萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか純文学小説×写真×文学閑話

第9章 Aither 天上の光 act.11-Aesculapius 杜嶺の医神

2017-02-27 23:45:00 | Aesculapius 杜嶺の医神
Which we are toiling all our lives to find, 鼓動を求め、  
雅樹28歳・光一13歳9月



第9章 Aither 天上の光 act.11-Aesculapius 杜嶺の医神

風なめらかに肌冷やす、白い吐息が熱い。

―思ったより速いな、やっぱり光一は、

ふりむいた肩ごし風がたつ、かすかな馥郁あまく霞む。
星ふる道あわく藪が小石が光る、その光かろやかに登山靴はゆく。
ヘッドライトの光輪に少年は登る、核心部も駈けぬけた足に雅樹は微笑んだ。

「光一、もう急がなくて大丈夫だよ?日の出まで30分あるから、」

こんなに急ぐなんて、そういうことだろう?
そんな想いに健やかな脚ゆっくり止まった。

「雅樹さん、俺きっちり速かったかね?」

ヘッドライトの下、澄んだ瞳が見あげてくれる。
星まだ明るい道、高峰の風に肯いた。

「速かったよ、標準タイムの三分の一で来てる、」
「ん、オヤジと比べてドウかね?」

質問のテノールが透る。
その匂いたつ意志に笑いかけた。

「13歳の明広さんより速いと思うよ、競争してたんだ?」

父親と競りたい、この少年はいつもそうだ。
想い笑いかけた真中、その抜けに明るい瞳が笑った。

「だねっ、北鎌は延期になっちまったからさ?コッチのコースで競争だね、」
「そっか、光一らしいね?」

微笑んでテルモスとりだす。
少年もならって、二人ほっと一息に道を仰いだ。

「光一、どうして北鎌尾根に登りたい?」

さっき小屋主に言われた「内緒話」はそこにある?
訊いてみたい本音に明るい瞳まっすぐ笑った。

「俺も見たいからだねっ、」

見たい、

それだけかもしれない、登る理由なんて。
あらためての吐息そっと白くとけて、あの声が謳う。

―…Et voudrais bien que cette nuit encore…いい夜だな、雅樹、

深く低く透る声、ふりむいた瞳が涼やかに笑う。
あの眼ざし自分は見ていた、憎らしいほど冷静で、どうしても慕う温もり。

Et voudrais bien que cette nuit encore
Durât toujours sans que jamais l'Aurore
Pour m'éveiller ne rallumât le jour.

それも今夜また認めてもだ
かつての暁は今もまだ続いて
僕を覚まそうと 陽の光また燃えないで

“Et voudrais bien que cette nuit encore”

あなたは夜、何を認めたんだ?

“Pour m'éveiller ne rallumât le jour.”

あなたは何を覚ましたくなかった?

―どうして明広さん、いつも謳ってたんだ…山の夜で、

山に泊まる夜、駈ける夜、あなたは謳っていた。
ながれる異国の詞はきれいで、遠い遠い瞳は澄んでいた。
あの瞳なにを見つめていたのだろう、あの声ほんとうは誰に謳っていた?

