滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

ガッサー社長のプラスエネルギー改修マンション、熱消費は10分1に

2016-05-01 09:20:41 | 再生可能エネルギー

今年もようやく新緑が美しい季節となり、本格的な菜園シーズンの始まりです。しかし先週まで雪・雨が続き、なかなか作付け進みませんでした。標高840メートルでの自給率を高め、温暖地の作物を育てるための温室の建設許可が自治体よりようやく得られ、5月にはようやく建設を開始することができるようになりました!

この冬は、福島第一原発事故5周年、チェルノブイリ原発事故30年ということで、スイスでも数多くのイベントが開催されました。それに伴う講演、コーディネート、ボランティアに息切れしているうちに、ガーデンと視察シーズンに突入。こうしてブログの更新から随分と遠ざかってしまいました。皆さんと共有したい情報が溜まりすぎたという反省から、とうとう(?)フェイスブックを始めることにしました。どうぞお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

今日は、ここ数か月に出会った本や映画、会議、建物などの中から、皆さんと共有したいものをいくつか紹介します。

 

最近出会った建物

ガッサー社長の手掛けたプラスエネルギー改修マンション、熱消費10分1に

この冬、日光を充電するために南スイスを訪れた時のこと。イタリアとの国境の町キアッソにあるプラスエネルギー改修ビルを見に行きました。一昨年にスイスソーラーエネルギー賞を受賞した建物で、エネルギー分野のパイオニアとして知られる建材会社社長のヨシアス・ガッサーさんが実現したプロジェクトです。

駅すぐ裏の60〜70年代の古ぼけたビルが多い街区で、ぴかぴかした外装が目立ちます。とはいえ、東西南北の4方面のファサード材がすべてソーラーパネルであることは、一般の人は気が付いていない様子です。

 
写真:南ファサードの外装材、最上階のテラスの日よけもすべてソーラーパネル。屋根には太陽熱と太陽光の両方を設置。

1965年に建てられた8階建て19世帯の賃貸住宅が入るこちらのビル。改修前には無断熱のエネルギー的には最悪の建物だったそうです。それをガッサーさんが2012〜13年にかけてミネルギー・P(パッシブハウス)レベルに断熱改修。壁U値は0.12、屋根は0.08、窓は0.7、床下は0.14に断熱強化しました。

それにより暖房・給湯の熱需要量を一年一屬△燭320kWh(!)から28.5kWh に10分1に減らしています。省エネ機器により、電力の消費も、一年一屬△燭45.8kWh から17kWhに減らしました。
 
写真:東ファサード、左が改修後、右が改修前。断熱改修して、新しい外装材としてソーラーパネルを選択。
Bild rechts:www.gasserbaumeterialien.ch

その上で、屋根、ファサード、テラスの日よけや手すりの建材として太陽光発電パネル合計88.6kWと、真空管式の太陽熱温水器46屬鮴瀉屬靴討い泙后F陰に入りやすい北、東、西外壁のパネルには被膜式モジュール、日当たりの良い南外壁とバルコニーの手すりと屋上は単結晶モジュールを使っています。太陽熱の補助熱源は空気ヒーポンです。第一種換気は各世帯ごとに設置されたCO2濃度センサーで換気量を調整しています。

 写真:西ファサード、ベランダの手すりも外装材も太陽光パネル

ソーラーエネルギー大賞では、大幅な省エネ対策に加えて、徹底した建材としてのソーラー利用が評価されていました。建て込んだ市街地の縦長なビルでありながら114%のプラスエネルギー率を達成しているのはなかなかの成果だと思います。

 写真:北ファサード、曇天や日陰に強い被膜パネルを利用


●最近のスイスの脱原発〜大手電力は原発国有化の思惑?

世界最古の現役原発であるベッツナウ1号機は、安全上の問題で、昨年春からの運転停止の状態が続いています。このまま再稼働しないだろうという説もこの頃は聞かれます。

ヨーロッパの電力市場価格が暴落して以来、スイスでも原発を持つ大手電力は経営難に喘いでいます。原発からの電力は市場では発電コスト以下でしか売れないのに加えて、高齢原発の安全対策費用が嵩み、さらに廃炉・最終処分費用の積み立ては不足・・スイスの大手電力にとって原発は重荷でしかなくなっています。特に原発をできるだけ長く運転しようという路線を追っていた2社については経営悪化のニュースが続きます。

その1社であるAlpiqについては、原発を国に引き渡す戦略を検討中という趣旨のニュースが3月に流れました。スイスの場合、大手電力の株主は州ですので、大手の電力会社が潰れても、先に国や州が原発を引き受けても、どちらにしても納税者の負担により原発の運転終了・廃炉を行うことになります・・・。そういう事情もあって、脱原発を推進する政党の政治家からも、国が行う方が安全で計画的な運転終了と廃炉が可能になるだろう、という理由で賛成する声も聴かれます。このような企業の振る舞いは、納税者としてはとうてい納得が行きませんが・・。

今年の晩秋には、緑の党の国民発議である原発の寿命を45年に制限する法案が国民投票にかけられます。多くの国民は国の脱原発政策が決まっているのだから、脱原発というテーマは片付いたものと思い込んでいます。しかし、実際には運転終了時期が定義されていないため、高齢で危険な原発が長く運転され、国民や隣国を危険に晒しているのが現状です。

対して、エネルギー戦略2050は最終調整がもうすぐ終了する予定です。昨秋の選挙で選ばれた新構成の全州議会のエネルギー委員会は再エネ増産目標を下方修正。5年間も議論した末に、目標も対策も弱体化され残念です。現在の計画では2035年に原発の電力がなくなっても、その全量を再エネでは代替しないようになってます。国のシナリオは電力需要の全量を再エネでまかなえるポテンシャルを認めていますが、その実現は出来る限り遅らせたいという意思が働いています。

ニュークリアフェイズアウト会議(NPC2016)、2016321日チューリッヒで開催

スイスの環境団体であるスイスエネルギー財団が3月21日にニュークリア・フェイズアウト会議を開催しました。世界的に著名な専門家による高齢原発の安全性や規制に関するプレゼン、世界の原子力産業の動向に関するプレゼンをこちらから見ることができます。(英語、ドイツ語)http://www.energiestiftung.ch/service/fachtagungen/fachtagung16/referate/

日本からは、明確な脱原発と再エネへの大胆な転換を世界中で説かれている菅直人前首相が招待されました。菅前首相は、今年1月30日にもグリーンクロスの招待でチューリッヒで講演を行われています。その講演のヴィデオをこちらから見ることができます。(日本語)https://www.youtube.com/watch?v=Q4kwR6wpw2g

  

● 最近出会った本

諸富徹さん編著の単行本、「再生可能エネルギーと地域再生」

地域経済の活性化、経済的な付加価値の創出は、欧州中部の地域たちによるエネルギー自立運動の原動力です。私たちの共著所ではその実態を事例を介して紹介してきました。京都大学経済学教授の諸富先生たちが出版されたこちらの著書では、この側面を学術的な視点から、そして日本の地域再生という視点から解説されています。また第5章では、立命館大学経営学教授のラウパッハ スミヤ ヨーク先生らによる研究である「再生可能エネルギーが日本の地域にもたらす経済効果〜電源毎の産業連鎖分析を用いた試算モデル」が紹介されています。研究者や専門家だけでなく、学生にも読んでもらいたい一冊です。

 

諸富徹編著、日本評論社、アマゾンのリンク

http://www.amazon.co.jp/%E5%86%8D%E7%94%9F%E5%8F%AF%E8%83%BD%E3%82%A8%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E3%81%A8%E5%9C%B0%E5%9F%9F%E5%86%8D%E7%94%9F-%E8%AB%B8%E5%AF%8C-%E5%BE%B9/dp/4535558213/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1461827905&sr=8-1&keywords=%E5%86%8D%E7%94%9F%E5%8F%AF%E8%83%BD%E3%82%A8%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E3%81%A8%E5%9C%B0%E5%9F%9F%E5%86%8D%E7%94%9F

