滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

11月27日、計画的脱原発案の開票を控えて・・

2016-11-27 02:15:59 | 政策

前回のブログにも書きましたが、今週末は「計画的脱原発」を求める国民イニシアチブ案の投票日です。この投票についてブログでも紹介したいと思ってはいたのですが、私たち自身がここ数か月に渡り、「Ja.」(可決)キャンペーンに尽力していたのでブログどころではありませんでした。

 

スイスでは、この秋にようやく「エネルギー戦略2050」の審議が終了しました。長年に渡る審議の中でかなり骨抜きになっているものの、スイスのエネルギーヴェンデ・温暖化対策の柱となる重要な政策方針です。しかし原発について、この戦略の中では、新設の禁止が法制化されたものの、ドイツと異なり運転の終了時期が明記されていません。それがスイスの脱原発政策の最大の弱点です。

 

運転終了年がないという弱点

オフィシャルには原発の寿命50年なら2034年に原発利用が終了するように伝えられていますが、実際には「安全である」限り運転して良いことになっています。そのため原発を運営する大手電力のいくつかは、60年、あるいはそれ以上運転することすら夢見ています。

 

しかし原子力ロビーの影響下にある国会は、高齢原発の安全性の確保のために連邦核監督庁が求めていた長期運転計画の策定義務化を却下しました。原子力村としては、安全対策への投資を最低限に絞り、対策実施を引き延ばしながら、できる限り長く運転して、できれば次世代の原発技術が登場するまで時間稼ぎをしたい、というのが本心でしょう。

 

ただ、欧州電力市場では電力が有り余り、価格が暴落している今日。スイスでは古い原発であっても発電するだけ損をする赤字運転が常態化しています。原発を運転する大手電力(特にAlpiqとAXPO社)の経営状況は深刻で、倒産寸前と言われる中、安全対策に十分な投資が行われるとは考え難くなっています。

そのような状況でも、三社ある原発運営会社のうち、具体的な運転終了年を自ら設定した企業は、ミューレベルク原発を運転するベルン電力のみ。残りの二社は運転終了計画を発表していません。ベルン電力は小売りを行っている他、再エネ熱事業や再エネ電力開発にも以前より取り組んでおり、原発以外のビジネスモデルの構築を順調に進めています。対して後者は原発のないビジネスモデルをまだ見つけられていません。

 

45年終了を求める国民イニシアチブ案

そのような中、今回スイスの緑の党が発議した国民イニシアチブ案「計画的脱原発」は、運転開始から45年で運転を終了することを義務付けることを求めるものです。実際に、スイスに5炉ある原発のうちの3炉は運転開始からすでに45年前後も経っていますので、イニシアチブが可決すると2017年末までに3炉は運転終了となります。その後はゲスゲン原発が2024年、ライブシュタット原発が2029年に運転を終了することになります。同時に省エネと再エネ拡張により、これまでの原発供給分を代替していくことで計画的に脱原発を行うという内容です。(現在は5炉で電力の4割弱を供給、残りはほぼすべて再エネで供給)。

 

古い、出力の小さな3炉の原発については、以前から圧力容器の金属の劣化・欠陥問題が批判されていました。その1つであるベッツナウ一号炉は世界で一番古い「現役」原子炉(47年)となりますが、こちらは安全性の問題からもう1年半も止まったままです。さらに一番新しく、出力の大きなライブシュタット原発も今年の秋に燃料棒に問題が見つかって停止。春先まで動かない予定です。

 

このように無計画に止まっている2炉だけでもスイスの原発発電量の半分に相当し、すでにイニシアチブが求めるよりも多くの出力が投票前に止まってしまっています。もちろんブラックアウトを起こすことなく。

 

断末魔的な反対派のキャンペーン

今回の投票戦とそれに関わる議論やキャンペーンは、社会的にもメディア上でも、稀なほど激しいものだったと感じます。イニシアチブの反対派というのは、右派の保守政党であるスイス国民党、エネルギー大臣を筆頭としたキリスト教民主党、自由民主党。企業では大手電力、経団連エコノミースイス、手工業者連盟らが取り仕切っています。

 

ちなみにスイス全国の政治家に密なネットワークを持つ原発ロビー団体のAVES(スイス理性的エネルギー政策アクション)の理事はスイス国民党の党首で、もう一つの強力な原発ロビー団体ニュークリアフォーラム・シュヴァイツの理事は手工業者連盟の代表、さらに経団連の理事長は大手電力Axpoの元CEOです。

 

潤沢な資金源があるとは言え、今回の反対派(原発ロビー)の抗いようは、断末魔的なものを感じさせます。反対キャンペーンでは、どこかの国の大統領選ではありませんが、これまでの原発関連の投票戦以上に平然と嘘の多い主張が繰り返され、非常に見苦しいものでした。これまでとは異なり、時代や技術、市場や経済性が、再エネ・省エネに明らかに有利、原発に不利に変化したことの証拠なのかもしれませんが。

 

ブラックアウトと石炭電力の輸入という主張

反対キャンペーンの主張は、2017年に3基が「大急ぎで」廃炉になると「ブラックアウトする」というものと、「石炭電力を大量輸入しなければならなくなる」というもの、加えて「大混乱が起こる」、「電力会社に高額な補償金を要求される」、「電気代が高くなって企業が外国に流出」、「電力を輸入すると国内における経済的な付加価値創出が減る」、「エネルギー戦略2050こそが計画的脱原発である」、といったところが主なものです。

 

現実には、ヨーロッパ市場では電力が有り余っており、スイスの高圧系統には輸出入のための巨大なキャパがあるため、可決されても一部の変圧施設や系統の強化、運用の努力が必要になるものの、安定供給は不可能ではないことを国家的な系統運営会社のスイスグリッドが示しています。また、輸入電力の環境性能は選べる上、既に国内の新再エネおよび周辺国に都市エネルギー公社が出資した再エネ電源によって、はじめの3炉分は生産できる能力を有しています。石炭電力の輸入を防ぐためには、既に灯油やガスに導入しているCO2税を拡張する手法が有効です。さらに、国内の再エネ電源の開発は、4万軒以上が買い取り待ちの状態ですから、これらが実現されれば経済的な付加価値と雇用がさぞ増えることでしょう。

 

駄目もとでも渾身の賛成キャンペーン

そもそも反対派とは資金力のレベルがまったく違い、政府や大臣が反対を表明している中で、賛成キャンペーンはなかなか健闘してきたと思います。新聞もかなり積極的に反対派の間違った論点を暴く記事や読者投稿を掲載しています。

 

賛成しているのは、主に緑の党と社会民主党、多くの環境団体や市民団体、一部の手工業者たちや州。さらには原発がなくなることで電力市場回復を期待する山地の水力所有自治体の連盟など。賛成キャンペーンを勧める委員会も2億円以上の費用を集め、多くの市民を動員して分散型キャンペーンを展開しています。多くの友人が「駄目もとでも、できる限りのことをする」、と言って心血を注いでいました。

 

夫と私も、新聞に投書する、記者の取材に協力する、講演する、地元の村への全世帯パンフレット投函をスポンサリングする、3回に渡るエネルギーヴェンデ映画鑑賞会を村で開催する、ポスターを貼る、イベントや講演会に来ている人たちと議論する、フェイスブックで情報を拡散する、知人に個別メールを出す等々・・考えられる限りのことを行いました。スイスの人が、お金も再エネ資源にも恵まれた自国のポテンシャルを活かし、子供たちへの負の遺産を減らし、高齢原発による災害から自国を守ってくれることを願います。

 

脅し文句に弱い市民

スイスで国民が発議する国民イニシアチブ案が、国民投票により可決されること自体が稀です。さらに私が応援するエネルギー関連のイニシアチブ案が可決されたことはほぼ皆無です。

 

今回の投票前のアンケート調査では、イニシアチブを可決すると答えた人の割合が、否決すると答えた人の割合よりも僅かに多くなっています。しかし住民の多数派が可決するだけでなく、過半数の州が可決しないことにはイニシアチブは通りません。保守派の政党の影響力が強烈な農村部の州を可決にもっていくのは難題です。

 

スイスの人は、投票前キャンペーンで「自由が制限される」、「もっとお金を払わなくてはいけなくなる(少額でも)」という脅し文句に(はったりであっても)大変弱いのが心配な点です。またこれだけ相反する情報があふれる中、一般市民が自分で考え、判断することはとても難しくなっていると思います。

 

