■「エディット・ピアフ 愛の讃歌/La Mome」(2007年・フランス=イギリス=チェコ)
監督=オリビエ・ダアン
主演=マリオン・コティヤール シルヴィー・テステュー パスカル・グレゴリー
フランスを代表する国民的歌手エディット・ピアフ。彼女の波乱に満ちた人生を描いて、巷で評判になっている伝記映画だ。映画館では中高年の女性が多い・・・というか、僕が行った回では僕以外はみなそうした世代の女性だった。それはさておき、これは力作だ。特にピアフを演じたマリオン・コティヤールの見事な演技には圧倒される。20歳の奔放な時代から、麻薬でボロボロになっていく晩年まで。また、幼い頃からシャンソン歌手の真似をして歌うのが好きだったという彼女は、映画のためにトレーニングを積むことで”なりきり”に成功した。オリジナルのピアフの声を重ねた本編だが、女優コティヤールの身体にピアフが乗り移ったかのような錯覚を覚える。この人の熱演あっての映画だ。
ところで監督のオリヴィエ・ダアンは僕と同世代。ピアフの凄さを知らない世代だ。世間ではこの監督がピアフに対する理解が足りないから上っ面なめたような伝記映画になっているとか、イヴ・モンタンやシャルル・アズナブールなど同時代の歌手や、ジャン・コクトーとの関係がもっと描かれるべき、といった批判が浴びせられている。確かにそうした面はあるかもしれない。日本でいえば、美空ひばりの伝記映画をまったく知らない世代が撮るようなものだろう。
しかし、こうした批判はピアフに思い入れのある方々だからこそ。モンタンやアズナブールの”物真似大会”が映画で展開されて幻滅するよりも、むしろピアフとその周辺の人物に絞ったことはよかったのではないか。また、ダアン監督世代がピアフの偉大さを語り継ぐことは必要なことではないか。確かに、映画は人生における悪い出来事ばかりが残ってしまう構成ではあるし、もっと「愛の讃歌」や「バラ色の人生」が聴きたかったとも思う。愛するマルセルの死に泣き叫ぶ彼女が、ホテルの部屋からステージへと向かう演出や、時系列をバラバラにして、人生の終わりとオランピア劇場でのカムバックを同時進行させたのも面白いではないか。現代フランスの若手監督達は過去から学ぶことに意欲的。この映画だってそうした姿勢の現れなのだ。
脇を固める新旧の役者たちがまた素晴らしい。売春宿の女将を演じたカトリーヌ・アレグレ。「嘆きのテレーズ」などで有名な名女優シモーヌ・シニョレの娘である。彼女が銀幕に出てきた瞬間、僕は古き良きフランス映画の時代に引き戻された。出番こそ少ないが、重要な役どころのジェラール・ドパルデュー。少女時代のピアフをかわいがる娼婦ティティーヌを演じたエマニュエル・セニエの登場も嬉しかった。