くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

地図にない場所(46)

2020-05-19 19:16:16 | 「地図にない場所」
 ガッチはにやりっ、とサトルに笑って見せると、くるりと振り返りながら立ち止まって、
「さぁ来い! ガッチ様が相手だ。こっからは一歩も通さねぇぞ。最初にバラバラになりたいやつはどいつだ!」と、ガッチは小さな体には似つかわしくない気迫で叫ぶと、手にしたデッキブラシを、ぶるんと高く構えました。

「ケーッ!」

 奇妙なガイコツの叫び声が上がったかと思うと、ガッチの気合と共に、骨と骨がぶつかり合う派手な音がしました。それを皮切りに、ガイコツ達が上げる声と、甲板の上を走る足音が、どっと沸き上がりました――。
 サトルは走りながら、ちらっと振り返ってガッチに目配せし、甲板を駆ける足に力をこめまいした。途中、船内のどこかにいたらしいガイコツと出くわしましたが、なんとか追っ手を退け、救命艇にたどり着きました。

(やった! よし、早くロープをほどかなきゃ。急げ、急ぐんだ――)

 サトルは自分をせかしながら、救命艇を縛っているロープをほどきにかかりました。
 あらかじめ結び目を緩めていたにもかかわらず、思ったよりも時間が早く過ぎて行きました。

「ケァーッ」

 と、悪戦苦闘しているサトルの後ろで、ガイコツの上げる声がしました。
 サトルが、冷や汗の浮かんだ顔を向けると、手に手に工具を持ったガイコツ達が、のっそりとサトルに近づいてくるのでした。
 ガタッ――と、ロープがほどけて自由になった救命艇が、早く水に飛びこみたい、と言っているように、重たい頭を傾けました。
(やった。あと少し――)
 サトルが思ったとたん、「ケーッ!」と、後ろから近づいてきたガイコツが、サトルに向かって工具を振り下ろしました。
 間一髪で工具をかわしたサトルは、思いきりガイコツを蹴り上げました。ガイコツは骨と骨を繋いでいた関節をはずされ、その場にばらばらと崩れ落ちました。サトルは重たい工具を拾い上げ、ガイコツの仲間達を牽制しながら、救命艇に残ったロープをほどきました。
「サトルーッ! 早くしろ」と、ガッチが叫びながら、こちらへ駆けてくるのが見えました。後ろに、たくさんのガイコツを従えていました。
「待って、あと少し……」と、サトルはいらいらしながら、残ったロープをほどいていきました。けれど、サトルが頑張っても、強情なロープはいっこうにほどけようとしませんでした。そうこうしているうちにも、ガイコツ達に追われたガッチは、急いでこちらに駆けてきます。サトルのそばで隙をうかがっているガイコツも、手にした得物を振るう手を、休めようとはしませんでした。
 サトルは、とうとうじれったいロープに業を煮やし、力まかせに、持っている工具を叩きつけました。すると、今までの強情さが嘘のように、ぱっとロープがほどけ、バシャンーッという水しぶきを上げて、救命艇が川に落ちました。
「ガッチ、もういいよ。飛び降りて――」
「よっしゃ!」
 サトルとガッチは、弾みをつけて勢いよく川に飛びこみました。そして、水の上に漂っている救命艇に、すばやく乗りこみました。
 大急ぎでオールをつかんだサトルは、川からガッチをすくい上げると、大勢のガイコツ達がくやしそうに奇声を発している幽霊船を離れ、いまだ果てのない川に、救命艇を漕ぎ出しました。



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