舞台朗読家 熊澤南水さん
冬の陽だまりのある週末のこと
地元浅草天麩羅で有名な大黒屋が営むブレーメンハウスにでかけた。
この日、舞台朗読家の熊澤南水さんのひとり芝居が開かれたのである。
ここで、簡単に南水さんのプロフを書いてみる。
東京新聞と朝日新聞の掲載記事
〈熊澤南水プロフィール〉
津軽出身。幼い頃から心に秘めたという「ことば」にこだわり、舞台朗読の道に進む。樋口一葉作品をはじめ、原作に忠実に心に沁みる言葉を伝えたいと、およそ30年に渡って全国各地で公演を行う。1991年国際芸術文化賞を受賞、2011年には吉永小百合さんとともに、下町人間庶民文化賞を受賞。浅草の有名洋食店「ヨシカミ」の女将という顔も持つ。2012年秋には能楽堂での公演が予定されている。
「津軽から 下町語り 春を呼ぶ」
海光
当日の演目は平岩弓枝作「ちっちゃなかみさん」。
幼いとき両親と別れた加代、治助の姉弟と豆腐屋を営む叔父新吉の物語。
江戸の下町、浅草と向島を舞台に繰り広げられる人情話。南水さんの声を頼りに耳を澄ませると、市井の民の息遣いが聴こえてくるようだ。
語りのあと、一葉はじめ明治の文豪を研究するT氏と一緒に、南水さんと話す機会をもらった。単身津軽から都会に嫁ぎ、方言や対人、様々なご苦労も、この30年の朗読芝居に活きていると話す言葉に、決してぶれることのない信念と確信がみえる。
南水ひとり語りCD
後日、一葉「十三夜」と「大つごもり」のCDを送ってくださった。深夜、目を閉じて聴くと、ラジオドラマとはまた違った独特の語りが往時へ誘う。
返礼に「季節風」108号を送ると、数日してまた郵便が届いた。
手紙と一緒にカセットテープが入っている。開けて驚くではないか。
あっしの掲載作「下町長屋物語-おかよの恋-」が吹き込まれたテープが同封されている。
いやあ、うれしい。ホントにうれしいねえ。生きているといいことがあるもんだ。
南水さん、ありがとう。
生憎、ダブルカセットデッキを処分して久しい。酔徹兄いに連絡したら、使ってないダブルカセットを気前よくくださるという。
いただいたら、ゆっくりと聴こう。
人に恵まれ、ご縁に恵まれ。。
あとは、物書きとして自立するのみですな
公演の記事
それがたとえ無間地獄であっても、描き切った愉悦があるのなら。
いつまでつづくことやら……。
一生もんだよ、なんて野暮は先輩方ご勘弁くだせえまし
John G Rose
先週の雨上がり、友人たちのLiveに行った
オープニングは「John G. Rose」
20年以上前に一緒に海を渡った友のバンドだ。おいらの結婚式でも演奏してくれた。ボイストレーニングもしたという発声は、確実にヒートアップしている。聴かせるねえ。
Jの家族や知人の見守る中、彼の愛する人へ、息子へ、兄へ届ける楽曲、これがまたいかすのだ。
Jiro
フランスの小さな田舎村を唄った、「Misy」の歌詞がいつまでも心に残る。
「…あなたが歩いてきたその道はあなたと繋がる人の声
僕らにも聞こえているよ
あなたの声が聞こえてくるよ 僕らの笑顔も見えているんだろ
みんなで歩いた川のほとりには 今でもあなたの時間が流れている
Misyへ Misyへ ……」
ボーカルが交代し、Y氏の歌う「雨」。MySpaceでも聴かせてもらっていた耳に馴染んだ曲。なだらかで、激しいテンポが心地良く響く。
怒涛のオリジナルロックが9曲、ツェッペリンのカバーが1曲。
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つづいて、「きねづかバンド」が、往年のロックの名曲のカバーで盛り上げる。
トリを飾ったのは、この日オリジナルでデビューした、我らが「花粉航海」。
花粉航海の名付けの由来も聞くことができた。
花粉航海 &大坂寛
新曲から始まった一連の曲は、どれもムードのあるものばかり。
アップテンポなボサノヴァ調のものから、メロディアスなものまで変幻自在。
John G. RoseのY氏曰く、鍵盤が入ると音域が広がる利点があるのだとか…。なるほど。。
おいらの社会人生の苦しいときに救ってくれた、おいらにとっての大切な曲がかかる。
「Your Story」
