原野の言霊

風が流れて木の葉が囁く。鳥たちが囀り虫が羽音を揺らす。そのすべてが言葉となって届く。本当の原野はそんなところだ。

茄子なのか、梨なのか?

2015年07月10日 10時15分19秒 | 自然/動植物
十勝にある有名なお菓子メーカーのCMを見ていた時、ちょっと驚いた。北海道でおなじみの赤い花の名前が「ハマナシ」となっていたからである。えっ!これは「ハマナス」ではなかったのか?茄子と梨ではずいぶんとイメージが違う。歳をとると、こんなどうでもいいようなことが気になる。さっそく広辞苑を広げてみる。なんとハマナシがある。そしてハマナスはハマナシの訛りであると記述されていた。どうやら、ハマナシが本当の名前のようだ。納得がいかない。さらに調べてみた。


現在ではハマナシもハマナスも併記されていて、どちらでも正しいことになっている。どこからこうした変化があったのか、については、諸説が都市伝説のように残っていた。
海岸の砂地に生息し、実の形や味が梨に似ているところから浜の梨、ハマナシとなったというのは納得できる。確かに茄子とは形が全く違う。ではなぜ?
一つ目は、日本の植物学の父と呼ばれる牧野富太郎博士によるという説がある。牧野博士が東北でこの花を見つけ地元の人に聞いた時、ハマナシという言葉がハマナスに聞こえたのが始まりというのだ。確かに東北の人の発音を考えるとこうした間違いは想像できる。博士はこの後、ハマナシが正しいと力説したという話が残っている。しかし、植物学の専門家がこうした間違いをしてそれが後世に残るというのは、あまり信じられない。伝説の一つであろうと思う。
二つ目は、北国に多くみられるこの花は東北を経由して自然に訛って、ハマナスとなったという説。これはかなり納得できる。東北弁の影響は北海道でもかなりあり、この説は説得力がある。そしてこの名前を決定づけたのが、知床旅情の歌のヒットである、という。「知床の岬に、ハマナスが咲く頃」の出だしで始まる。今は亡き森繁久弥翁が1960年に作った歌である。ハマナスが全国区になったのはここからだというのだ。歌が名前を変えるという現実はあるかもしれない。だが、この歌だけではなかったと思う。森繁翁の歌は確かにヒットしたが、この歌の大ヒットは1970年の加藤登紀子の時。実はその前に、ハマナスを歌詞とした大ヒット曲があった。1965年の映画網走番外地の主題歌である。高倉健の人気を不動のものとしたこの映画こそ、ハマナスの名前と北国北海道のイメージを決定づけた。放送禁止の歌にもかかわらず、当時で200万枚の売り上げをあげた。子供の頃、私のハマナスのイメージは確実にこの映画の歌から出来上がっていた。ハマナスの名前は森繁翁の歌詞に影響されて生まれたともいえるので、やはり知床旅情がポイントとも言える。そう考えると、知床旅情の影響力はすごい。以前のブログでも記述したが、北海道ではありえない白夜を詩に入れ、しかも正式名称の「はくや」という言葉を「びゃくや」と変えるほどの影響力があった。森繁翁に頭が下がる。
だが、こうした説に真っ向から反対する説が三つ目。茄子というのは昔から日本の伝統的な野菜。ハマナスという言葉は古くから使われていた。トマトのことを赤い茄子と言うがごとくで、貴重な食べ物であったハマナスを茄子のイメージで呼ぶことはあり得るというのだ。実際、梨を比喩した他の食べ物はない。

どの説が正しいのかは専門家ではないので分からないが、すでにハマナスが町名となったところもある。もはや、詮索の時期ではないのかもしれない。
花はハマナス、実はハマナシということで、お後がよろしいかと。

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