大木昌の雑記帳

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甘利経済再生相辞任の本質(2)―秘書の口利き 生々しい録音テープとメモ―

2016-02-27 04:58:17 | 政治
甘利経済再生相辞任の本質(2)―秘書の口利き 生々しい録音テープとメモ―

前回のブログ記事(1月29日)に続いて、甘利氏辞任の本質に迫りたいと思います。

その前に、28日の甘利氏の釈明・辞任会見の趣旨を要約すると次のようなことになります。

まず、甘利氏は、①自身が、千葉の建設会社の総務担当(一色武氏)から100万円をを受け取り、それは”適正に処理されたこと”を認め、
また、②彼の元秘書が別途600万円受け取ったが、うち300万円を私的に流用したうえ、元秘書は繰り返し一色氏より接待を受けていた
ことを認め、③その監督責任を取る、との理由で経済再生大臣を辞任する、というものです。

ただし、自身についても、秘書についても、都市再生機構(以下UR)への「口利き」の報酬として金銭を受け取っていたこと(これは明確に
賄賂です)は、決して認めませんでした。

世間には、甘利氏の辞任を“潔い”と感ずる人もいて、大物政治家のスキャンダルとしては、ダメージを最小に抑えることができた、という
評価もあります。

では、甘利氏には全く問題はなく、元秘書の不祥事だけの問題なのでしょうか?

甘利氏及び自民党は、この記者会見をもってこの件について幕を引きたいと考えているでしょうが、なかなかそうはゆかないようです。

というのも、甘利氏の元秘書とURとの、金銭の問題を含む生々しいやり取りを録音したテープとメモが、建設会社の一色氏から民主党に
提出され、その一部が2回にわたって明らかにされたからです。

一色氏は、これまで渡された現金は、甘利氏事務所の元秘書に「口利き」をしてもらった謝礼であると、はっきり証言しています。

まず、今年2月15日に明らかにされたのは、甘利氏の元秘書が昨年11月2日、神奈川県大和市の喫茶店で一色氏に語ったとされる録音
テープの内容です。
   
   元秘書:だいたい、そしたらかっこ書きでもいいです。でも、一応、推定20億かかりますとか、かかると聞いておりますとか、そういう
       なんか言葉にしてほしいんですね。あっちの言い分も明確なあれがないって話だったんで、明確にしなきゃだめですよね。もし
       かしたら実際の金額について細かいとこまで絡めないですよ。こういうところは今だったらぎりぎり絡めるんで。

一見しただけでは分かりにくい部分もありますが、元秘書は、一色氏が具体的な金額、たとえば20億円、を言葉に出してくれれば、それで
URと交渉できる(絡める)と、言っているのです。

つまり元秘書側は、はっきりと、この補償交渉に積極的に関与したことが、この会話から裏付けられます(『東京新聞』2016年2月16日)。 

次に、16日午前の衆議院予算委員会で、民主党の大串博志議員により、甘利氏の元秘書が、建設会社の一色氏に、高級車の「レクサス」
(300万円から1300万円もする)を要求していた会話のテープの内容が明らかにされました(注1)。

   一色:これでURのほうがまとまっちゃうと思うんで、xxさん(元秘書)が レクサスでしたっけ。
  元秘書:いいんですいいんです。あいつは悪いから変なことばっか言うからね。
   一色:いやいや全然。
  元秘書:たぶん社長(*)に言われ慣れてるからちょっとやそっとのことで失礼だと思わない。
  元秘書:一色さんが「レクサス何色がいいか」って聞いているよって。
(*)ここでの「社長」とは誰を指すのかは不明。『朝日新聞 デジタル版』では、はっきりと「社長」と文字起こししている。
       可能性としては甘利事務所の「所長」(公設秘書」か甘利大臣が考えられる。  
      

