Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファン、アナキン・tak・スカイウォーカーが、日々気になる音楽・映画・家族の出来事を記す雑記帳

シングルマン

2017-02-08 | 映画(さ行)


■「シングルマン/A Single Man」(2009年・アメリカ)

●2009年ヴェネチア国際映画祭 男優賞
●2009年英国アカデミー賞 主演男優賞

監督=トム・フォード
主演=コリン・ファース ジュリアン・ムーア マシュー・グード ニコラス・ホルト

「ゲイ映画にハズレなし」が持論の映画友達(決してBL好きの腐女子ではない)のオススメで、
コリン・ファース主演「シングルマン」に挑んだ。

愛する男性を事故で失い、生きる意味も失くした大学教授。
彼は自殺することを決意し、着々とその準備を進めていく。

ところが、その人生最後と決めた一日は、
大学での講義はいつになく熱の入ったよいものになり、
元パートナーだった女性と楽しくお酒を飲み、
濃い顔のイケメン男性にナンパされる充実した日となった。
それでも死ぬ気満々で最後の時を酒場で過ごしてたら、
自分に好意を抱いている男子学生とバッタリ。
彼と浜辺で楽しく過ごし、そして彼は…。

デザイナーとして著名なトム・フォード監督が、ディテールまでこだわって演出した、
まさにアートな映画。
どこまでも洗練されてて、クローズアップも遠景も美しくて。
いやいや、男一人であんな整った生活できないよ…とも思うが、
インテリアや小物がオシャレで心惹かれてしまう。

でも何よりも、相手を見つめる視線が凄い。
欲望にギラギラしてるのを押し殺してるような、ニヤつきたいのを抑えてるような。
ほんとに演技なのか?マジじゃないのか?と疑いたくなるアツさ。
黙って見つめ合ってる場面の緊張感。
同性愛に寛容ではなかった60年代の空気感。
キューバ危機を前にしたアメリカ社会の先が見えない怖さ、性的マイノリティが社会に抱いている居心地の悪さ。
淡々とした展開をあるがままに受け入れて映画のムードに酔えるかが、
好き嫌いの分かれ目かも。

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神様のくれた赤ん坊

2017-02-05 | 映画(か行)

■「神様のくれた赤ん坊」(1979・日本)

監督=前田陽一
主演=渡瀬恒彦 桃井かおり

前田陽一監督の「神様のくれた赤ん坊」鑑賞。
死んだ女が遺した男の子。父親の可能性がある5人の一人とされた主人公(渡瀬恒彦)が、その子を連れて父親探しの旅へ。
同棲中の女(桃井かおり)も巻き込んで、三人の旅は、自分のルーツを探しながら、
尾道、中津、別府、熊本、天草、長崎、唐津、そして若松へ。
チラシ画像の右上が若戸大橋ですな。

コメディアンを使わない人情喜劇。
嵐寛寿郎、吉幾三、泉谷しげる、吉行和子、樹木希林、登場する誰もが印象に残るいい仕事。
特に桃井かおりが母親のルーツを知るエピソードがグッとくる。

たったひと言の台詞が、これ程涙を誘うなんて見事。
粋な脚本のロードムービー。
ちょっと子供そっちのけな気もするが、
同じ題材を今撮ると、きっと子役で泣かせるあざとい映画になるだろう。
あくまでも主眼を主人公二人の心の成長に置いてる潔さがいい。

クライマックスの若松南海岸は、
旧古河鉱業若松ビルの横を通って、ごんぞう小屋、栃木ビル等が登場。

若戸大橋に登るエレベーター、若戸大橋の歩道。
今は歩いて渡れないだけにとても貴重な場面。
エンドクレジットは空撮で真っ赤な橋が映される。

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ブリッジ・オブ・スパイ

2017-01-24 | 映画(は行)

■「ブリッジ・オブ・スパイ/Bridge of Spies」(2015年・アメリカ)

●2015年アカデミー賞 助演男優賞
●2015年全米批評家協会賞 助演男優賞
●2015年NY批評家協会賞 助演男優賞

監督=スティーブン・スピルバーグ
主演=トム・ハンクス マーク・ライランス エイミー・ライアン スコット・シェパード

4年前の大統領選挙の時。
スピルバーグはあの地味な映画「リンカーン」を撮った。
相次ぐバッシングが政治的、人種的に国家を二分するに至り、みんながウンザリしたあの時に、
どういう人物が大統領にふさわしいかを「リンカーン」を通じて示してみせた。