ここまで思えば遠くへきたもんだ。遠い若かりし思いの苦み、甘みを懐かしむゆとりもできた。
Jiro、K大兄とのご縁。ここに集った仲間たちとのご縁。
かつての内藤新宿から街道に入ってすぐ、小滝橋通り裏のライブハウスはこの日、おいらにとって路地裏にある冬の陽だまりのようであった。
21世紀
総勢16名で、いつものしょんべん横丁へ。
贋の桜が咲いている。今年初の花見となる。
道産子の海鮮三昧に、昆布焼酎がじゃんじゃん空き、愉しい打ち上げになった。
思い出横丁
「音に酔い 友に酔わされ 花見酒」
海光
素敵な大人たち。素晴らしい仲間たちに感謝。
ホントの桜ももうすぐだ
囲炉裏カウンター
三寒四温と云うが、今年は三寒一温って感じがつづく。いまだに寒風がふき、冬将軍の撤退がいましばらく。体調を崩す方も多いようだ。かく云うあっしも、どうも本調子とはいかない。歳なのか、放射能による免疫力の低下のせいなのか…。
こんな日は古来からの習いに従い、炭火に当たりたいというのが人情ではないか
そこで囲炉裏である。炭が弾ける網のまえに、海の豊穣が所狭しと並んでいる。
築地が近いここ新橋烏森の店は、どれも鮮度抜群。
そして、とにかく安いのだ。
ストレス社会に生きるサラリーマンの日々のケアに最適のコスパ優れたお店なのである。
穴子の炭火焼き
銀杏焼き
牛ステーキ
見れば、女性同士、外国人の姿もちらほら。品質公正のお店に、知り人は集まるということだ。
烏森神社は焼き鳥の名店で何度も訪れたが、このご時勢、こうした店が流行るわけがなんとなく…、わかる。
気がついたら、あれほど嫌っていた炉端が似合う歳になっていたのである。
お新香と大関の熱燗
しめ鯖
特大ウィンナー
このなが~いウィンナーが秀逸だった。どれも277円(税込290円)均一ばかり。
この安さに似合わず、注文すると網で焼いてくれる。
浴衣姿のお兄ちゃんたちはムダ口をきかない。その無骨さを無愛想ととるか、猟師町の美点と感ずるかは酔人に任せる。
予約もできるが、早めに入らないといけない。
人気のあるお店はいずこも同じでしょうな
「桜待ち 炉端をかこむ 友の顔」
海光
水戸偕楽園の梅も7分咲きとか
この週末は、隅田川畔、桜橋では「さくら祭り」が開催予定なのだ。
梅と桜の競演が見物というオマケや如何に。
3分くらいは咲いてほしいものである
◇炉端「武蔵」◆
東京都港区新橋2-9-17
03-3580-3550
http://r.tabelog.com/tokyo/A1301/A130103/13015076/
「男子弁当部」(オレらの青空おむすび大作戦!)
著:イノウエミホコ 画:東野さとる
2012年2月初版 ポプラ社刊
「男子弁当部」の最新刊が発売になった
オトメン小学生テラソラの活躍するこのシリーズもひとまずの最終巻。
愛読者にはお馴染みの、ユウタ、高野、北原の弁当部は最後まで元気いっぱい。
元気すぎて、兄ミライの突然の誘いに、なんと米どころ新潟まで遠征してしまうのだ。
う、うらやましい…。
渋谷のカリスマギャルが田植えをして話題になったのも記憶に新しいが、子供たちにこういう原体験をさせることも大切な教育なのだと思う。
普段、口に入る食料がどういう苦労と喜びを経て、届けられているのかを知れば、食事を残すようなことも減るんじゃないかな。
食材を採る、狩る、植える、それを経験すれば、3食を口にするありがたみが判るはず。
そして、料理をすることでその気持ちはさらに深化していくのだと思う。
「おむすびや 愛と塩まぜ 春うらら」
海光
作者は連載を続けていくうちに、弁当もシンプルイズベストに行き着いたと云う。
表紙に種明かししてしまっているのは至極残念である。
今回はどんな弁当になるのかな?、というせっかくのドキドキワクワク感が持てないからだ。
でも、児童書だとある意味仕方ない部分でもあるのかな。
裸の大将の究極に、ぐふふとほくそ笑んだあっし。
もうすぐお花見がはじまる
イノウエさんの愛がたっぷり詰まった弁当を開いたら、桜の木の下のおにぎりがグッと美味しくなること請け合い。
もっとたくさんの弁当が見たい。
テラソラがパリやローマにシェフ修行なんてのも興味あるなあ。
