萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

山岳点景:濡羽玉、水鏡

2015-06-28 23:41:18 | 写真:山岳点景
夜鏡、雲×湖



山岳点景:濡羽玉、水鏡

雲の低い夜、湖面はかすかな灯に空映します。

あわい薄紅色に染まる雲、初夏6月でも冷たい風に大気は流れてゆく。
その動きも光も水鏡はすべて映して、漣もない静かな夜でした。

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第83話 雪嶺 act.7-side story「陽はまた昇る」

2015-06-28 21:44:00 | 陽はまた昇るside story
No more shall grief of mine the season wrong 邂逅の道
英二24歳3月



第83話 雪嶺 act.7-side story「陽はまた昇る」

午前4時、一歩から始まる。

「…は、」

そっと笑った息が白い、頬ふれる大気しんと張りつめる。
凛然と斬りつける低温さがりゆく、いま極まる冷厳に呼ばれた。

「宮田、白いヤツ持ったかね?」

訊いてくれる吐息も白い。
普段ない装備だから確かめてくれる、そこにある意志と信頼に英二は微笑んだ。

「はい国村さん、すぐ出せるようにしてあります、」
「ラストはすぐ脱げよ、解かっちゃいるだろうけどね?」

テノール低く暁闇に徹る。
この声をむこうも聴いているだろう、そんな緊迫に先輩が言った。

「宮田さん、分岐点が判断しにくいと思いますが、そのときは川音で判断してください、」

穏やかな声が教えてくれる、そのトーンも緊張は滲む。
ここまで張りつめた現場は初めてだ、それだけ難しい任務に尋ねた。

「川音ですか、浦部さん?」
「そう、道の崖下に沢があるんだ、行きは右側で帰りは左です、」

肯いてくれる顔に月光ゆるく白い。
まだ夜は明けない時刻、けれど照らす月に微笑んだ。

「解かりました、音を聞いたポイントは目印つけていきます、」
「それが確実だね、森の木も似てるから気をつけて?葉がないし雪が凍って見分けにくいと思う、」

また教えてくれる言葉に記憶が映る。
前はザイルパートナーがルートファインディングしてくれた、けれど今回は自分が先導する。
その責任と連れてゆく相手を目端つい探しながら上官が言った。

「解かってるだろうけど宮田、吹雪だしたら竹竿を使いな?雲かかってる辺りは危ないかもしれない、」

また念押してくれる言葉に視線がくる。
たぶん一言あるのだろう?そんな声が飛んできた。

「目印などつけるな、犯人から見えるだろう、」

ほら、横槍どうしても入れるんだ?

―ここまでくると戻ってほしくないみたいだな、そこまでの理由はなんだ?