 

コルネリア・ヘッセ・ホーネッガーさんの新著、

「低放射線被ばくの威力〜原子力産業が沈黙すること」(ドイツ語)

科学論文の挿絵画家であるコルネリア・ヘッセ・ホーネッガーさんは、長年にわたりスイス国内外の低放射線被ばく地帯で多数の昆虫を採集・調査し、そこで多発する奇形昆虫(主にカメムシ亜目)を描き続けてきたパイオニアのスイス人女性です。彼女の経験をまとめた著書が3月の出版されました。読み物としても上手くまとめられていますので、こちら在住の方には是非読んでいただきたい一冊です。注文・詳細はこちらから:
„Die Macht der schwachen Strahlung – was uns die Atomindustrie verschweigt“, ISBN: 978-3-9523955-5-4., Verlag edition Zeitpunkt
http://edition.zeitpunkt.ch/buch/die-macht-der-schwachen-strahlung/


コルネリア・ヘッセ・ホーネッガーさんのご活動については、2011年の2月11日にこのブログで紹介しています(下記リンク)。

http://blog.goo.ne.jp/swisseco/e/d427fa0b9714cef193d22d5c578ddee9

  

● 最近出会ったエネルギーヴェンデを伝える映画

“Leben mit der Energiewende 3.1 – selber machen“
「エネルギーヴェンデと生きる3.1〜自分で進める」、ドイツ語、
フランク・ファレンスキ監督

無料公開リンク:https://www.youtube.com/watch?v=f3Er35UtD7Q

ドイツのエネルギーを専門としたテレビジャーナリストであるフランク・ファレンスキさんは、刻々とする変化するドイツのエネルギーヴェンデの現場をテーマとして、週2回のインターネットテレビ番組を作成、司会を務めています。このファレンスキさんの映画「エネルギーヴェンデと生きる3.1〜自分で進める」が、現在、インターネットおよびドイツ各地で公開されています。これまでも「エネルギーヴェンデと生きる」の1と2を作成してきたファレンスキさん。最新版の「3.1」では、ドイツの現政府が市民による(電力分野の)エネルギーヴェンデの素早い展開をストップさせようとする中、国の政策に関わらず市民が「自分で進める」エネルギーヴェンデを紹介しています。太陽光発電の自己消費の最良化・蓄電が大きなテーマです。http://www.lebenmitderenergiewende.de/

 
“ Power to Change - Die EnergieRebellion „
「パワートゥチェンジ〜エネルギー革命児」
ドイツ語、カール・フェヒナー監督

予告編:http://powertochange-film.de/

日本でも放映された映画「第四の革命」のカール・フェヒナー監督の新作品。スイスではまだ見られませんが、近隣のドイツの映画館では公開されています。世界中での再エネ転換によるエネルギーデモクラシーをテーマとした前作と違って、本作はどちらかというとドイツの市民たちのエネルギーヴェンデの闘いをテーマとした作品です。ドイツの市民によるエネルギーヴェンデが逆境の中で道を手探りする中、各地のパイオニアたちの取り組みを通して、ドイツのエネルギー市民の行動を鼓舞する内容になっています。エネルギーにあまり興味のない市民や、子供たちでも飽きさせないような構成・演出になっています。日本でも近い将来に公開されることを期待しています!


“ Der Bauch von Tokyo

「東京の胃袋」、ドイツ語・一部日本語、ラインヒルト・デットマー‐フィンケ監督

TVバージョンの無料公開リンク(2014):https://www.youtube.com/watch?v=kXmfhO0m4Ew

先日、ドイツのシンゲン市で行われたフクシマ5周年イベントで、映画「東京の胃袋」が放映され、エネルギッシュな女性監督のデットマー‐フィンケさんと知り合いました。東京に在住されていたフィンケさんは、大都市東京の食料供給をテーマとした「東京の胃袋」という作品を作製していましたが、完成直前に3.11.が起こり、テーマを取り巻く事情が激変したため、作品が使い物にならなくなってしまったそうです。この逆境にめげずフィンケさんはもう一度取材先を訪れて、食料生産者たちのフクシマ前・後を比較した新しい作品をまとめました。食というテーマを介して、福島第一原発事故の影響を淡々と伝えるドキュメンタリーです。

  

● 最近の拙筆の記事や翻訳物(日本語)


★ 新エネルギー新聞

新エネルギー新聞(新農林社)に、再エネ関連のニュース記事を(ほぼ)毎月寄稿しています。編集部の許可を得て、バックナンバーの一部を、下記のブログに転載していますのでご覧ください。

バックナンバーリンク:http://blog.livedoor.jp/eunetwork/

 

★ ソーラーコンプレックス社のニュースレター日本語版

ミット・エナジー・ヴィジョンでは、ドイツの市民エネルギー企業であるソーラーコンプレックス社のニュースレターの日本語版の作製に協力しています。下記からニュースレターを読むことができます。同社のニュースレターの内容は、日本で地域エネルギーに取り組む地元密着の事業者の方に参考になる内容だと思っています。

リンク:http://48787.seu1.cleverreach.com/m/6509925/

 

★ 記事 „Fünf Jahre nach Fukushima: die andere Wahrheit“
フクシマから5年後:別の真実、ドイツ語

ワスマン‐滝川の共同編集、フリッツ・ワスマン執筆による記事が、ドイツのフランツ・アルト氏の運営するニュースサイトに掲載されました。下記から読むことができます。(ドイツ語)

リンク:http://www.sonnenseite.com/de/politik/fuenf-jahre-nach-fukushima-die-andere-wahrheit.html


この記事をはてなブックマークに追加

「都市エネルギー公社の新設と再公有化」レポートがダウンロードできるようになりました

2015-12-30 23:59:27 | お知らせ

●ドイツの都市公社レポートの日本語版ダウンロードリンク

スイスに来てから15年が経ちましたが、これほど温暖な12月は未だかつて体験したことがありません。気温はまるで関東の冬のように温暖で、標高840mの集落が霧の上ということもあり、毎日のように晴れた青空の日が続いています。実際に150年の観測史上、最も暖かい12月だったそうです。土も凍りませんから、造園業の現場のシーズンも長引き、12月中旬まで工事・植栽の現場が続く有様でした。

 

一年前に越してきた山の上の集落では、ようやく自家菜園のベリー類と観賞用ボーダーの植え付けが終わり、あとは無暖房の温室の建設を残すのみとなりました。標高が高くても、通年して葉物やハーブを収穫できるようにすることが狙いです。こうして12月に入っても視察に庭、締切に追われるという毎日の中、あっという間に大晦日になってしまいました・・。

 

前回のブログで予告しましたが、「都市エネルギー公社の新設と再公有化」レポートの日本語版が、下記のヴッパータール研究所のリンクから無料でダウンロードできるようになりました。

ダウンロードページ(右端のアイコン)

http://epub.wupperinst.org/frontdoor/index/index/docId/6075

電力・ガス市場の完全自由化を迎える日本で、自治体によるエネルギー公社の新設を考えている人びとに是非読んで頂きたい、ドイツの自治体の経験がまとめられた一冊です。翻訳は、ミット・エナジー・ヴィジョンのチームで行いました。

  

●スイスの総選挙結果:脱原発の終わりの始まり?

