WHOの警告で、豚インフルエンザの世界的猛威は、現代人の未知の領域に入った。
世界中にワクチンの製造も要請された。
日本上陸はあるの? パンデミックって何? 情報の洪水に戸惑う人もいるだろう。
「感冒猛烈 最近2週間で1300人が死亡」「1日に300人死ぬ」
こんな見出しが並ぶ新聞がある。架空ではない。
1919(大正8)年2月3日と5日付の朝日新聞だ。
その前年から、世界各地で「スペイン風邪」が猛威をふるった。
世界人口の3割近くが感染し、推計で4千万人が死亡した。
日本でも2300万人が感染し、39万人が死亡したとされる。
このスペイン風邪こそ、人類が近代で初めて体験した「パンデミック(世界的大流行)」だったのだ。
しかも、そのウイルスの構造は「H1N1」で、今回の豚インフルエンザと同じものだ。
メキシコでの大量感染に始まり、世界各地で感染者が見つかったことで、世界保健機関(WHO)は4月末、豚インフルエンザの警戒レベルを、パンデミック一歩手前にあたる「フェーズ5」に引き上げた。
米国のオバマ大統領は15億ドル(約1460億円)の対策費を連邦議会に求め、日本政府も「極めて重大な事態」と、ワクチン製造を実施することを決めた。
まさに90年ぶりの「スペイン風邪再来」の様相だが、悪夢は繰り返すのだろうか?
専門家の話を聞くうちに、けっして侮ってはいけないことがわかってきた。
新型ウイルスの最大の特徴は、「感染力」の強さだ。
米国で見つかったウイルスの遺伝子構造がメキシコのものと同じであることなどが、それを裏付ける。
人から人への感染力がほとんどない鳥インフルエンザ(H5N1)との最大の違いも、ここにある。
国立感染症研究所の岡部信彦・感染症情報センター長が指摘する。
「人から人への感染が拡大していることが事実である以上、パンデミックが起きることは考えて対応を進めるべきでしょう」
スペイン風邪のあと、「パンデミック」は2回、記録されている。
1957年のアジア風邪(死亡者推定200万人)と、68年の香港風邪(同100万人)だ。
ウイルスの構造はそれぞれ「H2N2」と「H3N2」で今回と違うが、10年もしくは40年周期で起きている。
周期で考えるとなると今年あってもおかしくない。
政府は米国やメキシコなどからの航空機内で検疫をしているが、水際で防ぐには心もとない。
すでに欧州などに感染者がいて、そこから帰国する日本人がウイルスを持ち込む可能性が高まっているからだ。
空港などではサーモグラフィーで熱のある人がいないかチェックしているが、この装置で発見が難しいことは数年前の「SARS」騒動のときに実証済みだ。
とはいえ、新型ウイルスの感染力がどんなに強くても、致死率が高くなければ大きな被害は出ない。
ふつうのインフルエンザの流行とあまり変わらないからだ。
ところが、この致死率がまだよくわからない。
メキシコで2500人以上が感染して200人近くが死亡したとすると、致死率は数%。
一般のインフルエンザの致死率0・1%前後に比べ、はるかに高い。
しかし、メキシコ以外では死者はほとんど出ていない。
「メキシコの数字はよく分析してみる必要がある」と岡部センター長は言う。
死亡例のうち、豚インフルエンザが原因と確定できたものは、少数にとどまるとの公式情報もあるからだ。
元北海道小樽市保健所長で『新型インフルエンザ・クライシス』の著書がある外岡立人(とのおか・たつひと)氏もこう語る。
「そもそも、感染者が本当に数千人程度なのかもわかりません。
もし感染者が数万人いたのなら、致死率はあっという間に1%以下に落ちてしまう」
重症者の多くが肺炎を併発して死亡していることも重要だ。
新型ウイルスによって引き起こされた肺炎なのか、もともと肺炎の疾患があって、ウイルス感染が後押ししたのかで事情が変わるからだ。
一方で東北大学大学院の押谷仁教授(微生物学)は 感染拡大が起きているときは、異常事態に、より敏感になるべきです。
私は20代から40代の死亡例が多いのが解せない」と言う。
