滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

年利回り5%で大人気、市民出資の太陽光発電設備

2011-04-25 15:16:56 | お知らせ

 ● 屋根がなくても所有できる太陽光発電設備
先週、南ドイツで活動する市民株式のエネルギー会社「ソーラーコンプレックス社」について執筆する機会がありました。この会社は、地域の住民や中小企業を株主として、ボーデン湖地域の再生可能エネルギー事業(熱・電力)を計画、実現、運営する会社です。原稿では字数の制限上紹介できなかったのですが、同社では投資商品として6kWの太陽光発電設備を販売・運営し、大成功しています。その事業について、今日は少し紹介します。

ソーラーコンプレックス社の「6kW太陽光発電」プロジェクトは、屋根を持たない人でも太陽光発電設備を所有し、そこから収益を得ることができる仕組みです。同社では、地域の大きな屋根の所有者から屋根を賃貸します。対象となるのは、25年間使えるような状態の良い、日陰のない大屋根。賃料は一年一㎡あたり2ユーロです。大きな屋根を持つ企業や公共建築、あるいは農家にとっては興味深い収入源です。

●6kWメンテ込みのパッケージ、年利回り5%
太陽光発電設備を所有したい、あるいは投資したい住民に対して、ソーラーコンプレックス社では、6kWを一単位とした設備を画一価格で販売します。価格には設備費、屋根代、設計、設置費が含まれます。出資者が銀行から低利子の融資を受けたり、あるいは自己資金で代金を支払うと、先の大屋根に独立した6kW設備が設置されます。その設備からの売電収入は、電力会社から出資者に直接支払われます。

その後出資者(所有者)は毎年、ソーラーコンプレックス社に定額のメンテ費用を払うだけ。その費用には、遠隔監視、メンテナンス、修繕、保険代が含まれています。出資者にとっては、業者や保険会社と交渉する必要がないのでらくちんです。それでいて投資額に対する年利回りは約5%ですから、お金を銀行に預けるよりも魅力的なのです。

●ドイツの固定価格買取制度のおかげ
この
事業が機能するのは、ドイツの固定価格買取制度のおかげです。買取期間は20年間ですが、ソーラーコンプレックス社の計算によると、売電収入により9年間で銀行にお金と利子を返済でき、10年目から20年目までは収益が出ます。

ちなみにソーラーコンプレックス社の6kW設備の価格は、2011年度が16880ユーロとなっています。固定価格買取制度による太陽光発電(30kW以下)の買取価格はkWhあたり28.74セントです。この他に利子、屋根賃貸料、メンテセット料、メータ使用量などが加算されます。

●住民資金で9MWを設置、地域産業を活性化
この6kW事業は大好評を博しており、これまでに1000基以上、出力では9MWの太陽光発電設備が実現されています。発電量は3000世帯、9000人分に相当します。6kWプロジェクトにより地元産業に誘発された投資額は3500万ユーロに上り、住民投資により地域経済が活性化されています。

住民にとっては、目に見える形で地元にお金が循環し、再生可能エネルギーも増産できる上、美味しい利子もつくのです。今は、投資希望者があまりにも多いので、屋根の数が間に合わなくなっている状況です。市民にとってメリットのある固定価格の買取制度を提示できれば、地域レベルでのダイナミックな再生可能エネルギー増産が可能であることを示す良い事例です。


今週のFukushima効果

●スイスの経済大臣の脱原発への転向
4月24日、耳を疑うようなニュースを聞きました。スイスの経済大臣ヨハン・シュナイダー・アマンが、脱原発派に転向したというのです。つい2ヶ月前までは原発の更新(新設)は不可欠だと主張していた人で、彼の所属する自由民主党(FDP)やスイスの経団連エコノミースイスは、未だに原発更新路線にしがみついているのですが。

アマン大臣は、新聞ソンターグツァイトゥング誌に対して、原子力エネルギーからの脱却は必要であり、それは「経済的に可能」であると発言しています。「新しい原発の新設はもう不可能である。私も中期的な原子力を離れて再生可能エネルギーに向かう新しい方向転換が必要だと確信している。」(ソンターグツァイトゥング誌)そして、この転換には30年(も!)が必要であるが、再生可能エネルギーへの転換は経済にとってチャンスであると述べています。

アマン氏の転向により、スイスの内閣7人のうち4人、過半数が脱原発派となりました。スイスの内閣は、5つの主要政党からの7人の大臣が共同で政治を行なう合議制をとるため、これは非常に重要な変化です。エネルギー庁では、6月末までに3つの電力供給シナリオとそのための具体策を内閣に提示する予定です。1つはこれまで通りの電力供給を継続する原発更新(3基分)、2つ目は既存原発のフェードアウトによる中期的な脱原発、3つ目は早期の脱原発となっています。

●「エネルギー転換基金」案
対して議会では、自由民主党(FDP)の議員で党間のまとめが上手いオット・イナイヒェンが、「脱原発のためのアライアンス」を結成。右から左までの党が妥協できる脱原発案を6月の国会までにまとめあげる、とやはりソンターグツァイトゥング誌で発表しています。

その中心は10億フラン(約900億円)の「エネルギー転換基金」で、国と電力会社が半分ずつ出資するという構想。基金は、省エネルギー対策と再生可能エネルギー電力の推進に用います。ロードマップには、緑の税制改革や節電税も含まれています。脱原発時期としては2050年を提案しています。

しかし、右から左までを妥協させるためとはいえ、2050年というのはあまりにも遅すぎるでしょう。今スイスにある一番若いライプシュタット原発ですら27歳なのですから。 このようなスイスの政治家達の脱原発のためのコンセンサス作りを見ていると、スイスの場合、社会民主党や緑の党が望む2025年までの早期脱原発ではコンセンサスが得られず、結局はフェードアウトによる中期の脱原発という方向に収まるような予感がします。