10月中旬にはスイスの議会の総選挙がありました。本来はテーマになるべきエネルギー大転換と脱原発ですが、残念ながら全く話題にならず、メディア全体が「難民の波」というテーマ一色で塗りつくされていました。こういったタイミングにより、下院では移民に厳しい(そして原発に優しい)スイス国民党が大勝する結果となりました。

 

下院の200議席中、スイス国民党が65議席を、さらに自由民主党が33議席を獲得。後者もエネルギー大転換に消極的な政党です。これにより下院では議席の半数近くを、素早い脱原発を望まない勢力が占めることになりました。原発の新設を目指す動きはありませんが、骨太のエネルギー戦略2050の実現や、スムーズな原発運転終了にとっては、ますます厳しい議会構成になりました。

 

11月末頃になると、毎週のようにターゲスアンツァイガー新聞の誌面に、「電力不足」や「ブラックアウト(大停電)の恐れ」という言葉を盛り込んだ記事が見られるようになりました。この言葉は昔(2011年に国が脱原発が決まる前)、原発の新設・建替えを求める原発推進勢力が良く使ってきたものです。ヨーロッパ電力市場で、安い電力が余りに余っているこの時代に、再登場してきたのでびっくりしました。

 

新聞記事の背景には、スイスの高齢原発であるベッツナウ原発1号機と2号機が止まっており(2号機は再稼働しましたが)、雨が少ない夏と秋のせいで電力供給の主体を担う水力の水量が今年は少ない上に、秋にヨーロッパの電力市場価格が上がった際にダム水力を多く輸出してしまったためダムの水位が例年よりも低いため、国内の従来電源の容量が一時的に減っているという事情があります。

 

新聞紙面では、高圧系統運営会社のスイスグリッドが、ヨーロッパから十分な電力を輸入することはできるが、輸入電力を国内向けの高圧系統に変圧する変電所のキャパシティがぎりぎりなので、気温が下がって電力需要が高まると電力不足になるかもしれない、と懸念を表明しています。

 

スイスグリッドは、系統運営者としての中立的な立場からの警告であるとしていますが、同社の株主は原発の運営会社の大手電力です。本音は、既存の古い原発を長く動かし続けるためのキャンペーンであってもおかしくありません。特に運転46年目を迎えるベッツナウ1号機は、圧力容器の壁に1000近くの穴が発見され、今年の春から来年の夏まで止まったままです。「電力不足」キャンペーンにより、この原発の存在意義を強調したいようです。

 

2016年には、緑の党の「脱原発イニシアティブ案」が国民投票に掛けられる予定です。運転40年を超える危険な高齢原発が3基もあるスイスで、原発の寿命を45年に制限する法律を求めるものです。上記の警告や報道は、この国民イニシアティブ案に反対する原発ロビーの戦いのはじまりのように思われます。

 

2015年は、スイスやドイツのエネルギー大転換においては、地域では着実に小さな進展が重ねられながらも、国のレベルでは発展の先行きが見えにくい1年でした。新年が、スイスや日本、世界のエネルギーヴェンデにとってより良い1年となることを願っています。また、来年も非常にマイペースな更新を続けて行きますので、時折このブログをご訪問下さい。

 

 

小特集:ヨーロッパソーラー大賞2015を受賞したスイスのプロジェクト

2015年11月23日に、プラハでヨーロッパソーラー大賞が授賞されました。EU各国から応募された52プロジェクトのうち、12プロジェクトが入賞。そのうち3つがスイスからのプロジェクトでした。今回は、この3つのプロジェクトを短く紹介します。

 

★ソーラー建築・都市開発部門:カヴィジェッリ・エンジニア社のプラスエネルギー社屋

グラウビュンデン州イランツ市にあるこの新築ビルは、238%のプラスエネルギー度を達成している。建物は3階建て、床面積は706。ミネルギー基準の躯体と省エネ型設備により、24人の従業員が働く建物の総エネルギー消費量は、年12600kWh に抑えられている。対して、平屋根に乗せられた東西向きの太陽光発電が年3万kWhを発電。デザインが特徴的なカラマツの木のルーバーが、冬の日差しを室内に通し、夏の日差しを遮る。設備は地中熱ヒートポンプ、熱回収式の換気設備、A++家電、LED照明。建物デザインにおいても評価が高く、スイスでは今年度のノーマン・フォスター・ソーラーアワードを受賞した。



Bilder : Quelle :Schweizer Solarpreis 2015

 

★再エネ設備所有者部門:集合住宅ハルデッガー邸のプラスエネルギー改修

国会議員のトーマス・ハルデッガー氏は、チューリッヒ市近郊にある4世帯集合住宅をミネルギー・P・エコ基準に省エネ改修した。築60年の建物の改修前のエネルギー消費量は、年66800kWh。断熱強化により、外皮はU値を0.1以下、窓は0.6に下げた。改修後の消費量は−72%の18800kWh。南北向きの切妻屋根には、31.3kWの屋根材一体型の太陽光発電を設置し、年24500kWh を生産。131%のプラスエネルギー度を達成した。北向きの屋根にも太陽光発電を設置している所が興味深い。建材一体型設備の太陽光発電の美しい収まりは、村の旧市街の景観保全にも寄与している。

Bilder: Quelle:Schweizer Solarpreis 2015

 

★輸送システム部門:ソーラーシャベルカーSUNCAR

ルツェルン州アルトビューロン村に拠点を置く建設会社アッフェントランガー社は、ブクス国際技術専門大学や建設機材メーカと共に、電気駆動による16トン級のソーラーシャベルカーを開発した。ソーラーシャベルカーは、非常に静かで、有害排気もなく、75〜167kWの出力を発揮する。一般のシャベルカーの出力(70kW)と比べても大きな出力だ。バッテリーのキャパシティは190kWhで、1日9時間運用することが可能だ。

ソーラーシャベルカーのエネルギー消費量は、ディーゼル駆動のシャベルカーの5分の1で、年3万kWh 。年40トンのCO2削減と21000スイスフランの燃料費削減に繋がっている。アッフェントランガー社では、社屋の屋根に設置した大きな太陽光発電からの電力で充電を行う。ソーラーシャベルカーの投資回収期間は8.5年であるという。

Bilder: Quelle:Schweizer Solarpreis 2015

参照:Erneuerbare Energien Nr.6, 2015、Schweizer Solarpreis 2015

 

 

ニュース

 

●スイス初のオフグリッドの集合住宅

スイスでは再エネのパイオニアと知られる企業家のヴァルター・シュミード氏。ゼネコンの社長でありながら、生ゴミからバイオガスを作るコンポガス技術を製品化し、近年ではチューリッヒ市近郊に環境技術の常設展示場である環境アリーナを環境建築により実現してきた(www.umweltarena.ch)。そのシュミード氏の新プロジェクトが、自治体ブリュッテンで建設が進むオフグリッドの集合住宅だ。設計デザインは息子で建築家のルネ・シュミード氏である。 

9世帯が入るこの集合住宅は、電力や熱の系統に接続していないため、建物の内部や表面で得られるエネルギーにより、電力と熱を自給自足しなければならない。アクティブなエネルギー源となるのは、外壁材と屋根材として使われている太陽光発電パネル。反射しない、マットな質感のこげ茶色のパネルを採用した。ミネルギーレベルのコンパクトな躯体と日射取得のための窓、省エネ家電と節水ノズル、シャワーからの排熱回収、省エネ制御型の機械換気設備等により、建物消費を最小限に抑えつつ、スマートな制御装置で電力需給を管理する。低温床暖房と給湯の熱源には、地中熱ヒートポンプと排熱を利用する。

 

Bild:www.umweltarena.ch

オフグリッドのための蓄電対策には、短期的なものと長期的なものがある。短期的な蓄電は約3日分の容量を持つバッテリーが担う。長期的な蓄電は水素と燃料電池の組み合わせで行う。水素は、余剰の太陽光を用いて電気分解装置で生産、地下タンクに貯蔵しておく。燃料電池により電熱併給を行うが、冬の熱需要には地中熱も併用する。夏には、余剰熱を用いて地中熱を回復させる。基本的に、建物が1日に必要とするエネルギー量は、1時間日射が照れば得られるという。
 