若者に死亡例が多いのは、免疫が過剰反応を起こす現象のためとの説もある。
感染者が多いだけに、たとえ致死率が0・1%高まっただけでも、死者は大量に増えると押谷教授は言う。
「もしパンデミックが起きたら、日本でも死者ゼロということはありえない。
私たちにできるのは、被害をいかに減らすかだけです」と語る。
では、私たち一人ひとりはどう対処したらいいのだろうか、北里大学の和田耕治助教(公衆衛生学)は、「発熱などの症状が出たら、病院へ行く前に保健所などへ電話をしてほしい。
日本人はすぐに病院に行きたがるが、ほかの患者に感染させる可能性が大いにあります」とポイントを突く。
危機管理が専門の「リスク・ヘッジ」の田中辰巳社長は、こう指摘する。
「患者が最初に駆け込む可能性が高い町医者にまで、対応方法が周知徹底されているのだろうか。
厚労省は『ホームページを見ろ』と言っているが、テレビCMをするぐらい積極的に広報しなければいけない」
スペイン風邪が猛威をふるった当時の新聞には「発病後すぐ肺炎を併発」し、「医者も看護婦も総倒れ」で「入院は皆お断り」とある。
学校の休校も続出した。
90年前のスペイン風邪は、小康状態になっても何度もぶりかえした。
今回も、「夏になって一度終息しても、ウイルスが活性化しやすい秋以降に再び広がるおそれがある。
本当に危ないのは、これからだ」と専門家は口を揃えて言う。
豚インフルエンザには、「タミフル」や「リレンザ」が有効といわれている。
これは90年前と違う点だ。
悪夢を再現させないため、少しずつ正体をつかみつつある新型ウイルスに、冷静に向き合うことが大切だ。
豚インフルを正しく知るQ&A いたずらに怖がっても仕方がない。
豚インフルエンザとは何かを確認し、予防方法や万一発症した場合の対応などをまとめてみた。
●豚インフルエンザとは
Q1 いつ、どのようにして発生したのですか?
1918年に米国・アイオワ州の豚で、新型の呼吸器系疾患が発見されました。
30年に、これがスペイン風邪と同型のウイルスで、豚インフルエンザであることが判明しました。
日本では77年に初めて確認され、全国的に発生しました。
ただ、人への感染例は、まだ国内ではありません。
今回のメキシコでは、ウイルスが突然変異を起こしたと考えられます。
(『出番を待つ怪物ウイルス』などの著書がある根路銘国昭・元国立感染症研究所ウイルス研究室長)
Q2 世界的に流行すると言われていた鳥インフルエンザとはどう違いますか?
危険性が指摘されていた鳥インフルエンザはH5N1型で、致死率は30~60%と言われていました。
それに比べれば、今回の致死率は、これまで報告されているところでは、低いと言っていいでしょう。
(国立病院機構仙台医療センター・西村秀一ウイルスセンター長)
Q3 では鳥インフルエンザより危険なウイルスではないのでしょうか?
メキシコの感染者は2500人で死者176人(感染の疑いも含む。4月30日午前11時現在)。
致死率が約7%と高いのが気がかりです。
これまで40年間あまりで報告されている豚インフルエンザ症例における死亡例は少ないのに。
Q4 なぜメキシコだけ致死率が高いのでしょう?
可能性としては、ウイルスが違う、あるいは他に別の重篤な感染を被っているなどが考えられます。
また、早期の十分な治療へのアクセスの違いなども考えられます。
しっかりと感染者を捕捉できていない可能性もあります。
Q5 メキシコでは20~40代に重篤な症状が多く出ているそうです。
若い人ほど新型ウイルスに免疫が過剰に反応しやすいためです。
自分の免疫が自分の臓器まで破壊してしまっているのだと思われます。(外岡立人・元小樽市保健所長)
Q6 他の動物のインフルエンザでも人間に感染するのですか?
まずないです。馬やミンク、トラなどの動物もインフルエンザを持っていますが、“種の壁”も高く、人間にはうつらないでしょう。(根路銘氏)
Q7 メディアで言われている、HとかNとかH1N1亜型などは何ですか?
