自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

口蹄疫のワクチンと簡易迅速な検査法

2010-11-08 20:15:43 | ワクチン

 ウイルスは遺伝子(核酸)しかないので、核酸が働く代謝系を持つ生物に寄生しないと増殖することはできません。寄生する宿主によって、動物ウイルス、植物ウイルス、細菌ウイルス(バクテリオ・ファージ)に分類されています。

1.口蹄疫ウイルス

 口蹄疫ウイルスは 1898 年にドイツでレフラーとフロッシュによって濾過性の新しい病原体として発見された最初の動物ウイルスで、最も小さなピコルナウイルスの一つです。ピコルナとは、もっとも小さい(ピコ, pico)RNA(ルナ, rna)ウイルスのことで、中心部のRNA鎖(核酸分子)一個の周囲をタンパク質が並んだ核(カプシド)で覆った粒子として存在しています。ウイルスに感染するとは、ウイルスが宿主細胞に侵入するとカプシドから脱核して核酸が細胞内に入り、細胞の代謝系を利用して遺伝情報を発現させて増殖を始めることです。

2.ワクチン製造

 口蹄疫ウイルスは培養細胞で効率よく増殖します。培養細胞としてハムスター腎臓由来のBHK-21細胞を陽圧タンク内で浮遊培養し、約4~5千リットルに増やした細胞浮遊液は直結するパイプを通して陰圧隔離区域内にあるウイルス増殖用タンクへと移されます。そこでウイルスが接種され37℃で18~24時間攪拌培養した後、ウイルス不活化タンクに移されます。

 不活化タンクではウイルス培養液に不活化剤(Binary Ethyleneimine:BEI)を添加して、ウイルスのカプシド内の核酸を含めてすべての核酸を不活化する処理を2回繰り返します。このことで、カプシドの蛋白質には影響を与えないで抗原性を維持し、しかもワクチンのウイルスが感染増殖することは絶対にない不活化ワクチンを製造できます。また、この核酸の不活化処理により、ワクチン由来の核酸は遺伝子検査(PCR法)では検出できなくなりますので、ワクチン接種をしていてもPCR法で自然感染を確認できます。

 不活化処理をしたウイルス液はクロマトグラフィ法により、口蹄疫ウイルスの完全粒子(沈降係数146S)だけを抗原として数十~数百倍に濃縮・精製し、液体窒素タンクに保管します。146Sを濃縮・精製することで抗原効果を大きくすることができ、ワクチンによるアナフラキシーショックを減弱させます。ワクチンバンクには様々なウイルス株の濃縮抗原が保管されていますが、必要に応じて必要なウイルス株の濃縮抗原を混合し、ワクチン調整用タンクで緩衝液、オイル、および乳化剤等を混ぜて攪拌して乳化し、ワクチンボトルに小分けして口蹄疫予防液となります。

3.抗体検査

 ウイルスが宿主の粘膜上皮から(エンドサイトーシスにより)細胞に取り込まれて侵入すると、カプシドから脱核した核酸が細胞の代謝系を利用して遺伝情報を発現させて増殖を始めますが、このとき感染細胞にはウイルス粒子(146S)、核酸が脱核した中空粒子(75S)、カプシドを構成するタンパク質のサブユニット(12S)、脱核したウイルス核酸およびその核酸が細胞の代謝系を利用して作り出した非構造蛋白質(NSP)などがあります。

 口蹄疫ウイルスに感染するとこれらを抗原とした感染免疫(抗体)は感染後3~5日後に検出されますので、抗体検査は感染の早期発見には適していません。また、最近のワクチンは精製していますからNSP抗体はできません。そこでOIEコードではNSP抗体検査で陽性であれば、ワクチン接種しても自然感染を確認することができるとしています。しかし、口蹄疫に感染している患畜はワクチン接種如何に関わらずPCR法で早く見つけるべきであり、このための簡易迅速な検査方法の確立が急がれます。

4.簡易迅速なPCR法

 微量な遺伝子核酸を増幅して検査するPCR検査は、最近目覚ましい技術革新が認められますが、口蹄疫診断検査に関するOIEコード(2009.5) では、簡易型RT-PCR法についてCALLAHANらの論文(2002)を引用して、まだ開発中であるとしています。簡易PCR法の普及がない条件下では、多数の検体を検査できるのは抗体検査しかなく、ワクチン接種した場合に自然感染による抗体とワクチン接種による抗体を識別するためにNSP抗体検査が必要ですが、簡易型PCR法が普及すればワクチン接種如何に関わらず感染を確認するのはPCR法が標準になると思います。

 PCR法における核酸増幅はRT-PCR法も簡易法も同じであり、2009年には英国パーブライトのIAH(動物衛生研究所)や FAOはRT-PCR法の簡易検査装置の実用化試験を始めています。しかし、増幅した核酸を蛍光分析で診断するRT-PCR法は、それを小型化しても蛍光分析装置の台数が検査数の制限要因となります。

 一方、我が国では人の新型インフルエンザウイルスノロウイルスの検査に、核酸増幅とクロマトグラフィを組み合わせた画期的な簡易検査法が開発され実用化されています。クロマトグラフィは妊娠検査の診断にも使われている簡易な判定法であり、核酸増幅のために一定の温度を保つ恒温槽さえあれば検査ができます。これを口蹄疫ウイルス検査用に開発導入して家畜保健衛生所(移動車を含む)に設置して日常の病性鑑定に取り入れて、地域の1次検査と国の確認検査を組み入れた防疫体制を構築すれば、口蹄疫の早期発見が可能となり、しかも口蹄疫を終息させるために殺処分を最小にした防疫対策を世界に先駆けて実施できます。さらに、世界の口蹄疫撲滅対策に日本が大きく貢献することになるでしょう。

2010.11.8 開始 2010.11.30 更新1(下線部分)