宮澤賢治の里より

下根子桜時代の真実の宮澤賢治を知りたくて、賢治の周辺を彷徨う。

187 水沢緯度観測所

2009年08月26日 | Weblog
    <水沢VERA観測所構内の 20m電波望遠鏡など>

 以前、賢治の詩
三五  (春と修羅 第二集 下書稿(二))
      測候所
                  一九二四、四、六、(日)
    シャーマン山の右肩が
    にはかに雪で被はれました
    うしろの方の高原も
    おかしな雲がいっぱいで
    なんだか非常に荒れて居ります
      ……凶作がたうたう来たな……
    杉の木がみんな茶いろにかはってしまひ
    わたりの鳥はもう幾むれも落ちました
      ……炭酸表をもってこい……
    いま雷が第六圏で鳴って居ります
    公園はいま
    町民たちでいっぱいです

   <『校本 宮澤賢治全集 第三巻』(筑摩書房)より>
に関して、ここに出てくる”シャーマン山”は早池峰山が定説だと云うことに触れた。
 しかし私は、もし花巻周辺から早池峰山を望んだとしたならば
    シャーマン山の右肩が
    にはかに雪で被はれました

という表現をはたしてするだろうか、早池峰山の”右肩が”という表現に不自然さを感ずると述べた。
 そして、『測候所』(日付1924,4,6)の中のシャーマン山のモデルは早池峰山よりは岩手山の方ではなかろうか。
というようなことなどを述べた。

 そもそも、この詩のタイトルは『測候所』だ。この詩の下書稿のタイトルは『凶歳』だからそれならまだしも、詩の中にそれらしいものは殆ど出てこないのに『測候所』というタイトルは変だなと、ず~っとのどに小骨が刺さったような”いずさ(岩手の方言で、ここではもどかしさの意)”があった。
 一方、『測候所』といえば、『宮澤賢治研究』(草野心平編、十字屋版)の中に盛岡測候所の福井規矩三が「測候所と宮澤君」という追想を述べているから、おそらくこの詩の『測候所』とはそこのことかと思っていた。
 とはいえ、賢治の詩『晴天恣意』などから知れるように、水沢の緯度観測所にも行っているはずだからそこも『測候所』の候補の一つになるのではなかろうかとも考えられる。

 そこで、8月26日奥州市水沢区の”水沢VERA観測所”を訪れてみた。この観測所の前身こそが”水沢緯度観測所”だからである。
《1 水沢VERA観測所正門》(平成21年8月26日撮影)

《2 〃 案内図》(平成21年8月26日撮影)

 そして、その観測所内にある
《3『奥州宇宙遊学館』》(平成21年8月26日撮影)

を観覧した。この建物は緯度観測所の旧本館そのものであり、1921年に建設されたものだという。
 この館内には
    「宮沢賢治と緯度観測所」
という展示室があり、そこには賢治の詩『測候所』に関して次のような内容の展示がなされていた。
 賢治がこの詩を書いた当時(1924年=大正13年)、測候所といえば岩手県内では宮古にしかなかった。しかし、その当時水沢には”水沢緯度観測所(1899年設置の水沢臨時緯度観測所が1920年に組織編成されたもの)”があり、実質的には測候所の役目もしていたと。
 したがって、賢治の詩『測候所』の測候所とは”水沢緯度観測所”と考えられ、”シャーマン山”は早池峰山と考えられるとすれば、賢治は水沢緯度観測所本館の2階から外を眺めながらこの詩を書いたのではなかろうかと。つまり、この建物の2階から俄に雪で覆われた早池峰山を眺め、町民達でいっぱいの公園を見下ろしながら詠んだのではなかろうかと。

【Fig.1 水沢臨時緯度観測所】

    <絵葉書(発行所不明)より>
【Fig.2 水沢緯度観測所】

<『科学者木村 栄と緯度観測所』(千田一幸著、イーハトーブ宇宙実践センター)より>
【Fig.3 緯度観測所長官舎と本館(1921年頃)】

<『科学者木村 栄と緯度観測所』(千田一幸著、イーハトーブ宇宙実践センター)より>
 そして、館長さんや総括部長さんからは次のようなことなどを伺うことができた。
 実は、岩手県で遅い時期に雪が降るのは宮古などの沿岸側であるから、因みに岩手で一番遅い時期に降った雪の記録は宮古に降った5月の雪であり、
    シャーマン山の右肩が
    にはかに雪で被はれました

に関しては不自然ではない。早池峰山の右肩(沿岸側、つまり東側)の方が雪で覆われるということの方が自然である。

というお話も聞けた。

 なるほど、と私は思った次第である。

 あとは、出来ればこのよう降雪が実際起こるのを目の当たりにしたいことである。

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