A型ウイルスは、HとNの2種類のたんぱく質の組み合わせで亜型に分類されます。
Hの1~16と、Nの1~9の組み合わせで、144の亜型があります。
数字の組み合わせによって、毒性の強い弱いが変化することはありません。(公衆衛生学が専門の廣田良夫・大阪市立大学教授)
Q8 そもそもパンデミックって何ですか?
ある特定の伝染性の感染症などが、種々の条件が重なり、世界的に流行する状態です。
メキシコから、今回で言えば北米、オセアニア、中東まで広範囲に広がっていますが、それはパンデミックの始まりの可能性を示唆します。
Q9 効果的な予防方法は何ですか?
手洗いは重要です。外出した後は、アルコール消毒剤や石鹸などでしっかり洗いましょう。
マスクでは感染を完全には防げませんが、念のためぐらいの気持ちで。
不必要な外出を控え、人込みを避けることも大切です。
GW(ゴールデンウイーク)までに国内に上陸していたら、連休中に一気に広がる可能性もある。
私も国内で感染例が出たら外出を控えます。
報道を注視し、状況に応じた対応をしてください。(和田耕治・北里大学助教)
Q10 感染地域に行ってもいいのですか?
米国ではメキシコに旅行に行った高校生が感染するなど、ヒトヒト感染が明らかな以上、そして外国からたまたま行った人たちが簡単に感染しているところを見ると患者は相当多いことが考えられますので、メキシコには行かないほうがいい。
ただ米国は広いし、今後の情報次第で判断したらいいでしょう。(西村氏)
Q11 入国者に対する空港でのサーモグラフィーなどの水際チェックは機能しますか?
ある一定の効果があるとみています。通常は自己申告制ですが、メキシコ便等は機内検疫を行いますので、一人ひとり丁寧に対応できます。
その場で、発症が疑わしい方がいれば、医療機関に搬送できるし、このように呼びかけることで「感染しているかもしれない」という自覚を持ってもらえます。(厚生労働省)
Q12 財務省の統計ではメキシコ産の豚肉を昨年は5万6550トン、感染者が広がる米国からは33万6973トンを輸入しています。
豚を食べても大丈夫ですか?
インフルエンザは呼吸器系の病気です。
だから豚インフルエンザにかかっている豚を食べても、人間の胃には豚インフルエンザを受け取るレセプターはないので、感染しません。
たとえ、火が通ってなかったとしても、筋肉など通常のもも肉などの部位では感染しない。(農林水産省)
Q13 メキシコ産の魚や果物などと一緒にウイルスが日本に入ってくる可能性はありますか?
心配ありません。
ウイルスは生きている細胞と一緒でないと生きられないので、輸入品を介した感染はまずありえません。
仮にウイルスが残っていたとしても、水で洗い流せば問題ありませんし、加熱調理で容易に死滅します。(厚労省)
Q14 舛添要一厚労相はWHOの警戒レベル「フェーズ5」引き上げを受けて「ウイルス株の入手とワクチンの製造を実施する」と発表したが、ワクチンはいつできますか?
人に有効なワクチンの開発には数カ月かかります。
豚インフルエンザ用と同時に、毎年冬に流行する季節性のインフルエンザのワクチンも作るのがベストですが、作る量には限度があります。(厚労省)
Q15 まず何をすればいいのでしょう?
発熱・咳・全身痛などの症状がある場合、事前連絡なく医療機関を受診すると、新型インフルエンザに感染していた場合、待合室等で他の患者にうつしてしまう「二次感染」のおそれがあります。
病院へ行く前に、保健所等の発熱相談センターに問い合わせ、その指示で指定された医療機関で受診しましょう。(厚労省)
Q16 潜伏期間はどれくらいですか?
普通のインフルエンザも長くて5日ですから、それに準ずると考えればいいでしょう。(外岡氏)
Q17 豚インフルエンザが日本で発症した場合、正確な診断はできますか?
現在の迅速診断キットだと、A型、B型の2種類のインフルエンザの判断はできます。
豚インフルエンザはA型です。
そしてA型なら都道府県にある衛生研究所で、遺伝子が新型と同じ「H1」か調べる。
ただ、日本には今回の新型ウイルスそのものの遺伝子がありません。
本物のウイルスを米国からもらって正確に判断します。(岡部信彦・国立感染症研究所感染症情報センター長)
Q18 インフルエンザの特効薬「タミフル」は効きますか?
