「それが善保(シャンボー)は立派な嫡男、弟も同母弟で生母は正妻ですよ」
ネズミ男がもったいぶっていう。
英廉は意外そうに相槌を打った。
「ほお。それなのになぜ」
大方、どこの家にでもある愛憎図だろうと見当をつけつつ、また思いは自分の身の上に飛んだ。
中流以上の家庭では、どこでも見られる妻妾や異母兄弟同士のいがみ合い。
英廉と母は少なくとも家庭の中では敗者の立場に置かれ、そのみじめさをいやというほど味わってきた。
そんな地獄絵図を自分の家庭で繰り広げ、自分の子供たちにみじめな思いをさせたくはない、
その強い思いから英廉は本妻以外の女性を家庭に入れることなく、この老境までを全うしてきた。
女性は自分でいくらどう望んでもその環境を作り出せないが、男性にはその選択権がある。
それを英廉は気に入っていた。
が、その遺産で今、こうしていらぬ苦労をしているのも事実である。
本妻一人しか娶らなかったため、子供が少なく、息子で成人したのは一人だけ。
その息子も若くして他界してしまったため、こうして孫娘の婿がねを物色する羽目になっているのだ。
そんな自分の現状に思いを馳せ、英廉はふと自嘲的に笑った。
ネズミ男は相変わらず脳天気に一学生の噂話に血祭りを上げている。
「気の毒なことに、兄弟の母親は下の子を生むときに産後の肥立ちが悪くて他界しておりまして、
その後に娶った後添えが、伍弥泰(ウミタイ)大人のお嬢さんでございますよ」
「伍弥泰(ウミタイ)大人というと、吏部尚書の?」
「そうですよ。」
「ほお。なかなか名門の閨閥だね。というと、善保の父親もそれに見合う出世頭だろうね」
「いえ。それほどでも。
福建副都統まで勤めたそうですが、これが数年前にぽっくり他界してしまいまして」
――ははあ。見えてきたぞ。
英廉は、挑むような目つきの粗末な身なりの少年を再び脳裏に思い浮かべた。
吏部尚書の伍弥泰(ウミタイ)が娘を嫁に入れる先として、
初婚でもない福建副都統は、どうもやや格下のような気がしないでもない。
英廉は端正な顔の色白な少年を再び思い出し、
――男前だったのかもしれぬなあ。父親も。
と、検討を働かせた。
現に自分だってあの少年に男惚れしかかっているではないか。
完成した相手に娘を嫁がせたからと言って、必ずしも幸せになるとも限らないものである。
さっきの妻妾同居の話ではないが、権力がある方が女性関係は派手になるに決まっており、
女性として幸せな結婚生活を送るのも難しくなるというものだ。
紫禁城、雨花閣。
紫禁城の中にあるチベット寺院。
一般公開はされていないが、工事中のところを通らせてもらう貴重な機会。
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ネズミ男がもったいぶっていう。
英廉は意外そうに相槌を打った。
「ほお。それなのになぜ」
大方、どこの家にでもある愛憎図だろうと見当をつけつつ、また思いは自分の身の上に飛んだ。
中流以上の家庭では、どこでも見られる妻妾や異母兄弟同士のいがみ合い。
英廉と母は少なくとも家庭の中では敗者の立場に置かれ、そのみじめさをいやというほど味わってきた。
そんな地獄絵図を自分の家庭で繰り広げ、自分の子供たちにみじめな思いをさせたくはない、
その強い思いから英廉は本妻以外の女性を家庭に入れることなく、この老境までを全うしてきた。
女性は自分でいくらどう望んでもその環境を作り出せないが、男性にはその選択権がある。
それを英廉は気に入っていた。
が、その遺産で今、こうしていらぬ苦労をしているのも事実である。
本妻一人しか娶らなかったため、子供が少なく、息子で成人したのは一人だけ。
その息子も若くして他界してしまったため、こうして孫娘の婿がねを物色する羽目になっているのだ。
そんな自分の現状に思いを馳せ、英廉はふと自嘲的に笑った。
ネズミ男は相変わらず脳天気に一学生の噂話に血祭りを上げている。
「気の毒なことに、兄弟の母親は下の子を生むときに産後の肥立ちが悪くて他界しておりまして、
その後に娶った後添えが、伍弥泰(ウミタイ)大人のお嬢さんでございますよ」
「伍弥泰(ウミタイ)大人というと、吏部尚書の?」
「そうですよ。」
「ほお。なかなか名門の閨閥だね。というと、善保の父親もそれに見合う出世頭だろうね」
「いえ。それほどでも。
福建副都統まで勤めたそうですが、これが数年前にぽっくり他界してしまいまして」
――ははあ。見えてきたぞ。
英廉は、挑むような目つきの粗末な身なりの少年を再び脳裏に思い浮かべた。
吏部尚書の伍弥泰(ウミタイ)が娘を嫁に入れる先として、
初婚でもない福建副都統は、どうもやや格下のような気がしないでもない。
英廉は端正な顔の色白な少年を再び思い出し、
――男前だったのかもしれぬなあ。父親も。
と、検討を働かせた。
現に自分だってあの少年に男惚れしかかっているではないか。
完成した相手に娘を嫁がせたからと言って、必ずしも幸せになるとも限らないものである。
さっきの妻妾同居の話ではないが、権力がある方が女性関係は派手になるに決まっており、
女性として幸せな結婚生活を送るのも難しくなるというものだ。
紫禁城、雨花閣。
紫禁城の中にあるチベット寺院。
一般公開はされていないが、工事中のところを通らせてもらう貴重な機会。
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実は子供の数について、実に興味深いデーターがあるのです。民族ごと、時代ごとに女性1人あたりの子供の数は近代までは4人〜7人の間に様々あるみたいですが、これが
<15歳までの生存率が大体90%まで上昇すると、子供の数が女性1人当たり、6~8人から急激に低下し、さらに100%程度まで上昇すると、驚くべきことに1~2人程度まで低下する> という結果があるらしいです。
https://ourworldindata.org/fertility/
このことを私は独断と偏見により人類という「種」が、
「見えざる手により、遺伝子の保存が可能になるところで、子供の数を最小限になるよう無意識に調節している」
と結論づけました。
blue.ap.teacup.com/applet/salsa2001/4715/trackback
それはなかなか面白い見方ですねー。
やはり家族が増えすぎるということは、
それだけ食い扶持の確保が大変になるということですものね。
非常に興味深いです!