ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

加速する大学の2極化と地方大学(その4)ーではどうすればよいのか?

2013年03月29日 | 高等教育

 さて、この3月で国立大学財務・経営センターの理事長の3年の任期を終え、4月からは地元三重県の鈴鹿医療科学大学に学長として戻ることになり、先日、文部科学省へ挨拶回りに行きました。

 そしたら、科学技術政策研究所長の桑原輝隆さんから、「この1か月ブログを更新していませんね。実は、毎週先生のブログをチェックしてるんですよ。」と言われてしまいました。前回のブログの日付を見てみると、2月12日となっており、これは、ずいぶんと日を空けてしまいましたね。

 実はこの間、財務・経営センターの私としての最後の仕事に睡眠時間が短くなるほど忙殺されていたのです。それは、財投機関として、国立大学病院の再開発に対する貸付に際しての審査基準の見直しをする作業でした。僕の任期が来る今年度内に目鼻をつけようと、自分の頭と体力をフル回転させて頑張っていたのです。

 大学病院の教育、研究、高度医療、地域医療への貢献という公的使命はあまりにも大きなものがあるので、民間金融機関のように、単に償還確実性だけを見る審査では不十分で、地域や国民が求める大学病院の公的使命をきちんと果たしていただくことを含めて審査をしないといけない、というのが僕の考えです。したがって、その審査基準は民間金融機関とは異なって当然であり、それでこそ公的な財投機関としての役割を果たせるわけです。

 後日、もし機会があれば、公的使命の達成も考慮に入れた独自の審査基準についてご紹介することとして、今日は、前回のブログの続きですね。今年度中に、僕としての最終的な結論をお話して、財務・経営センターの理事長としてのブログに一応の区切りをつけたいと思います。もっとも、このつぼやきブログは、鈴鹿医療科学大学の学長になっても続けるつもりですけどね。「ある地方大学元学長のつぼやき」というタイトルの「元学長」は、現役の学長にもどりますので、ちょっと言葉を変えないといけないですね。

 さて、過日3月22日に、僕が委員を務めている、科学技術政策研究所(NISTEP)の定点調査委員会のワークショップがありました。「大学の基礎研究状況をどう考えるか、これからどうすべきか」というテーマです。定点調査というのは、大学、研究機関、企業の一定の研究者を対象として、研究現場の主観的な実感をさまざまな角度から継時的に調査して、研究環境の動向をつかもうとする調査です。NISTEPの主任研究官の伊神正貫さんを中心とした膨大な調査で、景況を調べる日銀の短観の主旨とちょっと似ていますね。つまり、数値データとして出る前に、動向をつかむことができる。

 この調査では、予算や人が削減され、研究時間が圧迫されている研究者たちの苦悩が浮き彫りにされています。そして、実際にこのワークショップが行われた新霞が関ビルの会場に集まった大学や研究機関の研究者の方々から、研究現場の厳しい状況を踏まえた意見や質問がたくさん出ました。定点調査委員会の委員は、会場の前方に座り、会場に集まった皆さんからの質問にお答えをし、それぞれの意見を述べました。

 定点調査からも、また、会場に集まった研究者からも、多くの研究者が指摘をしたことは、基盤的研究費の削減と研究時間の減少が最も大きな問題であり、その確保が研究活動の活性化に欠かせないということでした。これは、地方大学だけではなく、旧帝大のような研究大学とされている大学の研究者も、まったく同じことを訴えています。この2つについては、僕が日本の論文数の停滞の要因として、以前から、一貫して主張してきたことがらですね。

 もちろん、旧帝大よりも地方大学の状況は厳しく、特に東大から、海外の研究機関で活躍され、日本の地方大学に赴任された先生が、研究予算の少なさ、研究時間の少なさなど、大学における研究環境の劣悪さを切実に訴えておられたのは印象的でしたね。旧帝大から優秀な先生が地方大学に赴任しても、その研究力が十分に発揮できずに感じる憤りや悲哀みたいなものを感じました。そういう私も、大阪大学という旧帝大から三重大学という地方大学に赴任した一人であるのですが・・・。

 大学によって異なりますが、ある大学では1年間に大学から一人の教員に配分される教育研究費は20~30万円にすぎず、これでは、コピー代や、学会へ出席する費用だけで消えてしまいますね。科研費などの競争的研究費をとろうにも、それまでの研究実績が大きく審査に左右するので、応募することに必要なベースとなる研究もできない。おまけに、教員の定員は減らされているので、教育や雑用の負担はどんどんと増え、研究時間が減っていきます。