感染早期であれば、タミフルやリレンザが効くことは確認済みです。
たとえ、豚インフルエンザと診断できなくても、季節性のインフルエンザと治療は同じなので、臨床上は同じことです。(西村氏)
Q19 株や円相場にどんな影響があるのでしょう?
株へは下方の圧力です。
為替は、北米で発症例が増えている一方、日本ではまだ症例が報告されていないから、円高ドル安に動く。
フェーズ5になりましたが、まだ渡航制限など人の動きの制約は広がっていない。
このままだと影響は少ないかもしれませんが、渡航制限が広範囲になれば、世界経済への被害は大きくなるでしょう。(経済評論家の伊藤洋一氏)
Q20 消費者心理にマイナスなのでは?
いちばん怖いのは、消費マインドが一気に下がることです。
そもそも日本は、実体経済が傷んでいるんじゃなくて消費マインドが傷んでいました。
せっかく改善してきたところだったのだから、最悪のタイミングに発生したものです。(経済アナリストの森永卓郎氏)
Q21 インフルエンザで業績が上がる企業はありますか?
マスクなどの医療品業界のほかに、家に閉じこもって遊ぼうという人が増えれば、任天堂のゲームなどが売れるでしょう。(伊藤氏)
●日本ではどうなる?
Q22 日本上陸の場合を考え、マスクや食料品を備えるほうがいいのですか?
厚労省は「新型インフルエンザ対策ガイドライン」で、家庭で2週間程度の食料品や生活必需品を備蓄しておくことを勧めています。
特にマスク、消毒用アルコールなどは準備しておいたほうがいいでしょう。(押谷仁・東北大学大学院教授)
Q23 日本で流行する可能性はありますか?
GW後、小さな流行になり、6月末で終息すると見ています。
梅雨の期間は湿度も気温も上がり、ウイルスは沈静化するからです。
しかし、この間も、ウイルスは死滅するわけではなく、人から人へとうつっています。
秋になると、爆発的に流行する可能性が高いとみられます。
外出時は人込みを避け、マスクを付け、手洗いうがいをこまめに行ない、感染防止に努めて下さい。
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世界中にワクチンの製造も要請された。
日本上陸はあるの? パンデミックって何? 情報の洪水に戸惑う人もいるだろう。
「感冒猛烈 最近2週間で1300人が死亡」「1日に300人死ぬ」
こんな見出しが並ぶ新聞がある。架空ではない。
1919(大正8)年2月3日と5日付の朝日新聞だ。
その前年から、世界各地で「スペイン風邪」が猛威をふるった。
世界人口の3割近くが感染し、推計で4千万人が死亡した。
日本でも2300万人が感染し、39万人が死亡したとされる。
このスペイン風邪こそ、人類が近代で初めて体験した「パンデミック(世界的大流行)」だったのだ。
しかも、そのウイルスの構造は「H1N1」で、今回の豚インフルエンザと同じものだ。
メキシコでの大量感染に始まり、世界各地で感染者が見つかったことで、世界保健機関(WHO)は4月末、豚インフルエンザの警戒レベルを、パンデミック一歩手前にあたる「フェーズ5」に引き上げた。
米国のオバマ大統領は15億ドル(約1460億円)の対策費を連邦議会に求め、日本政府も「極めて重大な事態」と、ワクチン製造を実施することを決めた。
まさに90年ぶりの「スペイン風邪再来」の様相だが、悪夢は繰り返すのだろうか?
