みちのくの放浪子

九州人の東北紀行

弥生

2017年03月01日 | 俳句日記

 本来「弥生」ってぇのは、弥=ますます、生=はゆる、の意味が込められているそうですな。

ほら、「万物躍動の春」なんて言うじゃありませんか、良い言葉ですよね。

 でもね、どう考えてみても我が国では、「春分」を過ぎなきゃ万物躍動てな訳にはいきません。

「梅」にしたってこれからが本番だし、「桃」は今月の下旬からが旬になります。

 

 でね、ここ北国では、いまだに四月三日に「桃の節句」を催すところもあるんですよ。

「桜」だって盛りは四月の中旬以降なんです。ですんでね、日本人の情緒豊かな感性を、

取り戻すためにも、アタシは旧暦の復活を主張したいですね。効用は以前に書いています。

 それこそ、ジャパン・ファーストの大きな転換点になると思いますけどね。

 

「ちわッ!ご隠居さんいらっしゃいますかい?」

「ああ、来なさったかい。まずはお上がんなさい」

「こないだはご足労かけちまって申し訳ありやせんでした」

「いいやぁ、随分と楽しませてもらったよ、こちらこそ有難うございます」

 

「とんでもねぇ、ご隠居さんがご一緒してくださったんで、心強うございましたんでさぁ」

「いやぁ、そう言ってもらえると嬉しいけどね。これ、ばあさん!お酒つけとくれ」

「まいどまいど、あいすみませんね」

「私はこれが楽しみなんだよ。遠慮なんかいらないよ。して、今日はどういうことだい?」

 

「へぇ、こないだのおさらいなんでさぁ。工藤さまや菊池様のお話しの」

「どんなことだい?」

「え~、その、マサツとか引力とか、それに地球が丸いなんてことでして」

「あれ、聞いていなかったのかね。それは、さわりのところだったろ?」

 

「へぇ、そのさわりのところで面食らっちまって・・・」

「おやおや、じゃあ外国の事情も憶えてないのかい?」

「へぇ、熊もあっちも、とんびとんびにゃ憶えてますけどね」

「はい、分かったわかった。じゃあまず地球だ」

 

「ご公儀には、天文方というお役所があってな、とっくの昔から知っていなさることだよ」

「ほんとですかい」

「ほんとだとも、お隣の支那から渡ってきた星を観測する学問のなかでは古くから予測は

されていたんだよ。この世は丸いんじゃないかってね。それがヨーロッパの大きな船が航海を

するようになってからはっきり分かって来たのさ」

 

「どんなふうにです?」

「海には水平線というのがあるだろ、大きな船の高い帆柱に上がると、それが丸く見える」

「へぇ、そうですかい」

「そうだよ。そしてだ、遠くにいる別の船を見つける時にはまず相手の帆柱がみえる」

「ふむふむ」

 

「ということは平らじゃないってことだ、分かるだろ?」

「いや分からねぇ」

「あれあれ、困ったことだね。それはそれとして、この世が平らだと思っていたから海の果てには

滝があると思っていたら、何処まで行っても見つからなかった。で、果ては無いと分かってきた」

 

「誰がです?」

「船乗り達がさ。その頃のことを工藤様は大航海時代とおっしゃていたな」

「どの位まえのことです?」

「四百年ぐらい前のことだよ。それから百年ぐらいたって日本にも異国の船が来るように

なったというわけさ。そのころには地球儀は出来ていたらしい。航海に必要だからね」

 

「引力ってぇのは?」

「それはね、なにも難しいことではない。神代の昔からこの世には自然の道理というものが

あって、それが引力やマサツの働きさ。それを西洋の偉い学者さんが数学という学問で

その道理の仕組みを証明なさった。大工で言えば、家を建てるときの全てにその道理が

働いていることは経験から分かっているのに、「引力」だ「マサツ」だのと名前を付けただけの

話さ、驚くことではない。未開の土人でも理屈抜きに分かっていることだ。言葉に驚いちゃ

いけない。言葉だけの知ったかぶりしている連中には家は建てられないだろ?」

「魚も三枚におろせやしない」

 

「いや、実際理屈を言う奴にはろくなもんはいやしませんぜ。黙ってる奴の方が腕はいい」

「そうだろ。生きるということはそんなもんだよ。学者さんは学問の世界で同じ経験をして

いなさる。学問の世界にもまがい者がいるんだよ」

「工藤先生や林先生もそうなんですかい?」

 

「いや、あの人達は命がけだ。菊池様もそういうお人だ。歳をとるとよく分かるようになる」

「そういうもんですかい?」

「林先生はお亡くなりになったが、皆様とご縁が出来たんだ。お付き合いするといい」

「おれっちみたいな者でも、付き合ってくれますかね?」

 

「あの方々は、世間なんぞ気にしておいでではない。もっと遠くを見つめておいでだ。

知りたいと思うものがあったら、何でも聞くことだな。そう言う者が好きなお人達だよ」

「じゃあ、いいご縁だったんですね」

「お前さん達は、トウが立っているからどうだか知らないが、子や孫のためにはいいことだ」

 

「そりゃないでしょ、まだまだ世のため人のための役にはたちますぜ」

「そうだな、それより世界のことだったな」

 

てなぐあいで、分かったような分からないようなお話が続いておりますが、

世界のことについてはまたの機会に。 =お後がよろしいようで=

 

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三月一日(水)  晴れのち曇り

         昨日震度4、今日も3

         川へ、盛り塩をして祈る

         この日、遠い昔の記憶

         吾妹子より有難き電話

         ショパンが似合う一日