―…雅樹、これが最高峰の朝だね、

笑う瞳、透る声、でも遠かった。
あの瞳に声に問いかけてみたかった、本当はいつも。
けれど問えないまま時は過ぎて、そうして永遠に遺された謎。

「雅樹さん、どうしたね?」

澄んだ声そっと手をつなぐ、ひきもどされる。
グローブ越し温もりふれて、幸せに微笑んだ。

「ごめん、ちょっと考えごとしてた、」
「ん?どんなかね、」

ヘッドランプかしげ見あげてくれる。
見つめる無垢ただ愛しくて、テルモスしまい笑いかけた。

「頂上で話すよ、行こうか?」

話すなら、あそこがいい。
銀色あわい山の道、澄んだテノールはずんだ。

「うんっ、日の出に間に合わなくちゃねっ、」

笑った唇テルモスつけて、ひと口こくり飲みくだす。
ヘッドライトに唇あざやかに紅くて、瑞々しい少年の笑顔はじけた。

「さて行くかねっ、リードお願いします雅樹さん、」
「うん、凍りだすから慎重にね?」

笑いかけながらザイル確かめる。
ショートロープ繋いで二人、星灯りの稜線を歩きだした。

「雅樹さんの肩に星がいるよ?天気ゴキゲンいいねっ、」

歌うようなテノール弾む、けれど登山靴の音は着実に踏む。
なにげないくせ確かな技術は育ちのせいだろう?

―ほんとうに山っ子だな、光一は?

紺青ふかい稜線きらめくランプ、その光きらめいて星空とける。
銀いろ瞬く星の道、少年の声は健やかな愉快が明るい。
幼さにも強靭たしかに逞しくて、まばゆくなる。

『でも記録や意地じゃない。ただ山を愛してたんだ、その結果がファイナリストだったというだけだ、』

午前三時、小屋主が言ってくれたこと。
あの言葉そのまま少年の姿で、そこにある面影を自分は追っていた。
ずっと幼い少年だった時間、いつも見上げた笑顔が今は自分を追いかける。

『たまらんかったよ?アキさんが少年になって戻ったのか想ったぞ、』

真昼の小屋、そんなふう言われて突きつけられる。
そんなふう自分もどこか思っていた。

―明広さんが亡くなる前はこんなに思わなかったんだ、似てるなんて、

後ろ寄り添ってくれる登山靴の音、その貌は見なくても見える。
青い登山ウェアの肩は華奢に細くて、けれど健やかな強靭は着実に進む。
勁い意志、ヘッドライトの下で瞳は澄んで明るい、長い睫みひらいて道を空を映す。
雪白なめらかな頬に星あかり燈して、まっすぐ見つめる鼓動を自分は知っている、だから想う。

君と登りたい、ずっと。

「雅樹さーん、アレって山荘の灯りかねー?」

呼んでくれる、ほら闇に燈る声。
深い紺青はるかな昏い空、それでも明るく響いて自分を呼ぶ。
零下に沈む闇は最も暗くて、けれど夜明けを兆す背後の声に笑った。

「そうだよ光一、帰りに寄ろうか?」
「うんっ、まずは三角点タッチしたいねっ、」

朗らかなテノールが暁闇を透る。
ナイフリッジ吹きあがる零度、なびく風、それでも声は届いて響く。

「雅樹さんの背中は別嬪だねっ、よっ、山だとなおイイオトコだねっ、うんしょっ、」

陽気な掛け声たのしげに明るい、その言葉いちいち照れさせる。
こんな全て昔から変わらない、唯まっすぐな幸せに微笑んだ。

「光一、舌噛んだりしないでね?」
「はーいっ、んしょっ、」

元気な返事また明るい。
この明るさどれだけ救われたろう、癒されて、そして自分を育む。
こんなふう本当は支えられているのは自分、いつも導かれて、あたたかくて、ただ傍にいたい。

誰に似てるとかじゃない、ただ君だから共にいる。

※加筆校正中

(to be continued)

【引用詩文:William Wordsworth「Intimations of Immortality from Recollections of Early Childhood」」/Pierre de Ronsard「Les Amours de Cassandre」】
第9章 天上の光act.10← 

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第85話 春鎮 act.19-another,side story「陽はまた昇る」

2017-02-26 23:16:18 | 陽はまた昇るanother,side story
Breaktime×居場所で 
harushizume―周太24歳3下旬



第85話 春鎮 act.19-another,side story「陽はまた昇る」

吐息ひとつ、彼女が見あげる。
その先には研究室のプレート。

「じゃあ湯原くん、開けます、」

あれ?こんな会話さっきもしたな。
すこし前の記憶と笑いかけた。

「うん…青木先生きっと喜ぶよ?」
「だといいなあ、問題だらけの学生だけど?」

大きな瞳くるり笑う。
その唇はしっこ上げた仕草に、思い出して口開いた。

「そういえば美代さん、さっき光一からメール着たんだけど…あ?」

もしかしてあのメール、そういう意味?