●家電セット寄贈よりもコミュニティガーデンを
先日、日本赤十字社が仮設住宅入居者に家電6点セットを寄贈するというニュースを知りました。寄贈対象は合計7万世帯で、資金には海外の赤十字社に集まった海外救援金が利用されるといいます。6セットとは、洗濯機、電子レンジ、給湯ポット、テレビ、炊飯器、冷蔵庫。正直言って赤十字に募金したスイスの方々がこれを聞いたら、とてもがっかりすると思います。

もちろんこれらの家電の中には生活必需品もあるでしょう。ただ、必要性が問われるものや、各世帯で所有しなくても豊かな生活が送れるものもあります。例えば、スイスの集合住宅では、洗濯機や乾燥室を共有するのが普通です。意識的にテレビのない生活をする家庭は多いですし、電子レンジのある家庭は稀ですし、電気でお湯を保温しておく給湯ポットもありません(お湯が必用な時に少量を沸かす電気湯沸し器はあります)。

確かに、冷蔵庫や炊飯器、テレビは各家庭にあった方が便利かもしれません。しかし、スイス居住者の目には、この6点セット寄贈対策は、日本の大手家電メーカの販促対策のように見えてしまいます。

既に十分に議論されているのかもしれませんが、仮設住宅により生じる生活面・社会面での困難を和らげるには、各家庭生活のプライバシーを確保する傍らで、共有の設備や空間を充実させ、コミュニティの交流を促すような対策が大切なのではないかと思います。

例えば、コミュニティガーデン(市民菜園)は、癒しと交流、健康管理に大きな効果があることが、ヨーロッパでも実証されています。住民が共同で利用・運営する菜園のことです。仮設住宅の住民だけでなく、地域住民と一緒に運営することも考えられます。お年寄りや農家だった人たち、家族連れにはとても喜ばれるでしょう。 コミュニティガーデンは、駐車場のような土のない場所でも、木枠で作るレイズドベッドという高花壇方式なら広いベッドを作ることができます。農作業道具一式、土や苗、種が寄贈されれば、明日からでもはじめられることです。
 →BioCity誌47号では、ロンドン・ベルリンのコミュニティガーデン事情が紹介されています。 http://www.biocity.co.jp/

コミュニティ食堂、共有の快適な居間空間や客間、洗濯・乾燥・アイロン室、インターネットコーナーなども、仮設住宅での生活を耐えやすくし、交流を促し、まだ仮設住宅街の中で住人が働ける場も生まれると思います。あるいはパッシブハウス・ジャパンという組織が提案しているような国産木材を用いた仮設住宅にかかる追加コストや、再生可能エネルギー源による給湯や、冬に備えた断熱対策など。本当にお金をかけるべき部分は、家電セット以外にもあると思います



ニュース

● ドイツ、グリーンピースエナジー社の調査「風力と水力は石炭と原子力よりも既に安い」
「ドイツでは水力と風力からの電力は、全コストを入れると今日既に、石炭や原子力の電力よりも大幅に安い。特に原子力電力は、水力の2倍、風力の1.7倍の高さだ。」

再生可能電力を供給するエネルギー会社GreenpeaceEnergyが発表した調査報告書「電力は本当はいくらなのか―原子力、石炭、再生可能エネルギーに関する国の助成金と社会コストの比較」では、上記の結論が示されている。報告書を作成したのはベルリンに拠点を置く研究機関であるFÖS(フォーラムエコロジカルソーシャル市場経済)。

調査では、全ての電気代、国の補助金、環境被害などによる外部コストを積算し、それぞれのエネルギー源ごとの本当の発電コストを割り出した。この計算によると2010年度の風力はkWhあたり7.6セント、水力は6.5セント。石炭と褐炭発電のコストは12.1セント、原子力は12.8セントとなる(通貨はユーロ)。

調査にあたりFÖSでは、今日までに各エネルギー源に支払われた国の助成金を全て洗い出した。それにより、消費者には見えない、従来エネルギーの隠れたコストが明確になった。ドイツでは1970年から2010年の間に、原子力による電力生産は国から1860億ユーロの助成金を得ている。石炭発電は1650億ユーロ、褐炭は570億ユーロの助成を受けた。対して同期間に再生可能エネルギー源が受けた助成額は、固定価格買取制度の追加コストも含めても280億ユーロである。

その他、この報告書では、各エネルギー源ごとの温暖化や環境被害等の外部コストも計算に入れている。ただし、ドイツの原子力発電所で想定外事故が起こった場合のコスト全額は入れられていない。というのもその被害は計算できないものであり、またそのリスクを担保する保険会社もないためだ。そのため原子力発電の外部コストは、環境省の外部コスト計算方法に従った。

この計算方法においても、太陽光発電は従来電力と比べるとまだ高価である。2010年度のkWhあたりのコストは46.5セントであった。ただし著者の1人であるスワンツィエ・キュヒラー氏によると、太陽光発電の買取レベルは一技術の市場導入費用としては普通のレベルのものであるという。

70年代頭には原子力電力はkWhあたり60セント以上で買い取られていた。
「過去の高額な助成が現在の原子力の市場ポジションをそもそも可能にしたのです」とキュヒラー氏。このコスト以外に、石炭や原子力発電には廃炉後にも温暖化や廃棄物管理において、永代に渡り甚大なコストを残す。

出典:プレスリリースGreenpeace Energy
報告書:http://www.greenpeace-energy.de/uploads/media/Studie_Was-Strom-wirklich-kostet.pdf



表:ドイツの助成金1970~2010年 
赤‐原子力、緑-再生可能、灰色-石炭、茶色-褐炭
©Greenpeace Energy



表:1970~2010年に支払われたドイツの助成金トータル
赤‐原子力、緑-再生可能、灰色-石炭、茶色-褐炭
©Greenpeace Energy



表:エネルギー源ごとの総社会コスト
赤‐原子力、灰色-石炭、茶色-褐炭、紫-風力、水色-水力、黄色-太陽光
©Greenpeace Energy


● アウブルッグ木質バイオ発電・熱供給設備、エネルギー効率90%を達成
チューリッヒ市近郊のアウブルッグに半年前、木質バイオ発電・熱供給設備がオープンした。同設備はチューリッヒ州電力と、チューリッヒのリサイクル・ゴミ処理会社、チューリッヒ木㈱の共同事業。出力は熱が28MWで、2万世帯分の熱に相当する104GWhを生産。発電の出力は11MWで、1万世帯分の電気に相当する38GWhを生産する。

