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氷の国の物語 7 (イラスト付き)

2010-01-20 23:15:28 | 氷の国の物語
昨日あそこで終わったのはあんまりだと思ったので、真面目に更新。

<氷の国の物語 7>

しばらく気を失っていたようだった。目を覚ましたdaiは自分がいるのが地の割れ目の底であることに気付いた。
そっと手足を動かし、ゆっくりと上体を起こしてみる。雪が衝撃を吸収してくれたらしく、大きな怪我はないようだが、体中が痛く手足の先が冷え切っている。
どれぐらいの間意識がなかったのだろうか。空は明るく雪は小降りになっている。まだ昼間だろう。
しかし、この割れ目からどうやって出ればいいのだ。さほど広くはない穴で、高さは自分の背丈の倍ほどだが、壁はほぼ垂直でしかも氷に覆われている。
予想外の出来事だった。この森の中にこんなふうに地面が割れている場所があるとは、話に聞いたことすらない。自分が陥っている状況が信じられなかった。これは悪い夢の中なのだろうか?そのときdai王子は突然悟った。ああ、これは悪い魔法の中なのだと。

落馬する直前に惑わされるかのように朦朧としたことといい、魔法なのだと考えると辻褄があった。ある名前が浮かびそうになるのを振り払い、これは用意されていた試練の一部で、大魔法使いが仕掛けたものなのだろうかと考えてみる。
だが、気候が不安定なこの時期に、雪の中を一人で遠出すること自体危険なのだ。故に王は耐えられそうもない者を一つ目の試練で落とした。それは祖父の孫たちへの思い遣りであった。そんな祖父が魔法の罠を仕掛けることを許すだろうか?
違うと思いつつ、これが大魔法使いの仕掛けた試練の一部であるなら、そのほうがいいと思った。それならば他の二人も同じめに遭っているはずだし、抜け出す方法も用意されているはずだ。

daiは痛む体を引きずるようにして何とか立ち上がった。しかし、雪と氷に覆われた壁には、手を掛ける場所もなく登るのは無理だった。
力なく座り込む。自分の体を探り、身に付けているものを確認してみた。右腰に着けた皮袋に入った2つの玉、左腰の剣、これで全てだった。食料も毛布も縄も、役に立ちそうなものは全て馬に積んだ荷物のほうに入っている。馬はどこかへ行ってしまった。第一、ここから出ないことには馬も荷物も役立てようにもできない。
ただ冬の旅装をしているから、すぐに凍え死にする心配はない。daiは足を曲げ体全体を毛織りのマントでくるんだ。雪を口に含んでのどを潤す。

「玉を見つめるdai王子」by ゆゆんさん
(このイラストの掲載はゆゆんさんの許可を頂いています。転載・使用・コピーはご遠慮下さい。)

このままいつまでこうしていればいいのだろう。それほど長くは続かないことはわかっている。この試練は真夜中で終わるのだから。そのときまでに戻らなければ、きっと魔法の力で見つけ出され、助け出されるのだろう。
しかしそれまでにはまだ半日はある。どうせ試練を全うできないのならば、このまま痛みと寒さと空腹に耐えていなければならないのだろうか。のろし玉を取り出してみる。これはこんなときのためのものではなかったか。
一瞬見つめた後、daiは掌の上の黒い玉を厭わしげに皮袋に戻した。まだ少年の頃より、亡き父に代わっていつか祖父の跡を継いで王になり、この国を治めこの国のために尽くそうと心を決めていた。王になる、その目的のためにこれまでの日々を生きてきたのも同じだった。それをこんな形で終わらせるのか。
自分を慈しんでくれる母や祖父や姉。大切に守り育ててくれた乳母。導いてきてくれた教師や魔法使い。その他にも自分に仕える多くの者の顔が浮かんだ。
どれほど多くの人間が自分が王になることを期待し、尽くしてきてくれたことか。それをこんな形で裏切り、おめおめと城に戻って無様な姿を晒すのか。そんな雪辱を受けるぐらいなら、いっそ。
daiは剣を取り出して、柄を握り鞘を払った。冷たい光を放つ刃先を自分の左胸に押し当てる。
痛みが怖いわけでも、死が怖いわけでもなかった。ただ、母の顔が浮かんだ。

daiは剣を持っていた手を力なく下ろした。自分は王になれないなら自死を選ぶほど傲慢な人間だったのか。それこそ、自分を大切にしてきてくれた多くの人々への最大の裏切りではないか。自分はここまで弱い人間だったのだ。
daiは頬の痛みに気付いた。いつの間にか涙を流していたらしい。それが凍り付いていたのだった。涙をぬぐって静かに自分に言い聞かせる。
王になれなくても、この国のために尽くす道はいくらでもある。与えられた立場で自分ができることを精一杯すればよいのだ。
それでもnarかtakが王となり、臣下として自分が仕えるのだと想像するのは、耐え難い屈辱だった。このまま助かっても、自分の胸には一生埋まることのない空洞ができるだろう。
daiは魔法使いの顔を思い浮かべた。nik、こんな仕打ちをするほど私が憎かったか。
それからふと苦笑する。いや、彼は自分に大怪我をさせたり死なせたりすることもできたはずだ。足止めを食わせるだけなんて、随分優しいではないか。
ただ、少年の日からの夢だけを壊された。少年から青年へと成長する日々の中で、その夢を現実に手が届くところまで大きく膨らませてくれたのが彼だった。皮肉なことだな、daiはもう何もかもがどうでもよくなった。