再び大統領選挙が翌年に迫る2015年に製作されたのが、この「ブリッジ・オブ・スパイ」。
派手なエンターテイメント作品が目立つフィルモグラフィーの中で、
本作は「シンドラーのリスト」に代表されるシリアス路線の一本と言えるだろう。
冷戦の最中で、ソビエトのスパイを裁く法廷で被告の人権を守り、
逆にアメリカ兵が同じ立場になった時に交換の手段にできると主張した実在の弁護士が主人公。
敵国スパイの弁護をしたことで、反感を買い、
また捕虜交換の交渉では国のバックアップをもらえず自らの信念で立ち向かう物語に、緊張感が全編を覆う。

スパイを扱った「ミュンヘン」程の悲壮感はなく、手堅い仕上がり。
ベルリンに急ピッチで壁が作られる緊迫した様子にしても、アメリカの偵察機U-2機撃墜シーンにしても、
ラストの捕虜受け渡しの場面にしてもスピルバーグ演出は台詞に頼らず、見せ方が上手い。

この映画で心に残るのは、主人公の敵味方を超えた人権意識と、"不屈の男"振り。
「これが君の贈り物だよ」というクライマックスはぐっときますな。

だーれかさんの人種や移民バッシング発言が国家を二分した2016年のアメリカで、
この映画が訴えた人権意識がどれだけ届いたかはわからない。
だけど、これだけは言える。
世の中のお父ちゃんは、この弁護士さんだけでなく、みーんな人知れず頑張ってるんだよ。うん。

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シング・ストリート 未来へのうた

2017-01-21 | 映画(さ行)

■「シング・ストリート 未来へのうた」(2015年・アイルランド=イギリス=アメリカ)

監督=ジョン・カーニー
主演=フェルディア・ウォルシュ・ピーロ ルーシー・ボーイントン マリア・ドイル・ケネディ エイダン・ギレン

ジョン・カーニー監督の「ONCE ダブリンの街角で」「はじまりのうた」はどちらも愛して止まない映画。
監督の新作は、1985年を舞台に高校男子がバンドを始める青春映画だ。

聴く音楽によって影響されちゃってオリジナル曲が似てきたり、ファッション真似たりする様子が、
同じ時代に生きてきて自分も音楽活動してただけに「わかるなぁー♪」と嬉しくなってくる。
彼らのバンド最初のオリジナル曲"モデルの謎"は、duranduranの"Girls on film(グラビアの美少女)"が元ネタ?。
親の喧嘩が聞こえなくなるように兄貴の部屋でManeaterを聴く場面が好き。
大学中退して家でゴロゴロしてる兄貴が、主人公に音楽指南してくれる。
大好きなロックムービーには必ずこういう存在がいる。主人公に音楽面だけでなく、生き方でも啓示を与えてくれる素敵な存在だ。

思えばあの頃、好きな音楽が自分の世界をグイグイ広げてくれた。
そして好きな音楽が増えるきっかけには必ず誰かがいた。
毎週オススメ音楽を配信してくれる便利な現在とは違って、音楽は人と確実につながっていたと思うのだ。
それを思い出させてくれる。
だから僕らは、音楽配信を一人で楽しむんじゃなくて、誰かと語り合わなきゃいけない。あ、本編には関係ないね。

前2作と比べるとなーんか物足りない。
音楽の力や素晴らしさ、主人公の成長は確かによいのだけれど、話に深みが足りない気がする。
離婚直前の両親やメンバーの家族はもっと出てきて欲しかったかも。
それに、あの年頃ならバンド内での横恋慕みたいなこともあるだろに。
そういう意味では、J・J・エイブラムス監督の「スーパーエイト」は良くできた映画だったよな。