いつか成長したテラソラたちのその後を読んでみたいと思う今日この頃である
舟渡御、スカイツリーと
三社権現さま
2012年3月18日(日)午後2時
54年ぶりに、三社様のお神輿が隅田川(大川)を渡った。
江戸末期に廃絶された「舟渡御(ふなとぎょ)」。
ご神体とご神霊を舟にのせて川を渡る行事である。
前日17日には、浅草神社からお堂上げされた三基のお神輿が浅草寺本堂で一晩過ごされたのだ。
観音様と、大川から観音様を拾い上げた三社権現の三人の神様はどんなことを話されたのだろう。
ふたたび元気が戻った浅草の民の姿に、お歓びになられたのであろうか。
言問橋の袂
隅田川の両岸に人の波が押し寄せる。
どんよりと曇った天空には、新聞社のヘリコプター音忙しく、ユリカモメが優雅に舞っていた。
一生に一度見られるかどうかのイベント。それをこの目に焼き付けようとカメラ片手に固唾を呑んで、吾妻橋から桜橋を往復するお神輿の雄姿を見守る。
言問橋
橋をくぐるときには、幟を下ろして通る。橋の上にも人の行列がやまない。
宝船
七福神が乗った舟がつづく。
縁起よく、めでたいお顔に春が近づいたようだ。
この後、両国見附まで下って上陸し、最後は仲見世を地元青年部が担いで宮入りするのだ。
あ~、あっしも担ぎたかったなあ。
三社祭は5月19~20日にかけて、町内を練り歩くのだ。その時が待ち遠しい。
昨年の分まで、威勢よくいきまっせ!!
「舟跨ぎ 川に香るは 白き梅」
海光
白梅
隅田公園の中は、梅が満開。
あと、2週間もすればさくらの花見となる。
全その句会は第2週に洗足池だが、地元の桜祭りは3/31~4/1。
長く居座った感の冬将軍も、いよいよシベリアにお帰りになるときがきたようである
「恋する和パティシェール」
著:工藤純子 画:うっけ 2012年3月 ポプラ社刊
工藤純子氏の最新刊、和菓子の本が発売になった
2010年の秋、季節風の泊まり込み合宿で初めて草案を読んでから、実に2年。待ちに待った期待の新作はいい意味で期待を裏切る表紙になって再登場した。
今どきの女の子たちがカワイイって、手にとりそうなカラフルなイラストからワクワク感が溢れる。
主人公の如月杏があんこをこさえるように、練りに練った和菓子の一冊である。
浅草ROXLIBRO児童書コーナーの棚から
和心堂、おばあちゃんも健在で、なんとなくうれしい。
詳細は内容がわかってしまうので避けるが、表紙からも想像できるように「さくら餅」が登場人物たちの心と心をつなぐ強力なお菓子なのだ。
草案なでしこスイーツでは長命寺と道明寺のコラボだったが、こういう手できたかという縁結びのさくら餅の創作
さすがですな、工藤さん。
創作というのは、こんなに時間をかけて寝かせて、こねて、練って、完成度が増すものなんだな、と若輩は勉強になった。
あっと驚くラストの仕掛けは、綿密な取材に、餡子を練る粘り、卵白を手で泡立てる苦しみを超越した熱意と繊細にあるのだな。
工藤氏の料理物の描き方は、リトルシェフ姫野亜美の活躍でお馴染みの「ミラクルキッチン」で証明済み。
和菓子という新たなシリーズに、待ち望んだ子どもたちにお楽しみの一冊であろう。
すでに、次作の予告も載っている。
作者と版元のこぶしを握る覚悟と満々たる心地良い自信が未来を照らしてくれるのだ。
この作品を読んで、いつしかあさのあつこ氏の「ほたる館物語」を思い出していた。
和心堂の杏のおばあちゃんも、ほたる館の一子のおばあちゃんも、ばあちゃんっ子だったあっしには懐かしい匂いを運んでくれる。
昭和のセピアが残る時代には、大家族がそこかしこに存在した。団地に始まり、都会に住む日本人が、天を目指して暮らすようになり、核家族がセットになって増殖した。
元気なばあちゃん、じいちゃん。その経験という知恵と一緒に暮らす安心感は、もう過去のものとなりつつある。
せめて物語を読んでいる一時でも、ほっこりとしたい。
そんな思いで、本を広げ、原稿用紙の升目に向き合うのである。
「桜葉や 香りは花見の 予告かな」
海光
工藤さんの作ってくれた桜餅。
早くお店に買いにいかないと、あんこも桜の葉も堅くなっちまうぞ
三社祭七百年
今年は一年ぶりに、三社祭が開催される