ただ胸が痛く苦しかった。この辛さ、苦しさから早く解放されたかった。今度は乳兄弟のkumの顔が浮かんだ。
「癒しのkum」、特別な力を持つ彼女はそう呼ばれていて、幼い頃いつも自分の心の痛みを癒してくれていた。誰よりも優しい彼女が大好きで、自分はいつも少しのことでも彼女に泣きついて慰めてもらっていたっけ。
しかし成長するにつれ、彼女はその力を使ってくれなくなった。
「dai王子は王様になるお方ですから、心を強く持たなくてはなりません」
彼女はそう言っていた。でも、もういいんだ、kum。私はもう王になるわけではないのだから。私は自分の心が余りにも弱くて、王にふさわしくないことに気付いてしまったのだから。だからここに現れて、私の心の痛みや苦しみを全て拭い去って、早く楽にしておくれ。
光の失せた瞳で見るともなしに宙を見つめていたdaiの目の端に、人影が映った。雪が小花のように舞う只中にいるのは、確かにkumだった。穴の縁に屈んで見下ろしている。これも何かの魔法なのだ、daiはそう思って目を凝らした。   <つづく>

dai王子、今回が一番かわいそうかも。これ以上に悲惨な場面は多分ないと思うので、ドSな私を許して~。


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4 コメント

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祈ること (kum)
2010-01-23 20:33:04
walさん,みなさん,こんにちは。
ゆゆんさんの新作,今の私の気持ち,いえいえファンの気持ちを表してくださっているように思いました。

walさんもゆゆんさんも見事にわたしの想いを分かっていらっしゃって・・・。言葉がありませんよ~。
1と5のイラストのdai王子の表情。
わたしが見とれてしまう彼の表情であり横顔のラインです・・。

walさん,dai王子の試練,現実の試練を知っているとドSとはわたし思えなかったりしてます。(汗)
お話の中のkumはこの後いったいどうするのでしょう・・?
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お待たせしちゃってます (wal)
2010-01-25 00:29:35
kumさん、こんばんは
>walさんもゆゆんさんも見事にわたしの想いを分かっていらっしゃって・・・。
kumさんのお気持ちを反映させて書いている部分もあるけれど、実はkumさんに便乗して自分の想いを書いている部分もけっこうあるんですよ。(笑)
ゆゆんさんもご自分のお好きな表情を描いてらっしゃるんじゃないかしら。
同じ人が好きだから、みんな同じようなところがツボだったりするのかな?(笑)

>現実の試練を知っているとドSとはわたし思えなかったりしてます。(汗)
そうおっしゃって頂くとほっとします。きっと大ちゃんはdai王子よりもずっと辛かっただろうな、と思いながら書いたので。辛かった時間が長い分、苦しかっただろうなって。彼は引退よりも悪いこと、最悪のことは考えなかったと私は思うけれど。dai王子にあの場面を書いたのは単なる話の流れであって、大ちゃんを反映させたわけではないので。でも書いていてdai王子の母親の気分になってしまい、泣きました。そしてそれを子供に見つかって馬鹿にされました。(笑)

>お話の中のkumはこの後いったいどうするのでしょう・・?
daiを簡単に助けられる状況なんですよね。明日には続きを書きますね。
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涙ぐましい… (えいこ)
2010-01-25 10:48:47
walさん、皆さん、こんにちは。

今回のは読む側もかなり勇気が要るくらい、次々と非運が彼を襲うんですよね…この頃の彼の想像を絶する苦しみを解っているので(と言ったら生意気でしょうか)、胸が痛くなってしまいます。

>kum、私はもう王になるわけではないのだから、私は自分の心が余りにも弱くて、王にふさわしくないことに気付いてしまったのだから。だからここに表れて、私の心の痛みや苦しみを全て拭い去って、早く楽にしておくれ

悲しすぎます…いつも心優しいdai王子が故に、だからこそ王になるため、強くあろうと日々努力していたのに、こんな形で試練を与えられ…narやnikをこの時ほど憎んだことってなかったんでしょうね。と言うかその気力もなかったくらい、身も心も疲れ切っていたのでしょうね。

辛い目にあっても、恨みごとを言うでもなく、黙々と努力し続けてきた。だけど色々なことが鬱積していた分、気持ちのリバウンドが激しくなってしまったのでしょうね。でも、そこから一念発起して立ち直っていくのですが…

このあたり、どのように描かれるか楽しみにしていますね^^ まとまりのないコメントでごめんなさい^^;;

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お話はハッピーエンド (wal)
2010-01-25 23:06:26
えいこさん、こんばんは
大ちゃんとdai王子は全くの別人だから、悲しまないでくださいね。
キャラとシチュエーションはちょっと借りましたが、彼の体験をファンタジーの世界で再構築しようとしたわけではなく、基本的に全く別のお話として書いています。
そうでなかったら、こんなに遠慮なくひどい目に合わせたり、勝手に心理描写したりできません。この辺りは話の流れに合わせて書いています。だからこの後も大ちゃんが辿ったのと同じ道を辿るわけじゃありません。
だからお話の中で何かあっても悲しまないでくださいね。申し訳なくなります。

でもお話は気楽ですよ。ハッピーエンドだってわかっているじゃありませんか。
現実を生きている大ちゃんはそんな保障のない世界にいて、それでも自分を信じて進んでいる。真剣に考えるときついです。でも私達もそんな彼を信じて、この先を見ていきましょうね!

あ、ここで呼びかけるのも何ですが、kumさ~ん、申し訳ありません。今日も書きそびれました。明日は頑張ってみます。ごめんなさい。
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