専門家の話を聞くうちに、けっして侮ってはいけないことがわかってきた。
新型ウイルスの最大の特徴は、「感染力」の強さだ。
米国で見つかったウイルスの遺伝子構造がメキシコのものと同じであることなどが、それを裏付ける。
人から人への感染力がほとんどない鳥インフルエンザ(H5N1)との最大の違いも、ここにある。
国立感染症研究所の岡部信彦・感染症情報センター長が指摘する。
「人から人への感染が拡大していることが事実である以上、パンデミックが起きることは考えて対応を進めるべきでしょう」
スペイン風邪のあと、「パンデミック」は2回、記録されている。
1957年のアジア風邪(死亡者推定200万人)と、68年の香港風邪(同100万人)だ。
ウイルスの構造はそれぞれ「H2N2」と「H3N2」で今回と違うが、10年もしくは40年周期で起きている。
周期で考えるとなると今年あってもおかしくない。
政府は米国やメキシコなどからの航空機内で検疫をしているが、水際で防ぐには心もとない。
すでに欧州などに感染者がいて、そこから帰国する日本人がウイルスを持ち込む可能性が高まっているからだ。
空港などではサーモグラフィーで熱のある人がいないかチェックしているが、この装置で発見が難しいことは数年前の「SARS」騒動のときに実証済みだ。
とはいえ、新型ウイルスの感染力がどんなに強くても、致死率が高くなければ大きな被害は出ない。
ふつうのインフルエンザの流行とあまり変わらないからだ。
ところが、この致死率がまだよくわからない。
メキシコで2500人以上が感染して200人近くが死亡したとすると、致死率は数%。
一般のインフルエンザの致死率0・1%前後に比べ、はるかに高い。
しかし、メキシコ以外では死者はほとんど出ていない。
「メキシコの数字はよく分析してみる必要がある」と岡部センター長は言う。
死亡例のうち、豚インフルエンザが原因と確定できたものは、少数にとどまるとの公式情報もあるからだ。
元北海道小樽市保健所長で『新型インフルエンザ・クライシス』の著書がある外岡立人(とのおか・たつひと)氏もこう語る。
「そもそも、感染者が本当に数千人程度なのかもわかりません。
もし感染者が数万人いたのなら、致死率はあっという間に1%以下に落ちてしまう」
重症者の多くが肺炎を併発して死亡していることも重要だ。
新型ウイルスによって引き起こされた肺炎なのか、もともと肺炎の疾患があって、ウイルス感染が後押ししたのかで事情が変わるからだ。
一方で東北大学大学院の押谷仁教授(微生物学)は 感染拡大が起きているときは、異常事態に、より敏感になるべきです。
私は20代から40代の死亡例が多いのが解せない」と言う。
若者に死亡例が多いのは、免疫が過剰反応を起こす現象のためとの説もある。
感染者が多いだけに、たとえ致死率が0・1%高まっただけでも、死者は大量に増えると押谷教授は言う。
「もしパンデミックが起きたら、日本でも死者ゼロということはありえない。
私たちにできるのは、被害をいかに減らすかだけです」と語る。
では、私たち一人ひとりはどう対処したらいいのだろうか、北里大学の和田耕治助教(公衆衛生学)は、「発熱などの症状が出たら、病院へ行く前に保健所などへ電話をしてほしい。
日本人はすぐに病院に行きたがるが、ほかの患者に感染させる可能性が大いにあります」とポイントを突く。
危機管理が専門の「リスク・ヘッジ」の田中辰巳社長は、こう指摘する。
「患者が最初に駆け込む可能性が高い町医者にまで、対応方法が周知徹底されているのだろうか。
厚労省は『ホームページを見ろ』と言っているが、テレビCMをするぐらい積極的に広報しなければいけない」
スペイン風邪が猛威をふるった当時の新聞には「発病後すぐ肺炎を併発」し、「医者も看護婦も総倒れ」で「入院は皆お断り」とある。
学校の休校も続出した。
90年前のスペイン風邪は、小康状態になっても何度もぶりかえした。
今回も、「夏になって一度終息しても、ウイルスが活性化しやすい秋以降に再び広がるおそれがある。
本当に危ないのは、これからだ」と専門家は口を揃えて言う。
豚インフルエンザには、「タミフル」や「リレンザ」が有効といわれている。
これは90年前と違う点だ。
悪夢を再現させないため、少しずつ正体をつかみつつある新型ウイルスに、冷静に向き合うことが大切だ。
豚インフルを正しく知るQ&A いたずらに怖がっても仕方がない。
豚インフルエンザとは何かを確認し、予防方法や万一発症した場合の対応などをまとめてみた。
●豚インフルエンザとは
Q1 いつ、どのようにして発生したのですか?
