大木昌の雑記帳

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日馬富士の暴力事件―疑問だらけの相撲協会とメディア報道―

2017-12-31 11:17:42 | 社会
日馬富士の暴力事件―疑問だらけの相撲協会とメディア報道―

10月25日から26日にかけて生じた、日馬富士の貴の岩に対する暴力事件と、その後の相撲協会側の対応
には多くの疑問があります。

その疑問について考える前に、私たちが、日馬富士の暴力事件を知る際の情報源にかんして、頭に入れておか
なければならないことがあります。

それは、新聞とテレビ(ワイドショーも含めて)という大手メディアははっきりと相撲協会擁護にで、週刊誌
(特に、『週刊新潮』、『週刊文春』『FLASH』など)に貴乃花・貴の岩側に立っている、という全く反対の
報道していることです。なぜでしょうか?

月刊『創』編集長の篠田博之によれば、週刊誌は
    白鵬や相撲協会批判のキャンペーンを張っていくのだが、新聞・テレビはその見方に触れることもで
    きない。相撲協会が否定していることを報道していけば、協会への取材ができなくなる恐れがあるか
    らだ。過去、『週刊ポスト』『週刊現代』そして今回の『週刊新潮』『週刊文春』と、八百長問題を
    追及してきたのはもっぱら週刊誌で、新聞・テレビは黙殺してきた。記者クラブメディアと週刊誌と
    の対立という構図だ。

少し補足すると、相撲に関するメディアの取材は、相撲協会の公式の記者会見の場と、力士や関係者への個別
的な取材とがあります。

記者会見は、相撲協会に認められて記者クラブに参加しているメディア(大手新聞やテレビ局)の代表だけが
参加できる取材の場です。

したがって、協会が否定していることを報道すれば、以後、記者クラブから排除されて記者会見での取材がで
きなくなる可能性があります。

これに対して週刊誌はこの記者クラブには参加させてもらっていないの、協会側を自由に批判できる、という
わけです。

以上の背景を理解すると、現在報道されているテレビ・新聞と週刊誌の内容がまったくことなる理由がわかる
と同時に、今回の問題の景色がまったく異なって見えてきます。

さて、この問題に関するテレビ報道は、もっぱら貴乃花親方の処罰がどうなる、という方向に話題の焦点を誘
導して、暴行事件そのものの事実関係や背後関係から眼をそらせているように思えます。

それでは、冷静に「暴力事件」そのものを振り返ってみましょう。

事件は10月25~26日の深夜に起こりました。

テレビの報道では、日馬富士の言い分をそのまま垂れ流してきました。それは、大横綱の白鵬が説教をしてい
る時に携帯をいじっていることが許せなくて、日馬富士が貴の岩を始めは素手で、途中から物(これは、最終
的にカラオケ用のリモコンであるとされましたが)をもって頭を殴って傷を負わせた、というものです。

素手でなぐったのは、日馬富士は15~16回と言い、貴の岩はもっと殴られたと言っています。

いずれにしても、ここで重要な問題は、その横には白鵬と鶴竜という二人の横綱がいたのに、貴の岩の頭から
血が出るまで止めなかった、という事実です。

つまり、少なくとも、この場でもっとも影響力がある白鵬は、日馬富士が暴力を振るうのを是認して放置した
のです。

この構図を一般社会に移し替えてみると、強い立場の人間が弱い立場の人物に暴力をふるい、それを直ちに止
めるのではなく、しばらく放置していたら、それは立派な集団リンチです。

例えて言えば、中学生や高校生などの集団暴行で時々起こるパターンと似ています。誰かを呼び出して、一人
が呼び出された物に暴力を振るう。しばらくして、血が出たり苦しがったりしたので、その場のボスが、その
へんで止めとけ、といったその構造とそっくりです。

