はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

あの日、僕らの命はトイレットペーパーよりも軽かった~カウラ捕虜収容所からの大脱走~

2008-08-25 18:53:09 | ドラマ
あの日、僕らの命はトイレットペーパーよりも軽かった-カウラ捕虜収容所からの大脱走- ノーカット完全版

VAP,INC(VAP)(D)

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「あの日、僕らの命はトイレットペーパーよりも軽かった~カウラ捕虜収容所からの大脱走~」脚本:中園ミホ

 大泉洋が小泉孝太郎を「けんちゃん」と呼びながら近づいてくる光景に何かデジャヴュを感じていたら、「ハケンの品格」のコンビだった。考えてみると脚本も中園ミホだし、これで篠原涼子でも出てくれば決まりだったのだが、あいにく今回は女っ気のないヒューマンドラマ。戦時中、シドニーの西にあったカウラという捕虜収容所が舞台だ。
 敗走中に捕虜となった朝倉憲一(小泉孝太郎)は、恩のある嘉納二郎伍長(大泉洋)と偶然に再会する。二郎に案内された収容所は、毎食と5本のタバコが保証され、虐待も強制労働もない楽園のような場所だった。
 だが、生きて虜囚の辱めを受けず……と覚悟を決めていた憲一には、その環境が疑問でならない。朝起きて朝食をとったら次の食事まで野球や賭け事に興じる穏やかな生活。濁酒を密造し、歌や踊りに手拍子を打つ。先だっての剣林弾雨の戦場からは想像もつかない、気の抜けるような境遇。
 待てよ、ちょっと待てよ。憲一の常識が待ったをかける。お前ら、恥ずかしくはないのか。今この瞬間にも命がけの死闘を繰り広げている戦友に、散ってしまった英霊に申し訳なくはないのか。俺達は、潔く命を絶つべきじゃないのか。
 憲一の青臭い疑問に、二郎は答える。皆死に場所を探しているのだ。いずれ来るその時に供えつつ、ただ一時、ほんの少しの平穏に身を委ねているのだと。
 そうして始まった、笑いの絶えない収容所での生活は、憲一の心にも密かに緩やかに安らぎをもたらしていった。二郎の心には、故郷へ残してきた妻への思慕を積らせていった。
 黒木軍曹(阿部サダヲ)とその取り巻きが収容所へ連行されてきてから、環境が変わった。戦場訓を振りかざし、部隊教練を欠かさず、非国民への鉄拳制裁を断行する原理主義者たちの存在が、平和だった収容所の生活を蝕み始めた。
 そして、その日が訪れる……。

 外国人との交流が少ない。収容所での日常が大雑把すぎる。土地柄や寒暖などの匂いを嗅ぎ取れない。途中までなかなか入り込めなかった。それは暮らしに説得力を感じなかったせいだ。鉄条網と看守と監視塔と収容施設だけでは「らしさ」が表現しきれていなかった。阿部サダヲが登場してからは、その狂気の演技に集中していたものの、もの足りなさが拭いきれなかった。脱走シーンも、収容所の全体像が掴めていなかったせいで、いまいち何が起こっているのかわからなかった。
 だが、ラストの良さがすべてのマイナスイメージを吹き飛ばした。山崎努演じる64年後の憲一が、カウラ事件の犠牲者を弔う墓地を訪れ、ある告白をするのだが、それが良かった。あまりの切なさに涙を流してしまった。現代のカウラに広がる風景……放牧された牛……絵に描いたような青空……どこまでも広がる自由の景色の中に立ち尽くしている「無常さ」が素晴らしかった。その後の流れは本当に蛇足で、説明のしすぎで、残念だ。いつも日本のドラマを見ていて思うことだが、親切設計というより無粋。もっと視聴者に考えさせてくれよ、と心の中で叫びながら、山崎努の横顔に見惚れていた。