開票の後は・・

今回の国民イニシアチブ案の反対派の一部には、エネルギー戦略2050を覆したいと思っているグループがあります。スイス国民党が中心となったグループで、やっと国会で決議されたエネルギー戦略2050に対するレファレンダムを起こすための署名を集めています。今回の国民イニシアチブ案を否決に持ち込むことで、原発の運転終了時期だけでなく、新設禁止すらを覆すきっかけを得ることを狙っています。

 

そういう意味でも重要な投票ですので、可決されることを願ってなりません。
しかし万が一、否決された場合には・・?エネルギーヴェンデの映画鑑賞会に来た村のある住民が言いました。
「今回の投票では負けるかもしれない。でも負けても次の日にはまた署名収集を始める。そして2年後にはまた同じ案件を国民投票に持ち込むさ。」
私には、経済的にも、リスク的にも、そんな悠長に取り組んでいる暇はないように思われます。

 

投票結果に関わらず明らかなのは、スイスの場合は大手電力の株主が州ですから、補償金が要求されても、大手電力たちが破産しても、廃炉費用や核のゴミの処分費用の積み立てが全然足りなくても、原発の後始末の費用はスイスでは(スイスでも)国民が負担することになるということです。

 

※ 11月27日晩の追記

 とても残念なことですが、「計画的脱原発案」は否決されました。可決票46%、否決票54%。今週末の投票率は他の投票事項も合わせて約45%だそうです(低くて残念ですね)。保守的な農村部では「左」という目で見られる緑の党のイニシアチブにしては、健闘した結果なのかもしれません。西スイスの4州やバーゼル都市州・田園州では可決されたそうです。
この結果は、脅し文句が功を奏して早期の脱原発が否定されたものであって、市民社会の脱原発への意思自体を否定するものではないと私は考えます。
また、今回のイニシアチブの反対派は、石炭や原発電力の輸入への反対を論点の一番上に挙げていました。今後はこれらの政治家や企業が、自らの発言を本当に政策や経営において実践していくのか見届けたいと思います。また市民社会としては、世界最高齢のベッツナウ一号炉の安全審査への監視の目を強めること、そして今後も政治とは関係なく安くなった再エネを企業や市民ベースでどんどん広げていくことが大事だと思いました。


 




 

●新エネルギー新聞への寄稿記事より

下記リンクより、新エネルギー新聞に寄稿したニュース記事を読むことができます。

「ドイツ:再生可能エネルギー法改訂 ~ 再エネ業界、さらなる縮小への懸念」

http://blog.livedoor.jp/eunetwork/archives/48815166.html

「スイス:農家による地域熱供給事業~糞尿・残渣バイオガスと木質バイオの組合わせ」

 http://blog.livedoor.jp/eunetwork/archives/48815450.html

 

短信

●スイスのエネルギー地域に参加する自治体数が235

エネルギー庁の自治体用のエネルギーヴェンデ推進プログラムで、広域で再エネ・省エネをコーディネートすることでエネルギー自立を目指す「エネルギー地域」の数が24に増えた。これらの地域に含まれる自治体の数は235になる。このプログラムに参加する自治体は、総合的なエネルギー政策の品質管理ツールである「エネルギー都市」制度の認証を受けることが条件だ。エネルギー地域には専門アドバイザーが付けられ、地域間の経験交換が促進される。エネルギー地域は、エネルギー都市制度の一部であるが、エネルギー都市制度の認証を受けている自治体数は現在400になる。スイスの人口の半分がエネルギー都市に住んでいることになる。エネルギー都市制度は、省エネや都市計画、交通など総合的かつ体系的な実施に重点を置いた認証だが、エネルギー地域では広域でのレベルアップ、そして再エネ生産に重点を置いている。

参照:Energiestadtプレスリリース

 

●建物の省エネ改修助成金、2015年は約200億円

スイスでは暖房用オイル・ガスに二酸化炭素課徴金が課せられており、その収入の一部が建物の断熱改修と熱源交換、省エネ対策への助成「建物プログラム」の財源として使われている。2015年には1.79億フラン(約200億円)がこのプログラムの枠内で助成された。対策の寿命の間に節約されるCO2は310万トン。省エネ効果は1.6万ギガワット時となっている。躯体の断熱強化については、360万㎡の外皮がこの助成を受けて改修された。屋根と外壁の改修が主である。それ以外の助成金としては、ミネルギー・P新築、太陽熱温水器、ヒートポンプへの助成金が多かった。

参照:DasGebäudeprogrammプレスリリース


 

 

 


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地域風車がやってくる!

2016-11-13 21:19:51 | 再生可能エネルギー

先週は初雪が降り、今年も冬がやってきました。8月に今回のブログの内容を書き始めたものの、視察や講演、〆切、収穫に保存、そして国民投票キャンペーンなどが忙しく、書きかけのまま放置していました。国民投票のことについては次回に報告するとして、今日は地域風車についての報告です。

 

地域エネルギーの協働による風車に建設許可

近年歳のせいか、「飛び上がるほど嬉しい」、ということが少なくなった気がします。そんな私でも飛び上がることが数か月前にありました。地元シャフハウゼン州から数百メートル離れた南ドイツ・ヴィークス村の山の上に計画されていたウィンドパークに建設許可が下りた、というニュースが届いたからです。それだけのこと?と思われるかもしれませんが、同プロジェクトに建設許可が下りるまでの3年半は事業者にとって茨の道でした。

 

ドイツの中では風車後進地域のバーデン・ビュルテムベルク州と、それに輪をかけて風車が少ないスイスですが、ヴィークス村の風車はコンスタンツ郡でなんと第一号。郡行政にもぜったいに失敗しないように、念には念を入れての審議でした。事業者は100近くの土地所有者と契約を結び、数千万円の環境アセスを行い、さらに動植物に関する様々な追加調査や対策を重ね、林道脇の蟻塚の移植などまで行っていました。

 

それでも風車に反対する勢力によるメディア上での執拗な批判や妨害は最後まで続きましたが、立地自治体の若い村長(2015年に25歳で選ばれたドイツ最年少の村長)が熱心に地元住民をまとめあげ、事業者もメディアで広げられた嘘を丁寧に解説し、なんとか建設開始に漕ぎつけたのです。

 

フェレーナフォーレン・ウィンドパーク(ドイツ側)

フェレーナフォーレン・ウィンドパークが素晴らしいのは、国境を超えた地域風車である点です。事業者はIG Hegauwind(へガウウィンド協働体)による合資会社で、立地自治体に本拠地を置いています。

 

この事業者は、地域の11の自治体エネルギー公社と市民エネルギー会社、そして市民エネルギー協同組合の共同体です。地域の風力資源の開発を地域のお金で共同で行い、リスクも収穫も分散させるコンセプトです。うち2社は国境のスイス側の会社で、シャフハウゼン市の公社シャフハウゼン・パワー社と、シャフハウゼン州の公社EKS社になっています。開発は南ドイツの市民エネルギー会社のソーラーコンプレックス社が委託されています。

 

ゆるやかな山林の上に建設中の風車の出力はNordex131で各3メガワットのものが3基。現在、基礎工事が進行中です。風の弱い内陸向けの設備で、タワーの高さは134メートル、ブレードも合わせた総高は200メートルになります。2万人分の電力を生産する予定です。投資額は1630万ユーロ。出資したい市民は、市民エネルギー協同組合経由で出資することが可能です。来年の夏には運転を開始し、まだ買取制度の対象になります。

 

フェレーナフォーレン・ウィンドパークは、この地域(ボーデン湖北部・シャフハウゼン)で初の大型風車です。周辺に風車が存在しないことから、漠然とした不安感や偏見を持っている住民も少なくありません。住民が身近に現代風車に触れ、順調な運転を確かめ、景観や自然への影響についても経験を集められるようになることで、こういった偏見も減っていくことを期待します。
こちらのリンクから工事の様子を見ることができます:http://www.verenafohren.de/

 

クローバッハ・ウィンドパーク(スイス側)

上記のプロジェクトから15キロメートルほど離れた国境近く、スイス側の山の上では、シャフハウゼン州の初の「クローバッハ・ウィンドパーク」プロジェクトが計画中です。州の風力計画の中で、風況・環境・景観面から選ばれたベストな立地の一つです。開発は、州営電力EKSと市営電力シャフハウザー・パワーの協同で行い、4基の風車を今後2~3年の間に建設することを目標にしています。現在、住民参加のプロセスが進行中です。http://chroobach.ch/

 

