うらくつれづれ

折に触れて考えたこと ごまめの歯軋りですが

チャイナ・リスクと日本外交(2)

2010-09-27 19:08:15 | 政治・行政
大きく俯瞰してみれば、チャイナとの関係は、日本の歴史全体を規定してきたものだ。日本の歴史は、邪馬台国のチャイナへの朝貢に始まった。チャイナの冊封体制に組み込まれたのである。冊封国とはどういうものか。まず、独自の年号を立てることは許されず、宗主国の年号を使用することになる。李氏朝鮮における官吏に任命状をみたことがあるが、これに記載されているのは、チャイナの年号だ。さらに、朝貢の義務がある。いわば、税金を納めることだ。王の交代は、宗主国の承認が必要だ。さらにその他各種気まぐれな指示に従うこととなる。

日本は、6世紀頃、冊封体制から脱し、独立国としての道を歩み始めた。現在の日本人は、西暦に慣れてしまい、元号の意義を知らない人がほとんどだろう。元号廃止論者も少なからず存在する。しかし、元号は、歴史的にみて、日本が独立国であるとのシンボルで、他のアジア諸国が持とうとして持てなかったものだ。

日本の歴史は、朝鮮と比較することで、その意義が明らかになるだろう。朝鮮は、チャイナの直轄植民地としてスタートし、歴史を通じてチャイナの冊封国としてあり続けた。日本は、6世紀以降、ヨーロッパと相似的な自立的な歴史展開をした。特に重要なのが、中世の存在だ。中世は、地域自治体制に特徴がある。地域住民の総意工夫により、地域の政治経済文化力の発達が促され、中央支配構造が崩れ、地域の自立的発展がはかられた。これに対し、チャイナの政権交代とパラレルな中央集権的国家の政権交代を経験してきたのが朝鮮だ。朝鮮は、チャイナに逆らないという事大主義を取ることとなる。自分の名前もチャイナ風に改名し、孫正義のようにチャイニーズの子孫を自称した。15世紀独自のハングルの採用に当たっては、独自文字は、日本のような野蛮人の行為で、由緒正しい朝鮮民族はそんなことをすべきではない、とする事大主義からの強力な反対論が存在した。

日本と朝鮮の差は、近世における町人の勃興にみられる経済力格差にあらわれたが、より、ビジュアルに感じられるものが、文化力だ。日本の浮世絵に代表される絵画は、フランスの印象派に大きな影響を与えた。磁器は、朝鮮人が日本に伝えた技術だが、朝鮮では、李朝時代を通じて、磁器技術に進歩はなかった。これに対し、日本に帰化した朝鮮人の子孫達は、たった、60年で、世界最高水準の磁器を生産するようになり、作品はヨーロッパの王侯貴族を邸宅を飾ることとなった。これには、磁器焼成技術だけではなく、絵画や着物により培われた日本の美術の伝統が、大きな力となった。

冊封下の朝鮮美術は、日本と比較した場合、無きに等しい。桃山の豪華さや琳派の華麗さに匹敵するものは存在しない。大津絵に相当するような素朴な民画とチャイナの亜流の文人画が見られるのみである。なぜか。それは、朝鮮が、チャイナ文明圏の一地方に留まったからだ。北京が京都とすれば、ソウルは、津軽のようなものだ。ねぶたや三味線など独自の文化は見られるが、京都とは比肩すべくもない。ただし、近年の韓国文化の興隆はめざましい。これは、韓国が真に独立国家となった証であろう。

チャイナの衰退とともに、アジア全域で冊封体制はくずれた。しかし、あらたな冊封体制を構築しつつあるのが、チャイナの現状だろう。チャイナ史上最大版土を獲得した満州族の王朝の領地をそっくり簒奪したうえ、伝統的な冊封領域を超えて影響力を及ぼそうとしている。めざすは、チャイナを中心とした東アジア秩序だ。

日本の独立は、日本が自力で達成したものではない。玄界灘という自然の要害があり、これがチャイナの覇権確立の障害となったからだ。日本が大陸と地続きであれば、日本の歴史は、朝鮮と歴史と類似のものとなったであろう。

現代の問題は、技術進歩により、玄界灘は、もはやチャイナの影響力行使の障害とはならないということだ。いま、チャイナにとっての障害は、日米安保条約しかない。チャイナの勃興に対しどういう基本戦略を立てるか。日本は、6世紀以来の歴史的試練に直面している。歴史の教えるところは、チャイナからの独立こそが、現在の日本の基盤となったことだ。はたして、これを貫くことができるか否か。尖閣の問題は、尖閣だけの問題ではない。今後の千年の日本の行方を占う問題だ。その意味で、菅・仙谷コンビは、千年語り継がれるべき課題に直面していることを認識すべきであろう。

幸い、問題はまだ最終的に決着がついたわけではない。チャイナに付け込まれないよう尖閣の決定的な実効支配行動を早急にとる必要がある。行くところまで行った後初めて関係の正常化をはかる機運が訪れると腹をくくるできであろう。天は自ら助くるものを助く、日本が決意を示さないのにアメリカが自らの兵士の血を流すことはありえない。

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