カキぴー

春が来た

「デコンプ」(与圧装置の故障)と、低酸素症の恐怖

2011年07月25日 | 乗り物
2005年8月14日午前9時(現地時間)キプロス共和国のLCC、ヘリオス航空の522便ギリシャ・アテネ経由チェコ・プラハ行き、ボーイング737-300型機が、キプロス・ラルナカ国際空港を離陸した。 9時20分巡航高度のFL350(35000feet、10700m)に到達し、9時37分ギリシャ領空に入った。 しかし航空管制センターへのコンタクトがなく、再三の呼びかけにも応答しないため10時30分、「Renegade alert」(指示に従わない航空機がいる旨の警報)を発効、10時55分ギリシャ空軍のF-16戦闘機がスクランブル発進した。

11時20分、F-16が552便に接近しコクピットを目撃した結果、副機長(右席)が操縦桿にもたれかかっており、機長の姿は確認できなかった。 同機はアテネ国際空港に近い地点を降下しながら飛行し、2000フィートまで高度を下げて数回旋回した後、高度を7000フィートまで上昇し、12時5分、アテネの40kmに位置するGrammatikosから2kmの山岳地帯に激突炎上し、乗客・乗員121名全員が死亡した。 事故機があと5分飛行を続けていた場合、アテネ市街地に墜落の危険性を回避するため、撃墜命令を出す態勢にあった。

事故の原因は機体の与圧系統に異常が発生し、操縦室で急減圧を起したため、機長・副機長が同時に低酸素症に陥り意識を失なったもの。 機はオートパイロットで飛び続け最終的に燃料切れで墜落したものだが、墜落直前の10分間酸素マスクを装着し、操縦席に座って操縦を試みた人物が居たと、事故調査官は語っている。 それを裏ずけるものとして、ボイスレコーダーには緊急事態を告げるメイデイ(mayday)を発する男性の声が録音されてが、アテネの航空管制センターでは受信されておらず、異なる周波数で送信してたものと推測される。

こうした緊急事態に備えて、正・副パイロットの手の届くところに酸素マスクが常時備えられており、何をさて置いてもこれをまず装着し、3000mまで一気に降下するようエマージェンシー・マニュアルに定められている。 さらに客室の酸素マスクも自動的に降りてきて、乗客も酸素を吸いながら一定高度に達するのを待つことになる。 ところが事故機の場合減圧が余りにも急激であったため、パイロットは数秒で意識を失なったものと思われる。 それほどに低酸素症は恐ろしく、1998年にもプロゴルファー「ペイン・スチュワート」の乗ったプライベートジェット機が、45000フィート(13700m)上空でデコンプのためパイロットが意識を失い、自動操縦のまま幽霊飛行し、4時間後サウスダゴダ州アバディーンの草原に墜落、乗客4名とパイロット2名が落命している。

僕の乗っていた小型機は与圧装置がなく、9000フィート(3000m)を酸素なしの上昇限度としてフライトしていた。 しかし気象条件によっては12000フィート(3600m)を超えることもあり、この場合は必ず酸素マスクを装着し、30分おきに「血中酸素濃度」を測定し、90パーセント以上を保つよう心がけた。 一般的に「有効意識時間は、高度2万フィートで5~10分」とされており、運輸省航空局が監修するAIM-JAPANには、「20000フィートでは5~12分で、修正操作と回避操作を行う能力が失われてしまい、間もなく失神する」 と記載されている。 ところで「国際宇宙ステーション」の高度は120万フィート(400km)、もしここでデコンプがおきたら・・・などと考えると気が遠くなるので止めにしよう。


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