超高機動銀河恋愛黙示録モロッソスギャラクシー

美少年刑務所の名物所長チャキオと
小悪魔ボディの見習い天使アヴダビが激突する
モロッソスみそっみそっ創作宇宙

モロギャラ・カルタ・プロジェクト3

2006-02-28 18:15:38 | モロギャラ・カルタ(完結)
「か・き・く・け・こ」
カ行はアヴダビが担当いたしました。
詠み句に関してはアンディさんにスーパーバイザーとしてご協力いただきました。
ありがとうございました。

(アヴダビ)

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チャキオ・アンディのムフムフ☆サタデーナイト!

2006-02-28 00:52:05 | ムフムフ☆サタデーナイト!
  ムフサタ 第14回放送

 こんばんは~。これってサタデーに放送だったっけ? まあ、いいや。気持ちはいつでもサタデーナイトだし。お前の心にサタデーがあれば、それでいいのよ。それと、突然だけど隔週になったから。言ってなかったっけ? ソーリーソーリ。許してチョンマゲ。てな感じのお気楽モードで今日もDJを務めますのは、亀ちゃんのバースデーが嬉しすぎて鼻血による出血多量死に陥りそうになったチャキオと、やっと仁くん解禁になって嬉しすぎて酸欠による呼吸困難で三途の川に片足突っ込んだアンディとでお届けします。ではでは、ムフサタ、スタートゥッ!!

     ムフ☆サタ オープニングテーマ

  駆け抜けていく用務員 待ってくだせえ、おまいさん(ムフムフ サタサタ)
  土曜の夜はランナウェイ 急がば回れ 回れば急げ (ムフムフ サタサタ)
  職歴およそ40年
  バーニング・ノットバーニング・ペットボトル
  一張羅はリサイクル
  チューニングを合わせれば あの子の声も聞こえてくるよ
  ガガーー ピーーー 誰? 誰なの?
  レディオは今日も あなたの元へ

チャキオ(以下、茶)「あ~。苦しかった」
アンディ(以下、安)「もう大丈夫ですか?チャキオさん」
茶「いやあ、二週間にも渡って苦しみ続けちゃいました。テヘ」
安「前回途中で帰っちゃったので困りましたよ」
茶「そんなこと言ったって、胃が痛かったんだもん。仕方ないじゃん」
安「まさか二週間も苦しみほど重病だと思わなかったので……」
茶「ねえ、ホント。でも、卵を産んだからスッキリ!」
安「ギャ――――ッ!」
茶「口からポンって出たときは気持ちよかった~。今はどこで何をしてるのかなあ?」
安「え?産みっぱなしですか?そもそも、一体何が産まれるの?」
茶「何が産まれたのかはちょっと……私どもには……見当もつきません……」
安「フェイク・ザ・マンションズみたいな事言ってないで自分のした事には責任持ってください」
茶「あの胃の痛みは産みの苦しみってやつですね」
安「チャキオさんが口から卵を産めるなんて知りませんでした」
茶「え? 知らない? 緑色の星人が良く出してたじゃない? アレよ、あれ」
安「そんなしょっちゅう出してたみたいに言わないでください。せいぜい一、二回ですよ」
茶「そんな事は気にしないのよ~ん」
安「他の方は多分気になると思いますが、私は気にしないようにします」
茶「ではでは、ムフサタ始めるよ~!合言葉は~レッツ・六分儀!」
安「チャキオさん、合言葉知ってるんですね」
茶「お前の考えてることくらいお見通しよ。単細胞!!」
安「酷いなあ……。チャキオさん」
茶「ウフフ」
安「何、カワイコぶってるんですか!!」
茶「だって亀ちゃんが20歳なんだもん♪」
安「そうなんですよね~。めでたく二十歳の誕生日を迎えられたんですよね」
茶「二十歳だなんてピッチピチ! ドゥフフフ……エフフフ……」
安「いや~~~、亀ちゃん可愛いなあ」
茶「というわけで、本日のメインテーマは亀ちゃんのバースデー企画だっちゃ!ウフフ」
安「めでたいめでたい」
茶「じゃあ、いつものコーナーから。教えてアンディさんです。今日のお悩みなんだろな~。コチラ!東京都にお住まいの誕生日辞典さんからのおハガキです」

 こんばんは。アンディさん。僕の誕生日っていつだったっけ?分からなくなっちゃいました。どうすりゃいいの?(東京都・誕生日辞典)

茶「今日も電話が繋がっています。もしもし~?誕生日辞典さんですか?」
誕生日辞典(以下、誕)「もしもし?」
安「もしもし、誕生日辞典さんですか?」
誕「お前の誕生日は2月27日だろ?」
安「え? 何で知ってるんですか?」
誕「誕生日のことなら何でも知ってます」
安「じゃあ、チャキオさんの誕生日はいつですか?」
誕「地球人だけに限ります。宇宙はちょっと次元が違うので……。多分、時間とか時空とか越えちゃってるので、僕にはちょっと……」
安「やっぱりチャキオさんって地球人じゃなかったんですね」
誕「ちなみに地球人の振りをして5月21日だって言い張ってます」
安「そうだったのか……。本当に地球人の誕生日なら何でも知ってるんですねえ」
誕「恐れ入ったかね?」
安「はい。恐れ入りました」
誕「僕ってグレート?」
安「でも、おハガキには自分の誕生日が分からないってありますけど……」
誕「そうそう、それなんだよね。他の事を調べすぎちゃって自分のが何だか分からなくなっちゃったんです。どうしよう。何とかしてよ」
安「お母さんに聞いてみたらどうですか?」
誕「僕、実家から離れてて、わざわざ電話で聞きたくないじゃないですか。改まっちゃってさ」
安「ええ~~。教えてアンディのコーナーで相談するくらいなら実家に電話した方が早いですよ」
誕「それもそうですね。何でこんなとこに電話しちゃったんだろう」
安「ホントですよ」
誕「全く、アンディさんの薄らトンカチな生声聞いたって嬉しくもなんともない……貴重な時間を返せーって感じですね」
安「私はチャキオさんに関する貴重な情報が聞けて嬉しかったです」
茶「はい。ありがとうございました。どうやら聞いてはならないチャキオの情報が漏れたようですね。後で始末と……。おっと、何か言ったかな?」
安「うわあ~。何か今、物騒なセリフが聞こえましたよ」
茶「幻聴じゃないかしら?疲れてるのね、アンディさんったら」
安「そ……そうかもしれません」
茶「まあ、それはさて置き、次のコーナーへ。本日は復活のチャキオの館」
安「亀ちゃんの誕生日スペシャルですからね」

このコーナーは究極の美少年ハンターチャキオがいつか煌く美少年を迎えるべく待ち続けるコーナーです。対談ルームを設けて美少年が罠に掛かるのを今か今かと待ち構えています。

茶「亀ちゃんまだかな~♪」
安「今日は仁君じゃなくて亀ちゃん待ちなんですね」
茶「おめかしもして待ってるのに、来ないわね」
安「いきなり白塗りで白タイツに着替えてきたから何かと思えば、おめかしだったんですか!?」
茶「はい。野ブタだけじゃなくてチャキオもプロドゥースしてもらいたかったので、真っ白になってみました」
安「なるほど~。乙女心は分かりますが、それじゃあ、もし亀ちゃんが来ても帰っちゃう気がします」
茶「そうですか?すごく良いって評判なんですけどね」
安「一体、誰にですか?」
茶「まあ……ちょっとね……」
安「こんなに待っても亀ちゃんが来ないのは、チャキオさんの格好のせいだと思いますよ」
茶「え?これダメ?一張羅なのに……」
安「私ももう帰りたいです」
茶「アンディさんがそんな格好だからいけないんですよ。ここに赤い全身タイツがあるんで、これで紅白、と……」
安「マジですか~?」
茶「早く着なさいよっ!!」
安「おめでたいといえば紅白ですもんね」
茶「完了!これでこそ紅白!めでたい時は我らにお任せ!」
安「似合ってます?」
茶「赤い全身タイツを着せたら右に出るものはいないですね」
安「安心しました。じゃあ、めでたい時は我らに任せてください!」
茶「もう待ってられない!!こんなにキュートなのにっ!乗り込みましょう!」
安「じゃあ、さっさとムフサタ終わらせましょう!」
茶「じゃあ、ムフサタ今週はこれにて♪次回の合言葉は~レッツ・全身タイツ!だっちゃ。まったね~ん。急がなきゃっ!!」
安「さよ~なら~」
茶「亀ちゃ~~~ん!!今、行くわ~~~!!」

青春アミーゴ (初回限定生産盤)
修二と彰, zopp, Shusui, Fredrik Hult, Jonas Engstrand, Ola Larsson, 山下智久, Tomohisa Yamashita, Tomoji Sogawa, 亀梨和也
ジャニーズ・エンタテイメント

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モロギャラ・カルタ・プロジェクト2

2006-02-27 19:59:58 | モロギャラ・カルタ(完結)
カルタの箱の裏側です。
チャキオさん画です。さすがです! クール&バーニング!
この画がセーフなのかどうなのか、僕には判断が出来ませんが、とにかくポンタ君が可愛いです。
でも、ジンコ先生やrin-may先生の絵とどこかが違うような気がする……。
僕は絵に関しては素人なので、はっきりした事は言えませんが、なんとなく、心の爪を隠しきれていない、そんな感じがします。

(アヴダビ)

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モロギャラ・カルタ・プロジェクト1

2006-02-27 18:27:33 | モロギャラ・カルタ(完結)
東急ハンズで無地のカルタを購入し、オリジナルカルタを製作することになりました。
まず箱絵から描き始めましたのでアップしてみます。

正面をアヴダビが描き、側面の二枚をチャキオさんが描いて下さいました。
道具はチャキオさん愛用の筆ペンを使わせていただきました。
チャキオさんの豪気な筆遣いは「お見事!」の一言でした。

(アヴダビ)

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究極!イラストご紹介コーナー64

2006-02-27 00:12:32 | イラスト!
ぎゃあぁぁぁーーーー☆
おっと、いきなり奇声を発してごめんあそばせ。
だって、仕方ないじゃない。こんな素敵画像が届いたんですもの。

お待たせしました♪我らが萌え絵師。ジンコ先生の萌え画像シリーズ第三弾。
こちらのメチャクチャに可愛い少年は「ジョギング先生」の『僕』です♪

なんだ!この可愛さはっ!!驚愕です!!
さすが自ら可愛いという男。皆さんは、恐らく、自分からそんな事を言う子は可愛くないだろうとお思いでしょう。
でも、違うんです。本当に可愛いんです。おったまげです。

チャキオ、こんなに可愛い子を見つけたら、うっかりストーキングしてお縄を頂戴しちゃうかもしれません。
これでは、安部中山聖との勝負は勝ったも同然でしょうが、まあジョギングクラスのヒヨコ達の事だから、予測できません。
何があるのか分からないのがジョギング先生ですからね。

ジンコ先生。本当にありがとうございました。
嬉しくって嬉しくって、涙が溢れて止まりません。
滝の様に流れるチャキオの涙に観光客が寄ってきてしまうことでしょう。
それくらいチャキオは感動しました。
これからも、是非是非、ジョギングクラスのヒヨコ達をお願いします。
同じヒヨコを描いてくださっても構いませんので。
ジョギングクラスを宜しくお願い致します。一同、礼。感謝でござりまする。

(チャキオ)

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究極!イラストご紹介コーナー番外編

2006-02-24 22:51:48 | オリジナルグッズ
昨年末、こんなジグソーパズルを作ってみました。ビレッジバンガードで無地のパズルを購入して、油性マジックを文具屋で買って。
面倒臭かった……。
チャキオさんの超絵をプリントアウトし、裏に鉛筆をこすり付けて、パズルの上でなぞって転写、それをマジックで清書。
努力の甲斐あってお部屋のちょっとしたインテリアになりそうな一品となりました。