イギリスを目指すラストの二人を冷静な目で見てしまう自分。あー、10代でこの映画を観たかった。
でもこの映画は、あの頃の自分を思い出させてくれる。

僕と不思議と波長があって、国語の成績が良くて、センスが良い同じ学年の女のコに、
「ねぇ、歌詞書いて欲しいんだけど」
と切り出したあの春の日を。

劇中、音楽通の兄貴のひと言。
「彼氏はジェネシス聴いてたのか?そいつは大したヤツじゃねぇよ。フィル・コリンズ聴くようなヤツは女にモテない」

わっ、わるかったな!ジェネシスファンで!(泣)

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この世界の片隅に

2017-01-15 | 映画(か行)


「あの花」や宮崎駿の「風立ちぬ」が世に出た時に、こういう話は何もアニメでは やらんでも…と多くの人が言った。
高畑勲の「かぐや姫の物語」が世に出た時に、アニメだからこういうことができたと言った。

実写でも「この世界の片隅に」を映像化することはできただろう。
しかし、アニメだからこそ伝わる情緒や激しさ、再現できる風景がこの作品にはあるし、
僕らは登場人物たちに身近な人のような思い入れを抱くことができる。

それだけに、この人たちが生きる戦争の悲惨さを思い知ることになる。
そして何よりも、悲惨な現実や実写では目を背けたくなるような描写をも僕らは受け入れることができる。
それはアニメだったから。

「火垂るの墓」がキツくて観られない…という人にもこの作品はきっと心に届くはず。
厳しい現実はあるけれど、それでも日常はある。ちょっとしたファンタジー要素と、
こうの史代の温かみのあるキャラクターたち。

ボイスキャストも素晴らしい仕事。
クラウドファンディングで製作費が集められたという事実も、現実世界も捨てたもんじゃないな、って気持ちにさせる。
責められるべきは、出演者の事務所トラブルばかりを報道して、作品に触れようともしなかったマスコミだろう。

キネ旬1位は納得です。

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tak's Movie Awards 2016

2017-01-07 | tak's Movie Awards
毎年、その年に観た新旧問わずすべての映画からベスト作品を選出する個人的awardをやってきました。しかしながら、リアルワールドでの様々な事情から、2016年はこれまでのように映画館通いができませんでした。このアワードは僕が映画ファンを公言した1980年から、毎年選出してきた個人的映画賞なのですが、2016年は僕の映画生活史上、最も鑑賞本数の少ない年となりました。

それでもなんとか喰らいついた新作と近作から選出をしました。なーんとか2017年はいろいろ観たい。
という訳で、ベスト10は今年はやりません。あしからず。



■作品賞=「ブルックリン」(ジョン・クローリー/2015年・アイルランド=イギリス=カナダ)
■アニメーション作品賞=「君の名は。」(新海誠/2016年・日本)

□監督賞=イングマル・ベルイマン「野いちご」(1957年・スウェーデン)「叫びとささやき」(1972年・スウェーデン)

□主演男優賞=ロマン・デュリス「彼は秘密の女ともだち」(2014年・フランス)
□主演女優賞=シアーシャ・ローナン「ブルックリン」(2015年・アイルランド=イギリス=カナダ)

□助演男優賞=ドニー・イェン「ローグ・ワン スターウォーズ・ストーリー」(2016年・アメリカ)
□助演女優賞=ルーニー・マーラ「キャロル」(2015年・イギリス=アメリカ=フランス)

□音楽賞=エンニオ・モリコーネ「ヘイトフル・エイト」(2015年・アメリカ)


社会人になりたての時、いろんな人生の決断をした時の不安だった"あの頃"の自分に再会できる素敵な作品。それが「ブルックリン」。
その不安な気持ちを抱いていたのは僕も同じ。観た後でジワジワとくる映画でした。

主演女優賞は「キャロル」のケイト・ブランシェットと悩んだけど、結局シアーシャの瞳の輝きに負けました。

ヨーロッパ映画好き要素を残したくて、主演男優賞はおフランス映画で。

助演男優賞、本音は野村萬斎にあげたい。モーションキャプチャーでゴジラを演じたんだもの。
もちろんドニーも素晴らしかった。

アニメは「聲の形」を見逃したのが残念だったけど、
なんだかんだ言っても「君の名は。」は秀作。それは誰もが認めてること。

映画館に行けない日々に、鑑賞眼を落とすまいと旧作をDVDで観た。
そんな旧作に敬意を表して、監督賞は北欧の巨匠ベルイマンに。
ウディ・アレンのルーツはここにあったのだ、と心底納得。