このほかにも、ボーデン湖北部や北東スイスでは、複数の小さなウィンドパーク・プロジェクトが進行中です。同時に、南ドイツの住民による風車反対運動が声高になってきています。その声はドイツの別地域やスイスの反対派とも連動し、勢いを増しています。様々な理由により反対する住民がいますが、「風車のある景観が嫌い、憎い」という人、「調査されていてもこうもりと鳥類への影響が不安」という自然保護の一派、そして原発推進派に大きく分けられるようです。

 

地域風車反対派の運動

先日、クローバッハ・ウィンドパークに反対する両国のグループの集会を聞きに行きました。300人ほどの住民が小学校の体育館に集まり、強烈な怒りと嫌悪のパワーを発散していました。現在計画されている地域内のプロジェクトをすべて阻止すべしという趣旨でした。はじめに風車の見え方を独自手法でシミュレーションしたヴィデオを20分ほど戦争映画の音楽付きで見せられました。中には将来的に風車が乱立する「恐怖の未来図」もありました。

 

続いて2時間ほど講演がありましたが、すべて反対派の講演で、プロジェクトに関する説明は一切ありませんでした。ドイツの有名な風車反対講演家も話しましたが、立て続けに嘘を並べる話法には驚きました。講演の後に会場から批判的な質問やコメントもありましたが、その人たちは聴衆からブーイング・嘲笑され、怖い雰囲気が漂っていました。

 

現在、事業者による住民参加プロセスも行われていますが、反対グループは頭から参加を拒否しています。これらの原理的反対派を説得することはほぼ不可能ですが、その分、地域の幅広い市民のコンセンサスを住民参加により構築していくことが重要な段階です。直接民主制のスイスでは、風車の建設に必要な土地利用計画の変更に、自治体での住民投票を伴うからです。

 

いつもドイツの風力先進地に視察に行っていると、風車があることが当たり前で、あたかも簡単なことのように見えます。しかし後発組の地域では、まだまだ社会的に繊細な一歩を踏み出したばかりです。

 

準備が進むスイス各地の風力プロジェクト

昨年、スイスでは一基も新しい風車が建ちませんでした・・。国全体でもたった37基しかありません。周辺国の中ではビりです。しかし、これはスイスが風力に恵まれていないことが理由ではありません。

 

もともとスイスでは、風力の実現には複雑な許認可や住民合意を経て、建設に到るまで10年近くの歳月がかかるのが普通でした。福島第一原発事故後に許認可プロセスを合理化し、また各州で脱原発に向けたエネルギー政策とそれに基づく風力プロジェクトが形成され、そのうちのいくつかは自治体での住民投票をクリアして実現に一歩一歩近づいています。

 

標高2500メートル、グリース峠のウィンドパーク

そのため今後数年の間に、パイプラインにあるプロジェクトが実現されるようになります。(ゆっくりとした歩みですが、直接民主制のスイスでは素早い展開は風力分野では難しいのです。)買取制度において買取許可を得ている風車プロジェクト数だけでも554基あります。これとは別に、買取待ちのウェイティングリストに載っている風車数が350基もあります。プロジェクト開発への意思、ポテンシャルはあるわけです。

 

今年は大型風車のリパワリングと新設を合わせると7基の設置がありました。年100基単位で新設されているお隣のバーデン・ヴュルテムベルク州やオーストリアと比べると本当に笑ってしまうくらい小さな規模です。それでもアルプスのグリース峠、標高2500メートルの揚水発電のダムのすぐ隣に増設された3基(2・35MW×3)は今年の大きな成果で、2850世帯分の電力を作っていく予定です。グリース峠ウィンドパークの写真はこちらから:

http://www.suisse-eole.ch/de/news/2016/10/3/windpark-gries-von-bundesratin-doris-leuthard-eingeweiht-168/

 

立地自治体の住民投票が前提・・

スイスでは、2012年から15年の間に13の自治体で風力プロジェクトに関する住民投票が行われました。そのうち12の自治体でプロジェクトに賛同する決断が下されています。ですので、地元住民の大半は、地域の事業者が主体となった丁寧なプロジェクトに対して肯定的と言うことができます。

 

例えば、西スイス・ヴァリス州の自治体シャラの住民は6月に2基の風車を増設するための土地利用計画変更を65.6%の賛成で可決しています。ワット州ヴァロルブでも6基のウィンドパーク建設に対して6割の住民が可決票を投じました。ベルン州ユラ山脈のトラムランとセックールでも、6割の住民が可決票を投じ、6月には7基の風力設備の建設許可が下りました。

 

しかし、スイスでは環境団体や景観保護団体、一個人などがプロジェクトに対して異議申し立てを行うことができるため、許可されたプロジェクトであっても、建設が延長されることがあります。こういった事情から、これまで多くの都市エネルギー公社が、自国ではなく、ドイツやフランスのウィンドパークに出資してきました。現在、それらの隣国にある風車がスイスの電力需要の8%分の電気を生産しています。

 

風力はスイスでも冬の重要な電源

最近では、エネルギー庁が発表した新しい風力アトラスで、スイスの風力のポテンシャルがこれまで考えられていたよりも大きいことが分かりました。古い知見に基づくエネルギー戦略2050では電力需要の7~10%と想定されています。新しい風力アトラスでは、特にスイスの中部平原と東北地方でのポテンシャルが見直されています。

 

スイスの100%再生可能エネルギーによる電力供給の未来は、現在と同様に水力の割合が一番大きく、それに太陽光が続くとされています。しかし電力の消費ピークである冬には太陽光も水力も発電量が減ります。対して風力発電は冬に発電量が多いため、スイスでは風力が、水力と太陽光を補う不可欠な重要な電源であると考えられています。

 

 

追伸:

風力関連では、新エネルギー新聞に寄稿したオーストリア・ブルゲンラント州の先進事例についての記事も御覧ください。

オーストリア:ブルゲンラント州、10年間で電力自立を達成 ~鳥類保全との協働による風力開発が鍵に

http://blog.livedoor.jp/eunetwork/archives/47419850.html

 

この春に風力設備が立地するブルゲンラント州北部を現地に見学に行きましたが、地域が主体となった開発により、観光と自然保護、風力を中心とした電力自立見事に実現していました。また国際的に重要な鳥類のビオトープであるノイシードル湖周辺の自然観察も行い、現地の専門家や住民とも話をしましたが、丁寧な計画により鳥類保全の観点からは問題が起きていないことが確認できました。

ブルゲンラントで州は風車設置を風況が優れ、景観・自然の面で問題のない一部の地域(主にブルゲンラント北部の自然保護地から離れた農地)に集中させています。ですので、その地域に行くと当然のことながら風車が多すぎる印象を受けます。さらにだだっ広い平原なので数十㎞先の遠くまで風車が見えます。とはいえ今後リパワリングを重ねることで、よりすっきりとしていくことと思われます。

 

 

●新エネルギー新聞への寄稿記事より

下記リンクより、新エネルギー新聞に寄稿したニュース記事を読むことができます。

 

スイス:全国版のソーラー屋根台帳を作成

http://blog.livedoor.jp/eunetwork/archives/47559172.html

  

オーストリア: エネルギー小売り会社に年0・6%の省エネ対策を義務化

http://blog.livedoor.jp/eunetwork/archives/47203820.html

 

「ドイツ: ヴィルポーツリート村発の蓄電池メーカー:ドイツ市場をリードするゾンネン社」

 

http://blog.livedoor.jp/eunetwork/archives/48422001.html

 

 

 

 

●短信

エネ庁が新築建築の熱消費量を調査~設計値と消費値を比較、ミネルギー戸建ては優秀

スイスのエネルギー庁は、建物の省エネ規制基準とミネルギー基準に関して、大規模な実測調査を行った。目的は、設計値と消費値がどの程度に合致するのかを調べることである。214棟において暖房面積毎の年間熱消費量を調査した。調査対象は、ミネルギー、ミネルギー・A、ミネルギー・P、そして規制基準による新築そして改修の建物である。

 

214棟の建物の消費量調査から見えてきたことは、すべてのミネルギー基準の新築戸建てにおいて、ミネルギーの制限値が、中央値では守られているということである。ミネルギー・Pについては、戸建てでもオフィスビルでも制限値が守られていた。ミネルギー・Pの集合住宅は、わずか制限値を上回っていた。ミネルギー改修については、すべての建物カテゴリーで制限値が守られていた。

 

対して、大半の建物が制限値を上回っていたのが、ミネルギー基準の集合住宅およびにオフィスビル、そして規制基準の新築および改修の集合住宅である。これらの建物群で設計値が守られていない理由として、設備技術の機能や設定の問題、およびに熱源効率が設計値よりも低いこと、そして利用者の使い方が原因であると推測されている。建物の建築上のミスがこの差異の原因であるか否かは調査されていない。

