萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか純文学小説×写真×文学閑話

長月二十五日、柿―Of thy wild eyes

2017-09-26 01:43:03 | 創作短篇:日花物語
山懐めぐる、
9月25日の誕生花


長月二十五日、柿―Of thy wild eyes

甘楽は悪果、そうかもしれない。

「は…、」

とめた呼吸ひといき吐く、吐いて唇ほろ苦い。
硝煙くゆらす蒼い苦い香、それから視線20メートル血の臭い。
この秋も犠牲を出してしまった、それでも守りぬけた命を背に風上のぼる。

「…一発だった、ね?」

背後の声ひそむ、解るのだろう?
まだ若すぎる声に前向いたまま微笑んだ。

「一発でしとめないと苦しめるから、」

声にした唇におう、辛い錆びたような血の香。
森吹きつける渋い生臭い甘さ、そうして黒い塊たどり着いた。

「へえ…リッパなクマだね?」

少年の声が呼吸する、背後そっと顔をだす。
まだ踏みださないでほしい、そんな願いに背へ右腕のばした。

「僕より前に出ないで?わからないから、」
「ん、」

素直な声うなずいてくれる。
この声どうか澱まないでほしい、想いごと銃を構えなおした。

かさり、

踏みだして登山靴の底が鳴る。
しずかに歩みよって眼下、黒い硬い毛艶きらめく。
木洩陽はじく骸の胸もと、白い毛やさしい月の輪にオレンジ色あわい。

「柿、おいしかったろうね…ごめんな?」

もう脈打たない白い月の輪、こぼれた柿色が痛む。
あまい果実きっと宝物だった、そんな命に澄んだ声問いかける。

「あのさ…柿を食っちゃったら、ソンナにも殺さないとダメかね?」

ひそめたままの声、けれど哀しみ透る。
見あげてくれる瞳きれいで、だからこそ正直に告げた。

「いちど味を覚えたら何度でも食べに来るよ、そうしたら柿のある家はどうなるかな?」

里に柿がなる、そのたび犠牲どちらだろう?
山と人の相克に少年はタメ息吐いた。

「だね…クマが人を襲っちまうかもだね?」

かなしい、それでも現実を呑む。
こんなふう聡明な声に骸見つめたまま訊いた。

「そうだよ?それで人を齧ったりしたら、そのクマはどうなるかな?」

熊は雑食、その習性に起きる現実がある。
もう迎える季節の山懐、防ぎたい事実を告げた。

「もし人間の味を覚えたら、食料が少ない冬に人を食べるようになるよ。現実に昔そういうことがあったんだ、」

かなしい現実、けれど相克は生きる時間つきまとう。
その懐ふかい森の底、消えてゆく眠りに血がにおう。

「そうやってクマが人殺しになる代わりに、人がクマ殺しの罪を負うんだよ?だから狩ったらきちんと食べるんだ、」

だから人間である自分は殺すしかない、人として守るために。
そうして見つめる骸の胸もと月の輪きらめいて、命の頭上に甘い燈ともる。


柿:カキ、花言葉「自然美、恩恵、優美」「広大な自然のなか永遠に眠らせて」

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花木点景:月草露草

2017-09-25 09:50:00 | 写真:花木点景
名残の青、晩夏ゆれる露草。


秋あわい陽透ける色はイメージ月光、月草の古名に納得です。
撮影地:森@神奈川県

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Vol.11 Wisdom 叡智の標 act.6-Savant

2017-09-24 23:58:19 | Savant
Je te donne la recherche
馨二十歳、紀之十九歳の四月


Vol.11 Wisdom 叡智の標 act.6-Savant

針葉樹さらさら風、明日は森で聞くのだろう。
でも今はキャンパスの道、街路樹にされた梢どこか違う。
革靴の底もアスファルトに固くて、そんな午後に父が笑った。

「馨?また山に心が跳んでるな、」

呼ばれて振りむいた真中で、銀縁眼鏡の瞳が優しい。
こんなふう笑ってもらえるならいいのかな?