次はカードゲームを作りたいと思うのですが、いかがでしょうかね。
ルールその他の案などありましたら教えていただきたいです。なるべく簡単な感じで。
(アヴダビ)
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ドスコイ一家、漂流記18 (アヴダビ)

2006-02-23 00:15:11 | ドスコイ一家、漂流記(完結)
<<第一話から読んでみる>>

第十八話「サイケデリック・サングラス・マダム」

 皆は支持してくれないけれど、僕には絵心がある。ちょっと意外かな? でも、こう見えても昔は遊園地のヒーロー塗り絵大会で優勝した事もあるんだよ。賞品は、給食の時に使うナプキンのセットだった。
 でも、小学校中学年ぐらいから超現実主義や抽象画に傾倒しはじめて、それからの美術の成績はがた落ちだった。
 お友達の顔を描いてみましょうなんて題でも、やっぱり表層的な輪郭の裏にあるイデアを読み取って二次元宇宙に叩きつけようというパトスを抑え切れなくて、結局は常人には理解してもらえない作品になってしまう。
 どういう絵か分かりやすく言うと、覚醒剤中毒者へのテストの時に見せる、お花みたいな、動物の顔みたいな絵、かな。中毒者は大概、「ネズミの死体……」とか「コウモリが死んでいる……」とか言うよね。
 友達や先生もそうだった。モデルになったクラスメートなんて泣いていたな。それから、僕は人前で絵を描くのをやめたんだ。
 だから、誰もいないところで描く。海岸の砂に。今みたいに……。

「傑作だ」
 砂の上に棒切れで描いていた。僕の心に浮かんだ、この不思議な世界を。星々の上に立つ神を。太陽は神様の怒りの炎だ。星のかけらは雹のように降り注ぎ、神殿も、銀行も打ち砕いて、水道管をせき止める。道路の真ん中から噴き出た噴水に乗って、子供達は笑って踊るんだ……。
 僕の宇宙図。それを、重なり合った記号と数字で描いてゆく。
 誰も見ていない。波だけが、さらさらと息を潜めて、見守っている。待ち構えている。この絵は、満潮になったら消えてなくなるんだ。
 誰にも見られない。僕だけの秘密の宇宙。
「ここに街灯を描いて……」
 これで完成だ。昔風の、ガス灯をイメージした形。
 街灯に、明かりが灯った。砂の上の、記号に。砂で描いた溝に、光が流れてゆく。
 僕が呆気に取られている間に、光の筋は砂の溝を駆け巡る。砂に描いた絵が光る。僕の宇宙が、光る……。

 ぼいーん!
 目の前で何かが爆発して、僕は驚いて尻餅をついた。
「げほっげほっ。いったい何が……」
 砂が目に入って痛かった。しょぼしょぼする視界の向こうに、彼が立っていた。
 四方を女子更衣室と、体育用具室と、保健室と、教育実習生の使う準備室の図案に囲まれた真ん中、朝礼台をイメージした記号の上に、彼は立っていた。
 水色のワイシャツの上に、いかにもリクルートスーツといった風の細身の黒い背広を着た、僕と同じ年齢ぐらいの青年。履き慣れていないのか、革靴のつま先を苛立たしげに動かしている。
 青年は不機嫌そうに僕を見ている。手は落ちつかなげにポケットに突っ込んだりネクタイを弄ったりしている。
「一人サバトかよ。まあいいけどさ。呼ばれといていきなりこんなこと言うのもあれだけど、俺、あんま難しいこと出来ないんで」
 青年はぶっきらぼうに言った。僕には何の事だか分からなかった。
「まあ、あんたも俺ぐらいしか呼べない程度だから、分かってると思うけど」
「え、何のことだか分からない……」
 僕もなんだか手持ち無沙汰で、手をもじもじと組んだりほぐしたりした。こういう青年、就職試験の会場によくいたな。休み時間になると喫煙コーナーに飛んで行くんだよな。
「だから、何か願い事があるから俺を呼んだんだろ? 契約してやるから言ってみてくれよ。出来る出来ないは俺が判断してやるから。難しいのは駄目だぞ。俺にはどだい無理だし。お互いに破滅しちまう」
「え! 願い事を叶えてくれるの!?」
「ああ。まあ言ってみろよ。その前に、世界をどうにかしたいとか、億万長者になりたいとかは無理なんで」
「あ、そうなの?」
「俺まだ仕事初めてあんまり長くないんで。責任とか取れないんで」
「じゃあ、何を出せるの?」
「あんまり物体とかは無理なんじゃない?」
 なにこいつ! 役に立たないじゃん!
「じゃあ、何が出来るのさ! あー、期待して損した」
「うるさいな。物じゃなくてもあるだろ。もっと想像力を働かせろよ。漫画とか思い出せよ」
 青年がにやにや笑いを浮かべた。僕もつられてにやにやした。
「ははーん。もしかして、女?」
「何言ってんだよこのエロ! 変態!」
 青年が嬉しそうに爆笑した。どうやら当たったようだ。
「じゃじゃじゃ、じゃあさ、もしかしてハーレムみたいなのとかさ……」
「あ、そういうの絶対無理だから」
 なんだよ! 僕はガックリしたけど、口には出さなかった。実は、ハーレムだなんて言っておいて、後ろめたかったからだ。チェルシーさんに……。
「僕、好きな人がいるんだ。努力しているんだけど、いっこうに上手くいかなくて。でも、僕は彼女を愛しているんだ」
「そうか。つまりその女を虜にしたい、と。惜しいが、今の俺には無理だな」
「なんだよ! 君には失望したよ! 何しに現れたんだよ! バカア!」
 僕は恥ずかしくて情けなくて腹立たしくて、涙目で怒鳴った。
「わ、ちょっと、落ち着けって。じゃあ、お前さ、その女と、あれだ、チュウとかしてみるか」
「え」
 僕は呼吸が止まった。体温が異常上昇して、涙が一瞬で蒸発した。
「ちゅ、ちゅ、ちゅ……」
「そうだ。それなら、俺でも出来る。実績がある」
「じゃあそれ、頼んでみようかな……」
 僕は落ち着かなくて、両手を組んで、凄い勢いで親指をぐるぐる回していた。

「これから儀式に入る。子羊の血を用意しろ」
 青年がさらっと言った。
「え! 羊!? 血!? そんなの無理だよ!」
 僕は驚いて、小パニックを起こした。まさかそんな本格的に邪悪な事をするとは思わなかったのだ。
「ちぇ。じゃあ魚の死体でもいいよ。食べ残しか何かあるだろ。なければバッタでも蜘蛛でもいいよ」
 意外に融通のきくタイプだった。

「じゃあ、いくか」
 青年はワカメをもぐもぐ噛みながら、なにやら意味深な踊りを始めた。幻覚症状を引き起こした覚醒剤中毒患者が、ありもしない空中のシュークリームを取ろうとやっきになっているような、変な踊りだった。
 と、思ったら、踊りはぴたりとやめて、今度は顔の筋肉を目一杯動かしはじめた。まるで顔芸だ。口を曲げたり、寄り目になったり、僕も思わず噴き出してしまいそうだった。
 ゴキゴキ!
 え、何この音! 青年の顔から聞こえてくる。まるで骨が外れたり折れたりしているみたいな、恐ろしい音!
 ボキボキ! ゴリ!
 僕の目の前で、青年の顔が変わってゆく。顎は細く、唇は瑞々しく、細いのにふっくらとした頬、伏せた黒い睫毛。その目がゆっくりと開いて、僕に微笑みかける……。
「チェルシーさん……」
 そこには、リクルートスーツを着たチェルシーさんがいた。
「さあ、遠慮しなくていいんだぜ」
 チェルシーさんがウインクして言った。僕は緊張のあまりがくがくと震えてしまった。チェルシーさんが投げキッスをした。僕は至近距離から猟銃で撃たれたような衝撃を感じた。
「さあ、ほら、滅茶苦茶にして!」
 チェルシーさんが身をよじって僕を挑発する。棒に絡まる外国人ストリッパーのようなポーズで。
「チェ、チェル、チェル……!」
 僕はよろよろと彼女の方に近寄った。だけども足がもつれて、派手にすっ転んだ。だが、脊髄を打ち付ける前に得意の前回り受身で華麗に転がって、惨事を免れた。前回りは止まらなかった。混乱した僕は、チェルシーさんの周りをゴロゴロと転がりまくった。
「わ、ちょっと馬鹿! 魔方陣を書き変えるな!」
 チェルシーさんの叫び声にびっくりして、急停止した。
 ゴキゴキゴキ!
 チェルシーさんの顔が、また鳴っている! 変わってゆく!
「チェルシーさん……そんな……馬鹿なことって……」
 僕の目の前には、時代錯誤の派手で大きなサングラスをかけた、太った顔のおばさんが立っていた。頭は薄紫色のパーマだ。なんでおばさんてこう、ド派手なパーマとサングラスをかけているんだろう?
「なんだ、年齢設定を変更したかったのか。言ってくれれば良かったのに」
 おばさんは真っ赤な唇をにっと捻じ曲げた。僕は戦慄を覚えた。
「さあ、来いやあ」
 おばさんは頭の後ろに手をやり、腰をくねらせた。
「や、やだ、やだあ!」
 僕は溢れる涙に呼吸を乱されながら、おばさんの手を逃れようと後退った。

「お、お前……」
 懐かしい声。僕は地獄に仏と思った。振り向くと、ドスコイ警部が呆然と立ち尽くしていた。
「警部、助けて!」
 僕はドスコイ警部に向かって走った。
「馬鹿野郎! 魔方陣の外に出たら儀式は失効されるぞ!」
 後ろでおばさんが怒鳴った。だが、すでに僕は警部の足元にすがり付いていた。
 警部は僕を見ていなかった。僕の描いた記号群の中で身をよじるおばさんを凝視していた。おばさんが煙に包まれる。
「行かないでくれ! もう一度やり直させてくれ! 今度はきっと良い夫に……!」
 警部が錯乱した台詞を吐いている間に、煙は消え失せ、同時におばさんの姿も無くなっていた。
「もう一度、お前と一緒に……」
 警部が何か言っていたけれど、僕は警部の足にしがみついて泣いていたもんだから、よく聞こえなかった。


<お知らせ>
次回、ドスコイ一家漂流記 第十九話「天使のゆりかご」
お陰様でドスコイ一家がこんなに続いてしまって、自分でも驚いてしまいます。
チャンスをくださったチャキオさんに感謝です。そして読んで下さっている皆様にも無限の愛を。
あと、あまり関係ないんですがボウリングの球が遅くて恥ずかしいです。でも力入れて投げると曲がっちゃうし。どうすりゃいいんじゃい。


<<第一話から読んでみる>>

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ドスコイ一家、漂流記17 (アヴダビ)