この集合住宅は賃貸住宅であり、多様な人が暮らすことになる。高度な省エネ建築でも、住み手の生活スタイルによって消費量は大きく異なってくる。そのため、この集合住宅ではエネルギー消費の見える化を行い、また各世帯に「エネルギー予算」を割り当てるという。家賃はエネルギー代込みであるが、「予算」に対して消費量の多い世帯に対してマルス(罰則金)を、少ない家庭に対してボーナスを課す仕組みが考えられているという。

参照:Umweltarenaプレスリリース

 

 

●スイスの建物省エネ規制、新築は二アリーパッシブが義務に

2015年の頭に、建物省エネ規制雛形法の改訂版が決定した。現行の新築建築の、熱需要(暖房・換気・給湯・空調)に関する規制値は48kWh/m2年であるが、改訂法規ではこれが35kWh/m2年になる。暖房熱需要だけを取り出すと、住宅建築では16kWh/m2年とパッシブハウス基準やミネルギー・P基準に近い性能が義務基準になる。法律を満たし、建設許可を得るためには、個別計算を提出する方法と、簡易計算の方法がある。後者では、熱橋計算証明付の場合には、U値について壁は0.17、窓1.0、ドア1.2以下が求められる。暖房・給湯については、ほぼすべて再エネで供給することが求められ、二アリーゼロエナジーとなる。電力についても太陽光発電の設置が義務付けられた。

これとは別に、既存の生電気による暖房・給湯器に対しては、15年以内に交換しなければならないことも義務化された。同法は、今後2017年〜2020年までに各州で施行されていく。同時に、今回の改訂で義務基準がミネルギー基準を追い抜いたため、2017年からは改訂版のミネルギー、ミネルギー・P、ミネルギー・A基準が施行される。

参照:ENDK州エネルギー大臣会議

 

 

●CO2課徴金が2016年から40%の引き上げ

スイスは、2020年までに1990年比でCO2排出量を国内で20%減らすことを、政策目標に掲げている。これまでの削減量ではこの目標を達成できないため、暖房用オイルとガスへのCO2課徴金が2016年1月より再度値上げされる。CO2・1トンあたりの課徴金は、60から84スイスフランに40%引き上げられる。具体的には、暖房用オイル1リットルあたり22ラッペン(約25円)、ガス1立方メートルあたり17ラッペン(約20円)が課せられる。国はCO2課徴金からの収入を、国民保険経由経由で全住民に、養老遺族保険経由ですべての企業に還付している。また収入の3分1は、建物の省エネ改修の助成資金として用いている。

参照:Holzenergie Schweiz Bulletin59, Pusch Gemeinde-News

 

 

●省エネ改修プログラム、2014年は2億3900万フランを助成

スイスでは、上記のCO2課徴金からの収入の3分1を用いて建物の省エネ改修への助成が行われている。助成金は、躯体の断熱改修と熱源改修の2つの分野で出されている。国と州が共同で運用している国家的省エネ改修プログラムの統計によると、2014年には合計2億3900万フラン(約300億円)の助成金が省エネ改修の分野で支払われた。これらの対策により、実現された省エネ対策により400万トンのCO2を削減することに繋がった。これは、同プログラムの中でこれまでに達成された最も大きな記録になっている。また、今後CO2課徴金の引き上げに伴い、こういった効果はより大きくなっていくものと考えられる。

参照:www.dasgebäudeprogramm.ch

 

 

●チューリッヒ市:2000W社会へ目標路線

チューリッヒ市では、2008年に住民投票により2000W社会を目指すことが決められた。以来、横断的な政策の大目標として2000W社会が掲げられている。チューリッヒ市では、この実践状況を定期的なモニタリングによりチェックしている。 

チューリッヒ市の環境保健局のエネルギー統計によると、2020年までの中間目標である4000W社会の達成にかなり近づいている。過去5年の平均で、チューリッヒ市の住民の1次エネルギー消費は1人当たり4200Wとなっている。これは1990年比で、一人当たり1000W少ない。総一次エネルギー消費に占める再エネの割合は11%から19%に増えた。対して2020年までの温暖化ガス排出量の削減目標に関しては、より努力が必要である。目標が1人あたり1年4トンであるのに対して、実際は4.7トンになっている。しかし、25年前と比べると1.5トンの削減が達成されている。 

チューリッヒ市では、2000W社会の目標を達成するために、市の所有する建物の省エネ化に熱心に取り組んでいる。省エネ型のトリエムリ病院の病棟の新築や、緑化部の温室の省エネ対策、ヴィティコンの高齢者介護施設の省エネ改修などの例がある。

参照:チューリッヒ市プレスリリース

 

 

●職業教育でソーラーと風力の勉強が義務に

スイス電気施工企業連合VSEIは、職業学校の電気施工職人国家資格のカリキュラムにおいて、2017/2018年から風力と太陽光発電を3・4年生の必須テーマに取り入れた。建設設備施工者連盟Suisstecでも、同分野の手工業(暖房、水回り、板金職人)の国家資格を改訂中である。そこでは太陽熱温水器の基礎知識が2018年から大幅に強化される予定だ。これにより職人見習い生に対して、ソーラーエネルギーのセオリーと実践的な知識が教育されるようになる。

出典:Swissolarニュースレター

 

 

●スイス各地で生まれる2000W社会対応型の新開発地区

現在、スイス各地の都市で、2000W社会対応型の新開発や再開発地区が進行中だ。建物単体の省エネやエコロジー性能だけでなく、地区全体として2000W社会に対応した性能を満たすような地区開発のことだ。例えば、チューリッヒ市近郊に昨年竣工したジールボーゲン地区。建設協働組合ツアリンデンが開発した同地区は、今年、「2000W社会地区」の認証を受けた。認証はエネルギー都市連盟が行っている。 

ジールボーゲン地区は、3棟の建物から成り、220世帯分の住宅と商業施設、高齢者介護施設、オフィスなどが入った複合建築になっている。コンパクトな躯体デザイン、建物の建設や運営にかかるエネルギーや資源消費、温暖化ガス排出量の少なさ、公共交通の利用コンセプトなどが高く評価された。3棟のうちの2棟は、新手法による木造7階建ての大型集合住宅になっている(写真参照)。エネルギー源には、ペレットボイラーとヒートポンプ、太陽光発電、排熱、バイオガス等が利用されている。 

ジールボーゲン住宅地の目の前に近郊線鉄道の駅があり、公共交通の接続は大変良好だ。木造住宅棟についてはカーフリーとなっており、車を持たない世帯には建設協働組合より公共交通の定期券が配布される。また敷地にはカーシェアリングも設置されている。余暇の場所と生活の場所、仕事の場所が近いのも特徴だ。建物の立地やデザインによる交通エネルギーの削減は、2000W社会型の地区では重視されている点である。

現在、スイスの8カ所で、類似の2000W地区の開発が進行している。

(写真はこちらのリンクから見られます)

https://www.google.ch/search?q=Bilder+Sihlbogen&biw=1366&bih=599&tbm=isch&tbo=u&source=univ&sa=X&ved=0ahUKEwjs8KG6poTKAhVHPhQKHRrwDk4QsAQIGw#imgrc=7klf2DAUu787OM%3A

参照:建設協働組合ツアリンデン プレスリリース

 

 

●レマン湖の湖水で地域暖房

フライブルク州の地域電力会社であるGroupe Eでは、レマン湖の湖水熱を利用した新しい地域暖房網の運転を開始した。設備が実現されたのはレマン湖の東北岸の自治体La Tour-de-Peilz。CAD La Tour-de-Peilzと名付けられたこの地域暖房網は、長期的には3000世帯分の暖房・給湯熱を供給していく予定である。設備は湖水のポンプステーション、低温水の地域暖房網、そして建物ごとに設置されたヒートポンプから成る。

