カキぴー

春が来た

「恋と水素」& ヒンデンブルク号爆発事故

2014年01月15日 | 航空機
「恋しくて」 Ten Selected Love Stories は、村上春樹が編訳したアメリカの作家による短編恋愛小説9篇と、訳者自身の書き下ろし1篇を加えて1冊に収めたもので、発行部数が伸びてるらしい。 その中の一つ「恋と水素」Love And Hydorogenを、奇妙なタイトルに惹かれて真っ先に読み始めたが、飛行機マニアの僕にとってはたまらない一遍だった。 1937年に起きた飛行船「ヒンデンベルグ号爆発事故」の原因と、ナチ党員でゲイのカップルである乗組員を絡めたストーリーの発想が奇抜。

飛行船は空気より比重の小さい気体をつめた気嚢によって機体を浮揚させ、これに推進用の動力をつけて操縦可能にした航空機。 機体の大部分を占めるガス袋(気嚢)には水素もしくはヘリウムが使われ、乗組員や乗客を乗せるゴンドラやエンジン・プロペラなどは外部に取り付けられている。 機体後部に取り付けられた水平尾翼で機体を安定させ、垂直尾翼で方向を変えるのは通常の飛行機と同じ構造。

20世紀前半までは大西洋・太平洋横断航路などに就航していたが、フランクフルトからリオデジャネイロまで3日半、ニューヨークまで2日のスピードは、当時の特急列車並み。 ヒンデンブルグ号の船室は特等室並みの快適さで、世界最初の空に浮かぶシャワーで身体を洗うことができた。 ダイニングルームは一流ホテルの光景そのもの。 ディナーのあとは、ウエイターがバーカウンターからラウンジや読書室に食後酒のグラスを運び、窓から見える雲の上側は月光に照らされ、砕ける波のように明るい。

ゲイのカップルで年上の恋人は乗客の若い娘に気があるそぶりで、彼を一途に想う年下の青年は嫉妬の念で平常心を失っている。 そんな状態で点検締め付け中のボルトは、ちぎれそうな悲鳴を上げた。 目的地で繋留用マストに向けて飛行船が急回転したとき、構造体は過度の圧力を受け、締め過ぎたボルトがライフルの弾丸のように勢いよく弾け飛ぶ。 その反動で跳ね返ったワイヤーがガス袋をざっくり切り裂き、漏れた水素が飛行船のてっぺんで光っている静電気の火花に引火し、目も眩む光が下方にあるすべてを包み込む。

LZ129・ヒンデンブルグ号は5月3日ドイツ・フランクフルトを発ち、2日半の大西洋横断後、ニューヨーク近郊の空軍基地着陸の際、突如爆発炎上しながら墜落し、乗員・乗客97人中35人と地上の作業員1名が死亡。 この事故で水素を利用した飛行船の信頼性は失墜し、その役割を終えた。 原因が「ナットの締め過ぎ」は勿論フィクションだが、諸説ある中で可燃性外皮塗料への空中放電説が有力。 ところで短編集で僕の選んだベスト1は 「モントリオールの恋人」。 訳者の言葉を借りれば「大人の練れたラブストーリー」


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