2006-02-21 22:43:26 | ドスコイ一家、漂流記(完結)
<<第一話から読んでみる>>

第十七話「ギャングスター・サイドアーム・パーティー」

 海岸に、頬をひっぱたく音が響いた。魚とりの網を作っていたドスコイ警部が顔を上げた。
 チェルシーさんは特製のトロピカルジュースを僕にぶっかけて帰っていった。
 僕が発見して、まだ誰にも教えていない、飲むと気持ちよくなるキノコの粉末を、こっそりジュースに入れておいてあげたんだ。もちろん良かれと思って。それを知ると、なぜだかチェルシーさんは怒り心頭に発して、猟奇殺人犯を見るような目付きで僕を睨んで席を立ったのだ。
 僕はヤシの木陰のベンチで、一人しょんぼりと海を見つめた。落ちて行く太陽の炎が海に燃え移る。オレンジ色の火の海。こんなに素晴らしい景色なのに、僕ったら……。
「よいしょ、と。一休みするか。わしにも何か飲む物はないか?」
 ドスコイ警部が向かいに腰を下ろした。チェルシーさんとまったく似ていないごつごつした顔が、眉間に皺を寄せた。僕は首を横に振った。
「全部こぼしちゃいました」
 僕はベンチの上で体育座りして、膝に顔を埋めた。
「はあ、いやんなっちゃうな……」
 僕は耳をそばだてて、ドスコイ警部が何か気のきいた慰めを言ってくれるのを待った。それが年長者の義務のような気がする。だが、なかなか喋ってくれない。僕はしびれを切らした。
「愛って、哀しいものですね」
 結局僕から口を開いてしまった。上司の仕事を取る出来の良過ぎる部下だこと。
「愛は哀しいものだ。お金が汚いのと同じレベルで」
 警部の言う事は大概意味不明だけど、声に深みがあるからなんだか気持ちが落ち着くんだ。
「どんなに深く愛しても、得るのはただ哀しみだけかもしれん。だが男は、痛みに弱く作られている。かなわぬ恋と知りながら、泣き寝入りも出来ぬ夜がある。だから、哀しみから逃げ出すために、走ってしまう。恋敵を斃したところで、腕力にものを言わせたところで、どうにもならないことなのに。たとえ一晩中触れていようと、自分以外の生き物を見せないように縛り付けていようと、心を愛で満たすことは出来ないのに」
「どんなに尽くしても、ダメなのでしょうか」
「ダメだ。太陽と雨風から守るための安全な部屋に入れて、寝室から出ないでも生活できるようにして、欲しい物は何でも買ってやっても、ダメだ。昔の記憶を失くさせてもダメだ」
 僕は警部を盗み見た。太陽の最後の火が、警部の哀しみを炙っていた。警部は焼かれるがままになっていた。僕は驚いた。そこにいたのは、頼れる岩のような親父ではなく、太陽の残酷に観念した、愛に諦めた中年男だった。
 警部の奥さんは、世界のどこかで警部を待っていてくれているのだろうか。それとも、もう亡くなっているのだろうか。僕はそれを、一生尋ねることはないと思った。
 僕はベンチから飛び下りた。砂浜に転がっている木切れを拾いに行った。


――「乙女と違ってエルニーニョ」――

 甘く酸っぱいラズベリー  神様、教えて! もぎたてラブ
 いつでもあの子にテイクオフ  なのにウラハラ! ドンタッチミー!
 どうしてなんだ、僕の弱虫(コストパフォーマンス高い)
 どうしたいんだ、乙女の逆襲(ゲストパーカッション巧い)
 恋の鑑識! 指紋は残すな  僕の心をスティール&ランナウェイ
 捻り出せ! エルニーニョ!  その一言がアルプスを越えられない
 何度好きだと叫んでも  山彦は答えない 
 ズドン! ドシン! 聞こえてくるよ  僕の弱気なソウルフル
 山から山へと荒ぶる神が  全てを壊してフォーリンラブ


 陽は落ちた。
 僕達は、キャンプファイヤーの周りを歌い踊っていた。
 てきとうにでっち上げたディスコソング。インディアンの歌も混ざっている。
 僕とドスコイ警部は、夕飯も忘れて、ぶるぶる、がくがくと踊り狂った。哀しみを吹っ切るために。星の鼓動に立ち返るために。
 汗がはねた。
 僕は、子供の頃に見た女の汗を思い出した。肝試しをした帰り道だった。僕は一人、棒を振り回しながら住宅街を歩いていた。女の人の泣き声が聞こえた。全くの裸の女が、玄関のドアを叩いていた。僕は驚いて電柱の陰に隠れた。家の中から、そのまま町内をマラソンしてこい、と男の声が言った。裸の女は泣きながら走っていった。僕は怖くて、隠れたままでいた。しばらくしてから、行きとは反対の道から女が走ってきた。僕の隠れている電柱の前を通った。僕の頬に、女の汗が飛んだ。女はようやく家の中へ入っていった。
 ドスコイ警部が妙なゴーゴーダンスを踊っていた。僕はガソリンスタンド強盗をイメージした創作ダンスで対抗した。ダンスバトルは白熱した。僕達は二人とも自分達の技量と情熱に酔っていた。
 火の粉が月へと昇ってゆく……。

 金色に輝く女神が僕らの前に降臨した時も、それほど驚かなかった。そのぐらい僕らはハイになっていたんだ。
「おほほ。楽しい歌と踊りに誘われて舞い降りてしまったわ」
 スモークのエフェクトがかかったようにぼんやりと発光する金髪の女神。先っぽに星型の飾りのついたステッキを手に、可愛らしく首をかしげている。
 僕は一瞬でポポウ……となってしまって、意味もなく警部を肘で小突いた。
「特にあなたのダンスは素晴らしかったわ」
 女神はステッキに頬ずりしながら、警部に流し目を送った。僕は、え! と、女神の趣味を疑った。しょせんその程度の女か、と彼女を見損なってしまった。
「楽しませていただいたお礼に、あなたの願いを叶えてあげるわ。……待って! 言わなくてもわかるんだから。愛に関することね」
 女神はいたずらっぽく、ステッキの星を噛んだ。
「見えたわ。あなたの求める人が。恥ずかしがる事はないわ。今、会わせてあげるわ……」
 女神は片目を閉じた。僕はわくわくした。警部の愛した人って、どんな人なんだろう。
「出でよ! 愛と憎しみの百人隊長!」
 女神が、片足立ちで、リレーでバトンタッチするようなポーズで、ステッキを振った。星がきらきらと飛び散った。
 ぼいーん!
 焚き火が爆発し、炎の中から何者かが躍り出た! この人か! え、でも、男の人だよ……?
 そう、女神の魔法で登場したのは、身の丈百九十センチはある、筋骨隆々の大男だった。紫色のスーツを着て、髪はオールバック、サングラスをかけている。
「貴様は、鬼助六邪金太(おにすけろく・じゃきんた)!」
 警部が叫んだ。まさに、怒号だ。
「んんー? なんだあ? ドスコイかあ? 勘弁してくれよ~。もう足洗ったっつってんだろ~?」
 邪金太はサングラスを外した。鮫の目をしていた。
「男達は愛を勝ち取るために戦うのよ……」
 女神が、夢見るような瞳で、ステッキに舌を這わせた。え、じゃあ、この男が警部の恋敵だった?
「貴様をもう一度殺す」
 警部とは思えない、スチームを吐き出すような声。
「ああ?」
 邪金太がスーツの袖をまくった。注射痕だらけの、太い腕。
「男達、さあ戦って! はああ!」
 女神が仰け反って叫んだ。

 ドスコイ警部は、いきなり砂を邪金太の顔にぶつけた。巨人が顔を覆った時には、彼の膝関節を、横から押し込むように蹴っていた。邪金太の膝が折れ曲がった。
「ヘロヘロ見ていろ! これが戦いだ!」
 そう。それは道場での試合でもなく、犯人逮捕の時の格闘でもなかった。押さえ付けて捕縛するのではない。破壊して動けなくする、戦い。
 警部は邪金太の後ろに回り込み、目に指を突っ込んだ。大男の悲鳴。掴もうと後ろへ伸ばした邪金太の指は、躊躇なく折られた。
「壊せ! 壊せ! 壊せ! 壊せ!」
 女神が喚起に咽び泣いた。女神の汗が、僕の頬に飛んだ。
 邪金太が警部を捕まえて引き寄せた。その鼻に、警部の石頭が炸裂した。大男の顔から、いろんな物がぶらさがっていた。
 警部は執拗に邪金太を攻撃した。可動する部分は全て壊さないと気が済まないといった風に。
「愛よ! 愛の炎が体を焼くのよ!」
 女神がステッキに絡まって、体をこすり付けて、叫んだ。
 確かに、警部の目は爛々と光っていた。それは、試合での真剣な目付きとも、犯人を追う時の決意の目付きとも違った。もっと熱く、混沌として……そうだ、哀しみと喜びに混乱して、炎が決壊して迸っている目だ。これが愛に燃えた目なのか。
「これで終わりだ……」
 こんな寂しそうな声を、警部から聞いたことはなかった。邪金太の耳に、警部の親指が突っ込まれた。

 空が白々と明けてきた。
 僕らは焚き火跡の前にしゃがんでいた。灰しか残っていなかった。木切れと一緒に投入しておいた、気持ちの良くなるキノコも、燃え尽きて墨になっていた。
 ひどくくたびれて、心は空しかった。
 隣で、警部が疲れきったように、足の間の砂を見ていた。
「帰るか」
 と警部が言った。僕は立ち上がった。
 僕らは二人とも、失恋したような気持ちだった。


<お知らせ>
次回、ドスコイ一家漂流記 第十八話「サイケデリック・サングラス・マダム」

今回の劇中詩「乙女と違ってエルニーニョ」は、チャキオさんに創作していただきました。
私からの注文は
1、初めての恋にドキドキする男の子が勇気を振り絞ろうかどうしようか悩む感じで
2、「ドントタッチミー」と「コストパフォーマンス高い」の言葉を使って
3、吉井ロビンソンみたいな雰囲気で
4、女子中高生が気持ちよくなる感じで
5、「ズドン!」という擬音で全体を引き締めて
の五つでした。完璧です。
チャキオさんは芸術家であるだけでなく、職人でもありますね。涙出ました。
チャキオさん、どうもありがとうございました。


<<第一話から読んでみる>>

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究極!イラストご紹介コーナー63

2006-02-21 01:41:05 | イラスト!
きましたっ!!きましたっ!!
我らがジンコ先生の必殺萌え絵がっ!!
ぶほっ!!ぶほほ~~!!
なんとキャワイイ少年なんでしょう。

そうです。こちらは皆様、お分かりの通り「ジョギング先生」のヒヨコの一人。
深川洋一郎之介(ふかがわ・よういちろうのすけ)クンです。
なんとまあ、可愛らしいこと。
そして、なんと洋一郎之介が脇に抱えているのは「ジョンソン・ゲルペッカーの黄金都市と世界のUFO」です。ジンコ先生の芸の細かさが伺えますね。
ちなみにこちらの作品は洋一郎之介が本屋でお腹が痛くなり始めた時を描写なさってくださいました。
素晴らしいです。この不安げな顔。
「早くトイレに行ってらっしゃい!」と言ってあげたくなります。

ジンコ先生。いつもチャキオの無理難題のリクエストに快くお応えくださってありがとうございます。
涙が止まりません。
また是非ともジョギング先生のヒヨコをお待ちしています。
次は「僕」あたりで。ムフフ。

(チャキオ)
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究極!イラストご紹介コーナー62

2006-02-20 01:42:11 | イラスト!
rin-may先生がメガネ三銃士の汰雲氏のイラスト描いて下さいましたよ!
チャキオさんも狂喜乱舞の一作。

rin-may先生は仕事で肉体をギリギリまで酷使した後、まさに魂を削る思いで描ききって下さいました。
常人では真似の出来ぬ紅蓮の境地です。
汰雲の穏やかな表情をご覧下さい。
この微笑みの裏には多大な努力と血涙が隠されています。
絶望と希望の意味を知っている顔です。
喜びの裏には他人の苦しみがある事を知って、なおかつ微笑もうとする男の顔です。
rin-may先生だから描けた作品です。

rin-may先生、どうもありがとうございました。
(アヴダビ)
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ドスコイ一家、漂流記16 (アヴダビ)