「ん…僕、そんなにぼんやりしてた?」
「してるな、去年の春から特に、」

深い声おだやかに、でも愉快に笑ってくれる。
こんなふう父も「去年の春から」で、こんな変化に笑いかけた。

「お父さんもよく笑うね、去年の春から特に?」

なぜ父が「去年の春から」なのか?
その原因もうじき現れるだろう、予想に講義棟を曲がった。

「おばあさんにも言われたよ、馨から見てもそうかな?」
「はい、家でも大学でも…お父さ、教授も自覚あるのでしょう?」

答えながら少し困る、こんなとき呼び方どうしよう?
そんな思案に隣、レザーソールの足音が止まった。

「…おとうさ、湯原教授?」

どうしたのだろう?
止まった足音に呼びかけた先、銀髪の微笑が言った。

「馨は、私の本を読みたいかな?」

どうして、そんなこと訊くのだろう?

―お父さんの本って…お父さんが書いた本のことかな?それとも書斎の本…それとも今日の、

父の蔵書、父の著書、それとも「今日」の本?
脳裡ならぶ選択肢に口ひらいた。

「読みたいです、ぜんぶ、」

父親で、それだけじゃないひと。
その眼ざし追ってみたいまま声にした。

「お父さんが書く本も、持っている本も読みたいです…だから今回の記念出版も読みたいけど、」

読みたい、だけど今までとは違う本。

『斗貴子がいなければ今の私はいない、だから最初にページ開くのは君だ、』

母の墓前、父が言ったこと。それなのに「読みたい」は許される?
いつもと違う途惑いに尋ねた。

「読みたいけど…お母さんの命日に世に出した本でしょう?なんだか…僕が読んでもいいものなのかなって、」

今日は違う、他の日と同じじゃない。
その想い共にするひとは微笑んだ。

「同じだな、私と、」

銀縁眼鏡のむこう、涼やかな瞳が笑ってくれる。
おだやかな深い眼ざし自分を見て告げた。

「ミステリーを綴ったんだ、」

おだやかな声ひとひら、かすかな風に薄紅が舞う。
桜まだ咲くキャンパスの道、その言葉に瞬いた。

「…お父さ、湯原教授がミステリー小説を書いたんですか?」

このひとが小説、しかもミステリーを書くなんて?
ただ驚くまんなか涼やかな瞳が微笑んだ。

「還暦の記念出版に非常識だと思うかい?大学にも最初は言われたよ、」

ああ、やっぱり言われたんだ?
納得と見つめながら尋ねた。

「非常識っていうか…湯原教授なら論文の集大成か、ロンサールの対訳全集かなって思います、」
「同じこと大学からも言われたよ、久埜先生にまで大丈夫かって心配されてね?」

銀縁眼鏡の瞳さわやかに細めて笑う。
誰もが同じこと言ったのだろうな?そんな眼に訊いてみた。

「それだけ書きたかったことあるんでしょう?ずっと…記念出版まであたためるくらい、」

非常識と言われて、それでも父は書いた。
そして母に捧げた想いは何だろう?問いかけた先、涼やかな瞳が微笑んだ。

「やっぱり馨はわかるんだね…斗貴子さんの息子なんだな、」

母の名前と呼んでくれる、その想いは?
よくわからない、それでも誇らしい面映ゆさ尋ねた。

「僕はお母さんの息子だけど…あの、誰にも支持してもらえなかったんですか?ミステリー書くこと、」

父は友人も多い、そこに理解者がいるだろうか?
ずっと聴いてみたかった問いに父は微笑んだ。

「ジェラールは必然だと言ったよ、」

ああ、あのひとなら言うだろうな?
なつかしい名前にうれしくて笑った。

「デュラン先生らしいね…僕、もうひとり言いそうだなって思うんです、」

きっと彼も言うだろう、同じこと。
そうして言われるだろう予想に訊いてみた。

「そのひと、どうして教えてくれないんだって僕に怒ると思うんだけど…生協の書籍部で今日から発売なんですよね?」

なぜ早く言わないんだってきっと怒るだろうな?
その鳶色の瞳が見えるようで、困るまま学者が笑った。

「もし買えなかったら私から贈るよ、彼なら今日も研究室に来るだろう?」

※校正中

(to be continued)
Vol.11 Wisdom 叡智の標 act.5← →Vol.11 Wisdom 叡智の標 act.7
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花木点景:ほととぎす

2017-09-24 12:47:41 | 写真:花木点景


夏終わり、秋告げる杜鵑の花。


撮影地:森@神奈川県

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花木点景:秋霖のち紅

2017-09-23 23:30:03 | 写真:花木点景
紅露ひかる、

花木点景:秋霖のち山

雨あがる山上、色残る曼殊沙華。


赤い彼岸の花咲く尾根、墨彩えがく空。


撮影地:蓑山@埼玉県秩父郡皆野町

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