設備は既存のゴミ焼却場の中に設置された。もともとゴミ焼却場では発電と地域暖房が行なわれており、その設備軍に木質バイオ発電・熱設備が加わえられた。木質バイオ設備では電力と熱の両方を利用し、熱はチューリッヒ北部とヴァリセレン市に熱供給する地域暖房網に使われる。

この設備では90%という非常に高いエネルギー利用効率を達成している。理由は、電気と熱の両方を利用しているため。(日本のように電気だけを利用していたら、木のエネルギーのほとんどを捨てていることになる。)そして、暖房負荷の大きな冬の間だけの運転となっており稼働率が高いため。(夏の間はゴミの熱だけで足りる)。

納入されるチップは、設備から50km圏内のチューリッヒ州の間伐材や、製材所や造園業の残材など。納入元はチューリッヒ木㈱で、公有林と私有林の所有者たちが集まって作った会社だ。暖房期には一日トラック20台のチップが納入される。 日本でも木質バイオマス発電は、熱利用と組み合わせることにより高いエネルギー利用効率を目指すべきである。
参照:http://hhkw-aubrugg.ch


● パッシブハウス・ジャパン:国産材の仮設住宅プロジェクト
日本の気候に合った最先端の省エネ・エコ建築を普及促進するパッシブハウス・ジャパン。この組織では東日本大震災の被災地で、宮崎産の杉集成材(間伐材利用)を用いて、誰でも簡単に組み立てられる仮設住宅や間仕切りを企画・開発した。木の暖かさの感じられる、人間らしい空間だ。屋内用と屋外用の二種類があり、ダンボールを活用した断熱材も施されている。利用が終わっても、粗大ゴミにならないコンセプトだ。パッシブハウス・ジャパンではこれらの仮設住宅を建設するために義援金や注文を募っている。
Link: http://passivehouse-japan.jimdo.com/


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CO2排出量を93%減らしたファイザー社のフライブルグ工場・オフィス

2011-04-17 22:39:17 | お知らせ

● シンポジウム「エネルギー自立する自治体」
10日も前のことで恐縮ですが、ドイツのフライブルグで「第一回・エネルギー自立する自治体」会議が開催されたので、行ってきました。自治体や地域における熱供給や電気生産を、100%再生可能エネルギーによる供給に切り替えていく、というテーマです。

当日は、自治体関係者やエネルギー業界の人たち、市民など、約300人の参加者が集まりました。講演の内容は、非常に実用的なものでした。市営エネルギー会社や大手エネルギー会社、自治体、政治家、コンサルタント会社、再生可能エネルギー事業会社や銀行などが、それぞれの立場から、自治体がエネルギー自立する際の様々な手法や難点、そして経験を発表。参加者も、日常でそのような課題に取り組んでいる人が多いらしく、熱心な質疑応答が交わされていました。

興味深かったのは、ドイツの自治体が再び自前のエネルギー供給会社を持ち、配電網を買い戻すことが一種のブームになっているということ。スイスにも市営エネルギー会社は多いですが、確かに自治体が政策的にエネルギー自立すると決めたなら、それを実施できる地域密着型の公共性の強いエネルギー会社の存在は重要です。

また、ドイツでも(スイスと同様に)風力・水力・バイオマスのプロジェクトの多くが、住民の反対により実現が阻止されているという話も度々聞いて、驚きました。再生可能エネルギーは歓迎だが「我が家の裏庭ではやめてくれ」という傾向です。これに関しては、プロジェクトにおける住民啓蒙・住民参加の重要性を改めて感じました。もちろん、生態系・景観・発電量の面で、オフィシャルな適正地を定義することも重要だと思います。

会議の様子は村上敦さんがツイートしています(4月7日) http://twitter.com/murakamiatsushi

●CO2排出量を93%減らすファイザー社フライブルグ工場
この会議のプログラムの一貫で、フライブルグ市の工場地帯にある製薬会社ファイザー社のオフィス・工場を見学に行きました。1000人の働くこの施設は、CO2排出量を93%減らすと同時に、エネルギーコストを30%減らすことにより、世界のファイザー工場の模範になっているそうです。熱には95%、電気には100%再生可能エネルギーが使われています。
数多くの省エネ・省資源対策が実施されていますが、ここでは主なものを手短に紹介します:

・ 地熱冷暖房のオフィス: オフィス棟のファザードを160mmの断熱強化。暖房設備をラジエータから天井パネルに交換し、より輻射面積の大きな冷暖房設備にした。このパネルに夏は18度の冷水、冬は25度の温水を通して、22000㎡のオフィスを冷暖房。熱源には地熱ヒートポンプを利用。地熱杭は深さ130mのものが19本。地熱ヒートポンプの出力は130kW。冷房期の大半が、フリークーリングを行なう。これは地下を通した水の熱を、ヒートポンプを介さずにそのまま利用するもの。

・ ペレットボイラーで工場空調: エネルギー消費量の大きな工場棟では、3.8MWという、ドイツでも最大級のペレットボイラーを利用して蒸気を作り、冬季の暖房・加湿を行なってきた。今年より夏の間は、蒸気からリチウムブロミッドという冷媒を用いた吸収式冷却機を用いて冷水を作り、ラボと工場の冷房・除湿に使う。これにより冷却用電力の消費量を10分の1に減らせる。ペレットには、地元のメーカからの森林ペレットを購入。2009年以来、全自動運転で機能している。ピークカットには既存のガスボイラーを利用しているが、実際には熱の95%をペレットで供給。

