タマルさんはナツメヤシ

タマルは女性の名。ナツメヤシの意味で多産を象徴。聖書には約束の地カナンは、蜜(ナツメヤシ)と乳(ヤギ)の流れる地とある。

病気の原因を知りたいですか

2013-12-04 21:29:48 | 婦人科
女の子かと思ったら、男の子でしたね。パッチン留めもしていたからね。

病気の原因を知りたいと思うのは人間の習性でしょう。
卵巣のう腫です、などと言うと、何故なったんですか?と問われます。
ですが本当は、患者さん側からすると知らない方がいいのかもしれませんよ。
不妊症の原因が、男性側の精子が少ないことが最大の原因です、なんて言われたら、
次に来院された時は離婚されていることだって有ります。
もちろん医療者は病気の原因を突き詰めた方が、治療を根本的に治せますから必要なことです。

今日は何の話かと言うと、先週の子宮頸癌の話の続きなのですが、
子宮頸癌の原因が分かれば本当にいいのか、という点についてです。

子宮頸癌検診の結果は以前と違って、正常ならNILM(ニルム)、
異常ならASC-US(アスクユーエス)だとか、LSILなどという結果ですよ、と先週お話しました。
ASC-USならヒトパピローマウィルスの感染が有るかどうか調べます。
LSILならまずヒトパピローマウィルスの感染が疑われるので、いきなり精密検査です。
精密検査とは、子宮頸部から3カ所ほど、組織をチョキンと1ミリほど採ってきます。

ヒトパピローマウィルスにはハイリスク型とローリスク型が有るのですが、
ハイリスク型の中でも16型と18型はとくに超ハイリスク型です。
子宮頸癌になった人では、原因の50%はパピローマ16型の感染によるからです。
原因の10%はパピローマ18型なのです。
そして残りの40%近くはそれ以外の12種類のハイリスク型のパピローマウィルスが原因です。
ローリスク型のウィルスに感染しても、子宮頸癌にはなりません。
性感染症の1つ、尖圭コンジローマという病気にはなりますが、生命までは奪いません。

だから今年は女子中学生に、このヒトパピローマウィルスの予防接種を受けることになったのですね。
2つのメーカーから予防接種が出ていますが、両方に共通するのは、
ヒトパピローマウィルス16型と18型を予防するということです。
ただしまだ発売されて間が無いので、どこまで効果が有るか、
また副作用が強調されていますが、本当に副作用が出る人が他のワクチンより多いのか、
などの検証はこれからになります。
しかし、いずれにしても標的は超ハイリスク型の16型と18型の2つなのです。
残りのハイリスク型の12種類は、ほったらかしです。

前年まで子宮頸癌検診で異常がなかったとして、
次の年に引っ掛かったとしましょう。
もし16型が陽性であったなら、さらに10年後に初期の癌か、
それに近い高度異形成という病態まで進む確率は意外に多くて17、2%です。
もし18型が陽性なら、10年後に同じように初期の癌かそれに近い状態になる確率は13、6%です。
ちなみに16と18以外の12種類のハイリスク型のウィルスだと、
10年後は3、0%だけです。

そしてヒトパピローマウィルスのハイルスク型が検出されなかったなら、
10年後に癌にはならないということなのです。
ついでに言うと、子宮頸癌検診で、NILM(ニルム)、すなわち正常と言われたとしても、
普通はしないでしょうが、たまたまウィルスの検査もしたとして、
偶然に超ハイリスク型のウィルスが居たならば、
その10%近くは子宮頸癌の初期に近いかそのものだという、
アメリカの大規模なアシーナスタディという結果が有ります。

まあ忙しい外来で、ここまでの話はしないのですが、
子宮頸癌検診で引っ掛かったならば、ウィルスの型別の検査が必要だということです。
でもこれって、性行為が原因でウィルスをもらって、将来子宮頸癌になる確率が高まるのですから、
もし持っていたら、性感染症と同じで、けんかになってしまうかもしれませんね。
実際、先日来られた高齢の女性は、昨年まで子宮頸癌検診で異常なく、
今年は引っ掛かり、ウィルスの検査をしたら陽性に出てしまったのです。
聞けばご主人と死別され、違う男性と付き合っているのだとか。
こうなると本人も困りますが、付き合っているパートナーも悩んでしまわれます。
しかもその男性の死別された奥さんは子宮頸癌だったと言われるのですから。
自分と性行為した女性が、亡くなったり、或は病気になってしまうということが
分かってしまえばどうでしょう?
そんなことは知りたくなかったのではないでしょうか。
私も説明には悩んでいます。本当に病気の原因まで言う必要が有るのかと。

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