Pour new seas in mine eyes, that so I might
第85話 暮春 act.25-side story「陽はまた昇る」
ブルーブラック筆跡の波、うちよせる。
“愛しい君へ はじめまして、未来に生まれている君へ。”
最初から浸される、うちよせて惹く。
惹かれて慕わしい、まぶしくて、ただ憧れて嫉妬する。
こんなふう願われて生まれたのなら、自分は違う自分だったろうか?
「そっか…」
零れて想い、潮騒にとけてゆく。
ひいては寄せる海の音、あまい香ほろ苦い辛い。
座りこんだカーゴパンツ岩が沁みる、かすかな温度そっと呼ばれた。
「…英二、読めたかしら?」
「うん、」
肯いて白い紙まだ離せない。
ただのコピー用紙、けれど写された想い指から沁みる。
“君の名前はどんな願いの祈りに付くのでしょう。”
自分は、自分の名前は?
“考えるだけで幸せになります、そして逢いたくて祈ってしまいます。”
幸せになってもらえたろうか、自分は?
そんな自問うちよせる波の音、答えなんて解らない。
だって自分はこんなふうに、唯ただ愛されたろうか?
―こんな無条件じゃない、俺は、
無条件の愛、
そんなものがあるとしたら、この筆跡だ。
もう半世紀より過去の手紙、それでも筆跡あざやかな想い言われた。
「君のお祖父さんに新しい奥さんを迎えてとお願いしました、ってあるでしょう?愛してなかったら言えないことよ、」
低いアルト静かに微笑む、その言葉に筆跡たどる。
ほろ甘い風なびく浜辺の草地、岩に腰かけ向きあう瞳が言った。
「妻の座を、自分の居場所を他人に差しだしても、愛する人の幸せを願ってる言葉よ。愛しているからこそ言えるんだわ、」
切長い瞳まっすぐ自分を映す。
その目もと皺いくつも刻む、そこにある歳月が微笑んだ。
「この手紙に美代ちゃんはね、英二と幸せになることだねって周太くんに笑ったのよ?」
あの女が?
「ほんとに?」
「嘘ついてどうするの?」
切長い瞳まっすぐ微笑む、でも信じられない。
そんな本音に祖母が微笑んだ。
「周太くんの幸せを本気で願っていなければ言えないことよ、美代ちゃんは自分の感情も超えて周太くんを愛してる、」
自分の感情も超えて、?
―感情を超えて愛してる?恋愛だって感情だろ、なんだよそれ?
肚底つぶやく、渦まきだす。
何を言っているのだろう?苛立ちの視界、静かな瞳が言った。
「斗貴子さんは生涯、独身でいるつもりだったわ、」
低く響く静かな声、その眼ざし自分が映る。
目もと朝陽なめらかに皺きざむ、そこにある歳月が微笑んだ。
「研究者として独身をつらぬこうとしてたの、短い人生に誰かを付き合わせたくない、不幸にしたくないからって。文学と結婚するのって笑ってた、」
語るアルトやわらかい。
懐かしむ、そんな瞳が静かに笑った。
「そういう斗貴子さんと美代ちゃんが重なるのよ、美代ちゃんは健康そのものだけど、」
そんなこと、受け容れ難い。
それでも現実だろうか?
“共通点が恋になりました。”
ながめる筆跡も語る言葉、ほら?祖母の声を明かす。
「君が生きる時代は女の子たちも大学に行きますかって書いてあるけど、斗貴子さんの理想郷ってことよ。そこで生きる美代ちゃんが眩しいわ、」
潮騒さざめく、祖母が微笑む。
そうして綴られる手紙の想いに英二は口開いた。
「あの女に、小嶌さんにあって俺に無いものって、なんですか?」
共通点、理想郷、どちらも自分にはない。
そんなこと解っている、それでも訊いて言われた。
「男性として学者としての自信をプレゼントできるわ、親になる喜びも。女性で同じ道を歩くひとだからできることね、」
女性、同じ道。
どちらも自分にはない、求めようがない。
変えられようもない現実のほとり、想い波うつ。
―なにもない、俺は…愛されも、愛するも、
祖母の声なにも応えられない、わからなくて。
ただわかるのは筆跡の想い、それは自分の中にない。
“もしかして髪はくせ毛ですか、私がそうだから馨さんもくせ毛です。本は好きかしら、花を見るのも好きでしょうか。”
綴られる想いは「共通点」そこに無条件の想い息づく。
“共通点が恋になりました。”
ブルーブラックの筆跡が微笑む、輝いた幸福。
短くても終わらない永遠の祈り、想い、それが自分の現実を砕く。
「どちらも俺にないですね、女じゃないし学者でもない、」
口にして微笑んで唇、ほろ苦い甘い潮かすめる。
ながめる筆跡に波響く、波うつ想いくりかえす。
―どうして俺は…、
どうして自分じゃない?
どうして?