法律的に言えば、実際に暴力を振るった者と、それをそばで見ていて放置した者とは同罪であってもおかしく
はないのです。

もうひとつ、私が気になるのは、日馬富士がなぜ、このように執拗に殴ったのかの理由として、貴の岩が自分
を睨み返したから、と言っています。

しかし、貴の岩は、ただ見ていただけ、と後に証言しています。それを日馬富士は勝手に、反抗的に睨み返し
たと思い込み、暴力をふるい続けた、と説明しています。

日馬富士は、ただ見ただけでも、「ガンをつけた」といって因縁をつける類の人間にみえないだろうか。

この時、貴の岩は、ただ暴力を振るう日馬富士をみていただけで、睨み返してなどいなかった、と証言して
います。

そして、その時の心境を貴の岩は、なぜ自分は一般の人もいる中でこんな仕打ちを振るわれなければならな
いのか、誰か止めてくれないか、と思っていたという。

白鵬・鶴竜・日馬富に囲まれて、一方的に殴られた貴の岩の状況をよーく想像してみてください。

私が個人的に許せないのは、12月20日の危機委員会の会合の後の記者会見で高野利雄委員長(元名古屋
高検検事長)は、「もし、貴の岩が謝っていたらこういうことにはならなかったかもしれない」と、とんで
もない発言をしました。

これは、殴られた方が悪いんだ、という、高検検事長までやった人物の発言とは到底思えません。

この発言に対しても、テレビ・新聞はまったく批判することなく素通りしています。これが現実です。

つまり、相撲協会=危機管理委員会は白鵬を守り、貴の岩=貴乃花を悪者にしようとする構図がはっ
きり見てとれます。

それにしても不可解なことがまだまだあります。三つだけ挙げておきましょう。

まず、相撲協会が日馬富士の暴行事件を知ったのは、11月初めでした。しかし、11月場所最中の14
日にスポーツ紙が暴露するまで、協会はそれまで事件を隠蔽し続けました。

さらに問題なのは、事件を知った上で、日馬富士を土俵に上げたことです。スポーツ紙で事件が発覚して
初めて、師匠に通して引退を促したのです。

最後に、白鵬の処罰が1か月半の給与無し、でした。その理由は、日馬富士の暴力を止めることができな
かった
、というものでした。

しかし、正しくは「止めようとしなかった」と言うべきです。そうであれば、白鵬も日馬富士と同罪になってしまうので、協会が白鵬を守ったということでしょう。

(注1)12/25(月) 20:24 『Yahoo ニュース』 (デジタル)
https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20171225-00079721

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鳩山由紀夫著『脱 大日本主義』への道(2)―対米従属の下で大国主義を目指す―

2017-12-17 08:26:14 | 国際問題
鳩山由紀夫著『脱 大日本主義』への道(2)―対米従属の下で大国主義を目指す―

前回は、本書の第一章、アメリカから日本が「アメリカの保護国」、つまり、平たく言えば「従属国」とみられているという、
鳩山氏の憂鬱な現状認識で終わりました。

続く第二章は「自立と共生への道―対米従属からの脱出」です。

では、対米従属から脱して自立と共生へはどのようにして達成される、と鳩山氏は考えているのでしょうか?

鳩山氏は現在の日本をアメリカの従属国家と位置付けており、その現実は沖縄に誰の目にも明らかな形で可視化されている、
としています。

それは、日本国土の0.3%の沖縄に米軍基地全体の70%強が集中しており、島の大きな部分を基地に取られているだけ
でなく、飛行場を離着陸する航空機雄の出す騒音や墜落の危険性、米兵による犯罪などの負担が住民に押し付けられている、
という現実にはっきりと現れています。

鳩山氏は、沖縄に限らず日本にある米軍基地は日米戦争の結果に基づく米国の既得権益として今日まで継続している、と言
えと述べています。

数年前、広島を訪れたアメリカの映画監督は、基地の中でも沖縄をアメリカは「戦利品」と考えている、と述べましたが、
実態としてはそのとおりだと思われます。

鳩山氏は、日本にこれだけの米軍基地が必要なのかはきわめて疑問だと言う。

というのも、「日米安保ガイドラインにより、日本の防衛は自衛隊がもっぱら当たることになっており、そのための能力も
(日本は)備えています。在日米軍は日本の防衛のために存在しているというより、米軍の世界戦略のために存在している」
からです。

鳩山氏は、周辺諸国に対する外交能力を高めることで、地域の緊張を緩和することができ、それによって、常時駐留なき安保
は米国との従属関係を弱める第一歩、つまり自立への第一歩となる、と考えています。

