ミュンヘンなんて、どこ吹く風

ミュンヘン工科大留学、ロンドンの設計事務所HCLA勤務を経て
群馬で建築設計に携わりつつ、京都で研究に励む日々の記録

すれ違い/怪獣と制約

2007-11-28 21:05:51 | 再渡英準備
前日から群馬。学校リノベーションのときにアーティストインレジデンスのあり方についてインタビューさせていただいてから交流の続いている現代美術家のSさんの研究室を訪ねて、一時帰国のご挨拶。懐かしい地元のファミレスでしゃべってから、市の文学館で開かれる児童画展の会場チェックにも同行させてもらう。スタッフの方が用意した主役よりも目立ってしまっている過剰な飾り付けを、「意図はいいと思うんですよ」と言いながら剥ぎ取っていく。予算も人手もないのでと言いながら、船頭を欠いてお金と時間の使い方を間違えているようである。Sさんが講師をする専門学校では、学生たちは挑戦の場を求めているものの、基本的な技術の習得を重んじる厳密なカリキュラムによって課外活動は制限されているという。活動実績は重ねるも内容は省みられずに過ぎていってしまいがちな県や市の催しと、機会さえ与えられれば一生懸命報いるであろう鬱々としたエネルギー。それをカップリングできる人がいればいいのだが、すれ違っている現状はもったいないと思った。Sさんは、だから学生有志を連れて起業する計画なのだと語る。

午後は母と足利市立美術館に怪獣と美術・成田亨展を観にいった。思うまま自由に描いているものよりも、着ぐるみであることや使い回しであることなど多くの制約を背負って描かれた最初期の怪獣デザインの方がむしろいきいきとして見えた。後進たちはその怪獣デザインを継承発展したが、その始祖たるガラモンやカネゴンは怪獣であると同時にその背景に悲しみや諧謔をもつ造形作品でもあったように思う。
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最適なるもの

2007-11-27 02:02:58 | 再渡英準備
ささきむつろう先生の講演会を大学の講義室で聞いた。

僕は与条件を基に式を立てアルゴリズム的手法によりドライブされ生成されるカタチにここのところずっと興味を持ってきた(森の歩道橋、ドックランドのオフィス)。でもドライな手順のみによって生まれるものには何かが決定的に欠けているとも思う。だから佐々木先生の講演中で、「自由な曲面」とはいえそこにはデザインやプログラムによって建築家の手で設定される「初期値(イニシャルシェイプ)」があるという話は、なるほどそこはやはり建築家が負うべき部分だったのかと思った。そこを「あまり大きく飛び越えないように」構造的合理性を持たせていくのだと。

でも後半に述べられていたのは、「初期値なし」に、ある条件下における「最適解」を導くことで予測できないカタチを生成するという試みであった。磯崎氏のフィレンツェの駅舎コンペでは、フラットで巨大な屋根を支える四本の足が、部材の各部分で応力が一定になるように最適化された結果、「気持ちの悪い、不気味な」造形が生まれた。最適解、なのに美しくない。その解を求める方程式に人の感性や社会的なファクターを考慮する変数が欠けていた?あるいは、ある価値観(新しい構造合理性など)を共有することによってその最適な形態を美しく感じる新しい感性が生まれる?そもそも「美しさ」は、こなれたもの・見慣れたもの・安心して見られるものに生じるとっても主観的で保守的な感覚に過ぎない?美しさとかかっこよさに頼らずに、建築の新しさを問題提起する磯崎氏はスケールが違う。あるいは、すでに新しい感性でそれを美しいと感じているのか。

フィレンチェの計画案はフォスター案に敗れて次点となったが、その後ドバイの王族に採用され同様のデザインで中東の地で実現する予定とのこと。彼ら王族の紋章に似ているという理由で。
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ここ数週間

2007-11-23 01:15:21 | 再渡英準備
盲聾者の祭典の会場構成、学会のサステイナブルデザインモデル検討小委員会のクライメートキューブの提案、それに関連した出版準備、といったことをしている今日この頃です。今週末の盲聾者の祭典が終わるまではちょっと落ち着きません。

停滞していた再渡英のための手続きも、連日方々に国際電話した結果、ようやく軌道に乗りました。あとは所定の手続きを経ればロンドンに戻れるはずなのですが。

あとはちゃっかり鈴木研のM2ゼミに参加したりしています。ウムバオ。
Comments (2)
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熊井会

2007-11-17 23:04:50 | 再渡英準備
大学の友達を群馬でおもてなしした。グリーン牧場と伊香保温泉+僕の実家。いろんな方にお世話になって、地方に行くと人のつながりが濃いなあと再認識した。
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cubeのこと