震災で中止になった昨年も書いたが、祭りや花火といった催しには鎮魂の意味もあるのだ。
2012年はなんと「三社祭」が始まってから700年目だという。
来週、3月17日夕刻、本社神輿三基が浅草寺前で堂上げされる。
18日には堂下げ後、神輿が44ヶ所の町会を回る。
そして14時。東参道桟橋から神輿が大川を渡るのだ。
和船にのせた神輿を囲む船隊には、竜の舞い、白鷺の舞い、福寿の舞い、お囃子、神楽とつづく。
舟渡御という、じつに54年ぶりの一大行事だ。その威容と気高さはきっと圧巻だろう。
正和元年(1312年)に三社権現の神話に基づき行われた「舟祭」がその起源といわれる。
江戸綱吉の時代。生類憐れみの令により、浅草川での海苔の養殖が禁止になり、その後漁師たちは大森に移ったと云われる。
大森にある貴舩(きふね)神社は、そのゆかりの地。
パリッと香ばしい浅草海苔、大森海苔、交流はその頃から始まり今にいたる。
おそらく生きているうちに見られるのは、この時だけだろう。
舟渡御(http://www.sanjasama.jp/detail1203.html)。
江戸好き、お祭り好き、浅草好き、下町好きには必見の催しである。
浅草寺の敷地が広大であった往時の賑わいを再現する奥山風景。
この現代に出現した店の品々は、小判に両替して買い物するのだ。
活況だったお江戸浅草の雰囲気が伝わるイベントである。
猿若の歌舞伎も大川端で再現されている。
「奥山の 矢場で振りまく 白酒や」
海光
スカイツリー効果もこんなところに現れている。
三社祭の本祭は5月の予定。
いまこそ、浅草へ足を運ばれてはいかがだろう
大川と東京スカイツリー
3月2日に、竣工式を終えた東京スカイツリー
あればあったで建築中と判り易かったクレーンも外れてひさしい。グングン伸びていたツリーに勇気をもらえていたのだな、と思う。
台東区桜橋側から撮った写真は、墨堤と首都高速が手前に控える。高速の真下が、向島。桜餅で有名な長命寺であったり、言問団子であり、弘福寺、三囲神社、牛嶋神社と七福神巡りもつづく。
そう戦後GHQにより売春防止法が施行されるまで、向島は玉の井、鳩の町として栄えた。
梅若伝説で有名な木母寺は、もっと上流の堤通りそば。
享保の時代、吉宗が植樹を命じたとされる、墨堤の桜並木。
今年は寒気で梅も遅れ、桜の見ごろも遅れるという。
おしなり君
平安時代の歌人、在原業平と烏帽子をモチーフにしたキャラクター「おしなり君」が犬を戯れている。
いち、にっ、さん、し、アル〇〇〇で話題のCMの撮影が行なわれていた。レスリングのメダリスト2人が桜橋に立っている。大勢のガードマンが目立つこと、目立つこと。
十月桜
向島に渡ると、長命寺の近くに十月桜が咲いていた。
今年ほど桜が待ち遠しい年も久しぶりだ
やはり、咲き誇る桜に早く人心地つきたいものだ
「春の川 おしなり君の 塔も冴え」
海光
地鶏の白レバー
銀座から築地に流れる
そう、ここは朝の町。全国から集まる食材、競り、職人たちの汗。早朝、鮮度抜群の海の幸山の幸を前に活きと粋の号令が響き渡る現代の魚河岸市場なのだ。
月夜の場外
築地「虎杖」裏店
そんな築地場外にあって、夜徘徊する呑み助に門戸を開けて待つ裏店があるのだ。
京都から江戸の呑み助に一泡吹かそうと進出してきた「虎杖(いたどり)」である。
本日のにぎり
もつ鍋で溜まったはずなのに、小腹とばかり、握り寿司、白レバーの刺し身、熱燗を頼む。あっしが好物なので、ガリは特別に別盛りでもらった。
湯葉、豆腐、おばんざい、ひつまぶし、京風のあれやこれや、コースもござれ。
この虎杖の名物は、なんといってもこの「カレーうどん」。
インド人もびっくりの、本格スパイスが効いたカレーに、丁寧に漉された和風出汁が見事に握手した味なのだ。
クミン、コリアンダー、シナモン、ターメリックなどなどカレーうどんの汁には贅沢な本格派の香りが、舌にのって跳躍する。
うどんの弾力がまたうれしい。生クリームをかけた一品、最後の一滴まで、みんなでシェアした。
カロリーや夜中の胃にどうなんだ、といったそんな軟弱を吹き飛ばす強烈なシメの一品である。
侮れないパンチの効いた香りがソソル悪女の誘い。
シメの一杯!
