はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

失踪日記

2007-02-04 08:41:28 | マンガ
「89年11月。わたしは某社の原稿をほっぽって逃げた。
仕事したくない病と二日酔いのせいですかね。
一週間ばかり友人の部屋に泊めてもらった。
仕事場に帰ってみると編集さんのメッセージ。
その後ほとんどの連載をやめて、休養期間に入った。
休筆中は朝仕事場へ行き、酒飲んで寝る。
夕方家へ帰って、酒飲んで寝てた。
そんな生活をしているうちにだんだん鬱と不安と妄想が襲いかかってきて、死にたくなってきた。
金も無くなったし最後の酒を飲んだ。
山の斜面を利用した首吊りである。
でも眠ってしまった。」

「失踪日記」吾妻ひでお

なんとも人を食った出だしもあったものだ。
精神を病んだアル中漫画家吾妻ひでおの失踪期間を綴ったこの漫画は三部構成の日記形式になっていて、ホームレス編、ガテン仕事編、アル中病棟編、と題名を聞いただけでも重い生活をコミカルに描いている。
このコミカルというのがポイントだ。彼の筆には社会正義とか社会病理を描き出そうといった気負いがまったく見られない。テーマがテーマだけに、ややもすればドキュメンタリー調に問題点を押しつけてしまいそうなものなのだが、それは無視して淡々と日々の生き延び方のみを綴っている。まるでただのお仕事漫画のように。
寒風吹きすさぶ中腐った毛布で寝たり。盗んだ大根と拾った天ぷら油で朝食をとったり。ホームレスの人の食い物をかっぱらったり。夜うろついていたら警察官に追われたり。その生活は決して見習えたものではないが、なぜか目が離せない。それは、何物にも縛られることのない、ただ生存するのみの毎日を羨ましく思ってしまうからだ。極限まで削ぎ落とされたシンプルな生活は、ある種の望郷の念ともうひとつの感情を呼び起こす。それは……。

蛇足だが、この作品は2005年に発刊され公表を博し、日本漫画家協会賞大賞、文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞、手塚治虫文化賞マンガ大賞、の漫画三冠と星雲賞ドキュメント部門を受賞している。