・ 太陽熱温水器による除湿: 大学や研究所との共同プロジェクトとして、真空管式の太陽熱温水器を用いた除湿設備の試験装置を3月末に運転開始。薬品の製造に使われる空気をシリカゲルで乾燥。そのシリカゲルを、太陽熱温水器で作った高温水を用いて乾燥させるシステム。試験装置で良い結果が得られれば、フライブルグの工場全体にこの除湿システムを採用する予定。

・ 水力電力の購入: 屋上には太陽光発電を28.4kW設置している。その他の電力は、電力会社から水力電気(グリーン電力証書)を購入。今後、バイオガスのコージェネも検討しており、そうなれば自前の発電量が増える。

もちろん製品そのものについても、製造工程や素材を徹底的に検証して、省エネルギー化、省資源化しているそうです。省エネは社員が全員参加で行い、管理職は省エネ成果が給与額に反映されるという話も聞きました。

薬の生産には、厳密な湿度・温度管理が求められるため、空調のエネルギー消費量がとても大きく、同工場ではエネルギー費用が4番目に大きなコスト要因だといいます。省エネ対策によるコスト低減や、石油価格に左右されない生産体制は、フライブルグという生産拠点の世界的な競争力を高めているのだ、という同社の技術担当者の話が印象深かったです。

 
Fukushima関連情報

● Arevaの社内報告書「Fukushimaは露天で炉心溶融」?
2ヶ月ほど前にブログで紹介した科学画家で、原発問題に詳しいコルネリア・ヘッセさんから先日、Fukushima関連情報として、ドイツのテレビ番組のリンクが送られてきました。4月7日に放映されたドイツのテレビ局WDRのMonitorという番組で、「Fukushima:露天で炉心溶融」というタイトルです。番組の要約をすると下記の通り。

番組では、東京電力とも関係の深いフランスの原子力コンツェルンのArevaがまとめた、福島第一原発の事故に関する内部報告書を取り上げています。報告書の著者は同社の原子力物理学者マティアス・ブラウン氏。Fukushimaの一番の問題は、四号機の使用済み核燃料プールであるということ。損傷がひどく、水がない状態が写真により確認されており、何も遮るもののない「露天下」で、一千本以上の使用済み燃料棒の溶融が進み、放射能が大気に「大量に放出」されている恐れがある、といいます。

番組では、著名な原子力専門家マイケル・シュナイダー氏にコメントを求めています。シュナイダー氏曰く、四号機の状態は「2つの原子炉がまるまる冷却されずに露天に晒されているのと同じ」。使用済み燃料棒は高放射性のセシウムとプルトニウムの含有量が高く危険であり、何時でも燃えたり爆発したりする恐れがある、そうなればこれらの放射性物質が長距離に拡散する恐れがある、といいます。

シュナイダー氏は四号機の問題の背景にある、使用済み核燃料プールの乱用問題を指摘します。このプールは使用済み燃料棒を、乾式の中間保存所に移せるようになるまでの間、冷やしておくためのものです。シュナイダー氏は、日本では放射性廃棄物の処理場の問題が解決しておらず、そのため貯蔵プールが中間保存所の安価な代理として使われてきた、と非難します。この状況はドイツでも状況は変わりません。

シュナイダー氏はこう続けます:貯蔵プールの中には、既に特殊容器に移して乾式の中間保存庫に移せる状態の燃料棒が沢山ある。しかし乾式の中間保存は高額であるため、多くの原発運営者はコスト節約のために、使用済み燃料をプールに入れたままにしている。それらは原発事故時の被害リスクをさらに大きくしている。Fukushimaから学べることは、明日からでも貯蔵プールの中にある使用済み燃料棒を乾式の中間保存庫に移すことだ、というシュナイダー氏の言葉で番組は終わります。

未解決の核のゴミの問題と東京電力のコスト節約が、今回の原発震災による被害を大きくしている、という報道でした。この番組は下記のリンクから見られます。
WDRテレビ、番組Monitor「Fukushima:露天下で炉心溶融」 http://www.wdr.de/tv/monitor//sendungen/2011/0407/fukushima.php5
WDRテレビ、マイケル・シュナイダー氏のインタビュー http://www.wdr.de/tv/monitor/extra/interviews/schneider_mycle_100407.php5


●「長期的な健康被害はチェルノブイリよりも深刻」になる可能性
4月12日にはスイスでも、福島第一原発の事故がレベル7であると日本政府が(ようやく)発表した、と報道されました。国営ラジオの夜のニュースでは、ドイツの放射線防護協会の理事長で物理学者のセバスチャン・プルーグバイル博士がインタビューに応じていました。この方は、今回の原発震災の発生後すぐに、周辺の放射能汚染量から判断して、事故がチェルノブイリ級のものである、と予測してきた人です。

プルーグバイル氏は、最悪の被害を避けるためにはより広範囲な避難計画が必要だが、それにより数100万人が対象となってくるので、非常に難しいだろうとコメント。事故を起こした原子炉の数が4つあることからも「放射線汚染のポテンシャルはチェルノブイリよりもずっと大きい」、「次の数ヶ月の間にかなり高い可能性で、原子炉内の放射性物質が徐々に放出され、それを外から食い止めることはできないだろう」と予測します。

また放射能汚染は、Fukushimaでは数100km以内に集中するため、長期的な現地の健康被害はチェルノブイリよりもひどくなる恐れがある、と同氏は言います。そして、菅総理大臣の「状況は安定しつつある」という言葉を、プルーグバイル氏は「無意味な言葉」と切り捨てていました・・。

DRSのニュース
http://www.drs.ch/www/de/drs/sendungen/echo-der-zeit/2646.bt10175512.html
ニュース