特徴は、低温水の地域暖房であるという点だ。第一工期では、高等学校や2つの新興地区、そして住宅建築に熱供給を行っている。熱利用している湖水は、湖岸から500m離れた場所で水深70mの場所から汲み上げている。年末までに15棟の建物の熱供給を開始するが、徐々に拡張し、最終的には300棟(3000世帯相当)の建物に熱を供給する予定である。湖水熱を利用した地域暖房は、チューリヒ市やローザンヌ市、サンモリッツ市でも行われている。

出典:Groupe E AGプレスリリース

 

 

●オーストリア:ニーダーエスターライヒ州100%再エネ電力に

オーストリア北東部のニーダーエスターライヒ州では、州内で消費するのと同じ電力量を再エネで生産するようになった。その26%は風力である。ニーダーエスターライヒ州は、2011年に決議されたエネルギー運行計画2030の中で、2015年までに「電力を100%再エネで生産すること」を中間目標として掲げていた。 

同州で初めて風車が送電を開始したのは21年前のこと。現在は610基、1262MWの風車が立っている。
「ニーダーエスターライヒはもちろん風況も非常に良好です。ただそれだけでなく、エネルギーヴェンデには政治的な意思が必要です。そして、そこから導き出された目標と適した枠組み条件の中での実践が欠かせません。」と、オーストリアの風力振興協会代表のシュテファン・モイドル氏は語る。 

ニーダーエスターライヒ州では、風車の運営会社の4分3が州内の会社である。中でも最も大きな風力の運転会社は州営エネルギー会社EVNになっている。これにより風力から得られる経済的なメリットが地域に還元される。こうして風力業界だけでも、同州では過去5年間だけでも4800人の雇用が創出され、700MW以上の風車の建設により12億ユーロが投資された。 

オーストリアでは同州の他にも、ブルゲンラント州が100%再エネ電力への転換を、風力を中心としながら10年あまりで達成している。

出典:IG Windkraft Österreich


この記事をはてなブックマークに追加

ハイブリッドソーラーと低温熱供給、季節間蓄熱の組み合わせ

2015-09-26 09:12:51 | 再生可能エネルギー

「都市エネルギー公社の新設と再公有化」の翻訳

スイスの空はすっかりさわやかな秋の色に変わり、森も少しずつ色づいてきました。視察が多い季節でもあります。視察先のパッシブハウス建築ではまだ暖房が要らない季節ですが、従来建築の我が家では今週から全館暖房のスイッチが入りました。大家さんの住むお隣のホテル棟の熱源設備から薪ボイラーのお湯が送られてきます。菜園では秋冬用のサラダ苗の植え替えや、収穫と保存作業、そしてベリー畑の整備が進行中です。

今年の夏は、片付けたい事が山ほどあったのですが、ほぼ一つの仕事にエネルギーと時間を吸い取られていました。ドイツのヴッパータール研究所が発刊した「都市エネルギー公社の新設と再公有化」という100頁弱のレポートの日本語版翻訳に、仲間4人のチームで取り組んでいたのです。

この数年、ドイツでは自治体によるエネルギー公社の新設や、それに伴う地域の送配電網の再公有化・買い戻しというトレンドが見られています。このレポートは、そういったトレンドの現状と背景を分析し、また自治体が公社や配電網を所有することでどのような目的を達成することが、それにはどういったチャンスとリスクがあるのかを調査しています。日本でのエネルギー市場自由化を前とした、自治体によるエネルギー公社の新設に役立ててほしい情報です!この秋に公開されましたら、リンクをブログにも貼り付けますので、どうぞご覧ください。

上院でエネルギー戦略2050の審議終了

スイス社会では、10月18日の総選挙を控えて選挙戦モードが感じられます。特にエネルギー戦略2050は選挙の争点の一つ(であるべきこと)。原発推進の広告や報道が見られる傍ら、エネルギー戦略2050を指示する企業団体や環境団体によるエネルギーヴェンデ推進のための広告が、下記の上院審議のタイミングもあり主要な駅に貼られています。 「継続しようエネルギーヴェンデ」、「職場をここに!」といったスローガンです。




出典 Quelle:www.es2050.ch

今週にはようやく上院(全州議会)で、エネルギー戦略2050第一対策パッケージの審議が行われました。スイスでは原発を運転する大手電力の所有者は州です。そして上院には大手電力株主としての州の代弁者が座っています。そのため予想通り、上院では原発の運転終了年を義務づけず、また下院が求めていた長期運転コンセプトの作成義務や電力小売り会社への省エネ目標義務化といった重要対策が排除されました。再エネ電力の買取制度の課徴金額は、最大で2.3ラッペンまで上げられることになりましたが、その一部は大型水力が経営困難に陥った時の助成金として使われるため、新再エネにとっては買取予算がほとんど増えません。さらに買取制度を2022年で終了することも決められました。

現在のところ、目標あってプランなしの脱原発の様相です。エネルギー2050第一対策パッケージは、総選挙の後に新構成の下院により再審議され、最終形になる予定です。メディアでは総選挙で「右滑り」が起こると予測されていますが、もしも総選挙で右派で原発維持派のスイスの国民党(SVP)と既得権産業界を代弁する自由民主党(FDP)が大幅に議席を増やしますと、内閣・議会の構成面で、エネルギー戦略2050と計画的な脱原発の実現が危うくなると言われています。総選挙ではせめて、福島第一原発事故からの5年間の議論を無駄にしない議会構成が維持されることを願うばかりです。

脱原発を決めたベルン電力が基礎商品を100%再エネ電力に

こういった政治的な議論とは別に、9月1日にはスイスの原発で一番古いベッツナウ一号機が運転開始から46年を迎えました。しかしベッツナウ1号機は、今年の春に定期メンテナンスで止められた後に様々な問題が見つかり、来年まで止まったままの予定です。さらに2号機も同様に素材の問題により夏から止まっています。これらの高齢・老朽原発の安全対策は、ただでさえ経営状況の悪い大点電力Axpoに追い打ちをかける経営リスクになっています。

対して、大手の中で唯一、2019年の脱原発を決めたベルン電力は、驚く一歩を踏み出しました。来年から電力の基本商品(自動的に供給される商品)を、100%再生可能エネルギーにするというのです。別途に申し込んだ人は原発電力も購入できることは変わりませんが、思い切った戦略転換です。エネルギーヴェンデを目指すスイスの多くの都市エネルギー公社もこのような戦略を採っています。さらにベルン電力は、原発を運転する大手電力の中では唯一、エネルギー戦略2050を指示する上述の経済団体のスポンサーにもなっています。

カーボンフリーの休暇:ハイブリッドソーラーと低温熱供給網、そして地中への季節間蓄熱の組み合わせ

環境雑誌ビオシティで連載を続けてきたビオホテルの取材の中では、ホテルにおける省エネ対策と再エネ利用を見る機会が多く、この分野に興味を持つようになりました。熱源については、バイオガスやガスのコージェネ、冷蔵・冷凍庫からの排熱改修、チップボイラー、薪ボイラー、太陽熱温水器、地中熱等など、各ホテルで様々な技術が組み合わせて使われていました。

そのような中、ビオホテルではありませんが、スイスで気になっている宿泊施設があります。それは、昨冬にヴァリス州のブラッテン・ベルアルプにオープンしたREKA(休暇金庫組合)休暇村で、ハイブリッドソーラーコレクター技術を利用している先進事例です。ハイブリッドソーラーコレクターとは、太陽光発電と太陽熱温水器を組み合わせたパネルのこと。発電パネルの下部に集熱管がめぐらされており、中温水を収穫できます。限られた屋根面を有効に使えて、低温暖房が可能な省エネ建築との相性が良く、地中熱ヒートポンプの採熱管と組み合わせて地中蓄熱できることがメリットです。

昨年に新築されたブラッテン・ベルアルプの休暇村は、50世帯のアパートと室内プールを含む9棟の建物から成る300人を収容できる大型休暇施設で、カーボンニュートラルの熱・電源で運営されています。建物の外皮・設備性能はミネルギー・A仕様。しかし、熱回収式の換気設備を設置しなかったのでミネルギー認証を受けていません。