2017年は、もうちょっと映画館に行きたい。
今年もよろしくお願いします。

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ルビー・スパークス

2016-08-10 | 映画(ら行)

■「ルビー・スパークス/Ruby Sparks」(2012年・アメリカ)

監督=ジョナサン・デイトン & ヴァレリー・ハリス
主演=ポール・ダノ ゾーイ・カザン アントニオ・バンデラス アネット・ベニング

 ある日突然、理想の彼女が目の前に現れて、しかも自分を愛してくれる・・・なーんて"男子の願望"的な物語は、手を変え品を変え様々なものが作られてきた。長いこと映画ファンやってると「またかい」と思うこともあるけれど、むしろ僕はそのバリエーションを楽しんでいる。一方、無垢な女性を男性がリードして素敵な(しかも自分好みの)レディに育てていく物語も、世の東西を問わず恋愛映画で人気のある展開だ。「プリティ・ウーマン」や「マイ・フェア・レディ」に代表されるこれらの物語は、男性目線にはギリシャ神話をルーツにするピグマリオン願望が、女性目線には次第に洗練されていくヒロインに変身願望が共感を呼ぶポイントだ。そのどちらかだけでも十分ラブコメ映画は成り立っちゃうのだが、男性目線寄りに見たとき、この「ルビー・スパークス」はその両方の要素を含んでいると言える。そういう意味では面白いバリエーションだろう。

主人公はスランプの小説家。デビュー作の成功後、新作が書けずにいた。そんな彼は、繰り返し同じ女性が出てくる夢を見る。彼の願望とも言えるその女性、ルビーを小説に書いた。するとある朝目覚めると、その彼女が彼の自宅に現れた。しかも、小説に書き足すとその通りに彼女は行動するのだ。最初は信じられなかった彼だが、本気で彼女に恋をすることに。しかし、彼女の奔放な性格がだんだんと気に入らなくなった彼は、小説に新たな設定を書きこみ始める。

着想自体はよくあるファンタジーなんだろうけれど、この映画が見事なのは二人の関係の始まり方がどうであれ、男と女が関係を維持していく普遍的な難しさをきちんと描いているところだ。あんな娘が現れたらいいな、から始まる突飛な男子願望系のストーリーだけど、そこには血の通った男女の物語がある。

気まぐれな彼女との関係がギクシャクし始めて、それを修正しようとするために再び原稿を上書きする主人公のエゴ。それは見苦しくも恐ろしい場面。叫び狂い、のたうちまわるルビーの姿には、目を背けてしまいたくなる。劇中ゾンビ映画が挿入されるけど、それは主人公がルビーを現実世界に生み出したことが、死人を生き返らせたに等しいという暗示なのだろうか。だったら「フランケンシュタイン」を引用したら、もっとしっくりきたような気もする。この辺りは女子にはヘイトされる展開かもしれないし、この映画が他の同様なラブコメと並ぶ評価をされていない理由なのでは。

いかにも…な結末がありきたり?と言われればそれまでかもしれない。「(500)日のサマー」、ダイアン・レインの「愛にふるえて」(古っ)、水島裕子の「後ろからバージン」(例えが悪い・笑)に通ずるその結末。でも、だからこそ幸せな気持ちで僕らはエンドクレジットを迎えられるのかもしれない。

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教授のおかしな妄想殺人

2016-06-26 | 映画(か行)

■「教授のおかしな妄想殺人/Irrational Man」(2015年・アメリカ)

監督=ウディ・アレン
主演=ホアキン・フェニックス エマ・ストーン パーカー・ポージー ジェイミー・ブラックリー

 昨年下半期から映画館になかなか行けず、鑑賞本数も減少の一途で、映画の神様に不義理をしているな、とわが身を振り返る(泣)。DVDやBSでまったく観てない訳でもないのだけれど、どうもレビューが進まず、このブログも更新が滞っているが、これまで通りでなくとも、新作でなくとも感想など記していけたらと思っておりまする。ご容赦を。さて、ウディ・アレン監督の最新作にありつけた。

