「で、何、それで昨日は帰ってこなかったわけ?」
と、僕は、月曜日の夜、華厳寮の203号室で、イズミに言われていた。
「いやあ、二人共感情的に盛り上がっちゃってねー・・・まあ、でも、これが最後さ。あいつも言っていたし・・・いつまでも迷惑かけられないから・・・」
と、僕は言った・・・。
「わたしは女優として強く生きていく・・・いつまでも鈴木さんに迷惑かけられないもの・・・それにわたし気づいたの・・・」
と、エイコは暗いベッドの中でつぶやく。
「わたしも、支えられる側の人間なんだなって・・・たくさんのひとに支えられて輝く・・・そういう人間なんだって・・・」
と、エイコは言う。
「だから、女優として輝いて・・・支えてくれる人たちに恩返しをしていく・・・それが私の人生のしあわせ・・・それがわかっちゃったの・・・」
と、エイコは、少し涙ぐみながら・・・ベッドの上で僕の顔を見ながら、ささやている。
「だから、わたしは、わがままを言って・・・舞台女優の星を目指して、鈴木さんと別れるの・・・そういうストーリーにしておいて・・・」
と、エイコは言う。
「鈴木さんの中では・・・」
と、エイコは涙ぐみながら、話した。
「ということは、エイコは新しい夢に向かって歩き出して・・・それで僕のところを卒業した・・・そういうことだな」
と、僕が言うと、
「そうね・・・そういうことにしておいて・・・」
と、エイコはつぶやく。
その目には涙があふれていた・・・。
「ま、あいつは、女優として成功する夢を持って、俺の所を卒業した、卒業生・・・そんなところだよ」
僕はそういう感じで、イズミに説明した。
「そう・・・じゃあ、お互い納得ずくで綺麗に別れることが出来た・・・そういうことだね」
と、イズミは納得する。
「そう・・・もう一度、最後に出会えて、よかったよ・・・そのあたりはね」
と、僕が言うと、
「パパはいいなあ・・・俺のところなんて、なんで彼女が別れを決めたかなんて、わからず仕舞いだもの・・・俺も最後に会ってみるかな・・・」
と、イズミは、真面目な表情で言う。
「まあ、自分の人生のことだからな・・・自分で決めるんだな・・・」
と、僕が言うと、
「ああ・・・俺も電話かけてみようかな・・・」
と、イズミは財布を持って部屋を出ていく・・・。
「鈴木さん・・・」
エイコは、僕の下で僕を見上げながら笑顔になる。
「ありがとう、鈴木さん・・・鈴木さんはいつもわたしを気持ちよくしてくれたわ・・・だから、最後にお礼を言おうと思って・・・」
少し紅潮したエイコは、その白い肌に汗を浮かべて、笑顔になる。
「鈴木さんに教えてもらったことだから、最後まで責任をとってもらおうと思ったけど、うまくいかなかったわ・・・」
と、エイコは少し笑う。
そして、エイコは真顔になって、
「最後にもう一度だけ・・・思い出にして・・・」
エイコはそう言って目を閉じる・・・。
「お、パパ帰ってたか・・・昨日はエイコちゃんと盛り上がったみたいだな!」
と、ガオは部屋に帰ってくるなり、そのネタを振ってくる。
「まあね・・・イズミにも話したけど、最後に、彼女の気持ちや、いろいろなことがわかったし、誤解も溶けた・・・最後に会っておいて、よかったよ・・・」
と、僕が言うと、
「へえ・・・それで結局、どういうことだったんだい、別れるって彼女の選択は」
と、ガオも聞いてくる。
「彼女には、舞台女優という新しい夢が出来た。僕という学校はもう卒業すべきと彼女は考えた。それに、僕に迷惑ばかりかけていられないから、これが卒業の時期だと考えた」
と、僕は説明する。
「すべてのタイミングが一致したから、彼女は別れを告げた・・・そんなところだ。基本的には彼女は身を引いた・・・そういう形だな。身を引いて、自分の夢に賭けたんだ」
と、僕が説明すると、