―賢弥には誤解されちゃったみたいだけど、ね?

めぐらす考えに立ち止まる。
つい考えこんだ前、かわいい声が呼んだ。

「湯原くん?光ちゃんからメールって、」
「あ、うん、」

うなずいてダッフルコートのポケット探る。
スマートフォン画面ひらいて、けれど扉がちゃり開いた。

「おいおい、廊下で喋ってないで入れよ?青木が待ちぼうけてるぞ、」

ネクタイゆるんだ無精髭にやり笑う。
その鳶色の瞳ふっと動いて、低い徹る声が訊いた。

「ふん?周太くん、そのメールどういう意味だい?」

見られた、でも、ちょうどいいかもしれない?


※加筆校正中

(to be continued)
第85話 春鎮act.18

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深夜雑談:ランボオと最近Lycoris

2017-02-26 01:12:03 | 雑談
忙しかった×昨夜は遅帰り→朝から昨日の続き→昼寝のち、昨日の続き、

そんなこんなで小説まったく進まずで、笑
それでも気分転換に写真UPして、そのツイデ最近好きなバンドを聴いて、

THE ORAL CIGARETTES「リコリス」

の歌詞が「L'eternite'」と雰囲気なんだか似ているな?
と思ったもんでコンナ雑談書きだしてるんですけど、笑
このバンドを最初に好きになったきっかけは、

あ、L'Arc〜en〜Ciel ラルク アン シエルとちょっと似てるなー?

ラルクは歌詞がワーズワースやジョン・ダンetc英国詩のフンイキだったり、
アップテンポもバラードも好みで・楽曲バリエーションも音域も広いのが好きで、
ソンナワケでラルクは高校入学まもないころ友達に教えられてのち、好きなんですけど、
ついでにいえばPVのスタジオに友達が勤務→で・PV観たら好きな映画のオマージュみたいなのが多くてナオ好みに、笑

で、最近ジオーラルシガレッツを聴く機会があり、
低音の声もいいなー思ってたらナントナクつけてたテレビに出てきて、
そしたらボーカルはラルクの大ファンでした、笑

あ、だから「リコリス」日本語だけの歌詞なのかな?

と納得ひとり勝手にしてみたり、
っていうのは・ラルクの「花葬」は日本語だけの歌詞です。
この「花葬」が発表当時は英語まりじりの歌詞がほとんどで、そんなか日本語だけで歌ったので話題になったんだとか。
タイトル「リコリス」は彼岸花=葬送イメージの花、オマージュなカンジしてしまいます、笑



で、オーラルとランボオなんですけど、
オーラル「リコリス」の歌詞を一部↓

すでに溶かした永遠は
いつか形を変えて
言葉と想いまで壊して
誰か私を刺して
この手の温度を感じさせて
これで少しは近づけたかな

ほら希望に溢れた世界は真を欲し
やがていつか生きた証になって日々を飾る
わからなくていい 感じた心が明日を殺すなら
もう明日なんていらない

リコリス=彼岸花ヒガンバナの英語名・学名「Lycoris radiata」
ヒガンバナは全草有毒でアルカロイド系の有毒成分をいくつか含有しているんですけど、
その主成分は「lycorineリコリン」と呼ばれています。

このアルカロイド系リコリンは水溶性で、水にさらせば溶けて流れでます。
で・ヒガンバナの鱗茎はデンプン質→粉にして水にさらし、リコリンを抜くことで飢饉時の食物にもしました。
が、毒抜きに失敗した死亡例も。第二次世界大戦のときヒガンバナの鱗茎で食いつないだ地域もあったそうです。
リコリンの有毒性は嘔吐・下痢・中枢神経の麻痺、摂取量や体質により死に至ることもあります。