2006-02-19 11:31:50 | ドスコイ一家、漂流記(完結)
<<第一話から読んでみる>>

第十六話「スパイク・ヘッド、ハーフ・アイ」

 僕は子供の頃、絵の具が好きだった。
 描くのは勿論だけど、何が好きだといって、絵の具の味が好きだったのだ。比喩的表現ではなく、味覚として。
 子供は何でも口に入れる。ためしに舐めてみたところ、変わった甘みがあったんだ。
 僕がこそこそ絵の具を舐めている事はすぐに見つかって、母親に取り上げられた。
 次に好きだったのは、玩具のリボルバーの撃鉄。
 銃身自体はプラスチック製だったけど、撃鉄は金属で出来ていて、コルクの弾を飛ばすことができた。その金属の撃鉄を舐めると、これまた何とも不思議な甘さを感じたんだ。
 それでもって今はどうかというと、僕の相方ともいうべき眼鏡の「つる」。耳にかける部分だ。
 昔アニメでサングラスを外して口に咥えるキャラがいたんだけど、真似をしたら意外に美味しくて。それからは時々咥えるようになった。
 眼鏡ってのは視力嬌声器具であり相方であり嗜好品だったんだ。
 でも、悲劇ってのは突然起こるもので……。少し歯に力を入れたら、ぱきんと砕けてしまったんだ……。
 壊れた眼鏡を前に、僕は途方に暮れた。波の音だけが響いていた。

 助け舟を出してくれたのはチェルシーさんだった。
 チェルシーさんは、最近ヤスマル君が半土人の娘とよろしくやってるっぽい事を知っている。半土人社会にかたよった文明がある事も。
 そこで、ヤスマル君から半土人の技術者に新式眼鏡の提供を頼むよう、説得してくれたんだ。ヤスマル君は気乗りがしない風だったけど、渋々承諾してくれた。チェルシーさんには感謝の言葉もないよ!
 僕はぺたんとお尻をつけた正座で、ぽろぽろと感謝の涙を流した。
 涙越しのチェルシーさんは、プリズムに包まれて、エルフの女王のように神々しかった。

 三日後、新式眼鏡が届いた。凄く格好良いモデルだ。四角いレンズの、黒くてごつい眼鏡。フレームも分厚くて頑強そうだ。
「気に入った!」
 僕は手を叩いてはしゃいだ。
「うわあ! とってもクリアでよく見えるよ!」
「当たり前だ。彼らの技術力の粋を集めて開発された品だ」
 本当に凄い。まるで僕の骨格を三次元スキャンしてサイズ調節したかのように、ぴったりフィットする。でもちょっと重いかな。
「鉛でコーティングされているそうだ。放射能対策で。他にもいろんな便利機能があるらしいぞ」
 ふーん。なんだかわからんけどありがたい。
「どうです? 気に入りました?」
 チェルシーさんだ。僕は彼女を見るために眼鏡をかけていると言っても過言ではない。
「そりゃもう!」
 僕は彼女ににっこり微笑んだ。
 あれ? 視界の右端に何やら文字のようなものがチカチカ浮かぶぞ。まるで対象のデータを映しているかのように。でも半土人の文字だから何だかわからない。何て出ているんだ! チェルシーさんのどこのデータを表示しているんだ!
 僕はもどかしくて地団太を踏んだ。
「ああ! ちっくしょう!」
 僕はちょっと汚い言葉を吐いて顔を振った。ズビュン。一瞬、視界がピンクに染まった。
「きゃあ!」
「お、おい! 危ないな!」
 え、何?
 あ……。目の前の岩がどろどろに融解している……?
「急にビームなんて撃つなよ! 人に当たったらどうするんだ!」
 ヤスマル君が怒っている。え、ビーム? まさかあ。
「とにかく、落ち着け。慣れないうちに危険な機能が作動すると危ない」
「う、うん。ふー、落ち着け、落ち着け……」
 するとどうだろう。眼鏡の鼻当ての部分から、しゅーっ、と甘い匂いのガスが噴き出した。
「わ、なんだ! おい、大丈夫か!?」
「うん……だいじょぶ。なんか……へへ、気持ち良いかも。なんか……うん。うふふ、なんでそんな変てこな顔してるの? うふふ……」
 本当にもう愉快になってきちゃって、笑いがこみ上げてきて、まともに立っていられなくなった。もうね、皆の顔を見ているだけでおかしくって。髪型も変だし、顔が日焼けして皮が剥けてたりして、そんなおかしい事ってないもんね?
「うふふふっ、ちょっとお、もう、笑わせないでよね」
 僕は膝をガクガクさせてうろうろ歩いた。チェルシーさんもヤスマル君も、僕をなだめようと手を伸ばしているんだけど、決して触ろうとしなかった。
「こっちこっち! 捕まらないよーだ!」
 僕は追いかけっこが楽しくて仕方なかった。わざと、二人に挟みうちされるように逃げた。
「飛んで脱出だ!」
 僕はぴょーんとジャンプした。なぜだか鳥のように飛べる気分だったんだ。
 ぼうっ、という音とともに、目の前が真っ白になった。途端に、物凄い力で顔面を後ろへぐぐーっと押し込まれて、僕の体は浮き上がった。
「きゃあ! レンズから火が!」
「光子力ロケットだ!」
 え、なになにどうしたの!?
 依然僕は何も見えず、何ものかの力で顔をぐんぐんと押され、その押されっぷりが凄いものだから耳の外がごうごうと鳴っていた。
「ちょっと誰なの!?」
 僕はじたばたと手足を振り回したけれど何にも当たらない。誰か、恐るべき巨人が僕の眼鏡を掴んで、僕ごとぶるんぶるん振り回しているような気がした。
 こうなったら仕方ない。見えない眼鏡を外して確認するんだ。
 体中の血がすうっと抜けるような感じがした。僕のはるか下に、木々の天辺があった。そのずっと下に海岸があった。
 眼鏡が僕の手の中で暴れ、手を振り切って飛んでいった。
 僕は地面に吸い込まれていった。悲鳴も何も上げられなかった。

 風に流されて海に落ちたお陰で、僕は奇跡的に軽い脳震盪ですんだ。
 ヤスマル君は謝らないまでも、少しばつが悪そうにして引き上げていった。
 チェルシーさんは反省しきりだった。自分が余計な事をしたもんだから、僕が大変な目にあったと言って。僕はチェルシーさんが可哀想でたまらなかった。
 眼鏡は、自分の愛用の物のつるを取っ払って、紐で耳にかけるように改造した。なかなかローテクのロマンが溢れる格好良さだ。
「ヘロヘロさん、本当に御免なさい……」
 僕は何て言ってあげればいいか分からなくて、馬鹿みたいに黙って、もじもじしていた。波の音だけがしていた。
「電気ドリルがあったなら」
 僕は、そっと囁いた。

「電気ドリルがあったなら、とっても素敵なマシンに出来るのに、と思っていた。電気ドリルは憧れの武器。でも高くて手が出ない。友達も誰も持っていなかった。だから僕は、キリを火で炙って、それをプラスチクに押し当てて穴を開ける事にした。これで自由に軽量化出来ると有頂天だった。軽くすれば速くなると信じていたからね。
 シャーシに穴を開けて、骨ほね。強度なんて気にしない。電池が落ちそうになったらテープで止める。ボディも穴だらけ。穴をカッターで繋げてヤスリで整える。ウイングもすかすか。ダウンフォースなんて知らなかった。ホイールにも穴開け。モーターカバーも穴あな。冷却効果は準備オッケー。エアインテークパーツを友達からかき集めた。
 シャフトは焼き入れした。ラジオペンチとガスコンロで。シャフトだけは強度バッチリだった。紙ヤスリで薄く削ったスポンジタイヤを履かせて。
 僕のマシンは他社のコースをかっ飛んだ。高速ドライブ。最初のコーナーで大破した。バラバラにクラッシュ」

 僕の囁き声は、波の音に消されがちだったけど、チェルシーさんはじっと聴いていた。
 それからまた、僕は黙った。
 しばらくしてから、
「この紐眼鏡、似合います?」
 と聞いてみた。
「はい」
 と、チェルシーさんが言った。


<お知らせ>
次回、ドスコイ一家漂流記 第十七話「ギャングスター・サイドアーム・パーティー」
今回のお話は、眼鏡三銃士のような不思議な眼鏡があったら素敵だろうなあ、と憧れの気持ちを込めて書いてみました。


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僕たちの青春シリーズ ジョギング先生 第五話 (チャキオ)

2006-02-18 02:29:34 | ジョギング先生
 ジョギング先生 第五話 「走って走って肝冷やせ!」

「ジョギング先生やってくる(ジョギング先生 オープニングテーマ)」

 遠い街から 近い街まで ジョギング一筋 駆け抜ける
 寒い夜から 暑い朝まで ジョギング続けて 25年
 あれが我らの ジョギング先生
 言う事きかない不良でも 走れば分かる何事も
 引きこもるヤツはどいつだい? 
 苛められたら耐久勝負
 死ぬか 生きるか 走るか 止まるか
 夢見たいヤツから付いて来な
 俺が走れば異常気象
 やるか 負けるか 走るか 飛ぶか
 ららる~ ららる~ 僕らの街へ ららる~ ららる~ 足音がほら聞こえてくるよ


 その日は朝から猛烈に冷え込んでいた。もうすぐ春だっていうのにこんなに寒いなんて異常気象じゃないだろうか。寒がりの吉見竹豊(よしみ・たけとよ)はいつもの様に学ランの上にドテラを羽織って、どこから持ち出したのか教室の机をコタツに変えてミカンを食べていた。なんて可愛いんだ! 僕はさりげなく竹豊のコタツに入ろうとした。その時! 出たよっ! アマゾネス!! 安部中山聖(あべなかやま・せいんと)が!!
「竹豊クン。アタシ、冷え性だから一緒に入ってもいいかしら?」
 なんて事言いやがるっ! お前は冷え性じゃなくて、水虫だろっ! 移るから入れるものかよっ! さあ、あっさり断っちゃいなYo!
「いいよ。入りなよ」
 何てこったい! ジーザス!! 優しい竹豊はいとも容易く聖の入国を許可しちゃったよ。そして、また聖はニヤリと僕に向かって不敵な笑みを浮かべた。ギイィッ! 悔しいっ!!
 僕がひとしきり悔しがっている間に、深川洋一郎之介(ふかがわ・よういちろうのすけ)と柳沢基次(やなぎさわ・もとじ)がちゃっかりコタツに入っちゃったので僕のスペースが無くなった。何だってこんなことに……。僕は悔しくて悔しくて、走って教室を飛び出した。すると誰かにぶつかった。
 この寒い日にランニング。一人しかいない。ジョギング先生だ。
「どうしたんだい? ヒヨッコ。泣きそうな顔して……」
 僕は妙案を思いつき、お得意の上目遣いと涙目でジョギング先生に訴えた。
「皆がコタツに入ってて……僕だけ入れないんです……」
 僕のメチャクチャ可愛いウルウルビームは何て威力があるんだろう。ジョギング先生はまたしても、つられて泣いた。そして勢いよく扉を開けて教室に入った。さあ、奴らのコタツを壊しちゃってYo! ジョギング先生!
「お前達! そんなに寒がってどうする! お前たちの根性を叩きなおしてやる!! いいか! 良く聞くが良い。今日の夜、肝試し大会をするっ! 寒い日こそ肝を冷やして強くなるんだっ!!」
 ちょ……ちょっとっ! 何言ってんの!? アイツ!! 肝試しとかじゃなくて……コタツを……。コタツを……。
「何言ってんの!? ぜってーやだよっ!」
 寒がりの竹豊が猛反発した。ごめんよ……竹豊……。
「問答無用だっ! じゃないと頭を寒くしちゃうゾ!」
 皆、一斉にシーンとなった。もはや、その一言は脅迫だと思う。
「横暴だっ! ふざけんなよっ!」
 やっぱりクラスのリーダー竹豊だけは反発してくれた。でも、僕は内心冷や冷やした。だってウッカリ竹豊が角刈にでもなったら最悪だ。
「でもさ、何か楽しそうじゃない?」
 脳天気の洋一郎之介がニコニコしながら言った。本当に馬鹿だなあ。こいつ。
「まあ……確かにな……」
 って竹豊! 何、洋一郎之介に同調してんの? 馬鹿って言っちゃったじゃん!