2007-11-16 23:00:44 | 再渡英準備
学会の小委員会でクライメートキューブの発表をする。同じく継続的に委員会に参加していて設備系に進んだ同期と共同提案ということで参加させてもらっている。「Un-pure air」と題して発表させてもらった。それまで提案されていなかったタイプのアイデアということで、一枠いただけることに。来月14日に中間発表。
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現代

2007-11-10 23:37:59 | 再渡英準備
東京都現代美術館にspace for your future展を観にいった。数日前に友達のブログで読んだ「現代性について」という問いかけが頭の中でぐるぐるしている。すっと読める上にとても納得のいく共感可能な歴史観だったけど、僕の生き方を肯定するためには、それは全面的には認められるものではなかったので。たぶんほとんどそれと同じで、でももう少し自己肯定的な現代性を僕も構築するつもりだ。

いしがみじゅんやの四角い風船。重さ一トンのアルミの風船は、一日の温度変化によるヘリウムの膨張や空調の緩やかな風の流れによって、展示空間内をさまよう。ときどき常駐のスタッフがやってきて外装を一部はがし、フレームの奥に隠されたおもりをわずか160グラムずつ出し入れして高さを調節する。空調に押しやられた巨大な風船を抱えて展示室の中央に戻す。アルミの外装シートは厚さ3mmでは重すぎて浮かばず、2mmのものを求めて海外メーカーに注文したそうだ。フラーばりに計算と実験を重ねて得られた構造物なのだろうが、究極的には人の手で調節できる余裕を持たせ、それを含めて展示のパフォーマンスとしているところが心にくい。
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TDW07で面白かったもの

2007-11-09 03:30:54 | 再渡英準備
先週末、東京デザイナーズウィーク2007に行ってきました。

以下、面白かった展示の紹介。写真がなくて本当にごめんなさい。

コンテナ展より モリモト×多摩美情報芸術の「掘りすすむ/掘りあてる」
コンテナを大量の古紙で埋めつくし、それを掘りすすんでできた空洞の中に入っていく(実際は、樹脂でかたどった骨格に内側からシュレッダーされた古紙を貼り付けたらしいけど)。ピーナッツ型につままれた空間の奥に身をゆだねる。いくら掘り返しても底に触れないほど堆積されたふかふかの古紙片が心地よい。

コンテナ展より loop×多摩美環境デザインの「loop」
鏡張りの通路が段々細くなって、行き止まりだと思ったところに張られた薄い膜が、空間の奥行き感覚を麻痺させてしまう。突き当りから折り返し通路にかけて張られた一枚の薄い膜が、ところどころをつままれて空間を歪ませている。背景の白い壁と膜の前後関係が消失して、視覚的に迷子になってしまう。

100% design tokyoより Takehiro Andoのフェルトユニット「cuma」
コースター大のフェルトのユニットが、組み合わさって建築(内装材)にも家具にもなるよという提案。具体的な使い道はまだ模索中という様子だったけど。

小さな単純なモノの集積で全体が複雑にかたちづくられているもの、身近な素材を異なる様相で見せてくれるもの、簡単な操作で感覚のスイッチを切り替えてくれるもの、そういうものに心惹かれました。
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最近見たふたつの住宅

2007-11-08 23:23:28 | 再渡英準備
先週の金曜日、建築学会の企画でMぐみのSさんの自邸を見学させてもらった。こじんまりとしていて、それでいて数十人の見学者を納めてしまう、懐の大きい家だった。下から上まで空間がくるっとひとつながりになっていて、椅子なんかなくても腰掛けるところがたくさんあるのだ。グレーチングの階段には足が痛くないように丸いフェルトが置かれている。照明フード代わりののプラ段は、ちょっと突き出た釘の頭に引っ掛けてとめてある。すべてがそっけない(ように演出されている)。

北向き傾斜の崖にさして整地をせずに建っている。裏庭に出る勝手口から縁の下を覗くと、剥き出しの杭が地面から何本か突き出し、その上に鉄骨の基礎が回されているのが見える。室内での循環を重視した空調計画といい、緑地のそばに宇宙船が着陸しているような印象を受ける。実際、建てられた経緯を考えるとその通りなのだ(パヴィリオンの廃材が利用できる、景色のいい場所を探していた)。

