Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

チェンジリング

2010-04-17 | 映画(た行)

■「チェンジリング/Changeling」(2008年・アメリカ)

監督=クリント・イーストウッド
主演=アンジェリーナ・ジョリー ジョン・マルコビッチ ジェフリー・ドノヴァン

 クリント・イーストウッド監督のここ数年の製作意欲はすごい。しかも打ち上げ花火だらけの現代ハリウッドにおいて、きちんと人間を真っ正面から描ける貴重な存在だ。この世に語るべき物語がある限り、映画を撮り続ける・・・そんな気持ちがどの映画からもひしひしと伝わってくるのだ。この「チェンジリング」も然り。1920年代に実際に起こった失踪事件を描いたミステリアスな人間ドラマ。アンジェリーナ・ジョリー主演ということで、これまでやや敬遠していたのだが、いやはやこれは素晴らしい力作。何よりもアンジェリーナ・ジョリー扮する母親が、我が子の為に懸命に捜索を訴え続ける執念と愛情に心打たれる。

 ロス市警はニック・ノルティ主演作「狼たちの街」やジェームズ・エルロイの作品でも描かれていたが、そうとうダーティなことをやっていたようだ。それにしても、この保身のための警察の行動は怒りを通り越して恐ろしさを感ずる。自分たち組織に都合の悪い人間を精神病院送りにしてしまう。反抗したら電気ショック・・・これが実際に行われていたというのだ。弱い立場の人間を犠牲にすることで、警察という組織が体面を保とうとする恐怖。

 一方で子供を牧場に誘拐して殺人を繰り返す連続殺人犯。彼がそういう行動に出た原因を深く触れはしないが、結局は何かにすがらないと生きられなかった弱さをもつ人間だったのだろう。自分よりも弱い立場の子供を次々と犠牲にすることで、自分が生きていることを確認しようとしたのではないか。死刑執行前に「真実を話す」と言って主人公を呼び出すが、結局何も話そうとはしなかった。懺悔したからというのが言い分だったが、これだって懺悔したことにすがりたい気持ちに他ならない。それに対して「殺したの?」と問いかけ続ける主人公クリスティンの気迫。僕は涙をこらえながらこの場面を見た。主人公が口にするのはたった一つの台詞。それを繰り返すだけ。主人公の一途で懸命な気持ちがこれ以上に伝わる演出があるだろうか。実に見事な演出だし、アンジェリーナ・ジョリーの見事な演技。母親も子供も、不法に監禁され死の恐怖にさらされた。子供と同じように恐ろしい体験をした訳で、そこを乗り越えた主人公だからこそ、あの台詞を叫ぶことができた。しばらく耳から離れない。

 イーストウッド監督がこの題材を選んだのは、世間にはびこる様々な嘘に立ち向かう人々を描きたかったのではないだろうか。そして真実にたどり着こうとする尊さが人としての強さなのだから。死刑執行場面は冷ややかに描かれるが、決してこれで事件が解決した訳ではない。ウォルター少年が戻ってくるわけではない。ラストシーンで”希望”と言う言葉を口にする主人公。彼女に協力した神父たちもが事件を忘れて新たな生活をするように勧めるが、それでも彼女は生涯子供を捜し続ける。何があっても信じ続けること、人間としての強さってこういうことなのかもと思った。陰惨な話なのに、ラストには感動と勇気をくれる。こんな映画が本当によい映画なのだ。イーストウッド監督の偉大さを改めて思い知る秀作。

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