● ダンロップ社倉庫にドイツ最大の太陽光発電設備、1800世帯分の電気
Goodyear‐Dunlopグループのヨーロッパ配送センターは、ヨーロッパ最大のタイヤの倉庫。その屋上に2010年末に、出力7.4MWの太陽光発電パネルが設置された。ドイツでは最大、世界でも5本の指に入る設備の規模だ。この設備は年730万kWhの電力を生産する予定。これは約1800世帯分の電力消費に相当する。
大量にある工場や倉庫建築の屋根面は、太陽光発電への利用に巨大なポテンシャルを持つ。大きな屋根面を持つ企業は、自社で設置すれば魅力的な売電収入を得られるし、あるいは屋根面を太陽光発電設備を設置するエネルギー会社に賃貸して収入を得る方法もある。
ドイツの再生可能電力の固定価格買取制度では、太陽光発電の場合5~8%の利回りが現実的であり、投資対象として興味深い。
参照:Juwi Holding AGプレスリリース

●EU27、再生可能エネルギーの割合が10年間で倍増
EUの統計によると、EU27カ国では1999年から2009年の間に、エネルギー供給に占める再生可能エネルギーの割合がほぼ倍増した。1999年には総国内エネルギー消費量に占める割合が5%であったのが、2009年には9%へ。1999年から2009年の間、最も大きな増産が見られたのはデンマーク(8%→17%)、スウェーデン(27%→19%)、ドイツ(2%→8%)、ポルトガル(13%→19%)。
出典:Photon Newsletter

●スイス、2025年までにソーラー電力20%は可能
スイスのソーラーエネルギー業界連盟Swisssolarは、2025年までに太陽光発電により電力供給の20%を目指すことを発表した。同連盟の目標はFukushima前までは10%だった。
「10%目標は慎重かつ妥協的だった。我々の分析は20%目標が、かなり現実的であることを示している。というのも、我々は再生可能エネルギーへの転換において、間違った一時的解決策ではなく、直接正しい技術を選びたいからだ。」と、Swisssolar代表のデイビッド・シュティッケルベルガー氏はEE-Newsのインタビューに対して語る。
「間違った一時的解決策というのは、特に火力発電所のことで、これらはある程度は必要になるだろう。だがそれには大型設備ではなく、より小規模で、分散型のガス・コージェネ設備がずっと有意義。大型のガス発電については、我々は明確にCO2相殺を求める。」
電力の送電系統については次のようにコメントする。
「年平均で20%太陽光発電でまかなうということは、晴天の日には電力需要量の100%を太陽光発電でまかなえうるということだ。これに関しては、コンディショナーを用いたピーク時調整や蓄電といったキーワードがある。解決法はあるが、それを早期に実現していかねばならない。」
福島第一原発の事故後、Swisssolarへは一般住民や職人、メディアからの問合せが後を絶たないという。
「事実、ソーラーエネルギーほど素早く増築できる技術はない。風力や水力で見られるような実現段階での問題(註:住民の反対や建設許可の問題)は、ソーラーエネルギーでは全くないので。」と、シュティッケルベルガー氏は語る。
出典:EE-News, Anita Niederhäusern著、まとめ:滝川薫

 




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環境3党が提案する脱原発手法

2011-04-10 20:00:34 | お知らせ

●先週のFukushima効果
スイスのメディアでは、日に日に、日本の被災地やFukushima関連のニュースが、間引きをしたように減っています。ラジオや新聞だけでは、今、福島第一原発の各原子炉の状況はどうで、対策はどれほど進んでいるのか、ということがあまり伝わってこなくなりました。

とはいえ、国内の脱原発議論は先週も盛んに継続されています。例えば、スイスの日経新聞といえるNZZ新聞では、先週の別冊付録のテーマが「岐路に立つ原子力」。社会批判的な人気雑誌Beobachter(観察者)では、
「原発なしでは、こうすれば良い」という特集でした。

一週間前には、チューリッヒ州議会の選挙で、環境と経済成長の両方に優しい中道派の、緑リベラル党が大勝しました。2007年に設立されたばかりのこの党は、180議席中の議席数を10から19に伸ばしたのです。対して、同じく中道でも、原発推進派だったキリスト教民主党と自由民主党は、多くの議席を失いました。また、脱原発派でも、左よりの緑の党(19議席)と社会民主党(35議席)も議席数を保守。Fukushima効果と呼ばれました。

その他のFukushima効果としては、エネルギー庁が原発の安全性に関する許可基準を、新に作り直すのに3~5年かかると発表。万が一、電力会社が原発を新設しようとしても運転開始は2030年ごろ。スイスにある5基の原発のうち、3基の高齢原発は2020~2025年に廃炉になります。そのため、電力会社にとっては、いづれにしてもガスと再生可能エネルギー源設備への大幅な投資が不可欠な状況になりました。

首都ベルンでは、高齢のミューレベルグ原発の運転停止を求める市民が、運転会社であるベルン州電力の本社前の芝生広場にテントを張って、運転停止まで泊り込むという静かなデモを開始。現在、20のテントに交替制で市民が泊り込んでいます。これはベルン市からデモの許可を得ていない「違法」な行為ですが、市当局では会社や社会に害を与えるものではないとして、距離を置いて見守っています。

さらに、スイスと国境を接する隣国オーストリアのフォーアールベルグ州の知事が、スイスに脱原発を実施するよう、あらゆる法的、政治的手段を講じると発表。オーストリアは昔から脱原発している上に、フォーアールベルグ州は2050年までに100%再生可能エネルギー源でエネルギー供給を行うことを目標としています。原発事故の被害に国境はありませんので、フォーアールベルグ州民から見れば、スイスの高齢原発は迷惑な存在なのです。

また新聞DerBund(4月4日付)では、日本の原子力産業を取り巻く天下り構造を紹介。日本は再生可能エネルギーエネルギー源が豊かな国なのに、再生可能エネルギー産業が育たないような政策がなされてきた、と書かれています。同誌の記者は、日本には3000ものダムがあるが、それらは治水・飲料水目的であり、ごく一部しか水力生産に利用されていない、と続けます。中小規模の水力発電に活用できるのに、と。また、100以上の活火山と1万以上の温泉があるのに、現代的な地熱発電や熱利用がほとんど行なわれていない等、日本の「もったいない」事情が語られていました。

