宮澤賢治の里より

下根子桜時代の真実の宮澤賢治を知りたくて、賢治の周辺を彷徨う。

77 『銀河鉄道の夜』とのこと(その8)

2008年12月01日 | Weblog
 では次は
  (3) 八方山をアンタレスに擬した。
の検証をしたい。

 『雨ニモマケズ手帳』の「経埋ムベキ山」の書かれたページ
【Fig.2(再掲) 復元版『雨ニモマケズ手帳』143~144p】(校本宮澤賢治全集、筑摩書房)

をよく見てみると、八方山の肩に◎(実際にはこの◎印の中の小丸は塗りつぶされている)印が付いている。

 残念ながら、その記号の意味は今のところ不明なようである。「雨ニモマケズ手帳」研究の第一人者小倉 豊文氏でさえも、『解説 復元版宮沢賢治手帳』(筑摩書房、解説小倉 豊文)の中で『手帳にこの山に◎印を付けてある所以はわからない』と言っている。

 したがって、まして私などには解ろうはずはないのだが厚かましくも、仮説(3)、敷衍すれば
 宮沢賢治が付けた八方山の肩の◎印は”赤い目玉”の意味であり、
    八方山にイーハトーブのアンタレスとしての地位を与えた。

という仮説を立ててみた。

《1 高村光太郎山荘付近からの八方山遠望》(平成20年4月30日撮影)


 いままで述べてきたこと等から次のことが言えると思う。

(1) 宮澤賢治は「経埋ムベキ山」32座の総体を銀河と星座のイメージとして捉えていた側面がある。
(2) 岩手山や秋田駒ヶ岳などは白鳥座を意識して選んだと思われるし、『銀河鉄道の夜』の星座のモデルで主要な星座で残っているのは蠍座と南十字座である。
(3) ◎印は八方山のみに付いていて、中を塗りつぶした◎印の視覚的な意味は目玉とみなすことが出来る。
(4) 宮沢賢治は星座では蠍座を、とりわけそのα星アンタレスを愛していた。そして、アンタレスを”蠍の心臓”ではなくて”蠍の赤い目玉”として捉えている。


 なぜなら、”『銀河鉄道の夜』とのこと(その6)”で述べたこと等から
(1) 宮澤賢治は「経埋ムベキ山」32座の総体を銀河と星座のイメージとして捉えていた側面がある。
ということには納得してもらえると思う。
 次に、
(2) 岩手山や秋田駒ヶ岳などは白鳥座を意識して選んだと思われるし、『銀河鉄道の夜』で主要な星座で残っているのは蠍座と南十字座である。
について。前半については前回”『銀河鉄道の夜』とのこと(その7)”で述べたことから解ってもらえると思う。また、後半については”『銀河鉄道の夜』とのこと(その5)”で述べたことから解ってもらえると思う。
 では
(3) ◎印は八方山のみに付いていて、中を塗りつぶした◎印の視覚的な意味は目玉とみなすことが出来る。
についてはどうか。前半は明らかであり、後半は一般的な使い方であるからこれも納得してもらえると思う。
 最後の
(4) 宮沢賢治は星座では蠍座を、とりわけそのα星アンタレスを愛していた。そして、アンタレスを”蠍の心臓”ではなくて”蠍の赤い目玉”として捉えている。
については、”『銀河鉄道の夜』とのこと(その3)”で述べたことから解ってもらえると思う。

 よって、(1)~(4)について納得してもらえたと思うので、これらを総合すれば
 宮沢賢治が付けた八方山の肩の◎印は”赤い目玉”の意味であり、八方山にイーハトーブのアンタレスとしての地位を与えた。
となるのではなかろうか。

 この考え方に対し、大きな難点があることを皆さんは直ぐ指摘されるであろう。そうなると
  北上川の銀河に対してアンタレスの位置は逆サイドじゃないのか
と。

 ここでは、賢治の弟清六氏の次のような証言
 休日には私を連れて、登山や水泳、音楽会などに行った。また、中学生のころから好きだった星の本を夢中で読み、夜に屋根の上にのぼって星空をながめていたこともある。
    <『注文の多い料理店』(宮沢賢治著、角川文庫)より>
を思い出す。

 このような賢治だから、イーハトーブの山々でつくる星空を思い描くのならば夜空がそのままイーハトーブへの”写し絵”になっているはずだ、と私は考えるのである。もちろん賢治だけでなく誰でも、星座盤を見て夜空の星に感動するのではなく星空そのものを屋根の上で仰ぎ見たり、早池峰山の頂上で寝っ転びながら見上げたりして感動するものだと思う。

 とすれば、紙に印刷された星座と夜空に見上げる星座とは裏返しの関係にあるから、当然印刷物の星座とは異なり、北上川の銀河に対しては逆サイドになるのである。すなわち、夜空の星座がイーハトーブに投影された配置でなければならず、北上川に対しては西側にアンタレスを配置しなければならない。

 というわけでこの難点も解消されるから、
 (3) 八方山をアンタレスに擬した。
ということが結構検証できたのではなかろうか。

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