戻ってほしくない、それは「生還してほしくない」ことだ。
こんなにも部下を「棄てたがる」意図はどこにある?探る隣から上司が笑った。

「ご冗談ありがとうございます、指揮官殿?」

さらり言い返し会釈して、ヘルメットの庇から横顔が哂う。
怜悧な瞳まっすぐアサルトスーツの男を刺して徹る声は言った。

「全員無事帰還が最優先任務です、宮田巡査部長よろしくお願いします、」

階級わざとつけて呼んでくれる。
こんな悪戯心つい笑いそうで、けれど籠る信頼に微笑んだ。

「はい、必ずSATの方を無事連れて戻ります、」

敬礼して笑いかけて、その真中でうなずいてくれる。
いつもの眼差しは底抜けに明るい、変わらない上司に頭下げて呼ばれた。

「あと宮田さん、銃座の雪壁についてですけど、」

まだ情報があるらしい。
その生存可能性に向き直ると先輩は続けた。

「あの斜面、雪壁いくつか出来てると思うんだけど切株があるのを選んでください。ものすごく大きいから埋もれていても解かると思う、」

地元出身らしい情報に可能性ひとつ近づく。
これを遣えたら戻れるだろう、ただ素直な感謝に笑いかけた。

「ありがとうございます、木に守ってもらいますね?」
「うん、落雷で折れた木だけど強いはずだよ、」

肯いて穏やかに微笑んでくれる、その眼差しが泣きそうに澄む。
この先輩が何を言いたいかなんて解っている、それくらい山は甘くない。

―雪崩に切株が耐えられるかなんて賭けだ、でも零じゃない、

いま3月春の季、起きる雪崩は危険度が高い。
しかも誘発の原因を作ろうとしている、その行く先に先輩が言った。

「宮田さん、解かってるだろうけど今の時季あの斜面はディープスラブの巣だよ、でもあの切株は残ってるから、」

ディープスラブは面発生乾雪表層雪崩に区分される。
起きやすい地形的特徴はない、しかし雪崩活動は分布する地形によって多様かつ特定の場所で起きる。
ようするに特定の山域・山・斜面・標高・方位で決まったポイントのみに問題点があり、そこと隣接する場所には存在しない。
発生、崩れ方は浅い弱層から小さな雪崩が起こり、それが深い弱層を刺激して発生するステップダウンが一般的。
弱層が浅い位置にある積雪の薄い場所を刺激し誘発するリモートトリガーも多い、そんな知識から訊いてみた。

「ディープスラブで残るなら、根を深く張っている切株なんですね?」
「そうらしいね、高木がそこは詳しいけど、」

応えてくれる同僚の名前に懐かしい。
まだ待機で眠っているのだろう、別れも告げられない相手に微笑んだ。

「戻ったら高木さんに何の木か訊きたいです、」
「訊いてやって?あいつ木の話は大好物だから、」

端正な貌が可笑しそうに笑ってくれる。
この顔もいつもは本音ちょっと小憎らしい、けれど今はただ親しい先輩が言った。

「もしもの時は切株の根元に顔つっこむんだ、あの切株なら大きいエアポケットが出来ると思う。ビーコンのスイッチ忘れないでください、」

きっと雪崩は起きてしまう。
いま言外に告げてくれる通り、山ヤなら誰も同じ意見だろう。
だからこそ今ここに仲間は立ち会わない、そんな判断も背負う上官も言った。

「宮田、いま浦部が言ったこと忘れるんじゃないよ?こんな天候条件はディープスラブが爆発しやすいね、狙撃なんざしたら雪崩のトリガー弾いちまう、」

ディープスラブの誘発条件については積雪が均一に深く堆積し天候が穏やかな場合は大きな刺激、強力な爆発物や大きな雪庇の崩落などを要す。
また予測は困難でいったん発生すると破壊的な規模となる、そして気象が大きく変化する春はディープスラブを目覚めさせやすい。
その期間は小さい刺激でも誘発は起こる、そんな現実へ透けるような明眸が笑った。

