言の葉 ~つれづれの森~

“温もりの泉”離れ

林芙美子:花のいのちはみじかくて・・・

2009年09月06日 | 酔いどれ戯言
「放浪記」や「浮雲」「めし」など、放浪作家である林芙美子が好んで色紙に書いた「花のいのちはみじかくて、苦しきことのみ多かりき」の原詩稿が見つかったという。この文句だけを見ると、ものすごく悲観的であり、暗いイメージが残るが、記事によると、「花のいのちはみじかくて、苦しきことのみ多かれど、風も吹くなり、雲も光るなり」とのくだりがあるらしい。この原詩稿の文句を読むと、悲観的な中にも一筋の光を見出している希望感が見受けられる。林芙美子自体、暗いイメージがあるかもしれないが、その中にも希望感を失わなかった片鱗が見受けられる。原詩稿は全部で12行あるとのことであるが、その全てを読んで見たい。

 風も吹くなり
 雲も光るなり
 生きてゐる幸福(しあわせ)は
 波間の鷗のごとく
 縹渺とたゞよひ
 生きてゐる幸福(こうふく)は
 あなたも知つてゐる
 私もよく知つてゐる
 花のいのちはみじかくて
 苦しきことのみ多かれど
 風も吹くなり
 雲も光るなり

なんとも前向きな詩句であろうか。「生きている」ことの「幸福」さは誰もが知っているはずなのに、それを忘れている。また時の無常さも表現されており、無常だからこそ悲観することはないのであると謳っている。この柔らかな詩句に多くの思いがよく詰っている。