 「おかしな」という邦題がついていると、昔の外国映画を知る世代には"粋なコメディ映画"の先入観がある。古くはウォルター・マッソーやジャック・レモンの映画、70年代の小粋なアクションコメディ。中には「おかしな」と題されたことで、イメージ先行の"粋"な映画になってしまった作品もあるとは思う。そんな「おかしな」という邦題に騙されて、本作をお気楽なコメディだろうと思うと、完全に肩透かしを喰らうことになる。だって、傑作「マッチポイント」のようなシリアス路線ではないにせよ、前作「ブルー・ジャスミン」同様、偏った思いを抱えた人が陥る悲喜劇が描かれるブラックコメディなのだから。主人公は、現実を悲観して人生に意味を見いだせずにいる哲学教授。ある日、彼は彼を慕う教え子とカフェで、ある判事の悪行ぶりを耳にする。"世の中の為の殺人"を完全犯罪として成し遂げることを考え始めた教授は、それが日々のモチベーションになっていく。仕事はもちろん、それまで冴えなかった同僚女性との関係までも絶好調に。そして彼は計画を実行に移す。その末路とは・・・。

 殺人を肯定することを自分の中で理屈立て、正当化していく過程で、どんどん生き生きしていく主人公。銀幕のこっち側の僕らも、仕事が絶好調な時ほど、他のことも自然とうまくいった経験が少なからずある。ここはとても納得できる場面だ。そして、"世の中の為の殺人"を着実に計画立てていく。僕はヒッチコック監督の名作「ロープ」で、ジェームズ・スチュワートが演じた教授を重ねた。「ロープ」に出てくる教授は、"選ばれし者に許された殺人"が主張で、それを美学のように説いていた。その極論に陶酔した若者が映画の冒頭で殺人を犯す。教授の美学を実践しようとして、実際に殺しをやってしまうお話だ。しかし、ジェームズ・スチュワート教授自身は説いただけで殺人という行為は肯定しなかった。

今回のホアキン・フェニックス演ずる教授は、自らその考えを実践しようとしてしまう。映画はその辺りから次第に笑えなくなってくる。事件を知った教え子は、着実に真実に近づいていき、手口にすら考えを及ばせていき、教授の完全犯罪は彼の周りからどんどん崩れていく。ウディ作品では、これまでもハイソな人々(と思っている人々含む)の思い上がりを強烈に皮肉ってきた。本作もそのバリエーションと言えるのだろうが、秀作「ウディ・アレンの重罪と軽罪」のように深くテーマを掘り下げたように感じられない。この変化はなんだろう。

 全編を彩るのは、これまでのウディ映画で使われてきた往年のスウィングジャズではなく、小粋なジャズピアノ。たまたま部屋で流していたこの曲を使って映画を撮るならば・・・という発想で脚本が作られたのではないかと思うくらいに、最後の最後まで繰り返し流される。それはそれでカッコいいし、映像とのマッチングも見事だ。されど、それは音楽の力を借りた"粋"に感じられてならない。回想で綺麗にまとめられる結末のせいもあって、映画のテーマに距離を感じてしまう。いや、それでも全体的には、冒頭お話した「おかしな」邦題の映画に僕らが期待するライト感覚で"粋"な映画には仕上がっている。楽しめる映画だけど、本編には登場する「罪と罰」についてあれこれ哲学しちゃう映画ではないってことかな。

ホアキン・フェニックスのダブついたお腹に何より驚いた。リバーと違って悪党面だから、最初から何かやらかす…と観客に期待させてしまうキャスティング。エマ・ストーン嬢は、ウディ作品のヒロインは2作目だが、今回はどうも彼女でないと!という役柄には思えない。学生役だし、同じエマちゃんならワトソン嬢もあり?ウディ先生の好みとは違うのかなw

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ロング・グッドバイ

2016-03-26 | 映画(ら行)

■「ロング・グッドバイ/The Long Goodbye」(1973年・アメリカ)