「いいね宮田、トリガー弾かれる瞬間が解かりゃタイミング解かるよね?」

トリガーは現実の引き金だ。
そこにある希望へきれいに笑った。

「おう、逃さない俺だって光一は知ってるよな?」

いま本来なら上司への敬語つかわなくてはいけない。
けれど今だからこそ対等でむかいあう、その信頼にザイルパートナーも笑った。

「英二はソンナ間抜けじゃないね、でなきゃ俺だってコンナマネさせないよ、」
「信用ありがとな、」

さらり笑い返して秒針たどりつく。
午前4時ジャスト、その刻み英二は敬礼と笑った。

「行ってきます、打ち上げの酒を楽しみにしてますね、」

戻ったら皆で呑もう?
そんな誘いに先輩も頷いてくれた。

「うん、今度こそ国村さんと宮田さんの歓迎会しましょう?慌しくて延期したままだ、」
「そうだったね、そこらへんヨロシク?」

からり底抜けに明るい瞳が笑う、その隣で端正な貌も笑っている。
この二人もこのあと辛い立場に向かうだろう、解かるから頭ひとつ下げた。

「国村さんと浦部さんにも辛い役をさせます、黒木さん達には俺が志願したこと伝えてください、」

今回の任務は山ヤなら誰もが辛い、そして自分の任務は反対意見も起きる。
こんなこと無茶だと誰も言うだろう、だからこそ下げた頭に穏やかな声が溜息そっと吐いた。

「宮田さんがいちばん辛いよ、同じ山ヤを撃つ手助けなんて…どうして、」

月光に白い吐息ゆれてゆく。
ヘルメットの庇から優しい眼差し見つめて、そのまま頭下げてくれた。

「長野の山ヤとして謝らせてください、山岳ガイドが登山客を襲うなんて恥ずかしい、」

山小屋に立て籠もる男は山岳ガイド、その出身地はまだ訊いていない。
それでも地元だから浦部は頭下げてくれる、そこにある誇りに山の警察官が笑った。

「浦部もう頭上げな?宮田とオツレサンが元気で戻ってくりゃナンも問題ないだろ、だから必ず戻れ、いいね?」
「はい、必ず戻ります、」

肯いて、そして敬礼もういちど交わし歩きだす。
行く先にウェア着たアサルトスーツ姿は佇む、その小柄な背格好が鼓動ノックする。

―きっと周太だ、あの背格好きっと、

アサルトスーツは見慣れない、けれど狙撃銃を背負う姿は一度だけ見ている。
その記憶と今この黒い姿は重ならす、そして信じたい願いごと笑いかけた。

「お待たせしました、行きましょう?」

笑いかけて、けれど返事ひとつ声は返されない。
ただ頷いてくれる顔もマスクとヘルメットに隠されて、それでも月光が瞳を見せた。

―黒目が大きい、周太?

暁闇まだ濃やかな闇、けれど黒目がちの瞳を月が照らす。
見あげてくれる眼差しは冷静で、だけど深く沈めた感情は透けてしまう。

―周太、俺のために泣いてくれてる?

静かな瞳、でも泣きそうに見えるのは自分の願望だろうか?
そんな想い歩きだす足元さくり雪埋もれる、それでも仰いだ真白な闇に月は照らす。



(to be continued)

【引用詩文:William Wordsworth「Intimations of Immortality from Recollections of Early Childhood」】

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山岳点景:野生×紫

2015-06-27 23:50:17 | 写真:山岳点景
紫にほふ、



山岳点景:野生×紫

菖蒲、アヤメの野生花です。
初夏やわらかな緑の湿原に咲く姿は凛と惹かれます。

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山岳点景:黄昏雲

2015-06-27 23:45:10 | 写真:山岳点景
途路の空より



山岳点景:黄昏雲

ぐるり300Kmの途中、夕餉の町@富士山麓にて。
あんまり綺麗な夕空でつい店から出て撮りました、笑

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雑談寓話:或るフィクション&ノンフィクション@御曹司譚366

2015-06-26 10:31:06 | 雑談寓話
「やっぱりそれって…結婚は体面と子供つくるためってことかな、」

そんな発言した花サンに言葉なんてかけるべきなのか?

ここで言う結婚=御曹司クン相手の結婚で、
こんな話するほど花サンは御曹司クンとの未来設計を考えている、
そこにある感情×事情と、そしてもう一方の言い分を記憶から言ってみた、

「たしかに御曹司クンは体面も大切だろね、でも子供がほしいのは体面や義務だけじゃないと思うけど?笑」

子供がほしい、

そんな願いはフツーでありふれているんだろう、
普通、だからこそ願いたい彼の言葉そのまま言った、

「息子とキャッチボールしたいってアイツ言ってたよ、」

これって花サンには意外だろうな?
そのままちょっと驚いた顔で彼女は言った、

「キャッチボールなんて、そんなこと御曹司サンが言うの?」
「言ってたよ、それには幸せなお母さんやれるパートナーじゃないと無理だろ?笑」

笑って答えながら改めて思った、
アイツがほんとに欲しいのは「お母さん」かもしれない?

祖母がめんどう見てくれた、
母は仕事か下のきょうだいに集中していた、
家庭のゴハンに憧れる、

そんなことを御曹司クンは言っていた、
そんな話するくらい飢えているんだろう、家庭&母親を。
だから選べない当然のことに笑った、

「御曹司クンが欲しいのは息子とキャッチボールして笑える家だよ、自分はそーゆーのアイツとは無理、だから花サンは自分に嫉妬する必要ないだろ?笑」

どう考えても無理だろう?
そう思ったまま言って、だけど花サンは疑問を投げた、

「でも普通に男女の恋愛だったら出来たんじゃない?どっちが男で女でも、智さんなら御曹司サンのこと幸せにしちゃいそうだもん、」

そーゆー解釈もあるんだな?笑
そして彼女の懸案事項でもあるんだろう、だから笑った、

「幸せになるほど逆にアイツを追い込むと思うよ?自分の一番になれないってさ、笑」

だって御曹司クンは「一番」になりたがっていた、
でも自分の一番は彼に超えられない、他の誰にも超えられないだろう?
そう思い知らされてきた今までを想いながら、花サンに訊かれた、