「そういうことか・・・でも、自分の一生の夢を見つけられるってのは、人生にそうそうないことだからな・・・エイコちゃんは、本当の道を見つけたんだよ、きっと」
と、ガオは言う。
「俺もそう思う・・・だから、エイコの人生を見送ってやることにしたのさ・・・そしたら、お互い、気持ちが盛り上がっちゃってね・・・」
と、僕は説明する。
「ちょっと聞くけど・・・」
ガオは少しいたずら小僧のような表情になりながら、聞いてくる。
「別れを決めてからのエッチって、どんな感じ?」
と、ガオが言う。
「そうだな・・・お互いがお互いを尊敬しているし、愛おしく感じているから・・・すっごく一体感があって、気持ちよかったぜ・・・」
と、僕が言うと、
「なるほど・・・俺も長い人生の中で、そういうことがあるかもしれんなー・・・楽しみにしておこう」
と、ガオはニヤリと笑う。
「よし、飲むか」
と、ガオは手の仕草で飲みに誘う。
「了解・・・ビール買ってくるか・・・」
と、僕が財布を出すと、
「つまみはさ、昨日の残りがあるから・・・ビールだけ買ってきて・・・俺、500ml入り、二本でいいから・・・」
と、ガオは言う。
「オッケー」
と、僕は寮内にある自販機に速攻で走り、ビールを買ってくる。
「しかし、どうする?これから、週末は暇だぜー」
と、ガオは赤い顔で飲んでいる。つまみは、剣先イカだ。
「そうだな・・・何か始めるか・・・せっかく鎌倉に住んでいるんだし・・・」
と、僕が言うと、
「そうだな・・・湘南にいるんだから、それをうまく利用しない手はないな」
と、ガオも言う。
「ガオは、湘南のいい風景の場所に、愛車のミニで行くっていう、趣味があるんじゃなかったっけ?」
と、僕が言うと、
「まあね・・・それはあるんだけど、それだけでも、つまらない・・・なにか、こう、女性とつきあうのに、有利な趣味を見つけておきたいじゃないか」
と、ガオは赤ら顔で言う。
「せっかく湘南にいるんだから、サーフィンとか、ウィンドサーフィンに手を出してみようかと思っているんだよな・・・ミニの上にボード乗せて行くのなんて、最高じゃないか?」
と、妄想好きのガオは、その妄想に笑顔になる。
「ガオのそのホワイトモンスターのような身体で、サーフィン?なんか、サーファーって感じじゃないんだよねー。柔道着なら、似合うけど・・・」
と、けっこうひどいことを言う僕である。
「だから、なんだよ・・・この機会に俺は身体を改造して、もう少ししゅっとしたサーフィン向きの身体にしたいと思っているんだ・・・なんならパパも一緒にどうだ?」
と、ガオは言う。
「俺は前にも言ったけど、スポーツが嫌いなんです。もう、体育という授業がこの世で一番キライでしたから・・・しかも、大学時代に所属した研究室がもー・・・」
と、僕は吐き気がするような気持ちで話す。
「もろ体育会系の研究室で、スポーツ出来ることが一番みたいな感じで、スポーツ出来ない奴は、何をやってもダメみたいな価値観を押し付けられて・・・もー・・・」
と、僕は毒を吐く。
「もともと体育が嫌いだったのに、そこで、コンプレックスがさらに増大して・・・スポーツが大嫌いになっちゃったんです。まあ、見るのはいいですけど、やるのは苦手」
と、僕は言う。
「人間にはいろいろな価値観があるんです。体育会系の人たちって、自分の価値観を勝手に押し付けて、スポーツ出来ないから、お前は何をやってもダメなんだ、みたいに・・・」
と、僕もけっこう酔っているよう。
「だから、僕はスポーツはやらないんです。もっと他に楽しいものはたくさんあります。それで楽しめるのなら、僕はそれでいい・・・」
と、僕は言う。
「なるほどな・・・まあ、俺は柔道というバリバリ体育会系の世界にいたから、パパの言いたいことは、よくわかるよ。確かに価値観はいろいろある・・・」
と、それまで、静かに聞いていたガオは言う。