これ、病みつき、あるよ
「春の闇 市場に香る うどん哉」
海光
◆築地「虎杖」裏店◇
中央区築地4-9-6
03-5565-4001
http://www.itadori.co.jp/shop/shop_02.html
2012年TOTAL RUN 309km 3月7日現在
上野の森美術館前
3月最初の日曜日
底冷えが戻った風のなか、上野公園に向かう。上野の森美術館で「小林豊展」が開催されている。この日は、小林画伯の講演も予定されていると過日の同人の薦めのまま入場した。
小林画伯の講演
北緯36℃線にこだわる画伯の思いが、静かな情熱で語られる。発酵食品、醸造酒と蒸留酒の作られる土地の差異、いずれ酵母や菌の生きられる世界の分布に例えての話は興味深く、酒飲みにはわかりやすかった。子供たちにはどう響いただろうか。
子供たちの質問に、落ち着いたバリトンで答える眼差しは親密そのもの。その慈愛はきっと、長い時をかけて世界と日本の辺境と核心を旅した画伯ならではだろう。
画伯が云う。北緯36℃を境に吹く風は、日本ではさらに複雑で気まぐれのようだ。
寅さんのように旅する絵描きは、太古から吹きつける街道の風を捉える術を心得ている。
まるで、風のハンターだ。
現代を描いたという絵本の原画からは、懐かしい原風景がこころをくゆらす。
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印象的だった2枚について。
1枚は「イスタリフの春」という海外の風景画。
青い陶器で有名なイスタリフの町であろうか。簡素で乾燥した集落に、春山の草木が笑う印象的な絵だ。
画伯が卒業後、中東、アジアを旅した風景という1枚に、過ぎ去りし青い日々を重ねた。
カイロからテロを避けて入国したイスラエル。死海からエルサレムに向かい、小さな白い車を運転した記憶が脳裏にフラッシュバックする。
写真をみるより、記憶が喚起されるとはどういうことだ。
これが絵のもつ力の一つなのであろうか。
もう一枚は「ジブラルタル海峡」。
海は空を映す鏡だという。黄金に近い同系色のグラデーションで描かれた海と太陽と空の絵に魅せられた。
筆をとった絵描きが見たそのままが、目にうつるようだ。
あっしは絵の素人だから、むずかしいことは何ひとつわからない。
ただ、この高度な描写まで到達するのに、気の遠くなるような努力と数えきれぬ苦悩の皺が必要なことだけはわかる、気がする。
画伯の名の通り、豊かな春の光に包まれて、上野の森を後にした
「土壁の 町を眺むる 春の山」
海光
(死海の帰路にて)
明日6日最終日は15時まで。。
◆上野の森美術館「小林豊展」◆
2月28日(火)-3月6日(火)
http://www.ueno-mori.org/exhibition/schedule.html#20120228-1g
ほんじんのもつ鍋(塩)
久しぶりの銀座ナイト。懐かしき海岸通りを少し入ったところに目当ての店がある
博多の味そのもののもつ鍋を提供する「ほんじん」本店。隠れ家的な路地にあるのもお気に入りの理由。つい数年前まではひと月と置かずに通ったもんだ。
銀座ほんじん本店
古民家の忍者屋敷のような階段を昇って2階にあがる。
屋根裏部屋のような2階座敷
焼酎のラインナップ
先に到着した同期と、まずはビールとほんじん自慢の博多一口餃子で乾杯。仕事後の至福の一口ってこってすな。
博多一口餃子
地鶏の炭火焼き
鶏皮のポン酢和え
コリッとした食感とさっぱりしたポン酢、白髪ネギも効いて、ボトルの焼酎が減っていく。
地鶏は真っ黒になるほど炭をあて、かつお節をたっぷり。なんといってもこの料理、柚子コショウが決め手なのだ。
もつ鍋(塩味)
胡麻摺り
メンバーが揃ったところで、お目当ての本場博多のもつ鍋を頼む。しょうゆ、味噌とあるが、ここはシンプルに塩味で。
溢れんばかりのキャベツとニラは、冒頭の写真のようにほどよくステンレスの鍋に馴染んでいく。
ラストは、ちゃんぽん麺を入れて、かん水のシコシコを噛まずにのどで飲み込む。
やっぱりここのもつは、国産にこだわるだけあって、いい出汁がでるなあ。
かつて、勢いのあった時代がフッと頭を過ぎる。
飲み足りない呑み助は、そのまま築地の裏店へ流れていくのであった。
次号、ご期待を
「もつ囲む 屋根裏の奥 春を待つ」
海光
◇銀座「ほんじん」本店◆
中央区銀座8-15-6
03-3545-1866
http://www.motsunabe.com/index.html