●社会民主党:脱原発ロードマップ
スイスでは、環境三党と言える社会民主党、緑の党、緑リベラル党が、それぞれに脱原発のための政策を発表しています。
まず社会民主党の脱原発ロードマップの特徴は下記の3点。計算の基盤は、2035年に30TWh分の新電源が必用になるという、スイスの電力会社連合による需要予測となっています。 ちなみに、原発は現在のスイスの電力生産の4割を担っています。

①脱原発法:2025年までに段階的に原子力発電を廃炉にし、原発の新設を禁止するという「脱原発法」を議会により決める。この法律では、各原発の寿命を40年に設定。そうすると、今スイスで運転されている原発のうち3基は2012~2015年の間に、2基は2020年と2025年に廃炉になる。

②再生可能エネルギー:2025年までに20TWhの再生可能電力を増産。うち8.9TWhを太陽光発電、3.0TWhを風力、2.0TWhをバイオマス、1.3TWhを水力で生産。不定期的な発電量のバランスをとり、ヨーロッパの蓄電池としても機能する揚水発電ダムを推進。
この目標を達成するために次の対策を実施:現在、再生可能電力の買取のために一般電力に上乗せできる額に上限が設けられているが、2012年までにこの上限を取り除く。電力会社には外国からの電力輸入契約を再生可能電源に変えさせる。内閣は高圧電線のマスタープランを作成し、実施する。

③省エネ:スイスの電力消費量の20%にあたる12TWhを省エネする。
その対策として、生電気による暖房・給湯設備(現在既に禁止されている)を、2025年までに全てソーラー温水器や高効率ヒートポンプに交換する。
電力会社は、一年の電力仕入れ費用の10%を省エネに投資する。これを達成できない電力会社は罰金を払い、これ以上を達成する会社にはボーナスが与えられる。
省エネを促進する資金として、原子力電気にkWhあたり1ラッペン(0.9円)の「原子力セント」という上乗せ料金を課し、それを「省エネフォンド」に入れることで捻出する。
また1MW以上の石油・ガス暖房には電熱両用化を義務付ける。
家庭での民意に頼った省エネではなく、産業、公共の照明の分野で節電する等。       
参照:SPホームページ

社会民主党は、このロードマップを議会と内閣の力により素早く実現することを目指しています。しかし、議会を通過するためには多少の妥協が必要となりますので、実施段階では社会民主党の案よりも弱まってくることが予想されます。

●緑の党:国民投票で、憲法による原発禁止を目指す
対して、緑の党では国民発議権を利用して、国民投票により憲法に原発を禁止する条項を入れて、2024年までに脱原発することを目指しています。国民発議権を用いれば、国民の意志が妥協なしで可決される可能性があります。

しかし欠点は、署名集めから国民投票までには数年の時間がかかること。さらに、投票前のキャンペーンでは、圧倒的な経済力を持つ原発ロビーが、脱原発派よりも有利、というのがこれまでの経験です。緑の党が進める脱原発政策の内容そのものは、社会民主党とほぼ同じと言えるでしょう。

●緑リベラル党:消費税の代わりに非再生可能エネルギー税を求める
緑リベラル党も、独自に、脱原発のための国民イニシアチブをスタートすると発表しています。その目玉は、エネルギー市場の条件を、再生可能エネルギーにとって有利にするような、緑の税制改革です。具体的には消費税(7.6%)を廃止して、その代わりに石炭・石油・ガス・ウランに非再生可能エネルギー税を導入する、という法案です。

国にとっての、最終的な税収額は変えないといいます。消費税が廃止され、エネルギー価格が今よりも大幅に上がることにより、省エネする世帯や中小企業が得をし、対してエネルギー多消費型のライフスタイルの人が損をします。セメント会社などエネルギーの大型消費企業には、特別措置を採るといいます。緑リベラル党では、この案を国民発議権を利用して国民投票にかける計画です。

実は、緑の税制改革については、2000年にも緑の党と社会民主党のイニシアチブにより、国民投票が行なわれています。その時は、非再生可能エネルギーにかけた税金で、再生可能エネルギーの促進と年金の負担を減らすという内容でした。しかし、この法案は、左よりの市民には好評でしたが、それ以外の市民からは否決されてしまいました。

今回の緑リベラル党のイニシアチブ案では、消費税の廃止と非再生可能エネルギー税導入という交換条件により、中道の市民層を動員し、過半数を得ることが狙いでしょう。

緑リベラル党の考える脱原発完了は、2040~45年頃で、3基の高齢原発は2020~2025年に廃炉、残りの2基はあと30年運転するという計画です。手法は社会民主党とほぼ同様ですが、35年あれば、余裕で再生可能エネルギー時代に移行できるとしています。

左派の2党が2025年に脱原発終了を目指すのに対して、中道の緑リベラル党はそれよりも15~20年遅い時期を提案しています。対策だけ見ていれば、もっと早く脱原発できそうなものですが、あえてそうは主張していません。これは秋に総選挙を控えるスイスで、緑リベラル党が、中道で産業よりの市民層からの得票を狙った、したたかな戦略のように思われます。


ニュース

● スイス初のソーラー土地台帳
ドイツではベルリンなど既に何十もの町や村で実施されている「ソーラー土地台帳」。自治体にある全ての屋根におけるソーラーエネルギー利用のポテンシャルを分析し、その情報を地図に落とし込んだデータだ。スイスでは初めてフランス語圏のワット州トレイレン村で導入され、2月から一部だけネット公開されている(下記リンク)。 http://www.treytorrens.ch/telechargements/cadastre_solaire_treytorrens_20110203.pdf
トレイレン村のソーラー土地台帳を実施したのはRenewables-Now㈱。同社のソーラー土地台帳では、自治体の民間建築や公共建築の屋根における、ソーラーエネルギー利用の技術的、経済的可能性が地図の上に表現されている。
建物にマウスを合わせてクリックするだけで、太陽光発電や太陽熱温水器に利用可能な屋根面積、収穫量予測、設備投資額、経済的・エコロジー的なメリットなどが示される。
トレイレン村のあるワット州では、州の憲法の56条に再生可能エネルギーを促進し、脱原発に努めることを記している。それを実施する対策のひとつがソーラーエネルギー土地台帳だ。これをもつことにより、建物の所有者は自らのソーラーエネルギー生産のポテンシャルを知ることが出来る。
トレイレン村ではソーラー土地台帳により、屋根面だけで、太陽光発電により、村の電力消費量の400%を自給できることが分かった。
参照:Renewables-Now AGプレスリリース