出典Quelle:www.reka.ch

電源・熱源であるハイブリッドコレクターは4棟の屋根に設置されており、発電出力は180kWの出力、太陽熱は380kWの出力です。これに深さ150mの地中採熱管31本を組み合わせ、季節間蓄熱体として利用します。夏の間に使いきれない余剰熱を地下を温めるのに使うのです。地下の岩盤は、暖房を行う冬の間には4〜8度まで程度に冷えますが、夏の終わりには余剰熱により再び12~14度に温まる計算です。こうして作った熱を無駄なく使うために、この休暇村では施設内の下水(15~20度)からの熱回収も行っています。

対して、建物の床暖房に必要な温水の送水温度は35度、給湯温度は60度です。敷地には低温水の熱供給網が巡らされており、各建物内のヒートポンプで必要な温度の温水を作ります。そしてヒートポンプの電気は、ハイブリッドコレクターの太陽光発電で自給し、足りない分は公共の電力網から村の小水力発電所からの電気を購入しています。

こういったシステムにより、雑誌「再生可能エネルギー」によると、この休暇村では年間収支で電気・熱の消費量の7割を、敷地内の再生可能エネルギーにより生産できる設計になっているそうです。 同様のハイブリッドソーラーと地中蓄熱の組み合わせは、ベルン市近郊の集合住宅でも昨年より利用されており、両方の施設で現在、測定が進行中です。上記の雑誌によると、快適でエコロジカルなこの休暇村は、大変な人気だそうです。


写真:ベルン市近郊にある木造エコ集合住宅(右)
の屋根に、REKA休暇村で採用された製品と同じスイスのマイヤー・ブルガー社製のハイブリッドコレクターを施工する様子(左)。写真提供 Fotos:Peter Schürch

参照:Erneuerbare Energien Nr.4 2015, SSES

https://www.reka.ch/de/rekaferien/ferienunterkunftfinden/Seiten/FewoAnlage.aspx?anlageId=104800#Wohnungstypen

  

ヴィデオ&本の紹介

●ヴィデオ「Welcome to the Energiewende

ドイツ在住のアメリカ人親子がドイツのエネルギーヴェンデを紹介するヴィデオ。2年前の作品だそうですが、最近視察先でDVDを頂いて知りました。ティーンエイジャーがユーモラスにレポートする形で、子どもにも分かりやすい内容です。英語・ドイツ語なので日本の方にも楽しめます。下記リンクから全19章を見ることができます。

https://vimeo.com/album/2464396

 

単行本「Kraftwerk Schweiz」、Anton Gunzinger

スイスにはエネルギーヴェンデ、100%再生可能エネルギーを学術的な視点から強く推進する著名大学の教授が何人かおり、エネルギーヴェンデ政策の論理づけや研究において重要な存在となっています。チューリヒ工科大学ETHのコンピューター開発の教授であるアントン・グンツィンガーさんはその1人。100人の従業員を抱えるスーパーコンピューティングシステムズ(SCS)社の社長でもあります。 

グンツィンガーさんは自社で、スイスの様々なエネルギーシナリオを計算、ビジュアル化、安定供給をチェックし、需給や損失、経済性を計算できるシュミレーションシステム「SCSエネルギーモデル」を開発しました。そしてこのシステムを用いて、自らいくつかのシナリオを計算したところ、本人も驚いたことにスイス国内の資源で100%再生可能エネルギーによる電力を供給することが技術的にも経済的にも可能であることが分かったそうです。

また、再生可能な電力の増産と省エネにより、熱と交通という二大CO2排出源の再エネ転換が可能になることも判明しました。さらにこれらが、石油とガス価格が今後20年間過去50年と同様の傾向で上昇するならば、現状を維持するよりも再生可能エネルギーへの転換がずっと安いエネルギー源を確保できるという結論に到っています。

グンツィンガー教授と専門ライターが、こういったシナリオや必要な省エネ・スマート化などについてとても分かりやすい言葉で説明したのが、今年刊行された単行本「Kraftwerk Schweiz(発電所スイス)」です。スイスにお住まいの方には是非読んで頂きたい一冊です。

下記のSCS社のサイトでは、「現状維持」、「グンツィンガー・シナリオ」、「国のシナリオ」の比較を見ることができます。さらに読者自らがパラメーターを変えて、シナリオをシュミレーションすることもできます。

http://www.kraftwerkschweiz.ch/app/main?model0=StatusQuo&model1=Gunzinger&model2=NeueEnergiePolitik

参照:本 “Kraftwerk Schweiz“, Anton Gunzinger, Zytglogge Verlag、http://www.scs.ch/home.html

 

ニュース


●猛暑で太陽光発電量の記録

欧州中部では猛暑となった2015年の夏。フラウンホーファー・ソーラー・エネルギーシステム研究所(ISE)によると、ドイツでは7月に太陽光発電が5.18TWhを発電した。これは同時期の原発発電量に相当する。スイスでも太陽光の発電量が記録を更新。太陽光産業連盟のスイスソーラーによると、7月には平均して電力需要の5%が太陽光発電により生産されていた。電力需要の低い日曜日には、その割合は20%にも達した。

参照:SES Newsletter

 

●ハイブリッド・エネルギーセンター 「アールマット」がオープン

再生可能エネルギーによる未来の地域エネルギー・システムでは、熱・ガス・電力の分野が融合して、必要に応じて様々な形態でエネルギーを貯蔵したり、転換するハイブリッド・エネルギーセンターが重要な役割を果たすようになると考えられている。

そのヴィジョンがソロトゥルン地域で実現しつつある。同市のエネルギー公社であるレギオエネルギー・ソロトゥルンは、6月にツッフヴィール町にハイブリッド・エネルギーセンターをオープンした。この地点は、同社のガス網、水道網、電力網、地域暖房網が交差する地点となっている。

ハイブリッド・エネルギーセンターに設置されているのは、ガス・コージェネ、ガスボイラー、電気分解装置、水素タンク、そして容量100立方メートルの3つの大型蓄熱タンク(貯湯タンク)である。例えば電気分解装置で、夏の間に余剰に生じる太陽光電力から水素を作り、これを長期的に保存することができる。

熱(温水)や水素として保存されたエネルギーは、必要に応じて、必要な形態に転換してエネルギー網(ガス管、送配電網、地域暖房網)に供給することができる。 同施設は、スイスで最初のパワー・トゥ・ガス施設の一つでもある。

参照:Zukunft ist erneuerbar! 03/2015

http://www.hybridwerk.ch/

 

●トローゲン村の木質バイオ発電型地域暖房

バイオマス資源の持続可能なカスケード利用と高効率利用を基盤とするスイスでは、木質バイオマス発電は限られた、適切な立地でしか行われていない。とはいえ年々少しずつ地域に根付いた、堅実な中規模設備が数を増やしている。中規模設備ではORC発電が一般的で、安定した運転実績に裏付けられている。

2015年から、東スイスのシュパイヒャー・トローゲンの2村では、既存の地域暖房網の熱源を交換する際にORC発電を導入した。まず、両村にあった3つの地域暖房網を結合させ、古いボイラーは非常用として残した。2014年には既存の2MWのチップボイラーに加えて、4.2MWの新しいボイラーとORC発電モジュールが追加で設置された。

発電量は一年で2GWh、450世帯分を予定している。さらに排気ガスから熱回収を行う排ガスコンデンサーを設置して、熱利用効率をさらに向上させている。配管路網の長さは14km、これまでに150棟が熱供給を受けている。電熱併給を行うのは、地元の電力会社SAKが所有するエレクトロ・シュパイヒャー・トローゲン株式会社だ。

参照:EE-News 8月26日

 