●1973年全米批評家協会賞 撮影賞

監督=ロバート・アルトマン
主演=エリオット・グールード ニーナ・ヴァン・パラント スターリング・ヘイドン ジム・バウトン

 レイモンド・チャンドラーの小説に登場する私立探偵フィリップ・マーロウ。その魅力にドキッとしたのは中学生の頃(なんておマセな!)。テレビの映画番組で観た映画「さらば愛しき女よ」がきっかけだった。ロバート・ミッチャムが演じる寡黙なマーロウ、謎の女シャーロット・ランプリング。粋な台詞のカッコよさにシビれて、原作に手を出したニキビ面の中坊。しかし文庫本の厚さにビビって当時手を出さなかったのが、実は「長いお別れ」。この映画「ロング・グッドバイ」の原作である。最近、戦後すぐの日本に翻案したドラマが製作されたせいか、BSの映画番組で「ロング・グッドバイ」が放送された。あー、やっとこの映画を観られたよ。

 松田優作がこの映画に惚れてあのドラマ「探偵物語」が生まれたという逸話もあるが、今観るとそれも納得できる。だらしなさそうで、本当に頼れるのか不安に思える映画やドラマで見る私立探偵のイメージ。それでも生き方や仕事のやり方に貫く美学をもっているカッコよさ。エリオット・グールードのマーロウはまさにそれだ。映画冒頭、猫がお気に入りのカレー印のキャットフードで猫一匹に翻弄される姿はなんともおかしくて、彼の人の良さがにじみ出ているように思う。だが、この後ストーリーが進むにつれて、厄介な事に巻き込まれて損な役割を背負い込むことになる私立探偵という仕事をもここでイメージを植え付けているようにも思える。実に巧みな導入部分。そしてマーロウは友人テリー・レノックスの国外逃亡を手助けしたと疑われてしまう。テリーが死亡したと知らされ、さらにその隣人の失踪が関係し、テリーが持っていた金銭を巡ってギャングにも絡まれる始末。マーロウは事件の渦中に堕ちていく。私立探偵ってやっぱり損な役回り。

 この映画、事件の真相にたどり着くストーリーではあるけれど、決してこれはスカッとする謎解きではない。マーロウを中心とした探偵映画というよりも、他のアルトマン作品にも共通する"変な人たちの群像劇"として観るのが実は正しいのだろうか。失踪した作家ロジャーの豪快なキャラクター、ギャング団のおかしなボス(監督として活躍しているマーク・ライデルが演じている)、ビーチ沿いの高級住宅街に住む人々の奇妙な暮らしぶり、変に口答えするスーパーの店員、マーロウの隣人である半裸のドラッグお姉ちゃんたち。そして事件の発端である友人テリー。世の中は理解できないヤツばかり。そんな人々の間を、マーロウは口癖の「いいけどね(It's ok with me)」を繰り返しながら渡り歩いていく。ハンフリー・ボガートやロバート・ミッチャムが演じたトレンチコートが似合うカッコいいマーロウ像とは違うその姿は原作ファンの不評を買ったそうだ。しかし、ダメ男なマーロウに銀幕のこちらの僕らは、いつしか自分を重ねている。かくいう僕もそうだ。近頃雑用や周囲の人々に翻弄されているとボヤいてしまいそうな時期に鑑賞したせいかもしれない。でもそののらりくらりとした私立探偵像は、後の映画やドラマに大きな影響を与えている。一風変わった映画ではあるけれど、多くの人に愛されているのはそれが理由ではないだろか。

 ジャズボーカルが切なく響く主題曲がアレンジを変えて随所で使われる。切ないメロディーが心に残り、映画が終わった後もあの曲に浸りたいと思えた。これが「スターウォーズ」のジョン・ウィリアムズの仕事というのも興味深い。ヴィルモス・ジグモントのカメラがまた素晴らしい。ロングショットで様々なことを語り尽くす構図と、光線の美しさ。無言ですれ違うラストシーンがなんて雄弁なのだろう。往年の映画スタアの物真似をするおじさんも含め、この映画は様々な顔の魅力があり、それが愛される映画である理由なのだろう。

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スター・ウォーズ/フォースの覚醒

2016-02-11 | 映画(さ行)

■「スター・ウォーズ/フォースの覚醒/Star Wars:The Force Awakens」(2015年・アメリカ)