 一方で競争的研究費は一部の研究者に集中化され、中には使い切れずに困っている(?)研究者もいる。

 「基盤的経費の削減+競争的研究費による選択と集中」というのは、この10年以上にわたって、国が一貫して大学に対して行なってきた基本的な政策でした。そのために、大学の2極化が効果的(?)に進んだことは、先のブログも含めて、何度もご説明してきましたね。そして、昨年出された「大学改革実行プラン」では、それまでの大学への基盤的経費の定率的な削減を、メリハリをつけた削減にすると記載されています。つまり、今後は基盤的経費すら「選択と集中」をするということであり、定点調査で明らかになった、現場の研究者の皆さんが改善を訴えておられる苦境は、改善するどころか、逆の方向へいっそう進んでいく可能性が高いということです。

 では、いったい大学はどうすればいいのか?

 定点調査委員会の委員の皆さんは、それぞれの意見を順番に述べていきましたが、僕は次のようにお話ししました。(実際にしゃべった文言と違うかもしれませんが・・・)

「僕は、種蒔きと選択と集中のバランスが大切であると考えているのですが、まことに残念ながら、政府の政策決定をする多くの方々は、とにかく選択と集中をしさえすればいいと思っています。科研費はバラマキであるので効果がないと言っている人もいるくらいです。最近の科学技術政策研究所の調査により、少ない研究費を多数の研究者に配分する基盤研究Cの方が、件数あたりのトップ1%論文数は少ないものの、投じた研究費あたりのトップ1%論文の数は多い、つまり注目度の高い論文の生産性が大きいという結果が出ており、これは、種蒔きと選択と集中のバランスの大切さを示している結果です。

 大学改革実行プランでは、一握りの研究大学は守られますが、残念ながら地方大学の状況はますます厳しくなると思われます。もう、教員の皆さんに平等に研究時間を確保することは困難となり、研究中心の先生と教育中心の先生とに分かれざるを得ないと思います。

 大学改革実行プランでは、学長が大学の中で、トップレベルと競争できる学科・専攻を選定し、選定した学科・専攻に学内の資源を集中化することが求められています。そして、国はそのような選択と集中をした大学に対して支援をすると書かれています。

 逆に、学内で選択と集中のできない大学は、国からの支援が受けられずに、どんどんとじり貧になり、専門学校化し、いずれXdayを迎えることになると思います。

 地方大学は、大学の一部に世界と競争できる部分を創るために、大胆な学内の再編成をするか、規模が小さくてそれができない地方大学は、近隣の大学と連携・統合して、その一部に世界と戦える部分を創るしか、生き残る道はないと思います。」

 このような僕の発言に、フロアから「具体的に学内で選択と集中をすることができるのか?各学部に配分している予算や人員に差をつけることは実際には難しいのではないか?」という質問をいただきました。

 僕は、以下のような主旨のことをお話しました。

 「既存の学部について選択と集中をするというのは、学長にとってもなかなか難しいと思います。具体的には、たとえば、独立大学院や、理研あるいは産総研のような仕組みの、学部教授会とはガバナンスが別枠の全学的な研究センター、あるいは産学連携センターを作ることが考えられます。研究力のある先生はそこで一定期間90%の時間を研究に専念していただく。そして、研究力がないということであれば、申し訳ないけれども学部に戻っていただいて、教育に専念をしていただく。そのような独立大学院や研究センターは全国的・国際的な公募をして、常に人事的な新陳代謝を図る。一大学でできなければ、連携・統合をして、複数の大学が共同してそのような独立大学院やセンターを創ることが考えられます。このような組織再編成や大学間の連携・統合は一刻でも早く実行する方が得策です。」

 さて、今年度は、残すところあと1日となってしまいました。4月2日に挙行される鈴鹿医療科学大学の入学式の式辞も考えないといけないんですけどね。明日もがんばって、今年度、つまり、財務・経営センターの理事長としての最後のブログを書きたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

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1 コメント

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Unknown (匿名)
2013-04-03 01:23:17
初めまして、こんばんは
基礎研究者を目指す人が旧帝大でも減ってるみたいですね。
このままだと将来の日本の科学力は新興国にも抜かれてそうですね。

旧帝国大の重点化される学部学科は各大学どのようになりそうでしょうか?
豊田さんの卒業した大阪大は医学部になるのでは
と自分は思いますがはてさて?
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