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【326】何度となく命を落としかけながら

 スワローさん【324】は男娼として常に警察の手入れ【329】にびくつきながら街角に立っていたのだが、特にまだ老いていて客が拒絶反応【325】を起こしていた頃には、あまりの空腹から目の前を泳いでいる魚【87】ならなんでも鵜呑み【314】にしたものだった。瞳孔を狙い定めて突進してくる鋭利なメザシまで器用に呑み込む始末だった。そのせいで「人には心臓が三つあるから二つ失っても生きていけるんだよ」といった妄言を信じ、心臓を二つとも売った際には時を失いかけた【331】のだが、路地裏で知り合った〈現代医学事典〉【277】が、モノクロの心臓をひとつ提供してくれたおかげで助かった。ただ、〈現代医学事典〉が心臓をたくさん持っていたため、二つしか持っていなかったわたしはやっぱり特別なのね、とスワローさんの心には深い傷跡が残った。他の連中には少なくとも心臓が三つあるからかなわない、と気弱になるせいか今ひとつ成績が伸びず、「おまえは最初から負けている!」と鵜匠に怒鳴られ、その通り、わたしは最初から負けている、と確信を深めるのだった。鵜頂点になる日はまだ先のようである。

 
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