1918年に米国・アイオワ州の豚で、新型の呼吸器系疾患が発見されました。
30年に、これがスペイン風邪と同型のウイルスで、豚インフルエンザであることが判明しました。
日本では77年に初めて確認され、全国的に発生しました。
ただ、人への感染例は、まだ国内ではありません。
今回のメキシコでは、ウイルスが突然変異を起こしたと考えられます。
(『出番を待つ怪物ウイルス』などの著書がある根路銘国昭・元国立感染症研究所ウイルス研究室長)
Q2 世界的に流行すると言われていた鳥インフルエンザとはどう違いますか?
危険性が指摘されていた鳥インフルエンザはH5N1型で、致死率は30~60%と言われていました。
それに比べれば、今回の致死率は、これまで報告されているところでは、低いと言っていいでしょう。
(国立病院機構仙台医療センター・西村秀一ウイルスセンター長)
Q3 では鳥インフルエンザより危険なウイルスではないのでしょうか?
メキシコの感染者は2500人で死者176人(感染の疑いも含む。4月30日午前11時現在)。
致死率が約7%と高いのが気がかりです。
これまで40年間あまりで報告されている豚インフルエンザ症例における死亡例は少ないのに。
Q4 なぜメキシコだけ致死率が高いのでしょう?
可能性としては、ウイルスが違う、あるいは他に別の重篤な感染を被っているなどが考えられます。
また、早期の十分な治療へのアクセスの違いなども考えられます。
しっかりと感染者を捕捉できていない可能性もあります。
Q5 メキシコでは20~40代に重篤な症状が多く出ているそうです。
若い人ほど新型ウイルスに免疫が過剰に反応しやすいためです。
自分の免疫が自分の臓器まで破壊してしまっているのだと思われます。(外岡立人・元小樽市保健所長)
Q6 他の動物のインフルエンザでも人間に感染するのですか?
まずないです。馬やミンク、トラなどの動物もインフルエンザを持っていますが、“種の壁”も高く、人間にはうつらないでしょう。(根路銘氏)
Q7 メディアで言われている、HとかNとかH1N1亜型などは何ですか?
A型ウイルスは、HとNの2種類のたんぱく質の組み合わせで亜型に分類されます。
Hの1~16と、Nの1~9の組み合わせで、144の亜型があります。
数字の組み合わせによって、毒性の強い弱いが変化することはありません。(公衆衛生学が専門の廣田良夫・大阪市立大学教授)
Q8 そもそもパンデミックって何ですか?
ある特定の伝染性の感染症などが、種々の条件が重なり、世界的に流行する状態です。
メキシコから、今回で言えば北米、オセアニア、中東まで広範囲に広がっていますが、それはパンデミックの始まりの可能性を示唆します。
Q9 効果的な予防方法は何ですか?
手洗いは重要です。外出した後は、アルコール消毒剤や石鹸などでしっかり洗いましょう。
マスクでは感染を完全には防げませんが、念のためぐらいの気持ちで。
不必要な外出を控え、人込みを避けることも大切です。
GW(ゴールデンウイーク)までに国内に上陸していたら、連休中に一気に広がる可能性もある。
私も国内で感染例が出たら外出を控えます。
報道を注視し、状況に応じた対応をしてください。(和田耕治・北里大学助教)
Q10 感染地域に行ってもいいのですか?
米国ではメキシコに旅行に行った高校生が感染するなど、ヒトヒト感染が明らかな以上、そして外国からたまたま行った人たちが簡単に感染しているところを見ると患者は相当多いことが考えられますので、メキシコには行かないほうがいい。
ただ米国は広いし、今後の情報次第で判断したらいいでしょう。(西村氏)
Q11 入国者に対する空港でのサーモグラフィーなどの水際チェックは機能しますか?
ある一定の効果があるとみています。通常は自己申告制ですが、メキシコ便等は機内検疫を行いますので、一人ひとり丁寧に対応できます。
その場で、発症が疑わしい方がいれば、医療機関に搬送できるし、このように呼びかけることで「感染しているかもしれない」という自覚を持ってもらえます。(厚生労働省)
Q12 財務省の統計ではメキシコ産の豚肉を昨年は5万6550トン、感染者が広がる米国からは33万6973トンを輸入しています。
豚を食べても大丈夫ですか?