 そんなこんなで僕達は肝試し大会をすることになった。お化け役に選ばれたのはくじ運の悪い徳本鼻三郎(とくもと・はなさぶろう)と基次だった。見るからにツイてなさそうだもんな。特に鼻三郎なんかは。
「ではでは。今日の12時。外人墓地に大集合だっ!!」
 何でよりによって外人墓地なんだよ。僕達はジョギング先生の思考回路について行けない……。でも、洋一郎之介だけは「やっぱ肝試しは外人墓地がスリラーだよね」とか訳のわかんないこと言うから困る。

 夜の12時。外人墓地。僕達は皆、良い子に集合していた。ジョギング先生はやる気満々でランニングの上に黒いマントを羽織っていた。けど、丈が中途半端だったから何のコスプレか分からなかった。予想ではドラキュラなんだろうけど、半ズボンがどうもしまらない。まあ、いい。正直、ジョギング先生の存在がお化けより数倍怖い。
 それに、案外肝試しは素敵な企画かもしれない。だって今日こそ、僕は竹豊に驚くべき素敵な事を言うんだ。ペア決めは肝心だ。僕は一目散に竹豊の元へ行った。すると、なんとすでに聖が竹豊の脇に位置していやがるっ! このままペアに流れ込もうとしているなっ! させるかよっ! 僕は慌てて聖を引っ張った。
「何よー。何か御用? アタシ、今、大変なのよ」
「いや、ちょっと。こっちこっち。向こうにミラクルが……」
 無理矢理、聖を引っ張り出してなるべく竹豊から離した。フンッ。ざまあみろっ! 僕は優越感に浸った。その時、大きなミステイクを犯したことに気づいた。しまったっ! 僕も竹豊から離れてしまった!! 時はすでに遅く、生徒達は皆、さっさと肝試しに進んでいて残るは竹豊の番になっていた。
「待ってーーー!! 竹豊――――っ!!」
 僕の叫びは竹豊には届かなかった。竹豊はあっさりと洋一郎之介と一緒に墓地の中に入って行った。他の生徒も全員いなくなっていて、結局僕は聖と組む事になった。なんてこったいっ!!

 後から聞いた話なんだけど、その頃お化けとしてスタンバイしていた鼻三郎と基次とジョギング先生は意外と面白いほど驚く生徒達を驚かす事がちょっとした快感になっていたらしい。三人は次々と驚かしていた。完全に調子に乗っていた。
「やるなあっ! ヒヨッコ! 先生も負けないぞウガーーーーーッ!!」
 先生は二人に対抗意識を燃やして鼻息を荒くしていたらしい。その頃からヤバイ気がしてたって基次が言っていたな。でも、アイツら、なんで三人固まって脅かしてたんだろう。普通、チェックポイントごとにお化けっていたりするよね。ま、ある意味あんな三人がまとめて出てくりゃ怖いよね。生徒達は本気で走り逃げてたって聞いたから、もしかするとお化けより怖いジョギング先生から逃げたかっただけなんじゃないの? 僕だってあんな人に追われりゃ逃げるよ。でも、僕は今、それどころじゃなかった。
 うっかりしていたけど、僕って本気でお化け屋敷が嫌いなんだ。ジェットコースターも怖いけど、お化けの方が数倍怖い。僕は不本意ながらも聖と手を繋いでしまった。だって仕方ないじゃない。命には代えられん。だからペア選びは重要だって言ったのに……。隣にいる聖が竹豊だったらどんなに良かったか……。でも気づかなかったけど聖って意外とガッシリしてて、男らしいんだなあ。僕はペラペラなんじゃないか、っていうくらい細いからなんだか悔しかった。

 ジョギング先生はその頃、興奮しすぎてベクトルがぶち切れたらしい。そのまま、墓石をなぎ倒しながら、逃げる生徒を追いかけて行った。なんて罰当たりなんだ……。
 基次と鼻三郎は慌てて先生を追ったらしい。その時、古臭い墓石に鼻三郎がぶち当たったんだ。ズレた墓石の中から真っ赤な光がカッと飛び出した。それと同時にどこからともなく呻き声が聞こえてきた。
「な……なんだよう! 超キモイよ……」
「やダスよー。帰りたいダスー」
 基次と鼻三郎は縮こまってガタガタ震えていた。二人がしゃがんでいるすぐ下の土からボコボコと浮き上がる腐った手。異臭たちこめる薄暗い墓地。まるでスリラーだ。
「我々を目覚めさせたのは……誰だ……」
 轟く様な地下から湧き上がる声がこだまする。そして、腐った死体達がワラワラと集まってきて、すっかり怯えて動けなくなった基次と鼻三郎に迫る。
「うわぁぁーーーーーんっ!助けてーーーーーっ!! まだ死にたくないーーーーっ!! もっと華々しく活躍して……そうだなあ、まずは有名大学に入って……その後、一流企業に入社……そして日々、ジムに通い肉体を鍛え……のち、モデルと結婚……一男一女に恵まれ……」
 基次の人生設計の叫び声は墓地中に響き渡った。命の危機に面しているとはとても思えない。僕は驚いた。まさか、そんなスリラーな出来事が起きていたなんて、そんな基次の叫び声からは想像もつかなかった。
「何言ってんの? 基次?」
 その時、腐った死体に囲まれている基次と鼻三郎の元へ竹豊が駆けつけたんだ。
『竹豊~~~~~~!!』
 基次と鼻三郎は声を合わせて竹豊の名を叫び、すがりついた。竹豊は腐った死体達を踏んづけていたらしい。すごい奴だ。洋一郎之介も踏んづけてたみたいだけど、それは完全にウッカリ踏んだだけの事だろう。
「何だよ。コイツら。どうなってんの?」
 次々と現る腐った死体に竹豊は踏みつけながらも戸惑っていた。
「うっわーーー。マジでスリラーだね。俺、完璧に踊れるんだぜ!」
 そう言って、洋一郎之介はその場でMJばりに踊り始めたらしい。何てお馬鹿さんなんだろう、洋一郎之介って。でも、中々の踊りっぷりで一瞬、腐った死体を含めた皆の動きが止まったらしい。意外と凄いんだな。洋一郎之介って。

 それより、何より、大変なのは僕だよ。僕。僕たちの所にまで、腐った死体の群れは押し寄せたんだ。僕は失神寸前だった。お化け屋敷のお化けだって怖いのに、本物なんてケタが違うよ。僕は聖に必死でしがみ付いた。しかし、僕がもっと驚いたのはそれからだ。
 聖はオカマのくせに、もの凄い力で腐った死体を投げ飛ばした。
「フンヌッ!!」
 次々と腐った死体を放り投げていく。す……すごい……。よくオカマがバレーボールとかやると、すごく勇ましいじゃん。それと同じだった。忘れかけていたけど、聖ってそういえば男だった頃は空手とか習ってたっけ? とにかくフンフン言って腐った死体を投げ飛ばしていく聖は男の中の男だった。僕はついカッコいいなんて思ってしまった。命の危機って人を狂わせるんだね。これが「つり橋効果」って奴かな?
「すげーー聖!! ガンバレーー!!」
 僕は興奮した。興奮しすぎてウッカリ地面から出てきたばかりの腐った死体の手を握ってしまった。そして引っ張ったから、半分出てきた腐った死体と目が合った。
「ギャアァァーーーーーーーーーース!!!!」
 僕は倒れた。正確に言うと倒れかけた所で騒ぎを聞いて駆けつけた竹豊に支えられた。
「大丈夫か? しっかりしろっ!」
 せっかく竹豊が来てくれたのに、僕は気を失いかけていた。それでも、僕は最後の力を振り絞って驚くべき素敵な事を言おうと口を開いた。その時、上から何かが落ちてきた。白いランニングが消えゆく意識の中で目に入った。
「ジョ……ジョギング先生っ!!」
 僕の消えかけた意識は再びしっかりと元に戻った。
「どうしたっ! ヒヨコ達! お前たち以外は皆、もうとっくに帰ったぞ。あんまり遅いから迎えに来たのだ。さ、帰ろう」
 ジョギング先生は僕たちに普通に話しかけてくる。この群がる腐った死体が見えないのか? それとも腐った死体も生徒だと思っているのか?
「ムッ! 何だか見慣れない顔がいるな。お前、臭いぞ! 学校は共同作業の場だからもう少し皆の事も考えなさい!」
 ジョギング先生は思ったとおり、腐った死体もろとも、生徒だと勘違いしている様だった。いくら暗いからってそりゃ無いよ。
「先生! それは生徒じゃないよっ! 俺ら、そいつ等に囲まれてるんだよ!!」
 基次が慌てて叫んだ。
「え? じゃあ、この方々はどなた?」
「知らないよ! そんなの! こっちが聞きたいくらいだよ!」
 とにかく、この腐った死体どもをなんとかして欲しい。僕はもう怖くて怖くて何も考えられなくなっていた。後から後から、溢れ出る腐った死体達にいつしか僕達は囲まれてニッチモサッチモどうにもこうにもブルドックだった。
「ジョギングせんせ~! なんとかしてよ~~っ!!」
 僕は半狂乱で泣き叫んだ。ううっ。最悪だ。臭いしキモイし怖いし……。でも、そんなダウン寸前の僕を竹豊が支え続けてくれたのだけが、僕の意識を辛うじて保たせていてくれた。
 そんな僕達を見て、ジョギング先生が意を決したように叫んだ。
「よしっ! 先生に任せろ! こんな時の為に先生は密かに必殺技のコーチングを受けていたのだ。可愛いヒヨコ達は先生が命に変えても守ってみせるっ! 先生の一番星を見せ付けてくれるわっ!」
 僕達はジョギング先生の男気に少しだけ感動した。だてに冬でもランニングじゃない。熱い男だ。ジョギング先生は静かに息を吸い始めた。みるみる先生の顔が真っ赤になっていった。先生から猛烈な温度の上昇を感じ取れる。すごいっ! すごいよ! 先生!! 先生から燃え盛る火の幻が見える。
「フル・ジョギング・アタック!火の呼吸バージョン!!」
 そう叫ぶと同時にジョギング先生は亡者の群れに向かって突っ込んでいった。軽い小爆発が起きた。僕達は爆風で吹き飛ばされた。

「イッテテテ……」
 僕が気づくと皆、引っくり返って眠っていた。
「しっかり! 竹豊! 洋一郎之介! 基次! 鼻三郎! オカマ!」
 皆の顔をペチペチと叩いて起こした。
「う……ん……」
 竹豊が目を覚まして、辺りを見回した。
「あれ? 皆は? あれから……?」
 他の皆もノソノソと起き上がってきた。
「すっげー爆発だったね。戦隊物みたいだったね~」
 洋一郎之介はどんな出来事に出会ってものん気で羨ましい奴だ。
「ジョギング先生の必殺技って……スゲエな……」
 そう竹豊が言った時、僕達はハッと気づいた。
「ジョギング先生は!?」
 僕達は必死で探し回った。その時、ジョギング先生の物と思われる破れたランニングが木の枝に引っかかっているのを鼻三郎が見つけた。
「嘘だろ……。先生……。ジョギング先生……死んじまったのかよ……」
 竹豊が愕然とした。死んだなんて……そんな訳無いよ。あんなメチャクチャな先生が死ぬわけないよ……。でも先生の姿がどこにも見当たらないんだ。僕もその場でへたり込んだ。