「まあ、自分の好きなことをやればいいんだ・・・それを自分で見つけて、その世界で楽しめばね・・・」
と、ガオは物分かりのいいところを見せる。
「だけど、多分・・・パパの周りにいた、その体育会系のひとは、「スポーツって楽しいよ」ってパパに言いたかったんじゃないのかな・・・」
と、ガオは言う。
「まさか・・・毎週、水曜日の午後はテニスを強制させられて・・・トレーニングに身をいれないからダメなんだ的に言われて・・・俺は研究がしたくてその研究室に入ったんだ」
と、僕は言い返す。
「テニスがしたくて、研究室に入ったんじゃない・・・それを、ただでさえ忙しいのに、そのテニスの為にトレーニングなんて、本末転倒ですよ・・・」
と、僕は言う。
「だいたいああいう人たちは、「私達つらい研究も進めているけど、同時にテニスも楽しんでいるの。充実した学生生活を送ってるのよ!」って言いたいだけでしょ?」
と、僕は言う。
「僕はそういう、さわやかポーズが大嫌いなんです。ポーズの為に大切な時間を割かれたり、だいたいテニスなんて下手なんです。恥かいてばっかりだ・・・だから嫌だったのに・・・」
と、僕はブツブツ言う。
「同じ研究室に好きな子でも、いたの?」
と、ガオはなんとなしに聞く。
「そうです。いたんです、同期に、好きな子が・・・まあ、大学4年の時に告白して、壮大にフラれましたけどね・・・でも、まあ、恥かくところは見せたくないでしょ?」
と、僕が言うと、
「なるほど・・・パパの論理は正しいなあ・・・」
と、ガオが言う。
「でしょ・・・まあ、とにかく、強制させられることの嫌さが、トラウマになって・・・それ以来、スポーツはやらないんです。僕は・・・」
と、僕は言う。
「ふむ、なるほどなあ・・・まあ、パパの意見はよくわかった・・・パパを誘うのは辞めるよ・・・でも、言っておくけど、女性はスポーツマンに弱いぞ」
と、ガオはニヤリとしながら、言う。
「まあ、俺が柔道家だと言うことを言うと、100%女性は俺の見方を変える・・・目の色が変わるのが、如実にわかる・・・どうだ、これでも、スポーツを嫌うか?」
と、ガオは言う。
「そこなんですよね・・・僕だって、それくらいのことは、わかっていますよ。いくら、女性の気持ちがわからないと言っても、それくらいはねー」
と、僕は言う。
「だったら、何か自分に合う、スポーツくらい見つけておいたら、どうだ?・・・それにスポーツをうまくなる秘訣は、トレーニングしてそのスポーツにあった体型にすることだ」
と、ガオは言う。
「パパは、テニスが下手だったと言うけれど、テニスをするには、体重があり過ぎた・・・それだけのこと、なんじゃないのか?」
と、ガオは言う。
「まあ、それは・・・そうだとは、思うけど・・・」
と、僕も言う。
「まあ、強制はしないけど・・・スポーツマンになっておくと、女性に近づける可能性は、高まるけどな・・・」
と、ガオは言いながら、話題を別に変える。
「それより・・・パパは、昨日の夜から、今朝にかけて、エイコちゃんと何回エッチしたんだ?」
と、ガオはニヤリとしながら聞いてくる。
「えーと、昨日の夜、3回で、今朝、2回かなあ・・・お互い、かなり燃えちゃって・・・」
と、僕が言うと、
「さすが、パパ・・・パパおっきいしな・・・」
と、笑うガオ。
「ま、エイコもそこは、喜んでくれたけど・・・」
と、僕らが、くだらない話をしているところへ・・・。
真っ青な顔をしたイズミが帰ってくる。
「どうしたイズミ・・・そうだ、未來ちゃんのところへ、電話したんだよな・・・どうだった?」
と、僕が聞くと、
「俺、どうしたから、いいか、もう、わからない・・・」
と、血を吐くような表情で言うイズミ。
鎌倉の夜は静かに更けて行った。
(つづく)
