http://grasshopper.rhino3d.com/
ロンドン市内の大学で構造デザインというか形態生成を勉強している後輩がいて、彼はRhinocerosのPlugInであるgrasshopperというアプリケーションを使って大学の課題に取り組んでいます。ここ数週間は仕事以外の時間はその後輩と一緒にコンペをやっていました。
grasshopperとは、独立した複数の関数からなる方程式を、回路をつなぐようにして視覚的にデザインすることのできる道具だと僕は理解しているのですが、それをrhino上でカタチとして出力することで、たくさんの要求条件を同時に満たした「自然な」形態をつくることができるのではないかと期待しています。条件をたくさん見つければ見つけるほど(関数が増えるほど)その「自然さ」の精度は増していくのではないかと。
72時間以内に組み立て24時間以内に解体可能で、解体して移築された後に美術館の前庭で半永久的に使われることになるパヴィリオンのコンペ。四方を特徴的なコンテクストで囲まれた細長い敷地だったので、それぞれのコンテクストに対して持つべき表情を緩やかな曲面でひとつに統合し訪れる人にひとつながりのシークエンスを経験をしてもらうというコンセプトが浮かび、さらに複雑な形態と施工性を両立させるため、全体の形態は標準化されたコンポーネントの標準化されていない関係性で組み上げられている、という方針は早い段階で決まりました。
ひとつひとつしらみつぶしに関数に置き換えようと始めたのですが、やってみてわかったのは言葉や感覚でわかっていることを数式に置き換えることの難しさでした。ダイアグラムは書けても、最終形のスケッチさえ描けても、その線を出力するための関数が見つからず無為に時間は過ぎていき、最終的にはgrasshopperをつかったスタディは今回はあきらめました。
結局それぞれのコンテクストに対して実現してほしいいくつかのシーンを平面断面として二次元で書いて、複数の面の間の空間を自動的に曲面でつなぐというRhinoのデフォルトの機能を使ってジオメトリーをつくり、そのカタチをトライアンドエラーの手作業で手頃なサイズのコンポーネントに分解し、製作に協力する工場の設備的制約と単体の家具としての機能的要求の観点からそのコンポーネントを微調整し、再びそれを組みあげて全体のカタチをつくる、という至極まっとうな手順でデザインしました。
本来grasshopperで数学的にやろうと思っていたことを、感覚的に描いた二次元のスケッチとRhinoのブラックボックス的機能によって代替せざるを得なかったのは、こんな空間ができてほしいという結果からそれを導く方程式を探そうとしたところに問題があったのだと思います。計算式を見て答えを出すのは簡単ですが、答えの数字をみてそれがなんの計算式から出てきたかを当てるのは容易ではありません。
複数の関数を統合した方程式によってすべてが一意的に決まっていく究極的にロジカルなデザインを試そうと思っていたのですが、ある答えに対して候補となる関数は無限にあり逆算してもその方程式は一意的に決まらないという矛盾にぶち当たってしまったわけです。
grasshopperとrhinoを使った形態生成には、面白いカタチをつくることへの言い訳以上に、もっと実際的な可能性があるとはまだ思っています。でもその運用にはある種の「慣れ」が必要だと思いました。ある種の構造デザインや環境デザインのように、すでに実験等によって確かめられている関数によって建築家の描くビジュアルイメージを実現性のあるものに近似していく場合には活躍するでしょう。でもアーキテクトはどう使うことができるのかが問題です。関数とカタチの対応関係は経験則的にしか知ることができないとすれば、徹底的なリサーチによって自然界にある既存のカタチの生成原理を説き明かしそれを建築デザインでシミュレートすることがデザインの意味になるかもしれません。今まさにAA等のロンドンの大学で行われているのはこういうことなのではないでしょうか。
grasshopperは言うなれば、デザインに際してこれまで建築家の頭の中で「ひらめき」として自然と行われていたことを、手続きをビジュアルかつオープンにして三人寄れば文殊の知恵的に複数の人間で共有して進めていこうというシステムだと思います。あえてこういう解釈をしたいのは、小さな事務所(または異なる背景を持った個人)の合従連衡によってデザインを進めるための、有効な方法を見つけたいと思っているからです。