 朝日が僕達を照らし始めた。あんなに恐ろしい腐った死体で一杯だった墓場は何事も無かった様に静寂さを取り戻していた。白い墓石に朝の光が反射してキラキラと眩しかった。
「墓場で散ったなんて……。皮肉だね……。ジョギング先生……」
 仕方ないから僕達は墓石の一つに『ジョギング先生』と書いた紙を貼り付けようとしていた、その時だった。
「グッモーニン! ヒヨコ達っ! 気持ちのいい朝だな!!」
「ジョジョジョジョ……ジョギング先生っ!!!」
 僕達はあまりの衝撃に皆で仰け反って、そのままへたり込んだ。
「先生……死んだんじゃなかったの……?」
「誰が死んだって?」
「だって……。先生、爆発して……粉々になったんじゃ……?」
 ジョギング先生はフフンと鼻で笑って自慢気に応えた。
「先生は新しい朝がくれば復活するのだ。ヒヨコ達がピヨピヨ眠っている間に先生はすでにジョギングを済ませて来たぞ。さあ、このままレディオ体操せねばな」
 そう言って、どこから持ってきたのかラジカセを設置した。途端に明るい音楽が流れてきた。駄目だ。悲しいかな、僕らはこの音楽を聞くと勝手に体が動いてしまう。
 朝の光を浴びて元気一杯、体操した。もう「昨夜の腐った死体が何だったのか?」とか「ジョギング先生が何でこんなにもピンピンしているのか?」とか夢か幻かなんてどうでもいいと思った。だって僕らはこんなにも輝いていたから。

 墓地から帰ろうとしたら、こんな朝っぱらからタルニーに会った。しかも墓地で。タルニーは亡き夫人の為に花を供えに来ていたらしい。僕達は一緒にお祈りした後、タルニーの店に寄った。そこで、作りたての天ぷらパンをもらった。お腹がすいていたから、熱々だったけど一斉にかぶりついた。天ぷらの中の油が染み出てきて僕達は皆、舌を火傷した。舌も思い出もヒリヒリして、いつまでも僕達の心に残り続けた。


「真夜中のジョギング(ジョギング先生エンディングテーマ)」
  
  あの雲をごらん どこまでも続くよ 
  流れに身を任せ 自分を捨て どこまでも風に乗せられて
  あの川をごらん どこまでも流れる
  せせらぎに踊らされ 石を転がし どこまでも水に攫われて
  
  君の目に映る物は 何なんだい?
  僕には教えてくれないね
  あの日君がくれた微笑は 僕に何をもたらしただろう
  君といつか星になれると 信じてララバイ



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ドスコイ一家、漂流記15 (アヴダビ)

2006-02-18 00:05:23 | ドスコイ一家、漂流記(完結)
<<第一話から読んでみる>>

第十五話「自力救済原理主義」

 僕は男のくせにこそこそした行いをする奴が嫌いだ。男なら堂々と生きるべきだし、後ろめたい事など始めからやらなければいい。
 なんでこんな事を思うかというと、見てしまったからだ。ヤスマル君が女と会っているのを……。
 相手は土人の女だった。以前に見かけた、眼鏡神を信仰している種族ではない。なんというか、もっと洗練されている一族のようだった。
 ヤスマル君の相手をしているのは、土人のくせに国防長官でもやりそうなほどに知的で戦略的で戦術的な顔つきの娘だった。気の弱い僕にはちょっととっつき難そうな面構えで、肩をいからせてきびきびと動く。神経質なほどタイトなぴっちりした腰みのに、鱗皮のハンドバッグまで下げている。
 インテリゲンチャめ!
 土人だけどもインテリ。半土人とでも言うべき種類の女だった。怪しすぎる。
 とにかく、僕は自分の能力をひけらかす輩が大嫌いなんだ。ヤスマル君も本来はそういうタイプだ。こういう輩は他人を認めようとしないんだ。
 む、ではどうして排他的性格であろうと思われる両者が、こうも気の抜けた表情で談笑しているのだろう。これは単なる異性交遊ではない。何らかの黒い意図が見え隠れするぞ……。
 僕は奴らの逢瀬の会話を盗み聞きするため、こっそり近寄ろうとした。藪ががさりと鳴ってしまった。
 しまった。
 途端に半土人の娘が、マスコミを見るような険しい目付きで僕の方を睨んだ。その横でヤスマル君は「どうしたの?」とでもいった馬鹿面をしている。僕は息をつめた。
 半土人はハンドバッグの中をごそごそやって、何かを取り出し、間髪入れず僕のいる藪へ向かって投げた。
「!!」
 殺気がレーザービームのように僕を貫いた。刃の冷たさを額に感じた。死を自覚した際に得られる集中力で、僕はその兇器を凝視していた。
 兇器、それは女性用の眉毛のお手入れ剃刀だった! 一枚刃の。だが、この波動は? 刃が……動いている! そうか! 剃刀の柄の部分に小型モーターが内臓されていて、それにより毎秒数百回のなめらかな微小波動(マイクロパルス)を起こしているのか! これにより無駄な力をかけずに思い通りの眉ラインを作り出せる!
 そこまで分析した時には、兇器は僕の眉に触れる直前だった。
「ハ!」
 僕はインパクトの瞬間、兇器の進行方向に同調するよう体を錐揉みさせ、威力を逃がした。
「どうした? 何かいたの?」
 ヤスマル君がそんな声を出した時には、僕はすでに「ナーオ、ナーオ」と猫の鳴き真似をしながら、四足で逃走していた。

 今夜、ヤスマル君は外泊だそうだ。
 僕が遠出すると言うと、皆は何かにつけてうるさく注意したりやめるよう説得しようとしたり叱ったりするくせに、僕より年下のヤスマル君の言う事には誰も言いがかりをつけたりしない。
 まあ僕の時だって、僕が黙って出掛けた場合は誰も追ってきたりはしないんだけどね。
 そんなわけで、今夜はヤスマル君の寝床に代わりに僕が寝かされる事になった。
 僕は普段は外のハンモックで寝るように命じられているんだけど、今夜は特別だ。と言うのも、昨夜寝惚けて派手に寝返りを打った際に、ハンモックが首に絡まって意識不明に陥ってしまって、明け方カモメに突付かれているのをドスコイ警部に発見されるという失態をおかしてしまったんだ。
 そういうわけで、寝相が直るまではしばらくは小屋の寝床に四肢を蔦で固定されて寝かされる事になったんだ。ミイラみたいに。猿ぐつわもされていた。
 ちょっとやり過ぎな感はあったけど、まあそれくらい拘束しなければ、警部が僕とチェルシーさんを同じ屋根の下に寝かすわけはないんだよね。
 警部はそんなぐるぐる巻きの僕に安心したのか、手製の果実酒をたらふく呑んで、珍しく泥酔して、僕のハンモックによじ登って寝てしまった。
 僕はおやすみなさいを言おうとしたけど、口が塞がれているので何も言えなかった。チェルシーさんが困ったように笑ってから、あらためて僕に、優しく、丁寧に、目隠しをした。

 恐ろしい夢を見た。
 借金を踏み倒して高飛びしようとしたんだけど、ヤクザに捕まってしまい、人気のない埠頭で、ドラム缶にコンクリート詰めにされる夢だった。こんな夢を見たのは全身を縛られて寝かされたせいだ。
 とにかく僕は汗だくで目を覚ました。だけども、目隠しされているので真っ暗だ。いや、待てよ。黒の中に、青の亀裂がある……?
 僕は何度もまばたきしてみた。サリサリと、かすかな音がした。青い亀裂が少しだけ開いた。青は、目隠しの向こうの夜の色だった。目隠しに裂け目が出来ていたのだ。
 目隠しを裂いたのは、僕の眉だった。
 昼間、半土人の投げた眉用剃刀は僕の眉をかすっていた。その時に切られた毛の断面が、あまりに鋭く、ノコギリの役目を果たしたに違いなかった。今の僕の眉を拡大して見れば、竹槍のように見えるはずだ。
 そうと分かれば!
 僕はせっせと眉間を動かした。なんでかって? チェルシーさんの寝顔を見たかったからだよ。
 ついに目隠しがはらりと落ちた。僕の前に夜の世界が現れた。
 だが、そこで低い呻き声を聞いてしまったんだ。

 声はチェルシーさんの方からしていた。チェルシーさんが寝床の中で、小さく、もぞもぞと動いているようだった。何をしているのだろう。
 と、また小さく、低い呻き声。押し殺したような、深い吐息。
 僕は怖くなった。どうしたんだろう。苦しいのかな。
「んっ」
 チェルシーさんはまたも小さく声を洩らし、肩をびくびくと震わせた。
 僕は気が気じゃなかった。大変なことが起きている。異常事態だ。僕は一瞬で、今チェルシーさんに何が起きているのかを知った。悪霊に取り憑かれているのだ……!
 最近ヤスマル君がステディにしている半土人。奴らの中のシャーマンが今夜、悪霊をチェルシーさんに憑依させようとしているのだ。ヤスマル君が丸め込まれてチェルシーさんの心の秘密でも喋ってしまったに違いない。そういう秘密を鍵にシャーマンは儀式を行うらしいから。
 ヤスマルの裏切り者め!
 そうこうしている間にもチェルシーさんは自分の指を噛んで声を殺しながら、すすり泣いている。掛け布団代わりの麻布の下で、依然手がもぞもぞと動いている。
 もう時間が無い! チェルシーさんは乗っ取られる! 僕のチェルシーさんが、得体の知れない半土人の邪悪な悪霊に!
 僕の頭の中では、死んだ赤ん坊の頭蓋骨を収縮するまで煮詰めた物を数珠繋ぎにして首にかけ、体中に神々の目のマークを刺青したシャーマンが、どろどろした黒くて苦い神酒を呑んで、太鼓のリズムに踊り狂いながら、一九八〇年代型キーボードタワーに囲まれて、せわしなくあちこちの鍵盤に手を伸ばすイメージが湧いていた。
 こんな気持ち悪いイメージのシャーマンにチェルシーさんをすきにさせてたまるもんか! チェルシーさんは僕が実力で守る!
 僕はぐるぐる巻きの体のまま、腰のばねだけでがばっと跳ね起きた。
「んー! んー!」
 叫びつつ、ぴょんぴょん跳ねながらチェルシーさんの寝床に駆け寄り、彼女の麻布を蹴り上げた。
「!? きゃああ!」
 チェルシーさんは僕を見て慌てて下着から手を抜き、絶叫した。
「んー! んーん!」
 チェルシーさん! 安心して僕です!
 チェルシーさんは僕の声に0.5秒で飛び起きた。その目は混乱と羞恥と憤怒で、太古の地球のマグマのように荒れ狂っていた。
 その迫力に僕は怯んだ。
「んんー!?」
 あれえ!? チェルシーさんの肉体が、瞬きをした間に膨らんでいた。いつものあれだ……。
「うおおお!」
 超筋肉と化したチェルシーさんは両腕を目一杯伸ばしたまま、その場でコマのように回転した。ダブルラリアットだ!
 丸太のフルスイングのような一撃が、僕の顎関節を打った。僕はその一撃で小屋の外まで吹っ飛ばされるはずだった。だが、体が浮き上がった瞬間に、回転するチェルシーさんに引き寄せられ、もう一撃を喰らった。
 なんということだろう。一撃目の衝撃で、僕を縛っていた蔦が解け、あろう事かチェルシーさんに引っ掛かってしまったのだ。チェルシーさんに蔦を巻き取られる形で繋がってしまったのだ。チェルシーさんの回転に連動して僕も回転する。そうして引き寄せられては殴られ、を繰り返した。喧嘩ゴマのように。
 何発目かの超打撃を喰らった時、頭の中で、凍らせた果物をミキサーにかけた時のような音が聞こえた。それ以降は何も覚えていない。