インフルエンザは呼吸器系の病気です。
だから豚インフルエンザにかかっている豚を食べても、人間の胃には豚インフルエンザを受け取るレセプターはないので、感染しません。
たとえ、火が通ってなかったとしても、筋肉など通常のもも肉などの部位では感染しない。(農林水産省)
Q13 メキシコ産の魚や果物などと一緒にウイルスが日本に入ってくる可能性はありますか?
心配ありません。
ウイルスは生きている細胞と一緒でないと生きられないので、輸入品を介した感染はまずありえません。
仮にウイルスが残っていたとしても、水で洗い流せば問題ありませんし、加熱調理で容易に死滅します。(厚労省)
Q14 舛添要一厚労相はWHOの警戒レベル「フェーズ5」引き上げを受けて「ウイルス株の入手とワクチンの製造を実施する」と発表したが、ワクチンはいつできますか?
人に有効なワクチンの開発には数カ月かかります。
豚インフルエンザ用と同時に、毎年冬に流行する季節性のインフルエンザのワクチンも作るのがベストですが、作る量には限度があります。(厚労省)
Q15 まず何をすればいいのでしょう?
発熱・咳・全身痛などの症状がある場合、事前連絡なく医療機関を受診すると、新型インフルエンザに感染していた場合、待合室等で他の患者にうつしてしまう「二次感染」のおそれがあります。
病院へ行く前に、保健所等の発熱相談センターに問い合わせ、その指示で指定された医療機関で受診しましょう。(厚労省)
Q16 潜伏期間はどれくらいですか?
普通のインフルエンザも長くて5日ですから、それに準ずると考えればいいでしょう。(外岡氏)
Q17 豚インフルエンザが日本で発症した場合、正確な診断はできますか?
現在の迅速診断キットだと、A型、B型の2種類のインフルエンザの判断はできます。
豚インフルエンザはA型です。
そしてA型なら都道府県にある衛生研究所で、遺伝子が新型と同じ「H1」か調べる。
ただ、日本には今回の新型ウイルスそのものの遺伝子がありません。
本物のウイルスを米国からもらって正確に判断します。(岡部信彦・国立感染症研究所感染症情報センター長)
Q18 インフルエンザの特効薬「タミフル」は効きますか?
感染早期であれば、タミフルやリレンザが効くことは確認済みです。
たとえ、豚インフルエンザと診断できなくても、季節性のインフルエンザと治療は同じなので、臨床上は同じことです。(西村氏)
Q19 株や円相場にどんな影響があるのでしょう?
株へは下方の圧力です。
為替は、北米で発症例が増えている一方、日本ではまだ症例が報告されていないから、円高ドル安に動く。
フェーズ5になりましたが、まだ渡航制限など人の動きの制約は広がっていない。
このままだと影響は少ないかもしれませんが、渡航制限が広範囲になれば、世界経済への被害は大きくなるでしょう。(経済評論家の伊藤洋一氏)
Q20 消費者心理にマイナスなのでは?
いちばん怖いのは、消費マインドが一気に下がることです。
そもそも日本は、実体経済が傷んでいるんじゃなくて消費マインドが傷んでいました。
せっかく改善してきたところだったのだから、最悪のタイミングに発生したものです。(経済アナリストの森永卓郎氏)
Q21 インフルエンザで業績が上がる企業はありますか?
マスクなどの医療品業界のほかに、家に閉じこもって遊ぼうという人が増えれば、任天堂のゲームなどが売れるでしょう。(伊藤氏)
●日本ではどうなる?
Q22 日本上陸の場合を考え、マスクや食料品を備えるほうがいいのですか?
厚労省は「新型インフルエンザ対策ガイドライン」で、家庭で2週間程度の食料品や生活必需品を備蓄しておくことを勧めています。
特にマスク、消毒用アルコールなどは準備しておいたほうがいいでしょう。(押谷仁・東北大学大学院教授)
Q23 日本で流行する可能性はありますか?
GW後、小さな流行になり、6月末で終息すると見ています。
梅雨の期間は湿度も気温も上がり、ウイルスは沈静化するからです。
しかし、この間も、ウイルスは死滅するわけではなく、人から人へとうつっています。
秋になると、爆発的に流行する可能性が高いとみられます。
外出時は人込みを避け、マスクを付け、手洗いうがいをこまめに行ない、感染防止に努めて下さい。
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