★ベルリンのソーラー土地台帳:
http://www.wirtschaftsatlas.berlin.de/mapguide/Apps/Solar/Public/index.jsp
★ウィーンのソーラー土地台帳:
http://www.wien.gv.at/umweltgut/public/


●ドイツ:送電網リニューアルを求める再生可能エネルギー機関
ドイツ再生可能エネルギー機関(AEE)は、報告書「送電網における再生可能エネルギー~供給インフラに必要な適応」の中で、ドイツの送電網のリニューアルを求める。電力供給が再生可能電力に移行するためには、再生可能電力の増産と同時に継続的な送電網の適応が必要となる。
しかしながら、長年に渡る送電インフラへの投資不足が、従来電力と再生可能電力の間にシステムの衝突を招いている。ドイツの電力網は従来型の発電所パークに合わせて改良されたものであり、その大部分が未だに発電所運営者の所有になっている。送電網に送り込まれる再生可能電力の量が計画通りに増えているのに対して、既存の大型発電所の電力生産量は同じ量だけ減らされていない。それにより送電網の容量がますます狭まっている。
送電インフラの構築は、政治的および社会的に望まれている再生可能エネルギーの増産と歩調を合わせてこなかった。1993年から2003年の長期に渡り、送電網への投資は減っていた。2005年からようやくゆっくりと新しい送電網プロジェクトへの投資が増えてきている。
今回発行されたドイツ再生可能エネルギー機関の報告書は、生産構造の変遷に合わせた送電網の適応は不可欠であることを示す。その上でどのように送電網を改善・強化し、分散型供給により既存送電網のキャパシティを高め、新設の需要を減らすことができるかを示す。
出典:ドイツ再生可能エネルギー機関
http://www.unendlich-viel-energie.de/uploads/media/50_Renews_Spezial_Erneuerbare_im_Netz_online.pdf


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再生可能エネルギーのおかげで安くなる、ドイツの電力仕入れ価格

2011-04-02 13:53:11 | お知らせ

昨日、携帯に電話会社のスイスコムからSMSが届きました。見ると、「連帯として、3月中の日本との電話代をお返しします」とあります。続いて携帯に150フラン(1.3万円)が返金されたというSMSが届きました。このサービスには少しぐっときました。そして返金された分は募金することにしました。スイスでも電話会社間の競争が激しいのですが、今回のこと、そしてスイスコムは電力に100%再生可能電力を利用していることなどを考えて、今後もスイスコムの客でいようと思わせる出来事でした。

●スイス、脱原発コストを計算
さて、Fukushimaの「余震」は、今週もスイスやベルン州のエネルギー政策を動かし続けています。スイスのエネルギー庁は、今後6週間程度でスイスにおける脱原発のコストを計算するそうです。つまり、そのような計算がスイスにはまだなかったということなのですが、脱原発を決めているドイツには存在します。

国営ラジオDRSのニュースによると、ドイツの場合、再生可能エネルギーによる電力を増産するために一般電力に上乗せされる価格は、2030年ごろにピークに達した後、その後下がっていくことが予想されているといいます。火力や原子力といった従来電源の発電価格が増す一方なのに対して、再生可能電力の発電価格は下がる一方だからです。

もちろん、ドイツとスイスの事情は異なりますが、DRSではチューリッヒ工科大学のエネルギー技術の教授コンスタンティノス・ブロホス氏が、国産の再生可能エネルギー利用のもつ、社会的、経済的効果も考慮に入れると、中期的には再生可能エネルギーの方が非再生電力よりも安くなる、とコメントしていました。

●ドイツ、再生可能エネルギーのおかげで安くなる電力仕入れ価格
ドイツでは、太陽光発電と風力の導入量が増えることにより、電力の仕入れ価格が安くなっているというニュースがこの1~3月にかけて、ドイツの再生可能エネルギー連盟や企業からのプレスリリース、テレビ番組などで、何度も報道されています。

例えばこちら、1月27日に放映された3SATのテレビ番組Nano「Mehr Cash von Strom」のヴィデオです。
http://www.youtube.com/watch?v=qSi67hXeMnk&feature=email

このような情報が流される背景には、ドイツの一般向け電力料金が継続的に高騰していること、そして価格高騰は再生可能エネルギー促進のせいであると電力会社が伝えてきたこと、があります。また、ドイツでは2011年度から再生可能電力の買取のために一般電力に上乗せされる額が1.5ユーロセント高くなり、計3.5ユーロセントとなったことにより、特に太陽光発電がバッシングされていました。これについては、現地在住のジャーナリスト村上敦さんが、下記のブログで詳しく説明されています。 http://blog.livedoor.jp/murakamiatsushi/archives/2011-02.html(村上敦さんのブログ)

●電気代高騰は再生可能エネルギーが主な原因ではない
そのような状況の中、上記の報道やプレスリリースでは、電気代の高騰は再生可能電力の買取りのためだけではない、むしろ電力会社が再生可能電力を口実として収益最大化をはかっていることが原因である、と批判します。この再生エネルギー業界側の弁明をまとめますと、下記のような内容になります。

- 3SATのテレビ番組は、ベルリンの電力消費者のkWhあたりの電気代が2000年から2010年の間にほぼ倍増していることを指摘。電力会社は太陽光発電の増加のせいだと説明するが、再生可能エネルギー買取費用の高騰分よりも、電気代の高騰率のほうが断然に高い。

- ドイツの再生可能エネルギー連盟によると、2000~2010年の間に再生可能電力を買取るための上乗せ料金は、一世帯一ヶ月あたり平均5ユーロ向上したが、電気代そのものは平均30ユーロ向上している。つまり再生可能電力が原因の値上げ率よりも、6倍もの額に値上げされている。