 

この調査では、ミネルギー建築の品質について、建築家と施主にアンケート調査が行われた。ミネルギー建築の住民の満足度は大きい。5人のうち4人が再度ミネルギー基準で建設すると返答している。ミネルギー基準は販促に繋がっていることも分かった。しかし、50人の専門家へのヒアリングからは、従来建築の性能向上により、ミネルギー基準の先進性が薄れてきていると考えられていることも分かった。これはミネルギー基準により、従来建築の性能が向上したためでもある。

ミネルギー住宅の住民はアンケート調査において、防音、隙間風の防止、キッチンの臭いに関して満足していると答えている。しかし冬場の空気が乾燥していると返答している。

 

これらの結果に基づいてエネ庁のエネルギー・シュヴァイツ・プログラムでは、スイス建築家エンジニア協会(SIA)と建物設備技術者連盟、その他の市場プレイヤーと共同で、建物の運営の最良化を行い、サポートしていく予定だ。

 

調査のベースとなる数字は、最低でも二年間の消費データに基づき、これらのデータの信ぴょう性を確認するためにすべての建物を現場訪問した。加えて、ミネルギー建築を建てた260人の建築家と990人の施主にアンケート調査を行った。そして、規制基準で建てた262人の施主と78人の建築家からの回答と比較した。この回答からは、規制基準で建てる建築家や施主よりも、ミネルギーで建てる施主や建築家の省エネ意識が高いことが分かった。

 

計画・建設プロセスについて、ミネルギー建築は規制基準と比べると、手間がかかると感じられている。しかし品質とイノベーションに関しては、より高いと感じられている。住民に関しては738人のミネルギー建築の住民と、302人の規制基準建築の住民がアンケートに回答した。

★2014~2015年に実施された調査の最終レポートのダウンロードはこちらから

https://www.newsd.admin.ch/newsd/message/attachments/43534.pdf

参照:連邦エネルギー庁プレスリリース

 

●ソーラーコンプレックス社ニュースレター夏号

ソーラーコンプレックス社ニュースレター2016年夏号を、下記リンクから日本語で読むことができます。

「気候保全に必要なのは石炭・褐炭電力の減少であり、増加ではない 

http://48787.seu1.cleverreach.com/m/6573317/

 

 

 


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ランデンハウス菜園だより(暑中お見舞い)

2016-08-12 10:50:03 | その他

暑中お見舞い申し上げます。

北スイスの山の上では、日差しや空気の中に早くも秋を感じる季節となりました。

ブログで皆さまにお伝えしたいことがたくさんありましたが、仕事と庭、日常を回していくことで精いっぱいの日々がまだ続いています。

 

ランデン山の菜園では、春から夏にかけて50㎡の温室の建設、土や装備の準備、作付けなどを行っていました。菜園用の温室は、ガラス製のものは高価で手が届かないので、ポリカーボネート製のものを選びました。6mm厚の複層ボードで、U値は3.5くらいだそうです。

 

写真:レストラン・ランデンハウスのテラスから見た400㎡の菜園と温室。まだまだ理想の状態からは遠いですが、一歩ずつ構築中です・・。コンポストはレストランとも共用し、菜園に有機物を利用しています。この日は遠くまで見えませんでしたが空気が澄んだ日にはアルプス山脈が一望できます。

これにより標高840mでの野菜の栽培期間を数週間延長し、またこの標高では収穫が難しいトマトやナスのような野菜やぶどうのような果物の栽培を可能にし、さらに冬の間を通して(雪の影響を受けずに)耐寒性のある種類のサラダや常菜、ハーブ類を作ることが目的です。鉢で育てるレモンやいちじく、宿根草の苗などの越冬にも使う予定です。収穫は、自給用だけでなく、集落の人や、お隣さんで、大家さんのレストランにも使って頂きたいと考えています。ぶどうは、特に耐病性のある16品種を夫が選別して植えました。今後の品種の比較が楽しみです!

  
この温室の断熱性能では、厳寒期には完全に霜を除けることは難しいと思われます。ゼロ度以下にならない温度管理を目指していますので、現在、オフグリッドの蓄電池付き小型太陽光発電と組み合わせた循環換気・簡易暖房の導入も検討しています。値段に換算したら、ものすごく高い野菜になってしまいそうですが、楽しさ・美味しさ・生活の質に加えて、山の上で暮らしていくための経験を集めたいという好奇心があります・・。

初夏には、私たちの暮らす集落の中庭の植栽を一新し、自宅の玄関回りの雰囲気を改善しました。まだまだ若い植栽ですが、集落の住民の皆さんも(わずか3世帯+従業員ですが)喜んで下さっているようです。大きな眺望と長いハイキング・マウンテンバイク道の途中にある大家さんのレストラン・ホテルのランデンハウスは、この地域の多くの人々にとって「故郷の中のちょっと良い場所」です。ただレストラン・ホテルというのは非常に競争が厳しく、仕事量も多い業界で、周辺の緑地環境や菜園のことまで手が回らないのが実際です。私たちは、その周辺環境の質の向上に、庭づくりを通して貢献したいと考えています。

 

追伸:この夏は、大家さんが自宅を改修中です。窓を複層断熱(右下)から断熱三層窓(上・左下)に交換。地元の木工会社が窓を作り、施工します。


   

 

●最近の新エネルギー新聞への寄稿記事より

新エネルギー新聞に毎月ニュースを寄稿しています。下記リンクにニュースバックナンバーを転載していますので、ご覧ください。

 

ドイツ:住民参加で電力自立率500%超す、ヴィルポーツリート村(上)

http://blog.livedoor.jp/eunetwork/archives/48189905.html

 

ドイツ:オーデンヴァルト・エネルギー協同組合(EGO~プロフェッショナルな市民エネルギーの模範例」

http://blog.livedoor.jp/eunetwork/archives/47929894.html

 

ドイツ:バーデン‐ヴュルテムベルク州が風車からの低周波音を独自調査

http://blog.livedoor.jp/eunetwork/archives/47781201.html

 

●フェイスブック

フェイスブックをはじめました。よろしくお願いします!

https://www.facebook.com/people/Kaori-Takigawa/100006456505690

 

●短信

 

スイス: 300世帯の入る木造集合住宅、建設開始

ヴィンタトゥール市では、スイスでこれまで最大規模の木造集合住宅の建設が開始された。「Sue&Til」という名の同集合住宅は、スイスの持続可能な社会の目標像である「2000W社会対応型」。2000W社会とは、一次エネルギー消費量が3分1の社会づくりを目指したビジョンだ。

同プロジェクトでは総6階建てのうち、2階以上が木造構造。300世帯が入る。施主・投資家は保険会社Allianz Suisseで、ゼネコンImpleniaが建設を手掛ける。プロジェクトは、建築家チームとヴィンタトゥール市との協働に基づき開発された。竣工は2018年の予定。ヴィンタトゥール市には、このほかにも151世帯の入る大型の木造エコ集合住宅「ギーセライ」が2013年に竣工している。

http://www.proholz.at/architektur/detail/baustart-fuer-bislang-groessten-holzwohnbau-in-der-schweiz/

参照:www.proholz.at

 

スイス: 製薬会社ロッシュの立体駐車場ファサードに400kWの太陽光発電

バーゼル近郊のカイザーアウグスト村にある製薬会社ホフマン・ラ・ロッシュの工場に併設された立体駐車場にファサード一体型の太陽光発電設備が設置された。高速道路A2 沿いに建つ7階建ての駐車場の建物の長さは170メートル。その外壁に日よけのような形で、美しいデザインで収まっている。駐車場のファサードと屋根に設置された設備の出力は合計633kW。うち400kWがファサード設置で、ファサード統合型としてはスイスで最大規模。設備の設計はBENetz社が手掛けた。スイスでは野立て太陽光発電は一部の例外を除いて行われていないため、建物一体型、屋根置き型の設備が最も一般的だ。太陽光の電力生産に占める割合は現在約2%になっている。

写真:http://www.benetz.ch/index.php?option=com_content&view=article&id=109&Itemid=517

参照:www.ee-news.ch

 

オーストリア: 野立てソーラーを養蜂と自然保護に利用

ウィーンの都市エネルギー公社であるウィーン・エネルギーでは、多くの市民出資発電所を運転している。ウィーン23区には同社最大の野立て市民ソーラー発電所が立地する。サッカー場2つ分の大きさのこの発電所では、パネルの下の緑地について自然保全・推進型のデザインと管理を行うことによって、質の高いビオトープを作り出している。2年間の生態系モニタリングにより、発電所内での数多くの動植物、昆虫の生息が確認されており、その中には希少種も少なくない。