 眩しかった。焼けた砂が、頬に熱かった。耳元でぎゃあぎゃあと騒がしい。カモメが、僕の耳や鼻を突付いている。血が出ているようだった。
「こら! あっち行け!」
 誰の声? ヤスマル君の声だ……。
 僕はヤスマル君に救助されて、小屋に運び込まれた。もう日は随分と高くなっていた。
「まったく、何で砂浜で血なんか流して倒れてたんだよ」
 そう言われても、僕にもさっぱり分からなかった。
「うう、それにしても痛いや」
 チェルシーさんに心配してもらおうと大げさに頭を抱えてみたけど、チェルシーさんは目も合わせてくれなかった。これもなぜだかさっぱり分からなかった。


<お知らせ>
次回、ドスコイ一家漂流記 第十六話「スパイク・ヘッド、ハーフ・アイ」
今回登場した半土人のアイデアは、春日氏とrin-may氏からいただきました。ありがとうございました。
でも全然物語に活かせませんでした。申し訳御座いません。
児童文学にはあまり適さないと思いました。


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ドスコイ一家、漂流記14 (アヴダビ)

2006-02-16 21:21:44 | ドスコイ一家、漂流記(完結)
<<第一話から読んでみる>>

第十四話「くノ一桃源郷」

 眠れない夜。僕には珍しい。でも理由はある。昼間ほとんど寝ていたんだからね。
 一人、小屋の外のハンモックに横になっていた。ここからは海が見える。黒い海。波頭だけが、月に照らされて、白く、白く……。
 あれ、何か聞こえる? きいぃぃん……。空? 寝返りを打って、天を振り仰ぐ。星空。それを裂く、赤い砲弾。
「流れ星!?」
 赤く燃える流れ星!
「ひやあ!」
 流れ星は火花の尾を引いて、僕らの上空を通過し、島の反対側へ飛んでいった。しばらくして、ばーん、と音が聞こえた。
「流れ星が島の近くに落ちたんだ……」
 僕は怖くなって、小屋を振り返った。誰も今の音には気がつかなかったらしい。
 僕はすぐにでも確認しに行きたかったけど、夜中に皆を起こすのは悪いし、一人で行くのも怖かったので、明日改めて見に行く事にした。とりあえず寝よう。全ては夜が明けてからだ。

 翌朝、結局僕が一番最後に目覚めた。チェルシーさんが貝のスープをよそってくれた。ハートが温まる味だよ。……昨夜の事なんてすっかり忘れていた。
 小屋のそばでぶらぶらしていると狩猟や道具作りの手伝いを命じられるのがおちなので、僕は皿洗いも早々に散歩に出かけた。
 今日も良い天気だ。綿飴の切れ端みたいな雲がちょこちょこと浮いているだけで、後は真っ青の空。気持ち良いや……。
 僕は海岸沿いをずっと歩いていった。島の反対側近くまで。そうして、地味だけど不思議な物体に出会ったんだ。
「岩が……浮いている……」
 そうなんだ。直径三メートルはある黒い岩が、海の波間にぷかぷか漂っていた。岩って水に浮くっけ? いや、そんなはずないよねえ。
 僕が渋い私立探偵みたいな目付きで見守る中、岩はそのまま砂浜に流れ着いた。僕は急いで近寄った。もちろん注意深くだ。当たり前でしょう。
 そうっと、勇気を出して、岩に触ってみた。驚いた。見た目は黒くて凸凹の岩。しかし、これが柔らかいのだ。ゴムのような手触り。岩じゃない!
 その時だった。岩の一部に、ばすっ、と穴が開いた。同時にぶしゅーっと空気が噴出した。僕は慌てて飛び退いた。それは臆病さからではないよ。毒ガスが噴き出したかもしれないからね。
 僕の目の前で、岩はどんどん萎んでゆく。
「耐熱バルーンがもったのは奇跡だな……」
 え、誰の声?
 と、空気を出していた穴から、手袋をはめた手が突き出したんだ! 僕は驚いて尻餅をついた。手は、穴を内側から破って広げ……。
 そうして今、僕の前に、見た事ない女の子が現れた。

 中学一年生ぐらいかな? 背丈は僕の胸ぐらい。
 肩や腰や肘なんかに赤いラインの入った白い装束を着ている。とっても動きやすそう。
 眉毛はすっと伸びていて、とっても真面目そうな顔つきだ。でも今その表情は、風邪で休んでいる間に勝手に面倒なクラス委員にされていたかのように、不安と戸惑いに震えていた。
 そう、震えている。顔が、ではない。頭の上に突き出ている、猫のような耳が、だ。あの耳……! 猫の耳。漫画で見たことあるぞ……! 僕はドキドキした。
「あ、あのお」
 恐る恐る話しかける。女の子は口を引き結び、警戒するように胸元を押さえた。
「漂流してきたの? 怪我は無い? 僕は怖い人じゃないよ。安心おしよ。僕は女子供を傷つける事をよしとしないタイプの人間なんだ」
 僕はくるくる回ったり、腰みのをめくって見せたりして、武器を持っていない事をアピールした。少女は安心したようだ。と、次の瞬間には、僕はこの女の子にねじ伏せられていた。
「あいててて! 何をするう!?」
 腕を捻り上げられ、顔は地面に押さえつけられて、砂が口の中でじゃりじゃりした。
「ここはどこだ! お前は誰だ! 他に仲間はいるか! 私の他に誰かを見たか! 答えよ!」
 でも、僕は悲鳴以外は上げられなかった。赤ん坊か、喧嘩中の猫かというぐらいに泣いた。言葉らしいものは出てこなかった。
 しばらくした後、女の子は尋問するのを諦めたのか、僕の髪を掴んで引き起こした。涙を拭う僕の体をはたいて砂を落としてくれた。髪も綺麗にしてくれた。本当は優しい子なのかもしれない。
「手荒な真似をしてすまなかった。私の名はアマナツ。貴様の名前だけ教えてもらおうか」
 アマナツはまだべそをかいている僕の髪を、手でとかしてくれた。ナチュラルな七三わけに。僕はようやく落ち着いてきた。
「僕、ヘロヘロってんだ。痛かったよ……。アマナツはどうしてこんな酷い事するの? いったいどこから来たの? あの岩は何? その格好は? そしてそして、その耳は?」
 あ、と思う間もなく、僕は再び砂の上にねじ伏せられていた。
「私の許可無く質問するな! 私に命令するな! 私は誰の所有物でもない! 私は誰の玩具でもない!」
「あいたたた! ち、違うよ、そんなつもりで言ったんじゃないよ! ただ、君が心配だったから聞いただけだよ! 怪我していないかとか、迷子じゃないかとか、お腹減っていないかとか、心配しただけだよコンチクショウ!」

 六分後。僕らは打ち上げられた丸太に座って、海を見ていた。ようやく僕の嗚咽が治まった頃で、アマナツが懐紙を取り出して僕の鼻を拭いてくれた。
「僕、女の子を奴隷のように扱ったりしないよ。首輪をつけたり、下着を穿かせないで街を歩かせたりしないよ。僕はフェミニストなんだよ」
「すまない……」
 アマナツの、猫っぽい耳が力なく伏せていた。その顔も、誤解から親友に嫌われてしまった少女のように、悲しく翳っていた。
「貴様を傷つけるつもりはないのだ。だが、貴様の支配下に落ちるのは、我慢ならないのだ」
 え、それってちょっと極端過ぎる話じゃない?
「私はもう誰の支配も受けない。そのために抜け忍の道を選んだのだ……」
 何だか意味不明な事を呟き出した。
「僕だって君と同じだよ。僕は君を家来にしたいなんて思っちゃいないよ。でも、女の子の子分になるなんてご免だよ」
 アマナツが僕を見た。追い詰められた小動物の目だった。思いつめた女の子の目だった。可愛くて、可哀想だった。
「でも、友達にだったらなってあげてもいいかな」
 少女が、はじめて外国人の教師から英語の授業を受けたように、戸惑いを浮かべた。
「友達……? 何……?」
「友達ってのは、ピンチに駆けつけてくれる人の事だよ」
「友達」
「うん。君って馬鹿だね」

「あはは」
「うふふ」
「!!」
 無邪気に水をかけっこしていた僕らの頭上に、赤い火の玉が、一直線に飛んできたのだ! なんだあれは! 危ない!
「伏せろ!」
 アマナツが僕を抱えて波打ち際に倒れ込んだ。
 赤い火の玉は、地面に激突する一瞬前に、破裂した。水蒸気が噴出し、辺り一面が白くなった。
「なんだなんだ何なに!?」
 海水にむせながら目を細める先、水蒸気の中に、長身の影が立っていた。髪の長い、女だ……!
「お前は、デスメロン!」
 アマナツが叫んだ。
 デスメロンと呼ばれた女は、紫色の装束を着ていたが、胸元や腰や太腿や二の腕は、粗い目のあみタイツで包まれていた。顔は美しく、妖しかった。昼間はドジばかりのOLが夜の副業で覚醒したかのように、己の残酷性に酔っている目。そうして、彼女の頭にも猫っぽい耳がついていた。
 女が、真っ赤な唇を捻じ曲げた。
「抜け忍は消せ。それが掟じゃ」
 アマナツが僕の耳を掴んだ。
「ヘロヘロ、出来るだけ遠くへ逃げて! 出来るだけ……振り向かないで!」
「そ、そんなこと言ったって」
 僕は打ち寄せる波にごろごろと転がされている。アマナツはもう僕の方を見ていなかった。
「時間はかけられない。スーパーチャージするわ……」
 アマナツの猫っぽい耳から、ヒイィィン、と高い音が聞こえた。同時に、どこからか光の粒子が、耳に吸い込まれてゆく……!
 少女は背中の刀を抜いた。真っ白く発光する刃。それを逆手に持ち、足元の砂が爆発し、少女の姿が消えた。

 アマナツとデスメロンは目で追えない速度で何度も激突し、ついにアマナツが弾き飛ばされた。砂浜に叩きつけられ、衝撃でクレーターが出来た。
「ア、アマナツ!」
 駆け寄ろうとした僕の足元に、アマナツの忍者刀が突き刺さった。間一髪だった。刀は一瞬で砂浜を貫き、もう、柄しか出ていない。
「死ねえ」
 デスメロンが、クレーターの中心、アマナツへと跳びかかった。アマナツは右足を振り上げた。ふくらはぎのバーニアから火を噴いていた。加速された回し蹴りがデスメロンを迎撃する。
 デスメロンは二十五メートルほど吹っ飛んだ。同時にそれを追うため、アマナツが跳んでいた。デスメロンが岩に激突した時、アマナツの指先は火を噴き、小さい薬莢がシャワーのように砂浜に降り注いでいた。
「や、やった!」
 僕は二人の速度に触発されて、限界を超えたスピードでガッツポーズを取った。だが、終わってはいなかった。
 肘から切り離して発射されたデスメロンの腕が、アマナツの首を掴んでいた。ワイヤーで、デスメロン本体とは繋がっている。
「死いねえ」
 弾丸に切り裂かれて、鉛色の地肌が見える顔で、デスメロンが言った。ワイヤーが光った。落雷の音が鳴り響き、アマナツが、声のない絶叫をした。
 僕は、いつ自分がアマナツの刀を拾い、二人の間に割って入って、ワイヤーを断ち切ったのか、覚えていない。意識していなかった。
 勢い余って転がってしまい、得意の前回り受身を取った時にようやく事態を理解した。
「ヘロヘロ! 次元断絶刀を!」
 アマナツの声。僕はその声の方へ、刀を突き出した。アマナツの手が僕の手と重なり、刀は抜けていた。
「秘剣! ねじり十字!」
 僕はその技を見ていない。ただ、直後に響いたデスメロンの絶叫と、僕を海の中まで吹き飛ばした爆風で、その威力を知った。僕は海水を目一杯飲んで、気を失った。