2月23日の『テレビ朝日』の「ニュースステーション」のスタッフが一色氏と行ったインタビューの内容、及び、民主党が2月23日公開した新
たな録音テープの音声が放映されました。

それは、一色氏が甘利氏の元秘書にお金を渡し、URの件で口利きを依頼した時(2015年9月)の会話です。

  元秘書:もう一回国交省ルートでっていう話で。現場レベルの人間を紹介しろと、っていう話をさせるのと・・。
      (この時、一色氏が現金を渡そうとする)   
   一色:いやいやそんな所長*、受け取ってください。何か私、気持ち悪いんで。
  元秘書:いやいや、でもね・・・。
    一色:私のほうがちょっと、順序ずれちゃって。
  元秘書:いえいえ。
   一色:よろしくお願いします。いろいろ経費かかると思いますが、URの件で、なにとぞよろしくお願いします。
  元秘書:頑張ります。
                *甘利氏事務所の所長、元甘利氏の公設秘書

元秘書は、「いやいや でもね」と現金(15万円)の受け取りを拒むような素振りを見せつつ、「URの件で、なにとぞよろしくお願いします」と
いう依頼に対して、「頑張ります」と応えています。

これは、典型的な金銭の授受をともなう「口利き」の依頼と受諾で、「あっせん利得処罰法」に抵触する可能性が極めて大です。

2月25日に民主党が一色氏より提供を受けた音声テープから、さらに、なまなましい会話を公表しています。それは、昨年10月9日、甘利
氏の秘書がURの本社で担当者に「顔を立ててもらえないか」と語ったこと、またこれを受けて一色氏に『俺たちの顔立てるっつったよな』っ
たから」などと話したという。つまり、甘利氏秘書は一色氏に、自分たちがURに圧力をかけていたことを、述べ恩に着せているのです(『東
京新聞』2016年2月26日)。

以上は、一色氏と元秘書とのやり取りですが、甘利氏本人とどのような会話があったのかについても、インタビューで聞いています。

一色氏は、大臣室で甘利氏を交えた写真を示しつつ、甘利氏にはURとの交渉の経緯を説明したうえで、50万円入りの「白い封筒」(甘利
氏がが言うように、「のし袋」ではないと断言しています)現金を渡したこと、甘利氏は現金受け取りの前に、UR関係のファイルを持って行
っているので、このお金がURとの交渉に対する謝礼であることは、甘利氏も十分、分かっていたはずだ、と言っています。

これからも、いろいろな証言や証拠が出てくる可能性はありますが、以下に。もう少し全体的な構図から、今回の問題に関して整理してお
きたいと思います。

第一に、千葉の建設会社がURに要求した補償に関して、当初URの解答はゼロでした。それが、甘利氏の秘書が介入すると、2012年5月
に1600万円、翌13年には2億2000万円、15年3月には5100万円、計2億8700億円が建設会社に払われています。

しかも、2億2000万円が支払われたその日に、建設会社から甘利氏の秘書に500万円が渡されています。

この間の詳しい経緯については、『朝日新聞』は最近、一色氏にインタビューをし、今年2月25日のデジタル版で伝えています。

一色氏によると、道路建設をめぐる千葉県の建設会社とURの交渉について、甘利氏側に初めて相談したのは2013年5月9日。

6月に甘利氏側がUR本社を訪ねた直後、UR側から補償金約1億8千万円の提示を受けた。

さらに2千万円ずつ2度の増額を経て、8月6日に約2億2千万円で契約したという。この間、一色氏側はURに対して「もう少し何とかならない
か」と増額を求めていたという。

一色氏はこのころ、元秘書から「大臣は(URの)廃止論者だ」と説明を受け、その後も数回強調されたという。甘利氏は麻生内閣時代の08年
9月から約1年間、行政改革担当大臣を務め、URなど独立行政法人の統廃合や合理化を進めていた。
 