この発電所で、ウィーンエネルギー社では、今年からミツバチ推進プログラムも開始した。地元の養蜂NPOと協同で、10箱の養蜂ボックスを設置。10万匹のミツバチを飼っている。パネル下の緑地の一部をミツバチ用として、草刈りを段階的に行うなど特別な運用を行う。この発電所からは、1年で100kgの蜂蜜の収穫が予定されている。

同メガソーラーは600人のウィーン市民の出資により実現されている。ウィーンエネルギー社ではこのほかにも25の市民発電所を実現しており、これまでに6000人の市民が270万ユーロ以上を出資してきた。同社では、再エネの増産にあたり、市民参加と自然保護を2つの柱に掲げている。

参照:Wien Energieプレスリリース

 

 

 


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ガッサー社長のプラスエネルギー改修マンション、熱消費は10分1に

2016-05-01 09:20:41 | 再生可能エネルギー

今年もようやく新緑が美しい季節となり、本格的な菜園シーズンの始まりです。しかし先週まで雪・雨が続き、なかなか作付け進みませんでした。標高840メートルでの自給率を高め、温暖地の作物を育てるための温室の建設許可が自治体よりようやく得られ、5月にはようやく建設を開始することができるようになりました!

この冬は、福島第一原発事故5周年、チェルノブイリ原発事故30年ということで、スイスでも数多くのイベントが開催されました。それに伴う講演、コーディネート、ボランティアに息切れしているうちに、ガーデンと視察シーズンに突入。こうしてブログの更新から随分と遠ざかってしまいました。皆さんと共有したい情報が溜まりすぎたという反省から、とうとう(?)フェイスブックを始めることにしました。どうぞお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

今日は、ここ数か月に出会った本や映画、会議、建物などの中から、皆さんと共有したいものをいくつか紹介します。

 

最近出会った建物

ガッサー社長の手掛けたプラスエネルギー改修マンション、熱消費10分1に

この冬、日光を充電するために南スイスを訪れた時のこと。イタリアとの国境の町キアッソにあるプラスエネルギー改修ビルを見に行きました。一昨年にスイスソーラーエネルギー賞を受賞した建物で、エネルギー分野のパイオニアとして知られる建材会社社長のヨシアス・ガッサーさんが実現したプロジェクトです。

駅すぐ裏の60~70年代の古ぼけたビルが多い街区で、ぴかぴかした外装が目立ちます。とはいえ、東西南北の4方面のファサード材がすべてソーラーパネルであることは、一般の人は気が付いていない様子です。

 
写真:南ファサードの外装材、最上階のテラスの日よけもすべてソーラーパネル。屋根には太陽熱と太陽光の両方を設置。

1965年に建てられた8階建て19世帯の賃貸住宅が入るこちらのビル。改修前には無断熱のエネルギー的には最悪の建物だったそうです。それをガッサーさんが2012~13年にかけてミネルギー・P(パッシブハウス)レベルに断熱改修。壁U値は0.12、屋根は0.08、窓は0.7、床下は0.14に断熱強化しました。

それにより暖房・給湯の熱需要量を一年一㎡あたり320kWh(!)から28.5kWh に10分1に減らしています。省エネ機器により、電力の消費も、一年一㎡あたり45.8kWh から17kWhに減らしました。
 
写真:東ファサード、左が改修後、右が改修前。断熱改修して、新しい外装材としてソーラーパネルを選択。
Bild rechts:www.gasserbaumeterialien.ch

その上で、屋根、ファサード、テラスの日よけや手すりの建材として太陽光発電パネル合計88.6kWと、真空管式の太陽熱温水器46㎡を設置しています。日陰に入りやすい北、東、西外壁のパネルには被膜式モジュール、日当たりの良い南外壁とバルコニーの手すりと屋上は単結晶モジュールを使っています。太陽熱の補助熱源は空気ヒーポンです。第一種換気は各世帯ごとに設置されたCO2濃度センサーで換気量を調整しています。

 写真:西ファサード、ベランダの手すりも外装材も太陽光パネル

ソーラーエネルギー大賞では、大幅な省エネ対策に加えて、徹底した建材としてのソーラー利用が評価されていました。建て込んだ市街地の縦長なビルでありながら114%のプラスエネルギー率を達成しているのはなかなかの成果だと思います。

 写真:北ファサード、曇天や日陰に強い被膜パネルを利用


●最近のスイスの脱原発~大手電力は原発国有化の思惑?

世界最古の現役原発であるベッツナウ1号機は、安全上の問題で、昨年春からの運転停止の状態が続いています。このまま再稼働しないだろうという説もこの頃は聞かれます。

ヨーロッパの電力市場価格が暴落して以来、スイスでも原発を持つ大手電力は経営難に喘いでいます。原発からの電力は市場では発電コスト以下でしか売れないのに加えて、高齢原発の安全対策費用が嵩み、さらに廃炉・最終処分費用の積み立ては不足・・スイスの大手電力にとって原発は重荷でしかなくなっています。特に原発をできるだけ長く運転しようという路線を追っていた2社については経営悪化のニュースが続きます。

その1社であるAlpiqについては、原発を国に引き渡す戦略を検討中という趣旨のニュースが3月に流れました。スイスの場合、大手電力の株主は州ですので、大手の電力会社が潰れても、先に国や州が原発を引き受けても、どちらにしても納税者の負担により原発の運転終了・廃炉を行うことになります・・・。そういう事情もあって、脱原発を推進する政党の政治家からも、国が行う方が安全で計画的な運転終了と廃炉が可能になるだろう、という理由で賛成する声も聴かれます。このような企業の振る舞いは、納税者としてはとうてい納得が行きませんが・・。

今年の晩秋には、緑の党の国民発議である原発の寿命を45年に制限する法案が国民投票にかけられます。多くの国民は国の脱原発政策が決まっているのだから、脱原発というテーマは片付いたものと思い込んでいます。しかし、実際には運転終了時期が定義されていないため、高齢で危険な原発が長く運転され、国民や隣国を危険に晒しているのが現状です。

対して、エネルギー戦略2050は最終調整がもうすぐ終了する予定です。昨秋の選挙で選ばれた新構成の全州議会のエネルギー委員会は再エネ増産目標を下方修正。5年間も議論した末に、目標も対策も弱体化され残念です。現在の計画では2035年に原発の電力がなくなっても、その全量を再エネでは代替しないようになってます。国のシナリオは電力需要の全量を再エネでまかなえるポテンシャルを認めていますが、その実現は出来る限り遅らせたいという意思が働いています。

ニュークリアフェイズアウト会議(NPC2016)、2016321日チューリッヒで開催

スイスの環境団体であるスイスエネルギー財団が3月21日にニュークリア・フェイズアウト会議を開催しました。世界的に著名な専門家による高齢原発の安全性や規制に関するプレゼン、世界の原子力産業の動向に関するプレゼンをこちらから見ることができます。(英語、ドイツ語)http://www.energiestiftung.ch/service/fachtagungen/fachtagung16/referate/

日本からは、明確な脱原発と再エネへの大胆な転換を世界中で説かれている菅直人前首相が招待されました。菅前首相は、今年1月30日にもグリーンクロスの招待でチューリッヒで講演を行われています。その講演のヴィデオをこちらから見ることができます。(日本語)https://www.youtube.com/watch?v=Q4kwR6wpw2g

  

● 最近出会った本

諸富徹さん編著の単行本、「再生可能エネルギーと地域再生」

地域経済の活性化、経済的な付加価値の創出は、欧州中部の地域たちによるエネルギー自立運動の原動力です。私たちの共著所ではその実態を事例を介して紹介してきました。京都大学経済学教授の諸富先生たちが出版されたこちらの著書では、この側面を学術的な視点から、そして日本の地域再生という視点から解説されています。また第5章では、立命館大学経営学教授のラウパッハ スミヤ ヨーク先生らによる研究である「再生可能エネルギーが日本の地域にもたらす経済効果~電源毎の産業連鎖分析を用いた試算モデル」が紹介されています。研究者や専門家だけでなく、学生にも読んでもらいたい一冊です。

 

