すんけい ぶろぐ

雑感や書評など

塩野七生「ローマ人の物語 (23)」

2005-10-25 08:12:22 | 書評
愛こそ全て?


で、「ローマ人の物語 (23)」。
ローマ中興の祖と言えるヴェスパシアヌスの息子、ティトゥスとドミティアヌスのお話が中心の巻です。


うーむ。
どうもカエサルやアウグストゥトの時代と違い、出てくる人物が小粒で…………。
いまいち、躍動感には欠けるものがあります。

その中で面白かったエピソードは、ドミティアヌスと姪のユリアの話でしょうか。
二年しか統治しないで死んだティトゥスには、娘が一人いた。名を、ユリア・フラヴィアという。ドミティアヌスには、姪にあたった。ユリアは、未亡人になって親もとにもどっていた。母親も死んでいたようで、叔父のドミティアヌスが住む、皇宮にもどっていたのである。
 十代の末ぐらいの年齢であったらしいユリアは、容姿でも性格でも教養でも、皇后ドミティアとは正反対の女だった。目立だない地味な印象を与え、常に淋し気で影が薄い女人であったようである。
 この二人の間がいつ頃から、叔父と姪から男と女の関係に変わったのかはわからない。なぜなら、召使たちの眼を逃れることなど不可能な皇宮に住んでいながら、二人の関係は誰にも気づかれずに進んだからである。
 しかし、このままで良いと思わなかったのは、ドミティアヌスのほうであった。どのような経緯を経てかは不明だが、一年もしないうちに皇后との復縁を果している。ドミティアは、再び宮廷の女主人の座に返り咲いた。だが、ユリアのほうも、皇宮の別の一角に住まいつづけていたのである。その気があればできたはずの再婚もしていない。
 この不幸な同居状態が人々の噂にのばったのは、ユリアの突然の死が契機だった。妊娠したユリアにドミティアヌスが強いた堕胎が死の原因になったというのが、召使たちの□を通して広まった噂である。
塩野七生「ローマ人の物語 (23)」176~177頁 新潮文庫

で、まずまず善政を行っていたと評して問題のない皇帝ではありましたが、この皇后との不和が原因で、暗殺されてしまいます。
で、まずまず善政を行っていたと評して問題のない皇帝ではありましたが、庶民と元老院には不人気であったため、「記録抹殺刑」で死後にその存在を否定されると言った、落第のレッテルを貼られてしまいます。(森首相も、いつか評価されるのでしょうか? ……………………そりゃ、ないな)

 ネロと同じ「記録抹殺刑」に処されてしまった以上、死んだドミティアヌスを皇帝廟に葬ることは許されない。誰も引き受け手のない遺体を引き取り秘かに火葬に付したのは乳母だったが、少年時代のドミティアヌスを母代わりになって育て、その後もそば近くつかえてきたこの女奴隷は、死後に神格化された父ヴェスパシアヌスを祭るためにドミティアヌスが建てさせたフラヴィウス神殿の一角に遺灰を葬るときになって、不可思議な行為をした。ドミティアヌスの遺灰を、先に葬られていたユリアの遺灰と混ぜて埋めたのだ。「記録抹殺刑」によって墓碑すら立てることができなくなったドミティアヌスだが、墓にはユリアとともに眠ることはできたのである。
塩野七生「ローマ人の物語 (23)」183頁 新潮文庫
なんか、出来過ぎのエピソードですが。
まぁ、でも人間の幸不幸を考えさせる話だったりします(それだけに、ちょっと創作の臭いがしますが)。


塩野七生「ローマ人の物語 (17)」まぁ面白いんだけどさ
塩野七生「ローマ人の物語 (18)」男の夢
塩野七生「ローマ人の物語 (19)」努力が報われないタイプ
塩野七生「ローマ人の物語 (20)」石原慎太郎が「これからの日本は、まだまだ良くなる!」と言っている姿を、ちょくちょく拝見するが、その根拠はどこから来るんだろうと不思議に思いつつも、ああまで自信たっぷりに発言することが大事なんだろうなぁと感じたりします。
塩野七生「ローマ人の物語 (21)」庶民の知恵?
塩野七生「ローマ人の物語 (22)」杉原千畝を映画化する人がいないもんだなぁ。「プライド」よりは穏当で興行成績も期待できそうなんだがなぁ


ローマ人の物語〈23〉危機と克服〈下〉

新潮社

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