「私も御曹司サンを一番にはできないかもしれないよ?」
「だね、でも自分よりは可能性あるんじゃない?笑」

笑って思ったまま応えて、
そうしたらまた訊かれた、

「それって時間の差?一緒にいた時間、」

ほんとその通りだ?
そのままただ笑ったら彼女は少し笑った、

「大学生の3年未満、あのひとは私と一緒にいてくれて。それでも忘れられないんなら智さんは6倍だものね?」

聞いて 4ブログトーナメント


出先ですけど少し書いたのでUPします、
コレや小説ほか楽しんでもらえてたらコメントor下のバナークリックお願いします、

移動中に取り急ぎ、笑



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第83話 雪嶺 act.6-side story「陽はまた昇る」

2015-06-23 22:35:04 | 陽はまた昇るside story
Shadow of the prison-house begin to close 闇冥はるか
英二24歳3月



第83話 雪嶺 act.6-side story「陽はまた昇る」

黎明、夜明直前の最も昏い闇。

そんな刻限が山を覆う、けれど上空はるかな風が強い。
鉛いろ重たい雲ふき払われてゆく、風速ながれ月が出た。

「ほら、きっちり晴れだしたねえ?」

皓々、月光にテノール徹って雪白の横顔が笑う。
ヘルメットの庇から瞳も明るい、そんな上司に英二は微笑んだ。

「国村さん、わざと大きな声で言ってるでしょう?」
「アテツケくらいさせてもらわないとさ、ねえ?」

からり笑って、けれど言葉いくらかきつい。
肚底から怒っている、そんな声は謳うよう続けた。

「立て籠もりだろうが雪崩だろうが山の遭難は山ヤ自身の責任だね、こんな時季こんな日に登る自体が判断ミスってもんだ。それを偉そうに頭ごなし命令されて肚立たねえヤツいないよ、しかもド素人の命令なんざ何ひとつ信頼できやしない、あんなんに命預けろとかアテツケくらい安いもんさ、ねえ?」

まだ朝の遠い闇、けれど月に声は徹って響く。
きっと幕営中の誰もに聞えてしまう、気懸りで笑いかけた。

「怒る気持ちは七機全員が同じです、でもあまり言うと立場がやり難くなりますよ?」

若干24歳の高卒任官ノンキャリア、けれど警部補で小隊長。
その立場は例外的かつ有能を示して、だからこそ難しい現実を口にした。

「SATの指揮官は階級も年齢も国村さんより上です、将来的な昇進も約束されたコースでしょう、そんな相手とケンカしすぎれば警視庁山岳会は発言権を狭められるかもしれません、それは後藤さんが国村さんに期待するリーダーシップとは違うベクトルだと思いますが、どうでしょうか?」