なんていうヒガンバナ&有毒成分リコリンを歌詞うまくなぞってるなあと、笑

こんな↑カンジに象徴的×生と死を謳ってるアタリ、ランボオと作風が似てるなー思ったんですけど。
で、ランボオ「L'eternite'」思いだしたわけです、笑

Elle est retrouvee. 
Quoi? - L'Eternite. 
C'est la mer allee  
Avec le soleil.

見つけたよ。
何を?- 永遠を。
融けて無に還す海だ、
あの太陽を。

Ame sentinelle,
Murmurons l'aveu
De la nuit si nulle
Et du jour en feu.

魂の守人よ、
懺悔の告白を囁いて
君に融けこんだ零の夜を
それから 君に焦がれた炎天の真昼を。

Des humains suffrages,
Des communs elans
La tu te degages
Et voles selon.

人間に与得る天賦、
共鳴する進化の力
そこに君を解き放ちあらわせ
枠にとらわれず高く。

Puisque de vous seules,
Braises de satin,
Le Devoir s'exhale
Sans qu'on dise : enfin.

もう君のものだ、
繻子きらめく深紅の熾火は
義務は義務の炎を吐くだけで
本音ひとつ許さぬまま燃えつき、終わる。

La pas d'esperance,
Nul orietur.
Science avec patience,
Le supplice est sur.

希望は無く、
絶望が昇る。
忍耐の知識すら、
苦しみなのは確かで。

Elle est retrouvee.
Quoi ? - L'Eternite.
C'est la mer allee
Avec le soleil.

見つけたよ。
何を?-永遠を。
抱いて消してしまう海だ、
あの太陽すら。

【引用詩文:Jean Nicolas Arthur Rimbaud「L'eternite'」】


撮影地:ヒガンバナ@神奈川県某所、夕日@山梨県山中湖

イイカゲン寝ます、笑
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花景写真:桜、光彩々

2017-02-25 23:17:17 | 写真:花木点景
光×陰影=色



花景写真:桜、光彩々

撮る角度、光に色は変えます・特に植物はナンでもそう。

植物は光合成する=使わなかった太陽光の色が葉色に見える、

っていう性質のためなんですけど、
葉も花びらも光を透かして撮ると色がきれいにでます。
たとえば桜・花びら薄いブンだけなおさら光の色で薄紅にも薄紫にも。



同じ日・同じ森、その日向と日陰、



多彩フルカラーと単彩モノクローム、



モノクロ写真も好きです、白黒なのに色も光もあるなあと。
とか思うのは黒澤明の映画に影響ウケているせいかもしれません、ちっさいころから観てたので、笑



どれも同種の桜、河津桜カワヅザクラ。



木洩陽あわい森の翳、青まぶしい陽だまりの空、



影と光で色瞬く、そーゆーの楽しくてツイ撮ります、笑


撮影地:森@神奈川県

逆光利用が植物撮影はおススメです、笑
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深夜雑談:週末前夜×遅帰り

2017-02-24 23:59:50 | 雑談
予想以上に遅い帰りとなり、
そんなこんなで悪戯坊主は絶賛留守番に。

それでもゴキゲンでおかえりなさいしてくれて、
ずっとついて歩き、風呂の間も扉の外でずっと鳴き、笑
出てきてパソコン前に座ったデスクかたわら、悪戯坊主もようやく寛ぎノンビリたいむ。



っていう今夜は帰り道ゴハンに誘われて、
もう深夜だったから行ける店は限られていて、が、山菜天ぷらの幸運に感謝、笑



やっぱりフキノトウは見ても食べても好きだと再確認、笑
なんだかんだ頑張ればご褒美ちゃんとあるんだなーと、しみじみ美味しかったです。
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