ。羨ましいくらいにね」
と、ジュウゴも言葉にする。
「それは、まあ・・・」
と、言いながら、言い淀む鈴木タケルだった。
吉祥寺の夜は静かに更けていった。
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