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と、僕は、月曜日の夜、華厳寮の203号室で、イズミに言われていた。
「いやあ、二人共感情的に盛り上がっちゃってねー・・・まあ、でも、これが最後さ。あいつも言っていたし・・・いつまでも迷惑かけられないから・・・」
と、僕は言った・・・。
「わたしは女優として強く生きていく・・・いつまでも鈴木さんに迷惑かけられないもの・・・それにわたし気づいたの・・・」
と、エイコは暗いベッドの中でつぶやく。
「わたしも、支えられる側の人間なんだなって・・・たくさんのひとに支えられて輝く・・・そういう人間なんだって・・・」
と、エイコは言う。
「だから、女優として輝いて・・・支えてくれる人たちに恩返しをしていく・・・それが私の人生のしあわせ・・・それがわかっちゃったの・・・」
と、エイコは、少し涙ぐみながら・・・ベッドの上で僕の顔を見ながら、ささやている。
「だから、わたしは、わがままを言って・・・舞台女優の星を目指して、鈴木さんと別れるの・・・そういうストーリーにしておいて・・・」
と、エイコは言う。
「鈴木さんの中では・・・」
と、エイコは涙ぐみながら、話した。
「ということは、エイコは新しい夢に向かって歩き出して・・・それで僕のところを卒業した・・・そういうことだな」
と、僕が言うと、
「そうね・・・そういうことにしておいて・・・」
と、エイコはつぶやく。
その目には涙があふれていた・・・。
「ま、あいつは、女優として成功する夢を持って、俺の所を卒業した、卒業生・・・そんなところだよ」
僕はそういう感じで、イズミに説明した。
「そう・・・じゃあ、お互い納得ずくで綺麗に別れることが出来た・・・そういうことだね」
と、イズミは納得する。
「そう・・・もう一度、最後に出会えて、よかったよ・・・そのあたりはね」
と、僕が言うと、
「パパはいいなあ・・・俺のところなんて、なんで彼女が別れを決めたかなんて、わからず仕舞いだもの・・・俺も最後に会ってみるかな・・・」
と、イズミは、真面目な表情で言う。
「まあ、自分の人生のことだからな・・・自分で決めるんだな・・・」
と、僕が言うと、
「ああ・・・俺も電話かけてみようかな・・・」
と、イズミは財布を持って部屋を出ていく・・・。
「鈴木さん・・・」
エイコは、僕の下で僕を見上げながら笑顔になる。
「ありがとう、鈴木さん・・・鈴木さんはいつもわたしを気持ちよくしてくれたわ・・・だから、最後にお礼を言おうと思って・・・」
少し紅潮したエイコは、その白い肌に汗を浮かべて、笑顔になる。
「鈴木さんに教えてもらったことだから、最後まで責任をとってもらおうと思ったけど、うまくいかなかったわ・・・」
と、エイコは少し笑う。
そして、エイコは真顔になって、
「最後にもう一度だけ・・・思い出にして・・・」
エイコはそう言って目を閉じる・・・。
「お、パパ帰ってたか・・・昨日はエイコちゃんと盛り上がったみたいだな!」
と、ガオは部屋に帰ってくるなり、そのネタを振ってくる。
「まあね・・・イズミにも話したけど、最後に、彼女の気持ちや、いろいろなことがわかったし、誤解も溶けた・・・最後に会っておいて、よかったよ・・・」
と、僕が言うと、
「へえ・・・それで結局、どういうことだったんだい、別れるって彼女の選択は」
と、ガオも聞いてくる。
「彼女には、舞台女優という新しい夢が出来た。僕という学校はもう卒業すべきと彼女は考えた。それに、僕に迷惑ばかりかけていられないから、これが卒業の時期だと考えた」
と、僕は説明する。
「すべてのタイミングが一致したから、彼女は別れを告げた・・・そんなところだ。基本的には彼女は身を引いた・・・そういう形だな。身を引いて、自分の夢に賭けたんだ」
と、僕が説明すると、