なぜ後藤が光一を警視庁に入れたのか?
そこには警視庁山岳会会長としての願いがある、そんな立場の男は笑った。

「ソンナの解かって言ってるよ、ソレより山ヤの俺は大事なアンザイレンパートナーをいかせるなんざ承知しちゃいない、」

それより山ヤの自分。

そう言って笑ってくれる瞳は怜悧に明るい。
すべて解かった上で言っている、聡明なパートナーにため息笑った。

「だったら光一、なおさら怒らないでくれよ?俺は山ヤとして一人の男として志願したんだ、あの指揮官の思惑は関係ない、」

自分こそ自分勝手に選んでいる。
そんな本音に聡明な眼差しすこし笑って、はるか山頂方向を仰いだ。

「小屋こっから丸見えだね、でもアッチからは雲で見え難いはずだよ、タイミングを狙おう、」
「おう、行動中も雲の流れを計算していくよ、」

応えながら透かす視界、山の夜は銀色あわい。
月光ゆるやかに雲ひるがえす、あの行雲つかまえて登れば見つからない。

―でも俺のスピードだけじゃない、合せて行けるかな、

上方からの監視を避けて雪山を夜登る。
それは単独ならまだいい、けれど「連れていく」現実を言われた。

「いいか英二、夜の登山も雪も不慣れな人間にキツイよ?アイゼンで根っこや岩をひっかけて転ぶしハマるのも怖い、寒さの耐久性も俺たちとは違う、」

夜、雪、低温。

どれも自分には楽しい世界で、けれど違う人間のほうが多い。
その理解あらためて噛みしめ微笑んだ。

「そうだな、俺のペースだけで進んじゃ危ないな?」
「だね、おまえの半分だと思っときな?低体温症でも起こされたら判断力も落ちるからね、特に下山は危ないよ、あと」

言いかけて、でも途切れてしまう。
何を言いたのだろう?ふり向いた真中で白い横顔は言った。

「家族にのこす言葉を書いていけ、俺が預かってやる、でもおまえ自身が伝えろ、」

棒読みのようなトーン告げて、くるり踵返してしまう。
言うべき事は言った、そんな背中にウェアの胸ポケットから封筒ひとつ出した。

「光一、これ預かってくれる?」

白い封筒さしだした先ふり向いてくれる。
ヘルメットの庇に翳った瞳は見えない、それでも登山グローブの手は受けとってくれた。

「この宛先、中森って誰?」
「鷲田の家宰だ、祖父の屋敷を何十年も守ってくれてる、」

答えながらロマンスグレイの笑顔が懐かしい。
あの家宰なら全てを果たしてくれる、そんな歳月の信頼に微笑んだ。

「俺の私物もぜんぶ中森さんに送ってくれ、その手紙に処分の仕方と連絡とるべき相手を書いてある、」

こういう支度しておいてよかったな?
あらためて感謝したくなる視界に白ふわり舞った。

「お、風花、」

上空は月、ふる光きらきら欠片が舞う。
きっと尾根の雪が飛んできた、その強風を見ながら微笑んだ。

「中森さんは周太のことも気づいてる、男だとは解かってないだろうけどな。でもあのひとなら大丈夫だ、」
「ふん…そんなに信頼できる人なんだね、」

うなずきながらウェアの内ポケットへ封筒しまってくれる。
きらきら風花まだ止まない、雪の森つらなる車両に静かなトーン訊かれた。

「英二、こんな手紙いつ書いてた?」
「鷲田の家から帰った夜だよ、光一に北岳で話す前だ、」

話して、その単語に鼓動そっと軋みだす。

“北岳草を見せて?”

北岳、母国の第二峰に咲く唯一の花。
あの花に約束した人ともうじき寄添える、そんな想いと封筒もう一通出した。

「国村さん、こちらは今すぐ開けてもらえますか?封緘はしていません、」
「うん?」

受けとって歩きながら開いてくれる。
森の影ヘッドランプに文面を照らして一瞥、すぐ顔上げた。

「身元引受人まで変更するって、おまえ本気で」
「はい、本気です、」

微笑んで頷いて、自筆の書面が眼に入る。
これでもう迷惑なにもかけずにすむ、その想い声にした。

「もし俺が帰ってこないときは美幸さん、周太のお母さんに伝えてくれるか?大切な居場所だからこそ離れると俺が言ってたってさ、」

もう彼女をこれ以上は巻きこめない。

―この先は違う世界なんだ、帰ったとしても、

もし無事に帰ることが出来たなら、その行く先は前と違う。
そうしなければ彼女もその息子も護りきることは出来ない、そんな未来図にザイルパートナーが訊いた。

「英二、おまえ本気で祖父さんの後継ぐ気なんだね?」
「俺はいつだって本気だよ、」

即答に笑って、ふわり白い花びら降りてくる。
つい差しだした右手の上、登山グローブの真中きらり風花が光った。

「光一、風花を受けとめられたよ?」

他愛ないこと、けれど今は素直に嬉しい。
こんなふう山を笑っている時間が大好きだ、その隣で山っ子も笑ってくれた。

「それ啜りこんじまうとイイよ、山の神サンの贈物だからね、」
「光一が言うと信憑性あるな、」

笑って言われるまま右掌へくちづける。
唇そっと冷たさ滲んで、そして見た左腕の時計へ穏やかに笑った。

「午前3時50分、支度してきます、」



(to be continued)

【引用詩文:William Wordsworth「Intimations of Immortality from Recollections of Early Childhood」】

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山岳点景:黄昏稜線

2015-06-22 23:03:01 | 写真:山岳点景
蒼×朱いろ金色



山岳点景:黄昏稜線

眠いから夕空UPしてみました、笑

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雑談閑話@GIFT×今日

2015-06-21 20:16:00 | 雑談
父の日→実家に帰った帰り道、
いつもの植物+雑貨屋に寄って、そしたら探していた多肉植物を発見



名前は銀月、
白い繊毛やわらかに覆った姿はちいさな動物みたいで愛しいです。



その店で茶碗もイイの見つけて買えました。
割ってしまった茶碗の代りには当然だけどならなくて、けれどゴハン似合いそうな風合。
これから毎日いつも相方になってくれる器は前と正反対な色、だけど材質&工法やっぱり似てしまう。
こんなふうに嗜好×思考たいして変わるもんじゃない、笑