敷地にガス管が通っていなかったので新たに引くよりはとオール電化を選んだというのも、宇宙船的だ。地下室に二台置かれた蓄熱式暖房機は、設置の際はヒーターの上にレンガを積んでふたを閉めるらしい。ハイテクを装った白いシャープな金属の箱がそんなローテクを隠している。家の中には、いたるところにオープンハウス展のときに参加したアーティストの痕跡が無造作に残っている。「本はどこに置いているんですか?」「オフィスか大学ですね。家にあるのは漫画だけです」

冷気を汲み上げるために地下室から通したダクトは、径が小さすぎてダクトの出口付近がうっすらと涼しくなっているだけだった。地下の蓄熱暖房機は使ってみたら一台でも十分だったので、もう一台を引き取ってくれる人を探している。地下のチャンバーから暖かい空気を回すために自分で廊下の床に穴をあけ始めたが、薄い床を通して伝わる熱でも十分だったので途中でやめた。工事費が足りなくて、スキップフロアの階段を日曜大工した。冗談のような本当の話がいとも陽気に語られる。

この一週間くらい前に、父の事務所を卒業して独立した元所員さんの処女作のオープンハウスに参加させてもらった。母の家の隣に建つ弟家族のための住宅で、既存の美しい白壁の蔵と並んで建っている。落ち着いた色合いの中にユーモラスな小さな仕掛けがいっぱいあって、そこかしこで饒舌なささやきが聞こえてくるようだった。受ける印象からは、家づくりの楽しさがその裏の苦労に勝っていた。

S氏邸は着工直前に減額調整を迫られて、仕上げや構成を大幅に見直さざるをえなくなったらしい。そうしたギリギリの状況での局面局面での選択がデザインなのだろう。どちらの家も床材は、くすんだこげ茶に塗装された合板だった。
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農村のスーパーシェッズ[続報]

2007-11-07 23:41:13 | 再渡英準備
質問をしたところ、現地で見学会を開いた父から回答があったので続報いきます。

○アーチのスパンについて
スパン18m+桟敷席幅が両端部に各約1間(≒1.8m)。杉材は全長15mの材を両側から張り出して荒縄で結束している。桁方向のアーチ間隔は二間(≒3.6m)で、その「七五三」倍のいずれかで組まれる。今回は最も本格的で、6年前の国民文化祭のときと同じ七スパン(計≒25m程度)とのこと。簡単に実施するときは三スパンで組まれることもある。音響効果のため舞台から後方に向かってアーチはラッパ状に開いている。筵をかぶせるだけで後方まで音が伝わるように配慮されているとのこと。

○工期について
地元の山林で材料の下調べが始まったのが6月。9月初旬に山から杉材(間伐材ではなく直径の大きな通常の材)を切り出して搬入。以降、週末の土日を使って常時30人程度のボランティアが現場に入って作業をしてきた。延べにして1200人分の労働力となるとのこと。ひとり日給一万円として1200万円分が全て地域住民のボランティア活動。三原田地区住民は全戸が伝承委員会のメンバーになっていて、180戸全世帯1家で1人勤労奉仕とのこと。その他に材料費(杉材、竹材、ムシロ、屋根用ビニール、荒縄、搬送用重機、弁当代等全ての雑費を含む)が1500万円で、これは行政からの支出とのこと。

○解体した後の材料について
イベント終了後、すぐに解体し切り刻んで燃やすとのこと。見学会でももったいないとの声が出たものの、棟梁は華の散り際と潔さとを語ったとか。

□道路側から見た図・桟敷席内観(父・提供)




身近な農具を使った透明性の高い側壁。僕が前回「繭棚」と表記していたこの農具は正確には竹蚕箔(たけさんぱく)と言うのだと訂正されました。ちなみに屋根にかぶせるシートは今回はブルーではなく透明なものを使うそうです(この写真は屋根を葺く前のものです)。



おそらく今回の話で2000年のハノーヴァー万博での坂茂+フライ・オットーによる日本館を連想された方もいるかと思います(規模は倍ですし、屋根じゃなくてドームですが)。こちらは、長さ20mの紙管を格子状に組んだ後に3週間掛けて徐々にジャッキアップして歪ませ、曲げられた紙管が曲面シェルを形づくるというものでした。二次元から三次元に変容する様子を早回し映像で見たときは感動しました。このときも確かジョイントは変位を許容するために布のテープで縛るだけだったんですよね。この紙のパヴィリオンは徹底的にリサイクルが考慮されていて、主たる構造である紙管が再利用されたのはもちろんのこと、基礎までもリサイクルしづらいコンクリートを避けて砂を詰めた木箱を使っていたとか。
Comments (3)
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