 夕方になっていた。僕は、浜辺の丸太の上に一人で横になっていた。アマナツの姿は無かった。腰みのに、折りたたんだ紙が挟んであった。

※※※

ロヘロヘうとがりあ
だ男のてめじはいなもで来家もで人主は様貴
いたいてしを話とっもと様貴
身るれわ追は私しかし
うろだい悪が合具はに様貴
く行に前るれかつい追に日夕は私
だばらさ
ツナマア 達友の様貴

※※※

 意味不明だった。あの子は馬鹿なのだ。仕方ない。今度会ったら手紙の意味を聞いてみようっと。


<お知らせ>
次回、ドスコイ一家漂流記 第十五話「自力救済原理主義」
僕もこれからは児童文学を目指していこうと思います。
もう、薄汚れた大人の読み物にはうんざりさ。
トーベ・ヤンソンさんみたいな作家って素敵ですよね。


<<第一話から読んでみる>>

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ドスコイ一家、漂流記13 (アヴダビ)

2006-02-14 22:24:39 | ドスコイ一家、漂流記(完結)
<<第一話から読んでみる>>第十三話「SOSが聞こえる」

「はあ、よい、よいっと」
 僕は一人、ダッシュ縄とびしながら散歩していた。僕は縄とびが得意だ。そこそこに。二重跳びは出来ないけどね。
「僕は縄とびが上手だ。でも、どうしてチェルシーさんは僕に惚れないのだろう……」
 謎だった。でも、哀しくはない。縄とびをしていると、妙に心強かった。まるでバリヤーに守られているような気分がするのだ。ヒュンヒュンと回る縄が、外界との間に障壁として張られているような。でも、実際は縄は何ものからも守ってはくれない。小学生の頃、校庭で縄とびしている時に、何度もボールがぶち当たった事があるもの……。
「しょせん、男は一匹ってことか!」
 僕は跳ぶのをやめ、縄をまるで鞭のように、ビシ、ビシリと振り回した。
 僕は海岸にせり出した崖の下を、露出した岩肌に沿って歩いていた。砂浜だ。蟹が足の間をうろちょろしている。
 僕は蟹に向かって鞭を振ろうとして……可哀想だからやめた。かわりに、横の岩肌をビシバシひっぱたいた。
 そうして、それに気付いたんだ。

 灰色の岩肌の一部が凹んでいる。そこに、半ばめり込むように、像のような物が立っていた。背丈は一メートルぐらい。こけしみたいな筒状の胴体の上に、どらやきの様な形の頭が乗っかっていた。
 像は、周りの岩と同じように苔むして、蔦が絡まり、一種神秘的な雰囲気を醸し出していた。
「そうか……お地蔵さんだ……」
 そうだよ、お地蔵さんの中にはこんな風に半分壁にめり込んで立っているのがあるもの。ちょっと頭は人間ぽくないけど、きっとこの島の土着のお地蔵さんに違いない。
 僕は咳払いして、姿勢を正した。僕は意外と信心深いのだ。
 それから、かしわ手を打った。僕は宗教に関係なく、神様っぽい存在にお祈りする時はかしわ手を打つ事にしている。そうしないと気付いてもらえない気がする。音を立てた方が景気も良いし。
「えと、チェルシーさんが僕にメロメロになりますように」
 僕は深々と頭を下げた。
 チュチュイイイン。ブゥーン……。
 何の音?
 目を開ける。お地蔵さんはそこに立ったままだ。と、閉じられていたどらやきの上下の生地に、ガッ、と三センチほど隙間が開いた。その隙間は、どらやきの餡子と同じように、黒かった。だが、次の瞬間には、赤や緑の光が、点滅しだしたのだ。
「お地蔵さんが、お目覚めに……?」
 僕は一歩下がった。
 お地蔵さんの筒状の胴体の、肩といえる位置が円形に開いた。そこから、マジックハンドをつけた蛇腹状の腕が、伸びた。左右ともに。
 呆気に取られる僕の前で、お地蔵さんは足元のキャタピラを回転させ、蔦をぶちぶちと千切りながら、岸壁から発進した。
 そうして僕の前まで来ると、黙々と体にまとわりついている蔦を引き剥がし始めた。
「え、ええと」
「オ帰リナサイマセ、ますたー」
 お地蔵さん、というか、ロボが言った。顔の点滅が、また激しくなった。キュピキュポと変な電子音もしている。
「……アナタハ、ますたーデハナイ」
 ロボは蛇腹状の腕を、力なく下ろした。顔の点滅がおとなしくなった。どらやき型の頭が、うな垂れた。
「アナタハますたート違ウ……。嗚呼、アナタハ何故ニ私ヲ目覚メサセタノデスカ。えねるぎーノ無駄デス。セッカク省えねもーどデ待機シテイタノニ。コレデますたーヲオ迎エ出来ル可能性ガ十四ぱーせんと減ッテシマイマシタ」
 なんだかよくわからんけど、このロボが憐れに思えてきた。それになんとなく、ばつが悪かった。
「ねえ、君。いったいどうしたんだい? 僕でよかったら話してごらんよ」
 ロボの平べったい頭が、キュキュインと小さい音を立てて動いた。まるで上目遣いをするように。
「アリガトウ。実ハカクカクシカジカデ……」

 ロボの言う事はこうだ。
 彼の名前は「コアグラⅡ」。執事ロボットだそうだ。
 なんでも彼の主人は地球救助戦隊とかいう秘密ボランティア結社のメンバーで、救助信号をキャッチしては凄いマシンに乗って駆けつける趣味を持っていたらしい。
 そしてこの島には、地球救助戦隊の二号マシンであり、コアグラⅡの主人の愛機である「マーブルアポロ号」の発着施設が設けられているんだって。
 それでもって、彼ことコアグラⅡは主人の片腕としてマシンのメンテナンスその他を担当し、充実した日々を送っていた。
 そんなある日、いつものように主人はマーブルアポロ号で発進し、……それっきり還ってこない。

「私ハ待ッテイマス。現在マデ、四十一年九十八日十四時間十二分間待ッテイマス。私ニハ待ツ義務ガアル。イツ還ッテキテモ、スグニまーぶるあぽろ号ノ整備ヲシ、ますたーノ背中ヲ流ス準備ハ出来テイマス」
 コアグラⅡの声には高低がない。単調な電子音声でしかない。でもそこには、押さえ込んだ哀しみが隠されているような気がして……。僕は胸が苦しくなった。
「ええと、コアグラⅡ……」
 すぐに還ってくるさ……。気休めならいくらでも言える。でも、そんなものは何にもならない。もうこれ以上、この忠実なロボに哀しみを積み重ねてもらいたくなかった。
「でもさ、マスター自身がSOSを送っていたらどうするんだい。助けを待っているのはマスターかもしれないじゃない」
 そうさ。僕やドスコイ一家のように、どこかの島にでも漂着しているのかもしれない。
 もしかして、君の事は忘れて、幸せに暮らしているかもしれない。……そんな事は言えなかった。
「シカシ、ソンナ信号ハ受信シテイマセン」
 執事ロボはすねたように言った。僕はむっとした。
「なんて馬鹿なんだい、君は! 助けを呼べないほどのピンチかも知れないじゃないか! 君には、君には誰かを心配してあげる優しさがないのかい!?」
「心配……優シサ……? 私ニハ待ツトイウ義務ガぷろぐらむサレテ……」
「へん、そんな言い訳聞きたくないね! こんなこと言いたくないけど、君はトンマだよ。命令されるまで人助けさえ出来ないんだ。落としたライター拾ってあげるのも許可がなけりゃダメなんだ。地球救助戦隊が聞いて呆れるよ」
 僕は熱くなっちゃって、言葉が止まらなかった。ひどいことを言うつもりなんてなかった。ただ、憐れという認識を持ちたくなくて。この、主人に忠実なロボに、可哀想という気持ちを持ちたくなくて……。
「地球救助戦隊ヲ侮辱スルコトハ許セマセン」
 コアグラⅡのマジックハンドが全開し、手首の軸からドリルが突き出た。
「ばかあ!」
 僕は犬を叱るように怒鳴った。
「君、思い出してごらん。マスターとのあの熱い訓練の日々を! 芳醇で香ばしい甘い日々を! あの頃、確かに君達は最高のパートナーだった。君はマスターのために全力を尽くした。マスターは君に全幅の信頼を置いていた。君達は二人で一つだった。どちらが欠ける事も許されなかったんだ」
 僕は知りもしない事を口走ったが、すぐに自分の言葉に酔い、自分の言葉を信じ込んでしまった。僕は泣いていた。
「君が駆動系に砂を噛んで立ち往生した時、マスターは靴も履かずに飛んできた。君がオイル風呂でショートした時、マスターは一張羅を着たままオイルに飛び込んでくれた。忘れるわけないよ……。君は、本当は、優しい奴だもの……」
 コアグラⅡはガクガクと震えていた。頭の点滅が激しくなる。
「私ハ……私ハ、ますたーニ会イタイ……」
 ロボのマジックハンドが、僕の腕を掴んだ。
「アナタニ協力シテモライタイ」

 コアグラⅡは、彼がもと立っていた岩肌の窪みに戻り、壁をいじっていた。
「ねえ、君はずっとここに立っていたんでしょ。君のマスターもその辺でテントでも張って寝ていたの? だったら別にこの島でなくても良かったね」
「施設ハ全テ岸壁ノ中ト地下ニ隠サレテイマス。私ガ外ニ立ッテイタノハ、自分ノ目デますたーヲ確認シタカッタカラデス」
 コアグラⅡの手元で、ピポ、と音がした。
 途端に、ドドドド、と大きな音が真後ろの海岸から聞こえ、僕は驚いて振り返った。ランダムに生えていたヤシの木が左右に倒れてゆく。まるで、海までの道が開かれるように。
 その道が、地鳴りとともにせり上がってきた。砂を割って、コンクリートの道が。道は、上り坂だった。そう、これは海岸に偽装された滑走路だったのだ。
 阿呆みたいに棒立ちの僕を、ロボは岩肌の窪みまで引っ張っていった。
「イイデスカ。私ガ合図ヲシタラ、コノぼたんヲ押シテ下サイ。かたぱるとガ作動シマス」
「え、カタパルト?」
 コアグラⅡのどらやき型の顔が、微笑んだような気がした。
「ますたーヲ助ケニ行クノデス」

 キュラキュラとキャタピラを回して、コアグラⅡが航空機用のカタパルトに跨った。
 蔦のかけらがこびり付き、苔がむして、雨ざらしだったせいで塗装も剥げている。そのボディが、太陽に眩しいほど輝いている。そのどらやき型の横顔には、覚悟した者の気高さが漂っていた。
 執事ロボがマジックハンドの手を上げた。
「我々ハ戻ッテキマス。ソノ時ハ楽シイ土産話ヲシテアゲラレルデショウ」
「うん。そうだね」
「サヨウナラ」
「さようなら」
 コアグラⅡが手をさっと下ろした。僕はボタンを押した。
 バシュッ! と凄い音がした。ネジがいくつか転がって、コアグラⅡの姿は無かった。
 ヒイィィィーン……。嫌な、高い音。海の方。コアグラⅡが飛んで行った方角。
 と、彼方で小さく、ぱっ、と光った。
「きっと会えるよ。うん、会えますように」
 僕はその光に、手を合わせた。


<お知らせ>
次回、ドスコイ一家漂流記 第十四話「くノ一桃源郷」
なんだか気持ちが満たされないと思っていたら、忍者不足でしたね!
ふうー、危ない危ない。


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