諸富徹編著、日本評論社、アマゾンのリンク

http://www.amazon.co.jp/%E5%86%8D%E7%94%9F%E5%8F%AF%E8%83%BD%E3%82%A8%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E3%81%A8%E5%9C%B0%E5%9F%9F%E5%86%8D%E7%94%9F-%E8%AB%B8%E5%AF%8C-%E5%BE%B9/dp/4535558213/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1461827905&sr=8-1&keywords=%E5%86%8D%E7%94%9F%E5%8F%AF%E8%83%BD%E3%82%A8%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E3%81%A8%E5%9C%B0%E5%9F%9F%E5%86%8D%E7%94%9F

 

コルネリア・ヘッセ・ホーネッガーさんの新著、

「低放射線被ばくの威力~原子力産業が沈黙すること」(ドイツ語)

科学論文の挿絵画家であるコルネリア・ヘッセ・ホーネッガーさんは、長年にわたりスイス国内外の低放射線被ばく地帯で多数の昆虫を採集・調査し、そこで多発する奇形昆虫(主にカメムシ亜目)を描き続けてきたパイオニアのスイス人女性です。彼女の経験をまとめた著書が3月の出版されました。読み物としても上手くまとめられていますので、こちら在住の方には是非読んでいただきたい一冊です。注文・詳細はこちらから:
„Die Macht der schwachen Strahlung – was uns die Atomindustrie verschweigt“, ISBN: 978-3-9523955-5-4., Verlag edition Zeitpunkt
http://edition.zeitpunkt.ch/buch/die-macht-der-schwachen-strahlung/


コルネリア・ヘッセ・ホーネッガーさんのご活動については、2011年の2月11日にこのブログで紹介しています(下記リンク)。

http://blog.goo.ne.jp/swisseco/e/d427fa0b9714cef193d22d5c578ddee9

  

● 最近出会ったエネルギーヴェンデを伝える映画

“Leben mit der Energiewende 3.1 – selber machen“
「エネルギーヴェンデと生きる3.1~自分で進める」、ドイツ語、
フランク・ファレンスキ監督

無料公開リンク:https://www.youtube.com/watch?v=f3Er35UtD7Q

ドイツのエネルギーを専門としたテレビジャーナリストであるフランク・ファレンスキさんは、刻々とする変化するドイツのエネルギーヴェンデの現場をテーマとして、週2回のインターネットテレビ番組を作成、司会を務めています。このファレンスキさんの映画「エネルギーヴェンデと生きる3.1~自分で進める」が、現在、インターネットおよびドイツ各地で公開されています。これまでも「エネルギーヴェンデと生きる」の1と2を作成してきたファレンスキさん。最新版の「3.1」では、ドイツの現政府が市民による(電力分野の)エネルギーヴェンデの素早い展開をストップさせようとする中、国の政策に関わらず市民が「自分で進める」エネルギーヴェンデを紹介しています。太陽光発電の自己消費の最良化・蓄電が大きなテーマです。http://www.lebenmitderenergiewende.de/

 
“ Power to Change - Die EnergieRebellion „
「パワートゥチェンジ~エネルギー革命児」
ドイツ語、カール・フェヒナー監督

予告編:http://powertochange-film.de/

日本でも放映された映画「第四の革命」のカール・フェヒナー監督の新作品。スイスではまだ見られませんが、近隣のドイツの映画館では公開されています。世界中での再エネ転換によるエネルギーデモクラシーをテーマとした前作と違って、本作はどちらかというとドイツの市民たちのエネルギーヴェンデの闘いをテーマとした作品です。ドイツの市民によるエネルギーヴェンデが逆境の中で道を手探りする中、各地のパイオニアたちの取り組みを通して、ドイツのエネルギー市民の行動を鼓舞する内容になっています。エネルギーにあまり興味のない市民や、子供たちでも飽きさせないような構成・演出になっています。日本でも近い将来に公開されることを期待しています!


“ Der Bauch von Tokyo

「東京の胃袋」、ドイツ語・一部日本語、ラインヒルト・デットマー‐フィンケ監督

TVバージョンの無料公開リンク(2014):https://www.youtube.com/watch?v=kXmfhO0m4Ew

先日、ドイツのシンゲン市で行われたフクシマ5周年イベントで、映画「東京の胃袋」が放映され、エネルギッシュな女性監督のデットマー‐フィンケさんと知り合いました。東京に在住されていたフィンケさんは、大都市東京の食料供給をテーマとした「東京の胃袋」という作品を作製していましたが、完成直前に3.11.が起こり、テーマを取り巻く事情が激変したため、作品が使い物にならなくなってしまったそうです。この逆境にめげずフィンケさんはもう一度取材先を訪れて、食料生産者たちのフクシマ前・後を比較した新しい作品をまとめました。食というテーマを介して、福島第一原発事故の影響を淡々と伝えるドキュメンタリーです。

  

● 最近の拙筆の記事や翻訳物(日本語)


★ 新エネルギー新聞

新エネルギー新聞(新農林社)に、再エネ関連のニュース記事を(ほぼ)毎月寄稿しています。編集部の許可を得て、バックナンバーの一部を、下記のブログに転載していますのでご覧ください。

バックナンバーリンク:http://blog.livedoor.jp/eunetwork/

 

★ ソーラーコンプレックス社のニュースレター日本語版

ミット・エナジー・ヴィジョンでは、ドイツの市民エネルギー企業であるソーラーコンプレックス社のニュースレターの日本語版の作製に協力しています。下記からニュースレターを読むことができます。同社のニュースレターの内容は、日本で地域エネルギーに取り組む地元密着の事業者の方に参考になる内容だと思っています。

リンク:http://48787.seu1.cleverreach.com/m/6509925/

 

★ 記事 „Fünf Jahre nach Fukushima: die andere Wahrheit“
フクシマから5年後:別の真実、ドイツ語

ワスマン‐滝川の共同編集、フリッツ・ワスマン執筆による記事が、ドイツのフランツ・アルト氏の運営するニュースサイトに掲載されました。下記から読むことができます。(ドイツ語)

リンク:http://www.sonnenseite.com/de/politik/fuenf-jahre-nach-fukushima-die-andere-wahrheit.html


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「都市エネルギー公社の新設と再公有化」レポートがダウンロードできるようになりました

2015-12-30 23:59:27 | お知らせ

●ドイツの都市公社レポートの日本語版ダウンロードリンク

スイスに来てから15年が経ちましたが、これほど温暖な12月は未だかつて体験したことがありません。気温はまるで関東の冬のように温暖で、標高840mの集落が霧の上ということもあり、毎日のように晴れた青空の日が続いています。実際に150年の観測史上、最も暖かい12月だったそうです。土も凍りませんから、造園業の現場のシーズンも長引き、12月中旬まで工事・植栽の現場が続く有様でした。

 

一年前に越してきた山の上の集落では、ようやく自家菜園のベリー類と観賞用ボーダーの植え付けが終わり、あとは無暖房の温室の建設を残すのみとなりました。標高が高くても、通年して葉物やハーブを収穫できるようにすることが狙いです。こうして12月に入っても視察に庭、締切に追われるという毎日の中、あっという間に大晦日になってしまいました・・。

 

前回のブログで予告しましたが、「都市エネルギー公社の新設と再公有化」レポートの日本語版が、下記のヴッパータール研究所のリンクから無料でダウンロードできるようになりました。

ダウンロードページ(右端のアイコン)

http://epub.wupperinst.org/frontdoor/index/index/docId/6075

電力・ガス市場の完全自由化を迎える日本で、自治体によるエネルギー公社の新設を考えている人びとに是非読んで頂きたい、ドイツの自治体の経験がまとめられた一冊です。翻訳は、ミット・エナジー・ヴィジョンのチームで行いました。

  

●スイスの総選挙結果:脱原発の終わりの始まり?