鹿男あをによし

2008-06-21 17:15:26 | ドラマ
「鹿男あをによし」脚本:相沢友子

 神経衰弱とライバルの成功により大学の研究室を追い出された小川(玉木宏)は、教授の薦めにより奈良にある奈良女学館の教師となる。初めての土地、慣れない教師業に加えて小川を目の仇にする生徒・堀田(多部未華子)のいじめにあい、早くも挫折しかけた小川を救ってくれたのは、下宿先の同僚・藤原(綾瀬はるか)だった。不器用ながらも一生懸命に慰めてくれようとする藤原の真心に触れた小川は、福原(佐々木蔵之介)や小治田(児玉清)といった優しい人々の手助けも受けつつ、教師業を続行する。
 そんな折、奈良公園で出会った鹿が小川に話しかけてきた。鹿は告げる。最近頻発していた地震の原因は、地の底深くに眠る大なまずの仕業であること。なまずを鎮めるためには狐の使い番の女から目と呼ばれる鎮めの道具を受け取らなければならないこと。その運び番として小川が選ばれたこと。鼠が邪魔をしようとしていること。
 荒唐無稽な話と鹿が喋るというダブルインパクトにさらされた小川は、半信半疑ながらも鹿のために働く。奈良、京都、大阪の姉妹校の運動部顧問が集まった親睦会の夜。小川は京都女学館の剣道部顧問・長岡(柴本幸)から謎の箱を手渡される。帰宅してからどきどきして開けてみると、中身は普通の八つ橋だった。事実を知った鹿は、「鼠に騙された」と決めつけると、小川の顔に印をつける。それは、鏡を見ると自分の顔が鹿になっている呪いだった。
 顔を元に戻すために目を探さなければならない小川は、藤原に秘密を打ち明け協力を得る。どうやらその目が三校の剣道部に伝わる優勝プレート「サンカク」であることを突き止めた2人は、剣道部を率いて三校の交流戦・大和杯に優勝するため奔走する。だが弱小を極める奈良女学館剣道部には、まっとうにやっても勝ち目がない。途方に暮れているところへ、堀田が現れる。彼女は剣道部には所属していないが町の道場の娘で、どういう風の吹き回しか剣道部に力を貸してくれるという……。

 万城目学の同名小説をドラマ化したもの。小川が不運の塊であったり、男だった藤原を女にしたりと微妙に手を加えている。らしい。
 原作は読んでいないのでわからないが、綾瀬はるかの起用は大正解。古代史好きで話し出すと止まらなくて、お酒好きで絡み酒で、小川に負けず劣らず不運だけど前向きで……と完全にツボを突かれた。特別綾瀬はるか好きではなかったのだけれど、藤原はいいキャラ。これだけでも見る価値がある。
 小川=玉木宏もかなりいい。二枚目アピールは一切なく、不運で神経衰弱で、小心者だけど楽天家で、自分勝手な妄想野郎とあまりいいところはないのだが、それが逆に存在感を増す要因になっている。藤原を異性として意識せず、長岡一辺倒だったくせに最後はおいしいところをもっていくのも変にリアルだった。
 ストーリーはトンデモだし、謎解きの出来も微妙。原作はどうか知らないが、ドラマでは素直に登場人物同士の掛け合いを楽しむのが吉。

あしたの喜多善男

2008-06-13 09:07:20 | ドラマ
「あしたの喜多善男」脚本:飯田譲治

 頭も薄く、小柄で貧相な四十男・喜多善男(小日向文世)は、ひとつのことを心に決めていた。11日後に自ら命を絶つこと。親友を失い、最愛の妻に逃げられ、会社をクビになり、多額の借金を負った、名前負けした喜びの少ない人生の終止符を、自分の手で打つことに決めていた。
 借金取りから逃げ、数少ない財産を処分し、現金100万円とバッグひとつの身軽な体になった喜多は、タクシー待ちの行列に割り込もうとしたチンピラ・平太(松田龍平)と運命的な出会いをする。
 喜多の決意を知った平太の、残りの11日間でやりたい事はないかとの質問に、喜多は悩む。自分のやり残したことはなんだろう? 中村屋のカリーを食う。母親・静子(加藤治子)に会う。アイドルの宵町しのぶ(吉高由里子)に会う。最愛の元妻・みずほ(小西真奈美)に会う……。
 平太に導かれ、喜多は様々なことを体験していく。縁のなかった夜の社会、高級なブランドもののスーツ。カリーもうまかった。アーパー娘だけど宵町しのぶとも会えた。予想も出来なかった刺激的な日々は、一瞬喜多に人生の楽しさを思い出させる。だが、やはり現実は厳しいのだ。死の間際ですらも優しく回転してはくれない。母はボケ、みずほは喜多に消えてくれと願い、平太の優しさにも裏があって……。