一色氏は「URはずっと『一切補償なし』と言っていたのに、秘書の面談後に交渉が動いた。増額要求にもすぐに応じてくれた」と振り返った。

また一色氏は14年2月ごろ、甘利氏の地元事務所や居酒屋で元秘書から、約2億2千万円の補償金について甘利氏に報告したことを聞かさ
れたという。

元秘書はその際、「大臣から『なんでもっと(増額)しなかったんだ』と言われた」と証言しています。いずれも元秘書の発言の録音やメモが存在
している、と述べています(注4)。もし本当なら甘利大臣の関与が濃厚です。

第二に、甘利氏は1月の釈明・辞任会見で、この件に関して(以下の「第三者のものと別に)調査をし、その結果を報告すると言いながら、現在
まで報告がありません。

第三に、野党から再三の要求にもかかわらず甘利氏は国会での証人喚問に応じていないどころか、国会にすら顔を出していません。

その理由は、自民党によれば「睡眠障害」のため、1か月の休養を要す、という診断書が出ている、とのことです。もうそろそろ1か月が経ちます
が、一向に表に出てくる気配はありません。

なお、今回の件に関してもっとも深く関与した元公設秘書は、家族ともども家にはおらず、所在は不明です。

第四に、この件に関して東京地検特捜部は操作に乗り出す、との報道が何度かなされましたが、動いている兆候はありません。

これは、小沢一郎氏に対する過去の執拗に裁判にかけ、結局は無罪となった事例と際立った違いです。

第五は、甘利氏が1月28日と30日の記者会見で言及した、第三者による調査結果そのものに関する疑惑です。弁護士で関西大学客員教授の
郷原信郎氏は、『甘利氏疑惑調査の「もと特装弁護士」は、本当に存在するのか』(注3)という記事で、数々の疑問を提出しています。

甘利氏の記者会見での説明において最大の拠り所とされたのが、「元特捜検事の弁護士による調査」でしたが、その弁護士が一体どこの誰なの
か、甘利氏は、一切明らかにしませんでした。

甘利氏は「特捜OBの第三者の弁護士」が元秘書からの聴取等による調査した結果として、「S社総務担当者からURとの間の補償に関する陳情が
あった」「URに行って話合いの進捗状況について確認した」「URに行って現状について教えてもらった」「秘書が金額交渉等に介入したことはない」
などと説明しました。

しかし、元秘書が露骨に金額交渉に介入したことは、録音された音声からほぼ明らかです。しかも、この弁護士はUR側にも事情聴取をしたことにな
っていますが、UR側は、そのようなことはなかったと証言しています。

つまり、この「弁護士による調査」そのものの信ぴょう性が問われているのです。

以上みたように、今回の甘利氏疑惑には、解明されていない問題がまだまだたくさんあります。これは、他の自民党議員の失言や不倫問題などと
共に、自民党に対してボディーブローのように効いてくると思われます。

(注1)朝日新聞デジタル で音声が聞ける 2016.2.16日
    http://www.asahi.com/articles/ASJ2J61NDJ2JUTIL059.html
    『産経新聞 デジタル』(2016年2月16日)
   http://www.sankei.com/politics/news/160216/plt1602160016-n1.html
(注2)この内容については「ニュースステーション」の他に、http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2710141.html
    また https://www.youtube.com/watch?v=JvWskqPuDU4 でも見ることができます2016年2月23日参照。
    『毎日新聞 電子版』(2016年2月24日) http://mainichi.jp/articles/20160224/k00/00m/040/030000c?fm=mnm
(3) 初出は郷原氏のホームページの2016年2月16日の記事で、Haffingtonpostが19日に引用したもの。
    https://nobuogohara.wordpress.com/2016/02/16/http://www.huffing tonpost.jp/nobuo-gohara/akira-amari_b_9269594.html
(注4)『朝日新聞 デジタル』(2016年2月25日)http://www.asahi.com/articles/ASJ2S5VL4J2SUTIL042.html?ref=nmail
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