●連邦エネルギー庁がスイス全土のソーラー屋根台帳を製作

これまで自治体単位で製作されていたソーラー屋根台帳。太陽光や太陽熱への屋根の適性を、誰もがインターネットでで調べられるようにするツールだ。スイスの連邦エネルギー庁は、連邦気象・気候庁と地形測量庁との協働で、国全体を覆うソーラー屋根台帳を製作することを発表した。エネルギー庁では、これをポテンシャルのコミュニケーションだけでなく、今後のソーラー普及サービスのツールとしても活用していく予定。2016年頭には3分1が整備・公開され、その後2018年までにスイス全土の屋根台帳が公開されていく予定だ。

参照:連邦エネルギー庁プレスリリース

 

●スイス:120箇所のウィンドパークで電力の10%

福島第一原発事故の後に、スイスでも様々な地域で小規模なウィンドパークの計画が、地域主体により着々と進められている。オーストリアやドイツと比べて計画許認可や直接民主主義的なステップ、反対団体の対応などが複雑なスイスでは、プロジェクト実現までに多大な年数を要し、進行は遅々としている。しかし2020年頃(?)には、そんなスイスでもウィンドパークがちらほらと見られるようになるだろう。

スイスの風力推進団体であるスイスエオルによると、風力は2050年までに7%強の電力を供給できるという。そのためにスイス中の120箇所に800基の風車が設置されることが必要となる。スイスエオルと内閣の目標は、設置量を10%に上げることだ。風況が良好なユラ山脈地方だけでも現在41カ所で311基の風車が計画中だ。

現在進行中のウィンドパークの中には、国境を挟んだ風力設置のコラボレーションも見られる。私の住むシャフハウゼン州はドイツと国境を接しているが、国境のすぐ側のドイツ側のヴィークス村には、両国の地域エネルギー会社が出資する大型風車3基が2018年頃に実現され、2万人分の電力を生産する予定である。これまでのところ反対団体は出ていない。

ボーデン湖北部では、南ドイツの8つの自治体のエネルギー公社や市民エネルギー会社、そしてスイスのシャフハウゼンの市の都市公社(SH Power)と州のエネルギー公社(EKS)が協働で地域風力の開発を行っており、開発に伴うリスクを分散している。

参照:Suisse Eole Newsletter、IG Hegauwind


 

最近の記事

昨年より新エネルギー新聞(農林社)に月刊でニュース記事を連載しています。

下記リンクにて何点かの記事を転載していますのでご覧ください。

 

「ドイツ:再エネ収入で空き家対策に成功、マスターハウゼン村」

http://blog.livedoor.jp/eunetwork/archives/45500525.html

 

「オーストリア:鉄道架線に太陽光電力を注入、自己消費」

http://blog.livedoor.jp/eunetwork/archives/45096658.html

 

「ドイツ: 太陽光、成長する自己消費向けビジネス」

http://blog.livedoor.jp/eunetwork/archives/45067382.html

 

「ドイツ、ミュンヘン:都市公社が全世帯の電力消費量を再エネで生産」

http://blog.livedoor.jp/eunetwork/archives/45081962.html

 

 

 

 


この記事をはてなブックマークに追加

開催告知! MIT欧州エネルギー自立視察セミナー 2015年11月1〜7日

2015-08-15 10:31:06 | お知らせ

毎年ご好評を頂いているMIT Energy Vision社 の現地集合型の合同視察セミナーですが、今年は11月1日〜7日にかけて開催します。
プログラムと参加募集要項は下記リンクよりダウンロードください。

今回は、フライブルクやスイスの都市公社、黒い森での持続可能な森林資源利用やソーラーコンプレックス社を訪問します。
市民や自治体による太陽光、バイオマス、小水力、排熱など多様で地域密着型の再生可能エネルギー利用・運営の形のほか、熱供給事業や省エネ事業にも焦点を当て、村上・池田・滝川が専門解説を行います。

参加者の皆様には、刻々と進展するドイツやスイスのエネルギー大転換の現場に触れて頂けるプログラムになっていますので、どうぞご参加ください!

プログラムはこちらから⇒
http://www.mit-energy-vision.com/fileadmin/content/MIT-japanisch/Seminar/MIT_SEMINAR_No.8_201511_.pdf

募集は定員に達し次第、締め切らせて頂きます。

ミット・エナジー・ヴィジョン社の視察セミナーの様子をまとめたイメージヴィデオを作成しました。下記リンクからご覧ください!
ヴィデオはこちらから⇒
https://youtu.be/eRGNpSd2R8A



この記事をはてなブックマークに追加

晴耕雨読とまでは行きませんが・・

2015-07-28 09:00:57 | その他

大変ご無沙汰しております。気が付けば、ブナの新緑や菜の花の季節も、貧養性牧草地がお花畑になる季節も、輝くような向日葵畑も、異常なまでの猛暑だった7月も終わろうとしています・・。この7月は標高840mの我が家ですら、外は連日30度~35度の暑さが続きました。冷房のないスイスの住居では、夜間冷却と日射遮蔽だけではそろそろ限界かも・・と思った頃にようやく気温が下がってくれました。ベルンの知人の古民家では室温が29度にもなったそうですが、パッシブハウス改修した別の知人の働くオフィスでは冷房なしで快適に過ごせたそうです。

春から夏にかけては環境の仕事や毎年の一時帰国と並行して造園の仕事が忙しくなる季節ですが、ブログを更新する時間が全く作れなくなってしまったのは、新住居での菜園作りが始まったためです。スイスに住むようになって以来、3.11前までは多かれ少なかれ菜園を続けてきたのですが、適した土地がなくなったことと、仕事が忙しくなったことを理由に、ここ数年は休んでいました。しかし、食物の一部は自分で作りたいという私たちの想いは強く、そのためにも昨年末にスィブリンゲン村の集落に引っ越しました。というのも大家さんが400平米の菜園用の土地を提供して下さったからです。

しかし、その土地は30年来ほとんど耕されることなく放置され、灌木や雑草が生い茂る大変な状態でした。しかも、ランデン山の土地は半端でなく石ころだらけで、痩せていて、気長に土作りから始めなければいけません。3月に雪が解けて以来、機械を入れて土地を整備し、手作業で作付面と作業道を整え、種を播き、苗を植え、寒冷地のためトマトハウスを建て・・。まだまだベリー類や観賞用のボーダーは手つかずですが、少しは菜園らしい趣となりました(下写真)。早くもサラダ類やかぶ、葉物、トマト、きゅうり、いんげん、ハーブ類などの収穫はできるようになり、自然の恵みに感謝です。


これまでスイスで使わせて頂いてきた菜園の土地は、いづれも長年他の方が使ってきた菜園を、健康や加齢、時間的な理由から譲って頂いたものでした。ですので既に形が出来上がっており、雑草もあまりなく、土も肥えていました。対して今回の土地では、開墾作業にも近い体験をして、何事もそうですが、一から始める大変さを身に染みて思い知りました。「先祖(あるいは先人)代々耕してきた土地」という表現は日本で良く聞きますが、そうではない土地を耕すことで、この言葉の表す有難さの意味をこれまでになく具体的に感じました。

ただ、これまでの菜園と比べて有利な側面もあります。この集落の農地では、古くから有機農業(バイオダイナミック農法)が行われています。そのおかげもあり、益虫や野鳥が以前の菜園でよりもずっと多く見られます。そういった意味で、周辺の農家の営みの恩恵も受けています。

直接民主主義の落とし穴・・

前回のブログでは、シャフハウゼン州の建設法改訂に関する住民投票について報告しました。電気代に0.8ラッペン(1円程度)というごく僅かな環境課徴金に上乗せすることで、州の省エネ改修助成のための予算を作る案でした。政府も議会も賛成したこの案ですが、住民投票では残念ながら否決されました。原発推進勢力による大々的な反対のポスターキャンペーンが行われましたが、賛成派も健闘していたように思われたので、私にとっては否決は意外な結果でした。

