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Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

長江哀歌

2008-03-21 | 映画(た行)


■「長江哀歌/三峡好人(Still Life)」(2006年・中国)
 
監督=ジャ・ジャンクー
主演=チャン・タオ ハン・サンミン ワン・ホンウェイ

 三峡は、長江中流に位置する幽幻な山地の風景が有名な場所。映画にも出てくるように、人民元紙幣のデザインにも使われている。そこには毛沢東の時代から大規模なダム建設が計画されており、万里の長城以来とも言われるくらいの国家的プロジェクトとなっている。事業の陰でダムの底に沈む村がある。この映画は沈みゆく村を舞台に、別れた家族を探すふたりの人物の姿を綴る物語。

 発展という名のもとで変わっていく中国。これを映画は決して肯定して描かないし、かといって文明批判めいた描き方もしない。この映画にあるのは、何とも例えようがない喪失感。出てくる人々は、みんな何かを失っていく。何年も会っていない家族を捜しに来た男ハン・サンミンは、愛する子供に会うことも果たせない。彼を棲ませた家主は、ダム建設による取り壊しで家を失ってしまう。元妻を探すのを手伝ってくれたチョウ・ユンファ気取りの男を友に得たが、彼は瓦礫の下敷きになってしまう。音信のない夫を捜しに来た女シェン・ホンは、やっと再会した夫に別れをきりだす。それぞれが大事なものを見つけに来たはずなのに、何も手にすることはない。寂しさに満ちたラストシーン。

 銀幕を通じて、現地の湿っぽい空気が伝わってくるような映像が印象的だった。登場人物はよく水を飲むし、汗をかいている。ハン・サンミンは全編を通してランニングシャツしか着ていない。それにしても、突然オブジェとして現地で作られた塔がロケットとなって飛び立ったり、元妻と再会した場面で突然ビルが崩れ落ちたりと、静かな映画の空気感を敢えて崩したいのか、理解しがたい演出もみられる。

 時代と共に国家は変わりゆく。それでも大河は昔と変わらずに流れていく。発展で変わりゆく国の陰で、名もなき庶民である誰もが、つつましく生きていくように。

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4 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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まるで (メル)
2008-05-14 09:45:32
抒情詩のような映画でしたが、妙に好きでした。
発展、そして建設ラッシュの中国ですが
失ってしまうものがたくさんあるんだよなぁと
つくづく思いました。
三峡ダムのこと、ほとんど知らなかったので(^^;;)
ちょっと調べてみたら、貯水池が660kmと知って
めちゃくちゃ驚きました。
日本だったら本州が半分沈んじゃう感じですよね。
勿論山々とか自然の場所がほとんどなんでしょうが
(でも、それも悲しいけど)そんなに広い場所が
湖底に沈むんだったら、この映画のような街が
たくさんあるだろうなぁ、と思いました。
TBさせていただきましたm(_ _)m
返信する
TB&コメントありがと (tak)
2008-05-14 23:29:11
メルさん 毎度コメントありがとうございます。

三峡って昔からの景勝地でもあるのに、そんな広大な面積が水没してしまう・・・すごいですよね。高度成長期の日本も実は、何かを壊し、忘れて今に至っているのかな。

今どきの中国映画を観ると、貧富の差はますます激しくなっているな、と実感します。ハン・サンミンは故郷に戻って、モグリの鉱山でやっぱり働くのだろうか。

スクリーンから、蒸し暑さが伝わってきそうな映画でしたよね。アジアの空気感をよくとらえていると思いました。
返信する
今晩は (ゴブリン)
2008-05-15 01:38:19
takさん コメントありがとうございました。
シェン・ホンがやたらと水を飲むシーンが印象的でしたね。僕が行った中国の街はどこも乾燥していましたが、あの辺りは相当蒸し暑いのでしょうね。
悠久の河の流れと変わり行く町の姿。DVD収録の監督インタビューで、ジャ・ジャンクー監督が印象的なことを言っていました。現地に船で向っていた時は李白や杜甫の時代のような深山幽谷の谷間を進んでいったが、着いた所にあったのは現代の中国だったと。中国の近代化路線が何を生み出すのか、新しいものの出現の影に消えてゆく古いもの。この映画に漂う寂寥感はそこから来るのでしょうね。
ラストに出てくる、ビルの間に渡したロープで綱渡りをする男。今の中国はまさに綱渡りをしているのかもしれません。
返信する
ゴブリンさんへ (tak)
2008-05-15 23:21:37
コメントありがとうございます。ゴブリンさんのレビュー程深くはないですが、まぁこんな感じでやってますんで、これからもよろしくお願いします。

なるほど。この映画って、周辺知識を知るほどに味わい深くなりそうですね。近代化が進む今の中国の様子を、我々は映画を通して知ることができる。異国の現実や知らなかった事実を映画を通して知る度に、「映画観てきてよかったな。」と心底思います。これもそういう1本になるのかな。
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