A DAY IN THE LIFE

好きなゴルフと古いLPやCDの棚卸しをしながらのJAZZの話題を中心に。

アートペッパーの復活はビッグバンドから?・・・・・

2015-04-17 | MY FAVORITE ALBUM
Evil-Eyes / Mike Vax Big Band featuring Art Pepper

先日、岸義和ビッグバンドのライブへ行った。毎回このライブは「ハリージェイムス&レイアンソニー」とタイトルされているが、ベイシーやハーマンのナンバーなども加えてスインギーな演奏を聴かせてくれる。メンバーはベテラン中心だが、他のバンド同様最近では若手の姿もちらほら。その中でセクションの要、リードアルトは近藤淳であった。木幡光邦 & 923 BIG BANDでもリードアルトで登場することが多いが、宝塚の仕事をメインにしているようであまりライブで聴く機会は多くは無い。

ビッグバンドの楽しみは色々あるが、ひとつはリードアルトをフィーチャーしたショーケース。バラード物をどう料理するかが聴き所だ。セクションの要としてのアンサンブルワークだけでなく、ここはそのバンドの看板リードアルトとして、ソリストの腕の見せ所である。こればかりは、若手の巧者といえどもなかなかベテランの貫禄には及ばないものだ。

この日は1部2部で一曲ずつ。どちらもクインシーナンバーでThe GypsyThe Quintessenceを披露。オリジナルではどちらもフィルウッズをフィーチャーした曲。近藤さんにとってはどちらかがその日が初見であったそうだが。さすがにどちらもファンを魅了する素晴らしい演奏であった。

アルトの名手であるアートペッパーも経歴を辿るとスタンケントンオーケストラの出身。若い頃からビッグバンドの中で将来の活躍を予見させるプレーを聴かせてくれた。そして、有名になってからもマティーペイチなどのアレンジの中でも際立ったプレーが聴ける。有名な「踊り子」とか「プラスイレブン」などは自分の愛聴盤である。

アートペッパーの活動歴は長く感じるが、実は麻薬の療養期間が長く実際に活動した期間は短い。特に本来であれば一番の働き盛りである40代の65年から最後の本格的な復帰の75年までは10年近くのブランクがある。実はその間何回か現役復帰を試みていた。その間アルバムとして残されている68年のバディーリッチオーケストラへの復帰が話題となった。

このリッチが新たに編成したビッグバンドは若者にもアピールし、人気が出てきた時のリードアルトとしての参加であった。若手中心のメンバーであったが、その中で重鎮としての復帰であった。従来のスインギーな4ビートだけでなく、8ビートのドライブのかかったアンサンブルも引っ張っていた。このペッパーの加わったバディリッチのアルバムが、「マーシーマーシーマーシー」であるが、その中もアートペッパーを大きくフィーチャーした曲が一曲ある。当時ヒットした「アルフィー」であった。

しかし、このペッパーの復帰は一時のもので、再び長い療養所生活に戻ることになる。そこでは一時ミュージシャンとしての生活を諦め、楽器も手放したという。そして、足かけ7年の歳月を経て75年の本格的なリーダーアルバムでの復帰になる訳だが、その長い療養生活から復帰に向けては前哨戦があった。その一つのステップがこのアルバムへの参加となる。

昔から本格的なジャズミュージシャンになるための一つのステップがビッグバンドへの参加であった。特に、スタンケントン、ウディーハーマンの両バンドは若手の憧れの的であった。そして、そこへの参加が一つの勲章となって、次のステップへのパスポートのようなものであった。それは時代が代わって70年代においても変るものではなかった。

このアルバムのリーダー、Mike Vaxもその一人であった。
1970年に目出度くスタンケントンオーケストラの一員となった。レコーディングにも参加できた。すると次なる夢は自分のビッグバンドを持つことになる。更には、そのバンドのアルバムを作ることに・・・夢はどんどん広がっていく。
そして、このアルバムが誕生することで、短期間でその夢も実現することになる。世の中勝ち運に恵まれている人間というのは、動き出すとすべてが上手く転がり出すものだ。

そして、この初アルバムには更なるプレゼントが加わる。療養中で復帰を願っていたアートペッパーのゲスト参加だ。バックスとペッパーは1973年のアメリカンカレッジジャズフェスティバルでたまたま一緒にプレーしたのが出会いという。ケントンオーケストラを辞めた後、楽器メーカーコーンのクリニックとして学生バンドの面倒をみていたVaxであったが、この出会いも偶然だったと思う。
その出会いがきっかけで、バックスのバンドにペッパーがゲスト参加することになり、このアルバムもさらに価値あるものになった。

バンド全体のサウンドは、この時代の流行であったジャズロック風の色合い強い曲もあるが、ケントンオーケストラに根差した伝統的なサウンドである。
そして、ゲストのペッパーをフィーチャーしたショーケースがこのアルバムにも含まれている。バックスとのソロの掛け合いもあるが、スタンダードのShadow of your smileでのペッパーのバラードプレーだ。ここで復帰途上のペッパーのプレーがじっくり聴ける。この時すでに以前と較べてスローであっても荒々しさを感じるのが印象的だ。

このVaxだが、その後自らのビッグバンドを率いる他、ケントンオーケストラの卒業生コンサートを開催したり、ケントンのレガシーオーケストラを編成しツアーをやったり、さらにはFriends of Big Band JazzというNPOを設立しビッグバンドジャズの伝承と教育に力を注いでいるようだ。
その後の活躍も、このファーストアルバムが出発点とすると、アートペッパーとの出会いと共演も大きな意味があったように思う。結果的にペッパーも2年後の本格的な復帰の可能性を試す試金石でもあった。




1. Evil Eyes
2. If Is Anything Still There
3. Passage West
4. Joe's Inn
5. The Shadow Of Your Smile
6. Beginnings
7. West Side Story Medley

Art Pepper (as)
Mike Vax (tp,flh)

Jim Schrich (tp,flh)
Fred Berry (tp,flh)
Bill Main (tp,flh)
Dave Candia (tp,flh)
Warren Gale (tp,flh)
Bill Robinson (tb)
Dean Hubbard (tb)
Phil Zahorsky (tb)
Jed Rodriguey (btb)
Nick TenBroek (btb)
Jim Rothermei (as,fl)
KIm Frizell (as,fl)
Lioyd Rice (ts,fl)
Gerry Gilmore (ts,fl)
Dave Luell (bs)
Si Perkoff (p)
Mario Suraci (eb)
John Rae (ds,per)
Gary Nash (ds,er)

Produced by Bob Ciunow, Gabby Garcia, Mike Vax
Engineer : Pete Romano
Recorded at CBS Recording Studio, San Francisco, California on July 6 & 7,1973

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