さらに、段階的に米軍基地の縮減を進め、最終的には米軍の日本からの完全撤退を目指すべきだと主張しています。

一国の領土に他国の軍隊が常駐する以上は完全な独立国とはいえない、だからどんなに時間をかけてもこの最終目標を達成さ
せる意思を持ち続けなければならない。これが、鳩山氏の一貫した立場です。

現在では少し考えにくいのですが、昭和44年(1969年)に出された「わが国の外交政策大綱」には、当時の外務省幹部
官僚の間に、日米安保体制に依りつつも、政治大国にむけて自立の機会をうかがう強い自立志向があったことがうかがえます。

朝鮮半島情勢についても触れているので少し長くなりますが、重要部分を引用しておきます。

当面現行の日米安保条約を継続(するが)・・・・わが国世論の動向は、基本的にはわが国国土における米国軍の顕在的
なプレゼンスを希望しない方向に向かうと予想される。(そこで)、・・・核抑止力及び西太平洋における大規模の機動
的海空攻撃力及び補給力のみを米国に依存し、他は原則としてわが自衛力をもってことに当たることを目途(とし)・・
・朝鮮半島を中心とする極東の安全については・・・若干の限定された重要基地施設を米軍へ提供するにとどめ・・・在日
米軍基地は逐次縮小・整理する・・・。(83ページ)

その後、核保有国となった中国の脅威を、田中角栄内閣は、日中国交正常化を成し遂げ、中国の核の脅威を心配する声はほぼ
無くなり、日本の核武装論も影を潜めました。

しかし、安倍内閣になって、中国の南シナ海への進出、尖閣列島周辺の中国船の航行、軍事費の増大などにより、再び中国脅威
論が高まり、自主・独立論的姿勢は急速に消えてしまい、ますます日米同盟の強化という名目で米国依存を強めつつ、日本も軍
備の増強にひた走ってゆきます。

安倍政権は2013年12月、「国家安全保障戦略」を閣議決定しました。これは、昭和32年の「国防の基本方針」に代わるもの
とされています。

「国防の基本方針」は、わずか8行の短い文章で、国連の活動を支持、国際間の協調をはかり、世界平和を実現するとの方針の
下、「外部からの侵略に対しては将来国際連合が有効にこれを阻止する機能を果たし得るにいたるまでは、米国との安全保障体
制を基調としてこれに対処する」というもので、あくまでも国連中心の国防方針でした。

ところが、平成25年(2013年)にまとめられた「国家安全保障戦略」の基本は、「国際協調主義に基づく積極的平和主義」と
表現されています。

「国際協調主義」というから、やはり国連など多国間との強調を意味するのかと思うと、そうではなく、それは米国との協調で
あり、積極的平和主義とは、米国の世界戦略に協力して積極的に行動する、という意味のようです。

それは、「国家安全保障の目標」の項で、「抑止力の強化」「日米同盟の強化」を挙げていることからもわかります。

さらに、「安全保障上の課題」として、「中国の急速な台頭と様々な領域への積極的進出」として、中国を名指して警戒感を表
明しています。

そして「戦略的アプローチ」の項で、「自由、民主主義、女性の権利を含む基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値を
共有する国々との連帯を通じてグローバルな課題に貢献する外交を展開する」と戦略を示しています。

つまり、この「国家安全保障戦略」は、社会主義・共産主義は普遍的価値を共有しないので、連帯せず、アメリカをはじめ価値
観を共有する国(資本主義国)と連帯して中国の軍事的台頭に対抗する、中国包囲網を作ることのようです。

鳩山氏は、安倍首相は「中国嫌い外交」を基調としていると受け取られおり、外交方針の全てが中国牽制の観点から発想されす
ぎている、と危惧しています。

安倍首相の発想には、中国の軍事費の増加があるようですが、GNP非でみると、2015年の軍事費は1.3パーセント(日本は1%)
で、それほど大きくない。

それどころか、今年の11月のAPEC会議、続くASEAN会議において、安倍首相は、南シナ海への中国の進出にたいして東
南アジア諸国がこぞって非難をするよう期待しましたが、これは全くの当てが外れ、中国非難の声は聞かれませんでした。