(to be continued)
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英二24歳3月下旬
第85話 暮春 act.25-side story「陽はまた昇る」
ブルーブラック筆跡の波、うちよせる。
“愛しい君へ はじめまして、未来に生まれている君へ。”
最初から浸される、うちよせて惹く。
惹かれて慕わしい、まぶしくて、ただ憧れて嫉妬する。
こんなふう願われて生まれたのなら、自分は違う自分だったろうか?
「そっか…」
零れて想い、潮騒にとけてゆく。
ひいては寄せる海の音、あまい香ほろ苦い辛い。
座りこんだカーゴパンツ岩が沁みる、かすかな温度そっと呼ばれた。
「…英二、読めたかしら?」
「うん、」
肯いて白い紙まだ離せない。
ただのコピー用紙、けれど写された想い指から沁みる。
“君の名前はどんな願いの祈りに付くのでしょう。”
自分は、自分の名前は?
“考えるだけで幸せになります、そして逢いたくて祈ってしまいます。”
幸せになってもらえたろうか、自分は?
そんな自問うちよせる波の音、答えなんて解らない。
だって自分はこんなふうに、唯ただ愛されたろうか?
―こんな無条件じゃない、俺は、
無条件の愛、
そんなものがあるとしたら、この筆跡だ。
もう半世紀より過去の手紙、それでも筆跡あざやかな想い言われた。
「君のお祖父さんに新しい奥さんを迎えてとお願いしました、ってあるでしょう?愛してなかったら言えないことよ、」
低いアルト静かに微笑む、その言葉に筆跡たどる。
ほろ甘い風なびく浜辺の草地、岩に腰かけ向きあう瞳が言った。
「妻の座を、自分の居場所を他人に差しだしても、愛する人の幸せを願ってる言葉よ。愛しているからこそ言えるんだわ、」
切長い瞳まっすぐ自分を映す。
その目もと皺いくつも刻む、そこにある歳月が微笑んだ。
「この手紙に美代ちゃんはね、英二と幸せになることだねって周太くんに笑ったのよ?」
あの女が?
「ほんとに?」
「嘘ついてどうするの?」
切長い瞳まっすぐ微笑む、でも信じられない。
そんな本音に祖母が微笑んだ。
「周太くんの幸せを本気で願っていなければ言えないことよ、美代ちゃんは自分の感情も超えて周太くんを愛してる、」
自分の感情も超えて、?
―感情を超えて愛してる?恋愛だって感情だろ、なんだよそれ?
肚底つぶやく、渦まきだす。
何を言っているのだろう?苛立ちの視界、静かな瞳が言った。
「斗貴子さんは生涯、独身でいるつもりだったわ、」
低く響く静かな声、その眼ざし自分が映る。
目もと朝陽なめらかに皺きざむ、そこにある歳月が微笑んだ。
「研究者として独身をつらぬこうとしてたの、短い人生に誰かを付き合わせたくない、不幸にしたくないからって。文学と結婚するのって笑ってた、」
語るアルトやわらかい。
懐かしむ、そんな瞳が静かに笑った。
「そういう斗貴子さんと美代ちゃんが重なるのよ、美代ちゃんは健康そのものだけど、」
そんなこと、受け容れ難い。
それでも現実だろうか?
“共通点が恋になりました。”
ながめる筆跡も語る言葉、ほら?祖母の声を明かす。
「君が生きる時代は女の子たちも大学に行きますかって書いてあるけど、斗貴子さんの理想郷ってことよ。そこで生きる美代ちゃんが眩しいわ、」
潮騒さざめく、祖母が微笑む。
そうして綴られる手紙の想いに英二は口開いた。
「あの女に、小嶌さんにあって俺に無いものって、なんですか?」
共通点、理想郷、どちらも自分にはない。
そんなこと解っている、それでも訊いて言われた。
「男性として学者としての自信をプレゼントできるわ、親になる喜びも。女性で同じ道を歩くひとだからできることね、」
女性、同じ道。
どちらも自分にはない、求めようがない。
変えられようもない現実のほとり、想い波うつ。
―なにもない、俺は…愛されも、愛するも、
祖母の声なにも応えられない、わからなくて。
ただわかるのは筆跡の想い、それは自分の中にない。
“もしかして髪はくせ毛ですか、私がそうだから馨さんもくせ毛です。本は好きかしら、花を見るのも好きでしょうか。”
綴られる想いは「共通点」そこに無条件の想い息づく。
“共通点が恋になりました。”
ブルーブラックの筆跡が微笑む、輝いた幸福。
短くても終わらない永遠の祈り、想い、それが自分の現実を砕く。
「どちらも俺にないですね、女じゃないし学者でもない、」
口にして微笑んで唇、ほろ苦い甘い潮かすめる。
ながめる筆跡に波響く、波うつ想いくりかえす。
―どうして俺は…、
どうして自分じゃない?
どうして?
(to be continued)
【引用詩文:John Donne「HOLY SONNETS:DIVINE MEDITATIONS」】
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