「そういうことか・・・でも、自分の一生の夢を見つけられるってのは、人生にそうそうないことだからな・・・エイコちゃんは、本当の道を見つけたんだよ、きっと」
と、ガオは言う。
「俺もそう思う・・・だから、エイコの人生を見送ってやることにしたのさ・・・そしたら、お互い、気持ちが盛り上がっちゃってね・・・」
と、僕は説明する。
「ちょっと聞くけど・・・」
ガオは少しいたずら小僧のような表情になりながら、聞いてくる。
「別れを決めてからのエッチって、どんな感じ?」
と、ガオが言う。
「そうだな・・・お互いがお互いを尊敬しているし、愛おしく感じているから・・・すっごく一体感があって、気持ちよかったぜ・・・」
と、僕が言うと、
「なるほど・・・俺も長い人生の中で、そういうことがあるかもしれんなー・・・楽しみにしておこう」
と、ガオはニヤリと笑う。
「よし、飲むか」
と、ガオは手の仕草で飲みに誘う。
「了解・・・ビール買ってくるか・・・」
と、僕が財布を出すと、
「つまみはさ、昨日の残りがあるから・・・ビールだけ買ってきて・・・俺、500ml入り、二本でいいから・・・」
と、ガオは言う。
「オッケー」
と、僕は寮内にある自販機に速攻で走り、ビールを買ってくる。
「しかし、どうする?これから、週末は暇だぜー」
と、ガオは赤い顔で飲んでいる。つまみは、剣先イカだ。
「そうだな・・・何か始めるか・・・せっかく鎌倉に住んでいるんだし・・・」
と、僕が言うと、
「そうだな・・・湘南にいるんだから、それをうまく利用しない手はないな」
と、ガオも言う。
「ガオは、湘南のいい風景の場所に、愛車のミニで行くっていう、趣味があるんじゃなかったっけ?」
と、僕が言うと、
「まあね・・・それはあるんだけど、それだけでも、つまらない・・・なにか、こう、女性とつきあうのに、有利な趣味を見つけておきたいじゃないか」
と、ガオは赤ら顔で言う。
「せっかく湘南にいるんだから、サーフィンとか、ウィンドサーフィンに手を出してみようかと思っているんだよな・・・ミニの上にボード乗せて行くのなんて、最高じゃないか?」
と、妄想好きのガオは、その妄想に笑顔になる。
「ガオのそのホワイトモンスターのような身体で、サーフィン?なんか、サーファーって感じじゃないんだよねー。柔道着なら、似合うけど・・・」
と、けっこうひどいことを言う僕である。
「だから、なんだよ・・・この機会に俺は身体を改造して、もう少ししゅっとしたサーフィン向きの身体にしたいと思っているんだ・・・なんならパパも一緒にどうだ?」
と、ガオは言う。
「俺は前にも言ったけど、スポーツが嫌いなんです。もう、体育という授業がこの世で一番キライでしたから・・・しかも、大学時代に所属した研究室がもー・・・」
と、僕は吐き気がするような気持ちで話す。
「もろ体育会系の研究室で、スポーツ出来ることが一番みたいな感じで、スポーツ出来ない奴は、何をやってもダメみたいな価値観を押し付けられて・・・もー・・・」
と、僕は毒を吐く。
「もともと体育が嫌いだったのに、そこで、コンプレックスがさらに増大して・・・スポーツが大嫌いになっちゃったんです。まあ、見るのはいいですけど、やるのは苦手」
と、僕は言う。
「人間にはいろいろな価値観があるんです。体育会系の人たちって、自分の価値観を勝手に押し付けて、スポーツ出来ないから、お前は何をやってもダメなんだ、みたいに・・・」
と、僕もけっこう酔っているよう。
「だから、僕はスポーツはやらないんです。もっと他に楽しいものはたくさんあります。それで楽しめるのなら、僕はそれでいい・・・」
と、僕は言う。
「なるほどな・・・まあ、俺は柔道というバリバリ体育会系の世界にいたから、パパの言いたいことは、よくわかるよ。確かに価値観はいろいろある・・・」
と、それまで、静かに聞いていたガオは言う。