鳩山氏は、ASEAN諸国は2002年に「南シナ海行動規範」を取り交わしており、この海域は「共通の庭」認識されていた、つま
りアセアンと中国とはすでに中国と一体化していたのです。

安倍首相が中国封じ込めで頼りにしているのはアメリカですが、アメリカは経済的にも中国なしには成り立たない構造となってお
り、政治・軍事的にも中国と対立する気は全くないことがはっきりしています。尖閣列島問題にも、アメリカは関わりたくないと
いうのが本音なのです。

こうして、安倍首相の、中国脅威論、それに基づく「中国封じ込め」は、アジア、ヨーロッパも含めて今日の世界で共感を呼ぶこ
とはない状況にあります。

安倍首相は、中国の軍事費の増大を脅威に感じているようですが、だからと言って、中国と軍事力の拡大競争を展開するのは不可
能だし無意味です。

というのも、中国の軍事費は17兆円もあるのに対して日本のそれは5兆円ほどです。中国と軍事力で対等に張り合おうとすれば、
日本の財政は破綻してしまいます。

日本は、東南アジアからも韓国、中国、台湾など東アジア諸国からも孤立していますが、国際社会の中でも孤立を深めているよう
に見えます。

アメリカ同様に北朝鮮の核とミサイル開発についても、「最高度の圧力」に同調する首脳は、現在では安倍首相の他にいません。
世界の趨勢は、対話による解決なのです。

しかも、トランプ大統領は、「北の脅威」を口実に、日本に高額の兵器(ミサイル迎撃システム)の売り込みにまんまと成功して
います。

鳩山氏は、日本の、とりわけ安倍政権は、「日米同盟を強化しつつ政治大国を目指す」「対米従属のもとで常任理事国を目指す」、
という路線を取っていますが、今や、その矛盾が拡大し、すでに破たんしていることが明らかになっている、と結論しています。

日本が、その経済力とアメリカの軍事力を頼って中国を封じ込めようとしても、それは無理です。日本の貿易構造をみると、1980
年代の対中輸出は3%&ほどでしたが、今は20%に激増しているのに対して、対米輸出は、同期に40%から12%に激減して
います。

日本の経済は中国の成長に依存してきたのが実態で、「中国封じ込め」をすればブーメランのように、日本を苦しめることになる
のです。

さらに言えば、日本のアジア全体(東南アジア ASEANと東アジア)への輸出は54%を占めており、事実上、日本とアジア
とは「運命共同体」となっているのです。

先に書いたように、ASEANも東アジアは共に中国と一体化しているし、実は、日本も中国抜きには成り立ちません。

このような状況の下で、中国の脅威に対抗するために日本だけが「中国封じ込め」を画策しても、それは成功しないどころか、ま
すます孤立を深める結果に終わってしまうことが目に見えています。

鳩山氏は、日本が進むべき方向は、アメリカの軍事力を背景に「中国封じ込め」を追求し、アジアの覇権を確立する「大日本主義」
を捨てて、自立した「中規模国家」を目指すべきである、と提唱しています。

次回は、この自立した「中規模国家」がどのようなものかを検討してみたいと思います。


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鳩山由紀夫著『脱 大日本主義』―日本はアメリカの「保護国」?―

2017-12-10 10:33:25 | 政治
鳩山由紀夫著『脱 大日本主義』への道(1)―日本はアメリカの「保護国」?―

今回は、鳩山由紀夫著『脱 大日本主義―「成熟時代」の国のかたち』(2017年6月 平凡社新書 846、221+15ページ)
を紹介しつつ、これからの日本がどのような国家像を描くべきかを考えます。

本書は、新書という形をとってはいますが、記述は非常に緻密で論理的にも現実的にも説得力があり、内容の濃い一書となっています。

このため、要点を整理・紹介するだけでも多くの文章を必要とします。

さて、鳩山由紀夫氏(以下、たんに「鳩山」と略記する)は1947年2月11日 東京生まれ。今年満70才。祖父鳩山一郎は首相にもな
った政治家、父の威一朗は大蔵官僚から参議院議員となった政治家、母安子は、(株)ブリジストンの創業者石橋正二の娘という、名実
ともにエリート家系出身です。