その後、賛成派の委員会で活動する知人より、WWFスイスがシャフハウゼン州での投票結果に関して、住民の投票行動を広範囲にアンケート調査した結果を聞きました(調査は非公開)。その結果は驚くべきことなのですが、投票した人の7割が、投票3週間後には何についての投票だったのか覚えていなかったというのです。結論は、シャフハウゼン州の住民は、投票内容が良く分からない場合や、あまり興味のない場合には、とにかく「ノー」と投票するということです。とりあえず「ノー」と言っておけば、少なくとも現状維持は確保できるからです。

上記の賛成派の委員会で活動していた知人曰く、こういった傾向を強化しているのが、スイスで唯一シャフハウゼン州で導入されている投票義務だそうです。住民は、住民投票や選挙にあたり、投票を行わない場合には、自治体の役場に自ら投票用紙を返還しに行かねばなりません(返還しない場合には罰金がかかります)。投票用紙を返還する時間があるなら、普通の人は投票します。このように投票が間接的に義務化されていると、上記のように「とりあえずノー」という投票行動に繋がるのだそうです。

直接民主制では、一人一人の有権者が、賛成・反対派の錯綜する情報キャンペーンの中から、投票のテーマである法案やプロジェクトについて自分で考えて、判断し、意見を決めることが欠かせません。しかし、誰もが全てのテーマに興味を持つことは難しく、また期待できないのが現状です。こういった経験から、シャフハウゼン州の投票義務には、意外にもネガティブな側面があることを初めて知りました。

このようにシャフハウゼン州では否決されてしまった環境課徴金ですが、6月にはお隣のトゥールガウ州でも環境課徴金を10年間限定で電力に上乗せし、その収入を電力分野での省エネ化とデマンドマネジメント、再エネ促進に用いる法案が州議会によって決定されました。省エネする企業には課徴金が減免、あるいは課徴金が還付される仕組みだそうです。現在、トゥールガウ州以外のいくつかの州でも、このような電力への環境課徴金の導入が準備されています。

国レベルでは、スイスの脱原発と脱化石エネルギーの長期的な戦略であるエネルギー戦略2050が、まだまだ審議中です。この春から上院の環境・都市計画・エネルギー委員会(UREK-S)で意見をまとめているところで、順調に進めば、9月には上院の決議に持ち込まれます。上院では州の声が反映されますが、スイスの場合、州たちが原発を運転する大手電力の所有者です。ですので、10月中旬の総選挙を前にして上院でどのような決議が下されるのか、下院が示した再エネと省エネ推進のための骨太な目標や対策がどの程度受け継がれるのか、やや心配なところです。


 ■ 最近の執筆

ビオシティ誌62号「欧州中部のビオホテル探訪(最終回)」
ビオシティ誌で、3年程続けてきたビオホテル連載が最終回を迎えました。最終回は「地域の農業と観光をエコロジー化するパイオニア経営者の協同体」というタイトルです。是非ご覧になって見てください。ちなみにビオシティ誌62号(ブックエンド社)は再生可能エネルギーの特集号になっています。下記リンクから注文することができます。
リンク: http://bookend.co.jp/?p=379

 
新エネルギー新聞連載
新エネルギー新聞(新農林社)に昨年より毎月ニュース記事を寄稿しています。最近の記事は下記の通り。
・25号「ドイツ:太陽光、成長する自己消費向けビジネス」
・27号「オーストリア:鉄道架線に太陽光電力〜電車の動力として自己消費」
・29号「ドイツ:ミュンヘン都市公社〜全世帯の電力消費量を自社再エネで生産」
バックナンバーは、下記リンクから注文することができます。
リンク:http://www.shin-norin.co.jp/shop/60_4998.html
           

ソーラーコンプレックス社ニュースレター日本語版 2015年2号
ミット・エナジー・ヴィジョン社ではソーラーコンプレックス社のニュースレター日本語版翻訳に協力しています。下記リンクから日本語のニュースレターをダウンロードできます。http://48787.seu1.cleverreach.com/m/5943192/  


■ ミット・エナジー・ヴィジョン社による中欧視察セミナー開催のお知らせ

滝川薫が共同代表を務めるミット・エナジー・ヴィジョン社では、2015年11月1日〜7日にドイツ・スイスでの再生可能エネルギーと省エネルギーをテーマとした、恒例の合同視察セミナーを開催します。プログラムや詳細は、下記リンクからご覧ください。
http://www.mit-energy-vision.com/


ニュースより

●買取制度の課徴金がkWhあたり1.3ラッペンに

2016年から再生可能エネルギーと水系再自然化の推進のために電力料金に上のせされる課徴金額を、kWhあたり1.1ラッペンから1.3ラッペンに値上げすることを内閣が決定した。値上げの理由には、再生可能エネルギーによる発電設備の増加やヨーロッパの電力市場価格の低迷がある。電力消費量が4500kWh の4人家族の世帯では、一年の課徴金額は来年から58.5スイスフランとなる。

スイスの場合、課徴金からの収入は、再生可能エネルギーからの電力の買い取りだけでなく、買取制度の対象外である小型太陽光への助成金、入札式の省エネ助成、地熱プロジェクトへのリスク補償金、省エネを行う大型消費者への減免金、そして水系再自然化の推進に用いられている。

2016年の課徴金収入は8億6400万スイスフランに上るが、用途の内訳では固定価格買取りに5億6400万スイスフラン、小型太陽光助成に1000万スイスフラン、省エネコンペに4100万スイスフラン、大型消費企業への減免に3200万(2015年の2倍!)、水系再自然化に5900スイスフランを占めている。

スイスのエネルギー法では課徴金額に上限が設けられており、現在最大でkWhあたり1.5ラッペンまでとされている。この上限により2008年以来、慢性的な買取待ちのウェイティングリストが生じており、今年7月上旬でリストは4万件の長さに及んでいる。ちなみに、これまでの買取申込み総数は6.2万件である。

ウェイティングリスト解消のために、今年からは小規模太陽光には「買取制度」ではなく、初期投資の3割を助成金する制度が導入され、これまでに約5400件が利用している。10kW以下の設備にはこの選択肢しかなく、10~30kWの設備は「買取」か「助成金」かを選択できる。初期投資への助成金を選ぶ場合、余剰電力は地域の電力会社が適切な市場価格で買いとることになる。だが、実際には大手電力が極度に安価な価格でしか買い取ってくれないといった問題が生じている。

参照:エネルギー庁BFEプレスリリース、KEV財団、Swissolar連盟

 

●ベルン電力:原発会社が地域暖房・熱源会社へ?

スイスで原発を運転する3つの大手電力の中で、唯一、ベルン電力(BKW)のみが脱原発のスケジュールを決定、公表している。同社は、脱原発の決定を機に、新しいエネルギーサービス企業への脱皮を目指して奮闘している。
その一環として、ベルン電力はスイス各地で、再生可能エネルギーに強い中小の熱源・暖房設備分野での設計・施工会社を次々に買収している。現在までに13社をグループ化し、従業員数は合わせると昨年末で200人、売上は6000万スイスフランにのぼる。さらには地域暖房にも進出しており、今年の春にはベルン近郊の自治体で800世帯に熱供給を行う木質バイオマスによる地域暖房網の建設をスタートした。
ベルン電力が地域の堅実な技術を持った中小企業を買収していく様子は不気味でもあるが、これまでの大手電力にはできなかった、きめ細かな地域密着のエネルギーサービスを展開していくための足場を固めようとしているようだ。
ベルン電力は7月中旬に、原発を運転する大手電力3社から成る協会Swisselectricを退会する旨を発表した。それにより原発保持路線を行く他2社と異なり、発電事業者ではなく、エネルギーサービス事業者、送配電事業者としての企業戦略に集中する姿勢をさらに明確にしている。
参照:スイスソーラーニュースレター、BKW社プレスリリース

 


この記事をはてなブックマークに追加