で、そんな父の日かつ休日な今日は日曜日、
日曜日=消えた男が現れると言い残して言った日で、けれど今日も今のところ音信不通、
こんなふうに先週も先々週もガッカリ→諦めながら時間すぎて日曜は終わって、そうして感情あれこれ廻ってきた。
そんな日曜は今日が3度め、

三度目の正直、仏の顔も三度まで、

なんて言葉もあるけれど、今日また三度めも同様だったら自分は何思うのだろう?
たぶん「消えた男」そいつをド突きたくなる%→またUPして、そして会いたいなって本音は変わらない。
けれどソイツが現れない=そいつは会いたくないんだろう、だって最後に「会いたくなったら来ちゃうかも」と言っていた、だから聴きたい、

なあ?会いたくなったら、なんてどうして言った??

会いたくないから来ない、それは拒絶とも似ている。
だってコチラから呼びかけるツール全て断ち切って消えてしまった、それは拒絶と変わらない、
その拒絶は逃げるとイコールなんだろう、そんなふう逃げるくらいならなぜ「会いたくなったら」なんて言い方したんだろう?

もう逢いに来るつもりもないんなら、なぜ引っ掻くような別れ方する?
それほど自分を引っ掻き回したいんならドウシテ最後あんなこと言ったんだ?
あんなこと言い残して消えてしまうほど本当はソイツはコナレタコアクマヤロウなのかもしれない、

なんて思いながら今日は日曜日、
今日またそいつが現れないことで傷つくだろう人がいる、それは自分だけじゃない。
幾人も待ちわびて待ちかねて、そうして静かに傷ついてしまうのだろう、なんて予想図は切ない。

沈黙の傷、

そんな言葉なんだか思いつくほど哀しい本音わだかまる、
それくらいホントはもう一度話したいんだとは知っていて無視するんだろうか?

日曜の夜、

それが約束だと思っているのは自分の勝手な思い込み、
そう言ってソイツは笑うのだろか?それとも忘れてしまった笑顔でのんきに生きているんだろうか?
そんなふう人間には忘却が救済だとドッカの脳科学者が言っていた、その一事例にソイツはなってしまうのだろうか、
けれどソレに当て嵌まれない人間も多すぎる、だから統計学なんて当らないことも多い、笑

なんてデフレスパイラルハマりこんでも仕方ない、
とか思ってしまう自分だから小説の続きを今夜もたぶん書くんだろう、
だって「読みたい」と待ってくれる人がいる、それならその為に時間使うほうが良い、

どんなに会いたくても一方通行なら時間の浪費、
それなら必要とされる時間を使えば良い、だって生きる時間は無限じゃない。

そんなふう想うから今夜も自由に使う、けれど逢いたい本音は傷みながら温もり消えない、


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薔薇と蛙

2015-06-21 08:59:09 | 写真彩々


薔薇とアマガエル@昨日ちょっと寄った道の駅
めっちゃカメラ目線なのが愛しいです、笑

今日は父の日、父とカエルを観察したことを思い出します。

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山岳点景:雲馳せる花

2015-06-20 23:00:00 | 写真:山岳点景
雨後の風、花の一滴



山岳点景:雲馳せる花

雨上がりの朝、八島湿原@長野県にて。



今ここはレンゲツツジの群落が朱色あざやかです。
それが有名なポイントですが初夏6月、さまざま花が咲きます。



アヤメの紫紺は早緑色の湿原に映えます。
杜若・花菖蒲・アヤメは似ていますが、網目模様あるのがアヤメです。



夜雨に洗われた花は朝陽きらきら輝きます。
木蔭の根元、ちいさな花を雫の玉こめるのはスズランです。



虫たちに蜜やるのはグンナイフウロ、薄紫がやわらかなカンジします。



湿原の水辺、白い綿毛ゆらすワタスゲは夏が近い。



湿原の澄んだ水は空と山の鏡になります。
曇天ならグレー、雨なら波紋ゆらせて映さない、今日は晴天なので青です、笑



ぐるり歩いて撮って車に戻って、走りだして30分後は雲が湧きだしました。
グレーにしずむ霧ヶ峰の稜線、その斜面でレンゲツヅジは朱色に雲影を映します。



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