由紀夫自身は、政治家を目指す人たちが法学部や経済学部ではなく、東京大学の理工学部出身でスタンフォード大学に留学し工学博士号
を取得しています。

政治家としての経歴は、1986年に初めて自民党から立候補(父の地盤の北海道)し当選。1993年には新党さきがけに加わるも、1996年に
離党し民主党を立ち上げました。

2009年の総選挙で民主党が圧勝し内閣総理大臣となりましたが、翌2010年に辞任。2012年には政界を引退しました。

2013年、財団法人東アジア共同体研究所を設立し、理事長に就任し、2016年にはアジアインフラ投資銀行(AIID)国際諮問委員会委員に
就任しました。

由紀夫という人物は、近年の日本の政治家の中でも、他に類をみないユニークな存在でした。私人となった今日でも、時として周囲の人
からみると、唐突で常識を超えた言動をして周囲を驚かせ、「宇宙人」と呼ばれることもあります。

日本政府がアメリカに気を使って参加を見合わせているAIIDの諮問委員になったり、政府の中止要請を振り切ってロシアン併合されたク
リミアを訪問するなど、「宇宙人」の面目躍如です。

さて、今回、を取り上げたのは、ますます混迷する日本の政治経済状況にたいして、私たちはどんな国家像を描いたら良いかを考える上
で、本書は非常に示唆に富む指摘と提言をしており、私自身も多くの点で同感できたからです。

本書の全体をとおして鳩山氏が言いたかったことは、「大日本主義」(大国主義)を捨てて、リージョナリズムを基盤とした「中日本主
義」を貫くべきだ、という提言です。

言い換えるとそれは、「脱 大日本主義」「中規模国家」「成熟国家」への転換のススメです。

ここで「リージョナリズム」(文字通りの意味は「地域主義」)とは、具体的には東アジア(日本、中国、韓国、台湾、ASEAN)という
地域をベースにした地域経済統合を意味しています。

以上に示した鳩山氏の問題意識を念頭において、本の内容をもう少し具体的にみてみよう。

第一章のタイトルは「大日本主義の幻想―グローバリズムと日本政治―」です。その冒頭で由紀夫は、自らの政治行動の羅針盤としてい
るのは、祖父一郎が政治思想として行き着いた、フランス革命のスローガン「自由、平等、友愛(博愛)」の中の友愛である、と述べて
います。

由紀夫は、冷戦後の世界と日本で起こっている政治状況を、ナショナリズムとポピュリズムの「異常」な拡張期であると認識しています。

アメリカは、市場原理主義と新自由主義を普遍的経済原則として世界に広げようという政治経済的潮流、つまり「グローバリズム」を推
し進めてきた。

それは結果として、国民国家を基盤とする諸国の国民経済的伝統を破壊し、社会的格差を著しく増大させた。

アメリカにおいては貧富の格差が拡大し貧困が広まり、中間層の解体をもたらし、「1%の富裕層と99%の貧困層」との分裂を生じさせ、
国家の政治的統合を危険にさらしました。

この社会的分断は、一方でサンダースのように平等や社会主義的政策を支持する動きを増大させ、他方で、こうした状況で統合をもたらす
手段として、過激なナショナリズムに支配されたポピュリズムが時代の前面にでてきました。いうまでもなく、トランプ氏のような政界の
異端児を大統領にまで押し上げたのです。

日本でも預貯金や株などの資産を持っていない世帯の割合は、かつては数パーセントに過ぎませんでしたが、現在は30%を超えています。

こうして、日本も、欧米と同じようにグローバリズムを温床とするナショナリズムに異常拡張期でも同様の現象が起こりました。

鳩山氏は、グローバリズムへの対抗理念として「友愛」を掲げます。これは言い換えれば「自立と共生」の思想だという。

しかし、現在の日本に「自立と共生」が失われている。

それは、一方でアメリカ発のグローバリズムを積極的に取り入れ、他方で覇権国家であるアメリカと軍事・外交面での協力を強化し、その
力を借りて日本の影響力を増大させ、日本を大国にしようとしている。これこそ、鳩山氏が「大日本主義」と呼ぶ現代日本の保守勢力、特
に安倍政権の姿勢です。