10月中旬にはスイスの議会の総選挙がありました。本来はテーマになるべきエネルギー大転換と脱原発ですが、残念ながら全く話題にならず、メディア全体が「難民の波」というテーマ一色で塗りつくされていました。こういったタイミングにより、下院では移民に厳しい(そして原発に優しい)スイス国民党が大勝する結果となりました。

 

下院の200議席中、スイス国民党が65議席を、さらに自由民主党が33議席を獲得。後者もエネルギー大転換に消極的な政党です。これにより下院では議席の半数近くを、素早い脱原発を望まない勢力が占めることになりました。原発の新設を目指す動きはありませんが、骨太のエネルギー戦略2050の実現や、スムーズな原発運転終了にとっては、ますます厳しい議会構成になりました。

 

11月末頃になると、毎週のようにターゲスアンツァイガー新聞の誌面に、「電力不足」や「ブラックアウト(大停電)の恐れ」という言葉を盛り込んだ記事が見られるようになりました。この言葉は昔(2011年に国が脱原発が決まる前)、原発の新設・建替えを求める原発推進勢力が良く使ってきたものです。ヨーロッパ電力市場で、安い電力が余りに余っているこの時代に、再登場してきたのでびっくりしました。

 

新聞記事の背景には、スイスの高齢原発であるベッツナウ原発1号機と2号機が止まっており(2号機は再稼働しましたが)、雨が少ない夏と秋のせいで電力供給の主体を担う水力の水量が今年は少ない上に、秋にヨーロッパの電力市場価格が上がった際にダム水力を多く輸出してしまったためダムの水位が例年よりも低いため、国内の従来電源の容量が一時的に減っているという事情があります。

 

新聞紙面では、高圧系統運営会社のスイスグリッドが、ヨーロッパから十分な電力を輸入することはできるが、輸入電力を国内向けの高圧系統に変圧する変電所のキャパシティがぎりぎりなので、気温が下がって電力需要が高まると電力不足になるかもしれない、と懸念を表明しています。

 

スイスグリッドは、系統運営者としての中立的な立場からの警告であるとしていますが、同社の株主は原発の運営会社の大手電力です。本音は、既存の古い原発を長く動かし続けるためのキャンペーンであってもおかしくありません。特に運転46年目を迎えるベッツナウ1号機は、圧力容器の壁に1000近くの穴が発見され、今年の春から来年の夏まで止まったままです。「電力不足」キャンペーンにより、この原発の存在意義を強調したいようです。

 

2016年には、緑の党の「脱原発イニシアティブ案」が国民投票に掛けられる予定です。運転40年を超える危険な高齢原発が3基もあるスイスで、原発の寿命を45年に制限する法律を求めるものです。上記の警告や報道は、この国民イニシアティブ案に反対する原発ロビーの戦いのはじまりのように思われます。

 

2015年は、スイスやドイツのエネルギー大転換においては、地域では着実に小さな進展が重ねられながらも、国のレベルでは発展の先行きが見えにくい1年でした。新年が、スイスや日本、世界のエネルギーヴェンデにとってより良い1年となることを願っています。また、来年も非常にマイペースな更新を続けて行きますので、時折このブログをご訪問下さい。

 

 

小特集:ヨーロッパソーラー大賞2015を受賞したスイスのプロジェクト

2015年11月23日に、プラハでヨーロッパソーラー大賞が授賞されました。EU各国から応募された52プロジェクトのうち、12プロジェクトが入賞。そのうち3つがスイスからのプロジェクトでした。今回は、この3つのプロジェクトを短く紹介します。

 

★ソーラー建築・都市開発部門:カヴィジェッリ・エンジニア社のプラスエネルギー社屋

グラウビュンデン州イランツ市にあるこの新築ビルは、238%のプラスエネルギー度を達成している。建物は3階建て、床面積は706㎡。ミネルギー基準の躯体と省エネ型設備により、24人の従業員が働く建物の総エネルギー消費量は、年12600kWh に抑えられている。対して、平屋根に乗せられた東西向きの太陽光発電が年3万kWhを発電。デザインが特徴的なカラマツの木のルーバーが、冬の日差しを室内に通し、夏の日差しを遮る。設備は地中熱ヒートポンプ、熱回収式の換気設備、A++家電、LED照明。建物デザインにおいても評価が高く、スイスでは今年度のノーマン・フォスター・ソーラーアワードを受賞した。



Bilder : Quelle :Schweizer Solarpreis 2015

 

★再エネ設備所有者部門:集合住宅ハルデッガー邸のプラスエネルギー改修

国会議員のトーマス・ハルデッガー氏は、チューリッヒ市近郊にある4世帯集合住宅をミネルギー・P・エコ基準に省エネ改修した。築60年の建物の改修前のエネルギー消費量は、年66800kWh。断熱強化により、外皮はU値を0.1以下、窓は0.6に下げた。改修後の消費量は-72%の18800kWh。南北向きの切妻屋根には、31.3kWの屋根材一体型の太陽光発電を設置し、年24500kWh を生産。131%のプラスエネルギー度を達成した。北向きの屋根にも太陽光発電を設置している所が興味深い。建材一体型設備の太陽光発電の美しい収まりは、村の旧市街の景観保全にも寄与している。

Bilder: Quelle:Schweizer Solarpreis 2015

 

★輸送システム部門:ソーラーシャベルカーSUNCAR

ルツェルン州アルトビューロン村に拠点を置く建設会社アッフェントランガー社は、ブクス国際技術専門大学や建設機材メーカと共に、電気駆動による16トン級のソーラーシャベルカーを開発した。ソーラーシャベルカーは、非常に静かで、有害排気もなく、75~167kWの出力を発揮する。一般のシャベルカーの出力(70kW)と比べても大きな出力だ。バッテリーのキャパシティは190kWhで、1日9時間運用することが可能だ。

ソーラーシャベルカーのエネルギー消費量は、ディーゼル駆動のシャベルカーの5分の1で、年3万kWh 。年40トンのCO2削減と21000スイスフランの燃料費削減に繋がっている。アッフェントランガー社では、社屋の屋根に設置した大きな太陽光発電からの電力で充電を行う。ソーラーシャベルカーの投資回収期間は8.5年であるという。

Bilder: Quelle:Schweizer Solarpreis 2015

参照:Erneuerbare Energien Nr.6, 2015、Schweizer Solarpreis 2015

 

 

ニュース

 

●スイス初のオフグリッドの集合住宅

スイスでは再エネのパイオニアと知られる企業家のヴァルター・シュミード氏。ゼネコンの社長でありながら、生ゴミからバイオガスを作るコンポガス技術を製品化し、近年ではチューリッヒ市近郊に環境技術の常設展示場である環境アリーナを環境建築により実現してきた(www.umweltarena.ch)。そのシュミード氏の新プロジェクトが、自治体ブリュッテンで建設が進むオフグリッドの集合住宅だ。設計デザインは息子で建築家のルネ・シュミード氏である。 

9世帯が入るこの集合住宅は、電力や熱の系統に接続していないため、建物の内部や表面で得られるエネルギーにより、電力と熱を自給自足しなければならない。アクティブなエネルギー源となるのは、外壁材と屋根材として使われている太陽光発電パネル。反射しない、マットな質感のこげ茶色のパネルを採用した。ミネルギーレベルのコンパクトな躯体と日射取得のための窓、省エネ家電と節水ノズル、シャワーからの排熱回収、省エネ制御型の機械換気設備等により、建物消費を最小限に抑えつつ、スマートな制御装置で電力需給を管理する。低温床暖房と給湯の熱源には、地中熱ヒートポンプと排熱を利用する。

 

Bild:www.umweltarena.ch

オフグリッドのための蓄電対策には、短期的なものと長期的なものがある。短期的な蓄電は約3日分の容量を持つバッテリーが担う。長期的な蓄電は水素と燃料電池の組み合わせで行う。水素は、余剰の太陽光を用いて電気分解装置で生産、地下タンクに貯蔵しておく。燃料電池により電熱併給を行うが、冬の熱需要には地中熱も併用する。夏には、余剰熱を用いて地中熱を回復させる。基本的に、建物が1日に必要とするエネルギー量は、1時間日射が照れば得られるという。
 

この集合住宅は賃貸住宅であり、多様な人が暮らすことになる。高度な省エネ建築でも、住み手の生活スタイルによって消費量は大きく異なってくる。そのため、この集合住宅ではエネルギー消費の見える化を行い、また各世帯に「エネルギー予算」を割り当てるという。家賃はエネルギー代込みであるが、「予算」に対して消費量の多い世帯に対してマルス(罰則金)を、少ない家庭に対してボーナスを課す仕組みが考えられているという。

参照:Umweltarenaプレスリリース

 

 

●スイスの建物省エネ規制、新築は二アリーパッシブが義務に

2015年の頭に、建物省エネ規制雛形法の改訂版が決定した。現行の新築建築の、熱需要(暖房・換気・給湯・空調)に関する規制値は48kWh/m2年であるが、改訂法規ではこれが35kWh/m2年になる。暖房熱需要だけを取り出すと、住宅建築では16kWh/m2年とパッシブハウス基準やミネルギー・P基準に近い性能が義務基準になる。法律を満たし、建設許可を得るためには、個別計算を提出する方法と、簡易計算の方法がある。後者では、熱橋計算証明付の場合には、U値について壁は0.17、窓1.0、ドア1.2以下が求められる。暖房・給湯については、ほぼすべて再エネで供給することが求められ、二アリーゼロエナジーとなる。電力についても太陽光発電の設置が義務付けられた。