「まあ、自分の好きなことをやればいいんだ・・・それを自分で見つけて、その世界で楽しめばね・・・」
と、ガオは物分かりのいいところを見せる。
「だけど、多分・・・パパの周りにいた、その体育会系のひとは、「スポーツって楽しいよ」ってパパに言いたかったんじゃないのかな・・・」
と、ガオは言う。
「まさか・・・毎週、水曜日の午後はテニスを強制させられて・・・トレーニングに身をいれないからダメなんだ的に言われて・・・俺は研究がしたくてその研究室に入ったんだ」
と、僕は言い返す。
「テニスがしたくて、研究室に入ったんじゃない・・・それを、ただでさえ忙しいのに、そのテニスの為にトレーニングなんて、本末転倒ですよ・・・」
と、僕は言う。
「だいたいああいう人たちは、「私達つらい研究も進めているけど、同時にテニスも楽しんでいるの。充実した学生生活を送ってるのよ!」って言いたいだけでしょ?」
と、僕は言う。
「僕はそういう、さわやかポーズが大嫌いなんです。ポーズの為に大切な時間を割かれたり、だいたいテニスなんて下手なんです。恥かいてばっかりだ・・・だから嫌だったのに・・・」
と、僕はブツブツ言う。
「同じ研究室に好きな子でも、いたの?」
と、ガオはなんとなしに聞く。
「そうです。いたんです、同期に、好きな子が・・・まあ、大学4年の時に告白して、壮大にフラれましたけどね・・・でも、まあ、恥かくところは見せたくないでしょ?」
と、僕が言うと、
「なるほど・・・パパの論理は正しいなあ・・・」
と、ガオが言う。
「でしょ・・・まあ、とにかく、強制させられることの嫌さが、トラウマになって・・・それ以来、スポーツはやらないんです。僕は・・・」
と、僕は言う。
「ふむ、なるほどなあ・・・まあ、パパの意見はよくわかった・・・パパを誘うのは辞めるよ・・・でも、言っておくけど、女性はスポーツマンに弱いぞ」
と、ガオはニヤリとしながら、言う。
「まあ、俺が柔道家だと言うことを言うと、100%女性は俺の見方を変える・・・目の色が変わるのが、如実にわかる・・・どうだ、これでも、スポーツを嫌うか?」
と、ガオは言う。
「そこなんですよね・・・僕だって、それくらいのことは、わかっていますよ。いくら、女性の気持ちがわからないと言っても、それくらいはねー」
と、僕は言う。
「だったら、何か自分に合う、スポーツくらい見つけておいたら、どうだ?・・・それにスポーツをうまくなる秘訣は、トレーニングしてそのスポーツにあった体型にすることだ」
と、ガオは言う。
「パパは、テニスが下手だったと言うけれど、テニスをするには、体重があり過ぎた・・・それだけのこと、なんじゃないのか?」
と、ガオは言う。
「まあ、それは・・・そうだとは、思うけど・・・」
と、僕も言う。
「まあ、強制はしないけど・・・スポーツマンになっておくと、女性に近づける可能性は、高まるけどな・・・」
と、ガオは言いながら、話題を別に変える。
「それより・・・パパは、昨日の夜から、今朝にかけて、エイコちゃんと何回エッチしたんだ?」
と、ガオはニヤリとしながら聞いてくる。
「えーと、昨日の夜、3回で、今朝、2回かなあ・・・お互い、かなり燃えちゃって・・・」
と、僕が言うと、
「さすが、パパ・・・パパおっきいしな・・・」
と、笑うガオ。
「ま、エイコもそこは、喜んでくれたけど・・・」
と、僕らが、くだらない話をしているところへ・・・。
真っ青な顔をしたイズミが帰ってくる。
「どうしたイズミ・・・そうだ、未來ちゃんのところへ、電話したんだよな・・・どうだった?」
と、僕が聞くと、
「俺、どうしたから、いいか、もう、わからない・・・」
と、血を吐くような表情で言うイズミ。
鎌倉の夜は静かに更けて行った。
(つづく)
→前回へ
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