ただ、アメリカの民主党政権のブレーンを務めたブレジンスキーは自著で日本を「保護国」(プロテクトレイト)と呼んで憚りません(30
ページ)。

日本が「協力」と呼ぶ対米関係をアメリカ側は「従属」とみていることがわかります。この認識は、現状をみると、彼だけの個人的な見解
とは思えません。

「保護国」とは国際政治においては「従属国」または「半植民地」に近い位置づけです。

「協力」の具体的な姿は日米安保条約ですが、これは仮想敵国に対応するための軍事同盟ですが、その仮想敵国は、盟主であるアメリカに
よって、その時々に決められます。

鳩山は、「どこの国を敵とするかを自分で決められない国は独陸国家ではなく従属国家、保護国ということになります」と規定しています。

民主党が勝利した総選挙に際し鳩山内閣ができるのですが、その時掲げた公約は「自立した外交で世界に貢献する」「緊密で対等な日米関
係を築く」「東アジア共同体の構築を目指し、アジア外交を強化する」でした。

これは親米派の政治家や官僚、とりわけアメリカは、鳩山内閣は反米的政権とみて露骨に妨害してきた、と書いています。

そして、鳩山自身の言葉を借りると、「独立国家とは思えないような官僚たちの対米位負けの習性」により鳩山内閣の倒閣運動が始まり、
さまざまな手段を使って鳩山首相を自任に追い込んでいったと述べています。

その結果、親米保守路線の行き着く先は、日本の国家としての自立の喪失ということです」という(36ページ)、実に陰鬱な結論です。

ただ、アメリカの中国封じ込め政策に加担した日本は、2度、挫折を味あわされています。一つは、TPPという経済連携を装ったシステムが、
ほかならぬアメリカのトランプ大統領によって破棄されたことです。

二つは、TPPに対抗して中国が主導して立ち上げたAIIB(アジアインフラ投資銀行)に、アメリカは当然不参加で日本もアメリカに追随して
不参加を決めていますが、まさか賛成するとは思わなかった、アメリカを除く他のG8のメンバー国が続々と参加をしていったことです。

続く第二章は「自立と共生への道―対米従属からの脱出」です。二章以降については次回から紹介してゆきます。


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「絶望死」(2)―トランプ現象の背後に白人の絶望―

2017-12-03 08:29:23 | 社会
「絶望死」(2)―トランプ現象の背後に白人の絶望―

前回は、『ロイター』に掲載された記事を紹介するかたちで、アメリカにおける「絶望の死」というショッキング
な現象を、アメリカ社会が抱える病理(暗い闇)という観点から検討しました。

そこでは、社会全体としては、共同体と信仰(「意味」の世界)の衰退がもたらす絶望が「絶望死」の底流に流れ
ていることを示しました。

この絶望は、とりわけ低学歴層において顕著で、そこから派生する麻薬、アルコールへの依存、それらがもたらす
病とそれによる死、さらに自殺が、事実上の「絶望死」と言える。

この結論は、二人の教授による死亡統計の詳細な検討から導かれたものでした。

すなわち、米国の大統領選挙でドナルド・トランプの得票率が高い地域は、白人の死亡率(人口に対する死亡者の
割合)が高い地域と一致しているというのです。

どうやら、トランプ現象の背後には、死を招くほどの絶望が潜んでいるようです。

前回と一部重なりますが、以下にその内容を紹介します。

2016年6月1日、米疾病予防管理センター(CDC)が、衝撃的な統計を発表しました。それは、米国の死亡率が、
10年ぶりに上昇したことです。

大きな理由は、白人による薬物・アルコール中毒や自殺の増加である。「絶望による死」の増加が、米国全体の
死亡率を上昇させたことでした。

CDCによれば、2000年~2014年のあいだに、米国民の平均寿命は2.0歳上昇したが、白人に限れば、平均寿命は
1.4歳の上昇にとどまっており、黒人(3.6歳)、ヒスパニック(2.6歳)―中南米系の人たち―に後れをとってい
ます。

白人に関しては、心臓病や癌による病死の減少が平均寿命を上昇させた一方で、薬物・アルコール中毒や自殺、
さらには、薬物・アルコール中毒との関係が深い慢性的な肝臓病などが増加して平均寿命を押し下げたという。