監督=J・J・エイブラムス
主演=デイジー・リドリー ハリソン・フォード キャリー・フィッシャー アダム・ドライバー ジョン・ボイエガ

 新三部作の幕開けたる第7作がついに公開された。僕は第1作を小学生の頃に観て、シリーズが進むととも映画ファンとなっていった世代。「スターウォーズ」がなかったら、ここまでの映画好きにはなっていなかった。映画自体の面白さ、製作者が込めた思い、そして時代と共に受け継がれる映画愛とリスペクト。映画の裏側にあるそれらをすべて知り尽くしたい!というのが、僕の映画に向かう原動力だった。


「ジェダイの復讐」と「ファントムメナス」もあるはずだが。

 そしてディズニー傘下で製作されることとなったエピソード7。クレーターがミッキーの形になってやしないか。スティッチがヨーダを扮装で出てきやしないか。C3POの足の裏に"アンディ"って書いてたりしないよな。そんなつまらない心配もあったけど、シリーズに敬意を表し、オープニングにディズニーのシンデレラ城は登場しないという配慮ぶり。

 オールドファンをがっかりさせず、しかも新たなファンに愛されるバランスが求められた、ある意味製作陣には難しい課題。キャストにもスタッフにも、あの「スターウォーズ」を再び撮る!という喜びと大きなプレッシャーがあったことだろう。そして「スターウォーズ」を観ることは、僕ら映画ファンには大イベント。それを楽しまなくてなんとする。過去の作品とのつながりを示すために説明くさくなってるとか、オールドファンにしかわからない筋書きとか、世間では言われているようだ。まぁ、気持ちはわからんでもないけれど、新たな物語として復活したことを喜べないはずはないだろう。初めてスターウォーズを観る世代には、旧作に関係する伏線が理解しづらいところは確かにあるかもしれない。でもそれを深く理解したければ、旧作に挑めばいいだけの話だ。オールドファンがニヤリとできる小ネタが随所に散りばめられている。僕ら世代はそれを楽しめばいいし、初めて世代はその世界観を楽しむが勝ちだ。

 J・J・エイブラムス監督作品の持ち味は、映像も物語の展開もスピーディなこと。そこで何が起こっているかをじっくり見せるのではなく、登場人物に何が起こっているのかを細かいカットとクローズアップをつなぎ合わせて見せる。決してすべてを見せる演出ではないのだ。それだけに観客は主人公の目線に近づけるので臨場感があるし、感情移入できるのだ。クライマックスのタイファイターとXウイングのドッグファイトは、まさに真骨頂とも言えるだろう。しかしその一方で、スターウォーズの世界観を示すために、これまでにないロングショットを多用している印象も受ける。例えば予告編にも登場した巨大戦艦スターデストロイヤーの残骸。これまでの帝国との戦いがいかに激しかったのか、そして年月が経っていることを無言で、しかも雄弁に示してくれる。

 エイブラムス監督は僕と同い年なので、まさしくこのシリーズを観て育った映画人。映画に対する愛情がこの人の作品には見え隠れする。エピソード4~6と同時期に映画が製作された「スタートレック」シリーズのリメイク版を監督し、映画少年の活躍を描いた愛すべき自作「スーパーエイト」は憧れのスピルバーグがプロデュース。そしてルーカスの「スターウォーズ」を引き継ぐなんて、同年代の映画好きから観たらこんな幸福なキャリアはあるまい。しかも日本通のヲタというから面白い人だ。そういえば脚本を手掛けた「アルマゲドン」は、往年の東宝SF映画みたいだもんね。ジョージ・ルーカスはエピソード1~3では"民主主義の崩壊"を描きたかったとも述べていた。しかし政治的な話よりも1~3で心に残るのは、アナキン・スカイウォーカーを中心とした悲劇的な運命の物語。ルーカスは、もはやエピソード4を撮った頃の映画少年ではなかったし、映画監督としてのキャリアが欲しいという気持ちもあっただけに、今観ると詰め込んでるよな、と感じるところもある。対してエイブラムス監督の手によるエピソード7は、新三部作の幕開けにふさわしい華やかさと瑞々しさがある。「フォースの覚醒」にエイブラムス監督が注ぎ込んだのは、シリーズに対する少年のような愛情と憧れに他ならない。

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