これとは別に、既存の生電気による暖房・給湯器に対しては、15年以内に交換しなければならないことも義務化された。同法は、今後2017年~2020年までに各州で施行されていく。同時に、今回の改訂で義務基準がミネルギー基準を追い抜いたため、2017年からは改訂版のミネルギー、ミネルギー・P、ミネルギー・A基準が施行される。

参照:ENDK州エネルギー大臣会議

 

 

●CO2課徴金が2016年から40%の引き上げ

スイスは、2020年までに1990年比でCO2排出量を国内で20%減らすことを、政策目標に掲げている。これまでの削減量ではこの目標を達成できないため、暖房用オイルとガスへのCO2課徴金が2016年1月より再度値上げされる。CO2・1トンあたりの課徴金は、60から84スイスフランに40%引き上げられる。具体的には、暖房用オイル1リットルあたり22ラッペン(約25円)、ガス1立方メートルあたり17ラッペン(約20円)が課せられる。国はCO2課徴金からの収入を、国民保険経由経由で全住民に、養老遺族保険経由ですべての企業に還付している。また収入の3分1は、建物の省エネ改修の助成資金として用いている。

参照:Holzenergie Schweiz Bulletin59, Pusch Gemeinde-News

 

 

●省エネ改修プログラム、2014年は2億3900万フランを助成

スイスでは、上記のCO2課徴金からの収入の3分1を用いて建物の省エネ改修への助成が行われている。助成金は、躯体の断熱改修と熱源改修の2つの分野で出されている。国と州が共同で運用している国家的省エネ改修プログラムの統計によると、2014年には合計2億3900万フラン(約300億円)の助成金が省エネ改修の分野で支払われた。これらの対策により、実現された省エネ対策により400万トンのCO2を削減することに繋がった。これは、同プログラムの中でこれまでに達成された最も大きな記録になっている。また、今後CO2課徴金の引き上げに伴い、こういった効果はより大きくなっていくものと考えられる。

参照:www.dasgebäudeprogramm.ch

 

 

●チューリッヒ市:2000W社会へ目標路線

チューリッヒ市では、2008年に住民投票により2000W社会を目指すことが決められた。以来、横断的な政策の大目標として2000W社会が掲げられている。チューリッヒ市では、この実践状況を定期的なモニタリングによりチェックしている。 

チューリッヒ市の環境保健局のエネルギー統計によると、2020年までの中間目標である4000W社会の達成にかなり近づいている。過去5年の平均で、チューリッヒ市の住民の1次エネルギー消費は1人当たり4200Wとなっている。これは1990年比で、一人当たり1000W少ない。総一次エネルギー消費に占める再エネの割合は11%から19%に増えた。対して2020年までの温暖化ガス排出量の削減目標に関しては、より努力が必要である。目標が1人あたり1年4トンであるのに対して、実際は4.7トンになっている。しかし、25年前と比べると1.5トンの削減が達成されている。 

チューリッヒ市では、2000W社会の目標を達成するために、市の所有する建物の省エネ化に熱心に取り組んでいる。省エネ型のトリエムリ病院の病棟の新築や、緑化部の温室の省エネ対策、ヴィティコンの高齢者介護施設の省エネ改修などの例がある。

参照:チューリッヒ市プレスリリース

 

 

●職業教育でソーラーと風力の勉強が義務に

スイス電気施工企業連合VSEIは、職業学校の電気施工職人国家資格のカリキュラムにおいて、2017/2018年から風力と太陽光発電を3・4年生の必須テーマに取り入れた。建設設備施工者連盟Suisstecでも、同分野の手工業(暖房、水回り、板金職人)の国家資格を改訂中である。そこでは太陽熱温水器の基礎知識が2018年から大幅に強化される予定だ。これにより職人見習い生に対して、ソーラーエネルギーのセオリーと実践的な知識が教育されるようになる。

出典:Swissolarニュースレター

 

 

●スイス各地で生まれる2000W社会対応型の新開発地区

現在、スイス各地の都市で、2000W社会対応型の新開発や再開発地区が進行中だ。建物単体の省エネやエコロジー性能だけでなく、地区全体として2000W社会に対応した性能を満たすような地区開発のことだ。例えば、チューリッヒ市近郊に昨年竣工したジールボーゲン地区。建設協働組合ツアリンデンが開発した同地区は、今年、「2000W社会地区」の認証を受けた。認証はエネルギー都市連盟が行っている。 

ジールボーゲン地区は、3棟の建物から成り、220世帯分の住宅と商業施設、高齢者介護施設、オフィスなどが入った複合建築になっている。コンパクトな躯体デザイン、建物の建設や運営にかかるエネルギーや資源消費、温暖化ガス排出量の少なさ、公共交通の利用コンセプトなどが高く評価された。3棟のうちの2棟は、新手法による木造7階建ての大型集合住宅になっている(写真参照)。エネルギー源には、ペレットボイラーとヒートポンプ、太陽光発電、排熱、バイオガス等が利用されている。 

ジールボーゲン住宅地の目の前に近郊線鉄道の駅があり、公共交通の接続は大変良好だ。木造住宅棟についてはカーフリーとなっており、車を持たない世帯には建設協働組合より公共交通の定期券が配布される。また敷地にはカーシェアリングも設置されている。余暇の場所と生活の場所、仕事の場所が近いのも特徴だ。建物の立地やデザインによる交通エネルギーの削減は、2000W社会型の地区では重視されている点である。

現在、スイスの8カ所で、類似の2000W地区の開発が進行している。

(写真はこちらのリンクから見られます)

https://www.google.ch/search?q=Bilder+Sihlbogen&biw=1366&bih=599&tbm=isch&tbo=u&source=univ&sa=X&ved=0ahUKEwjs8KG6poTKAhVHPhQKHRrwDk4QsAQIGw#imgrc=7klf2DAUu787OM%3A

参照:建設協働組合ツアリンデン プレスリリース

 

 

●レマン湖の湖水で地域暖房

フライブルク州の地域電力会社であるGroupe Eでは、レマン湖の湖水熱を利用した新しい地域暖房網の運転を開始した。設備が実現されたのはレマン湖の東北岸の自治体La Tour-de-Peilz。CAD La Tour-de-Peilzと名付けられたこの地域暖房網は、長期的には3000世帯分の暖房・給湯熱を供給していく予定である。設備は湖水のポンプステーション、低温水の地域暖房網、そして建物ごとに設置されたヒートポンプから成る。

特徴は、低温水の地域暖房であるという点だ。第一工期では、高等学校や2つの新興地区、そして住宅建築に熱供給を行っている。熱利用している湖水は、湖岸から500m離れた場所で水深70mの場所から汲み上げている。年末までに15棟の建物の熱供給を開始するが、徐々に拡張し、最終的には300棟(3000世帯相当)の建物に熱を供給する予定である。湖水熱を利用した地域暖房は、チューリヒ市やローザンヌ市、サンモリッツ市でも行われている。

出典:Groupe E AGプレスリリース

 

 

●オーストリア:ニーダーエスターライヒ州100%再エネ電力に

オーストリア北東部のニーダーエスターライヒ州では、州内で消費するのと同じ電力量を再エネで生産するようになった。その26%は風力である。ニーダーエスターライヒ州は、2011年に決議されたエネルギー運行計画2030の中で、2015年までに「電力を100%再エネで生産すること」を中間目標として掲げていた。 

同州で初めて風車が送電を開始したのは21年前のこと。現在は610基、1262MWの風車が立っている。
「ニーダーエスターライヒはもちろん風況も非常に良好です。ただそれだけでなく、エネルギーヴェンデには政治的な意思が必要です。そして、そこから導き出された目標と適した枠組み条件の中での実践が欠かせません。」と、オーストリアの風力振興協会代表のシュテファン・モイドル氏は語る。 

ニーダーエスターライヒ州では、風車の運営会社の4分3が州内の会社である。中でも最も大きな風力の運転会社は州営エネルギー会社EVNになっている。これにより風力から得られる経済的なメリットが地域に還元される。こうして風力業界だけでも、同州では過去5年間だけでも4800人の雇用が創出され、700MW以上の風車の建設により12億ユーロが投資された。 

オーストリアでは同州の他にも、ブルゲンラント州が100%再エネ電力への転換を、風力を中心としながら10年あまりで達成している。

出典:IG Windkraft Österreich


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