では、 死を招くような白人の絶望とトランプ現象とはどんな関係があるのでしょうか。

「トランプに投票するかどうかは、死が教えてくれる」
 
2016年3月に米『ワシントン・ポスト』紙は、こんなタイトルの記事を掲載しています。予備選挙の投票結果を分
析すると、40~64歳の白人による死亡率が高い地域と、トランプ氏の得票率が高い地域が一致したという。

同紙が分析した9州のうち、例外はマサチューセッツ州だけであり、テネシー州やバージニア州などでは、死亡率
が上昇するほど、トランプの得票率も高かったのです。

この記事が注目されたのは、トランプ現象の背景にあると考えられてきた白人労働者の不満が、死と背中合わせ
の関係で浮かび上がってきたからでした。

製造業などに従事する白人労働者は、グローバリゼーションや技術革新による雇用不安に加え、ヒスパニックな
どの増加によって、社会的にもマイノリティ化してゆくことへの不安に苛まれていたことがうかがえます。

その絶望が、選挙ではトランプ旋風を巻き起こす一方で、白人を薬物・アルコール中毒などの「絶望による死」
に追い込んでいる、ということのようです。

白人でも中年における死亡率の上昇は高卒未満の学歴の低い層に限られました。まさに製造業などに従事する労
働者の割合が高い人々です。

こうした調査結果からは、トランプ支持の中核をなす白人労働者が、死と背中合わせの絶望の淵にある構図が連
想されます。

しかし、白人による死亡率上昇の現実は、トランプ旋風が示唆するより深刻です。というのも絶望を感じている
白人は、必ずしもトランプ支持者に限らないからです。

トランプの支持者は白人男性に偏っていますが、実は死亡率が上昇しているのは白人の女性でした。

1990年と2014年を比較すると、都市部ではなく地方居住の女性における死亡率の上昇が著しかった。

年齢の面でも、中年に限らない広がりが出てきている。地方在住の女性では、25~44歳の年齢層において、1990
年以降の死亡率が30%以上も上昇していたのです。

また、2000年代に入ってからは、男性を中心とした若い世代の白人において、薬物中毒の増加が目立つ。先のC
DCによる調査を年齢別に分析した結果でも、25~34歳の死亡率の上昇が、もっとも白人の平均寿命を押し下げ
ています。

薬物中毒は、先に犠牲となった歌手のプリンスのように、医師に処方された鎮痛剤がからむケースが多いのが特
徴です。

恐らく白人の場合には、黒人などと比べて容易に鎮痛剤が処方される傾向があり、犠牲者を増やしているとも指
摘されています。

トランプを支持しているのは白人男性ですが、絶望は彼らの周りに広がっています。

トランプの派手な言動や、選挙集会での衝突など、荒っぽさが目立つ今回の大統領選挙でしたが、表面には出て
こない絶望も、かなり深刻であるようです。

絶望による自殺、アルコールや薬への依存は、日本的に言えば、「自暴自棄」行為です。

アメリカにおける、社会経済的な緊張、信じられないくらいの所得格差、先を希望が見いだせない絶望感が、
確実にアメリカ社会の一部に滞留しています。

現在のトランプ政権の支持率は、32%くらいですが、この割合は、大統領就任後、現在に至るまで変わってい
ません。

つまり、この割合が、トランプトランプ大統領の「中核」(コア)の支持者と言うことになります。

別の面から見ると、アメリカ国民の約三分の一は、程度の差はあれ、絶望を感じていると言えます。

前回の記事でも紹介しましたが、アメリカで工場労働者を募集したところ、雇用に先立って行われた尿検査で、
50%の応募者の尿から薬物反応がでたと報告されています。

これは、やはり、アメリカは病んでいる、と感じます。

では、日本ではどうでしょうか、日本では薬物中毒はそれほど多くないかもしれませんが、絶望を抱いている人、
自暴自棄的になっている人はかなり多いのではないでしょうか?

まったく、理由が分からない殺人や傷害行為などは、形を変えた絶望や「自暴自棄」行為という側面もあると思
います。

(注1)『ニューズウィーク・ジャパン』(Newsweek Japan)(電子版) 2016年6月8日(水)17時35分
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/06/post-5278.php


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