 島田雅彦の「自由死刑」に飯田譲治が手を加えた本作は、個性派俳優小日向文世を主人公にしたユニークな作品だ。
 何がユニークって、主人公に冷たすぎる。かつてここまで主人公をひどい目に合わせる作品が他にあっただろうかと思えるほど、毎回手を変え品を変えて小日向の、喜多の精神を痛めつける。本当、毎回目を覆いたくなるようなシーンの連続だった。「あちゃー」、「そこまでやるか」、「もういいだろ」。声にならない悲鳴を上げ続けた。ラストはハッピーエンドではないけれど、余韻があってよかった。
 どれだけ人に裏切られても信じ続ける「いい人」を演じる小日向は、まさにこの人あってこそ、というくらい作品にマッチしている。平太役の松田龍平とのコンビも対照的で良かった。小西真奈美、栗山千明、要潤、生瀬勝久、今井雅之、吉高由里子、みな役柄をわきまえた小気味のよい演技で、非常に楽しい作品だった。美男美女を取り揃えるだけが芸じゃないことを見せ付ける良作。でもあまりにもむごすぎて子供には見せたくないな。

ハケンの品格

2007-04-06 11:57:07 | ドラマ
「ハケンの品格」脚本:中園ミホ

3000円という高額な御時給を誇る大前春子(篠原涼子)は、特Aクラスの派遣社員である。90数社で長きに渡る派遣生活をしてきた彼女は、仕事が素早く的確で、トラブルにも強く多くの資格(犬のトレーナー、理容師、調理師、食品衛生管理者、助産師、昇降機検査、大型特殊などなど枚挙に暇がない)を持ち、はっきりと有能だ。反面、3ヶ月働いては3ヶ月放浪するというジプシーのような生活をしているだけあって、難儀な性格をしている。無愛想でずけずけとものを言い、事あるごとに社員と衝突する。残業をしろ休日出勤をしろ。契約外の雑務をしろ。自分の中のルールに抵触するものは徹底的に拒み、定時に帰る。それは食品会社S&Fでも例外ではなく……。
2007年春に日テレ系で放映され好評を博したドラマ。篠原涼子は「ぼくの魔法使い」などで見せたコメディの素養をいかんなく発揮して、冷酷に見えるけれど実は情に厚く頼りがいのある鉄面皮・大前春子を演じきった。同年3月に行われた明治安田生命の新人社員に対するアンケートで理想の女性上司ナンバーワンに選ばれたのは、その評価の表れだろう。
大前春子を取り巻くキャラたちもなかなか面白い。泣き虫で無能な森美雪(加藤あい)。人がいいだけが取り柄で困ると子犬のような顔をする里中賢介(小泉孝太郎)。有能だけれど派遣差別をしてキレやすい東海林武(大泉洋)。その他にも安田顕や小松政夫、松方弘樹など個性派御大入り乱れて癖のある演技を見せてくれる。中でも見ものは大前春子と東海林武の盛大な口喧嘩。フロア中に響き渡る大声でやり合い、最後は大前春子が辛辣な一言でズバリと切り、東海林武がくるくるパーマをかきむしるというパターン。これがなかなかににぎやかで面白い。
このドラマが平均視聴率20%を突破した背景には、当世の就職状況があるのではないだろうか。社員を減らし、派遣を増やし、リスクをとることを恐れた会社とそこで働く人々の人間模様、というリアルな設定がチャンネルを固定させたに違いない。
大前春子「働くことは生きること」
東海林武「共に働くことは共に生きること」
似ているようで似ていない二つの言葉。この特徴的なセリフが、このドラマのすべてだ。