●太陽光発電でピーク時電力の仕入れ価格が下がっている
さらにドイツでは、太陽光発電と風力により、電力会社が電力市場から仕入れる電気の価格が下がっています。それにより、発電価格の高い発電所が市場から駆逐されつつあるといいます。3SATの番組の中では、

-  ドイツ自然保護連盟NABUのエネルギー専門家カールステン・ヴァッハホルツ氏はこう説明。「太陽光発電はコストだけでなく、メリットももたらしている。昼間の電気需要のピーク時に、太陽光発電の供給量も最大になる。そのためライプツィッヒ電力取引市場の電力卸売価格が下がる。この仕入れコスト低下効果は、電力販売料金に全く反映されていない」。

- ライプツィッヒ電力取引市場のトラフ・ミヒァエルセン氏も、大型発電所にとって太陽光発電が脅威のライバルになりつつあると話す。真冬の昼に太陽光発電が1時間で1600MWも売電している例を指し、「市場参加者としては大量の売電である。以前は、石炭や原発が、日中に高値で電力を売ることができたが、大量の太陽光発電により日中のピーク時電力が安くなっている。風力についても同様で、発電量の多い日は電気代が下がっている。過去3年間、電力会社にとって電気の仕入れコストは下がっている。」と語る。

●上乗せ料金の高騰分は電力会社が吸収すべきという主張
これらの報道によると、ドイツの3大電力会社の2009年度の収益増加率は20%以上であり、230億ユーロという歴史的収益を上げています。またどの報道でも、連邦送電網機関の代表者であるマティアス・クルツ氏の言葉を引用していました。同氏によると、(再生可能電力買取のための上乗せ価格が値上げされても)、電力会社には電気販売価格を下げる十分な余裕があるといいます。

しかもこれらの大手電力は、歴史的収益にも関わらず、送電網の強化・改修への投資を怠ってきたため、その費用も一般電力料金に上乗せされることになる。そのため、ドイツの電気代は高くなる一方だ、と3SATの番組は締めくくります。

再生可能電力によって電力仕入れ価格が下がった分、再生可能電力を買取るための上乗せ料金の値上げ額は、消費者に全額を負担させるのではなく、電力会社が吸収すべきである、というのがドイツの再生可能エネルギー業界の主張としてまとめられると思います。


参照:ドイツ再生可能エネルギー連盟BEEプレスリリース、3SAT、JUWI㈱プレスリリース 


ニュース

●ビオシティ2011年47号発売「実践・生物多様性そのデザイン・ビジネス」
フリッツ・ワスマン著、滝川薫訳「21世紀の大都市実用園~ロンドン、ベルリンの最新ムーブメント」(P.72 ~79)を寄稿しています。
その他、興味深い「生物多様性」に関する国内外の記事満載の号です。


 ●オルタナティブ・ノーベル賞の授賞者たち、世界の脱原発を求める
オルタナティブ・ノーベル賞としてヨーロッパでは有名な「ライト・ライブリフッドアワード」。日本では脱原発運動に献身した科学者の故高木仁三郎さんが授賞している。その授賞者たち50人とワールド・フューチャー・カウンシルが協働で、世界の脱原発を求め、再生可能エネルギーに切り替えていくことを求める声明を発表した。
「原子力は、現代のエネルギー問題への答えでもなければ、温暖化という課題への魔法の薬でもない。問題は、新しい問題を作ることによっては、解決できない。」
声明に署名したのは26カ国からの専門家、活動家、政治家、宗教家、企業家、科学者等。ケニアのノーベル平和賞授賞者ワンガリ・マタイさんもその1人。
ライトライブリフッドアワードとワールド・フューチャー・カウンシルの創始者であるヤコブ・フォン・ウクスキュル氏は、「温暖化と核の脅威を回避するのは技術的には難しいことではない。それは心理的、政治的なものだ。」「この声明により、我々は脱原発への世界中の支持がいかに大きいものかを示したかった。なぜなら、危機は常にチャンスでもあるからだ。」と述べている。共同声明へのリンク:http://www.worldfuturecouncil.org/jointstatement.html
出典:ワールド・フューチャー・カウンシル基金プレスリリース

●ベルン州政府、電力会社に脱原発の準備をするよう告知
高齢のミューレベルグ原発を持つベルン州。運転するのはベルン州電力会社で、株式の過半数をベルン州が所有している。そのため、州政府は電力会社に、ある程度の発言権を持つ。ベルン州政府は、社会民主党と緑の党が過半数で、もともと脱原発の立場をとってきた。
3月30日に州が発表したプレスリリースによると、州政府はベルン州電力に、脱原発の準備をするように要求した。具体的には、原子力のない企業戦略のシナリオを作成すること、国がミューレベルグ原発の運転停止を命じた場合への準備を早急かつ具体的に行なうこと、さらにベルン州電力が既に内閣に提出しているミューレベルグ原発建替え(新設)の許可申請を取り下げることを求める。
ベルン州電力側は、早急にミューレベルグ原発を運転停止させることは考えていない、と発表している。ただし、ベルン州電力は2月13日の原発新設を巡る住民投票で、新設が否決される場合に備えて、原子力のない電力供給のシナリオをある程度は準備してきたことも事実である。
参照:DerBund誌、ベルン州プレスリリース

● イェン二社の無料提供する風刺画
スイスのブルグドルフ市に拠点を置く太陽熱温水器システムの会社Jenniでは、昨2月13日にベルン州で行なわれた原発新設を巡る住民投票に備えて、下記の風刺画を無料提供した。 原子力業界を描いた書割の表には「クリーンなエネルギー」とあり、それを見る老婦人が「素晴らしい」と漏らしている。書割の裏(ウラン採掘から廃棄物処分まで)は悲惨な状態・・。
 

© Jenni Energietechnik AG / Orlando Eisenmann
出典:http://www.jenni.ch/


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