goo blog サービス終了のお知らせ 

君が望む永遠:サブキャラシナリオの害悪

2008-06-02 00:23:06 | 君が望む永遠
最近はひぐらしの話が多かったので、君が望む永遠(以下「君望」と表記)の話でも久しぶりにしておこう。なお、完全にネタバレなのでそのつもりで。


かつて私は、君望の評価を「140-40=100点」と書いた。この140点の部分に関してはもうある程度書いたので、「君が望む永遠」のカテゴリーを読んでもらいたいが、-40点の方は「蛍シナリオ斬り」「穂村シナリオ斬り」で具体例をもとに説明しただけで終わっていた(なお、前者には「天川蛍シナリオの意味」、後者には「穂村シナリオの情念」が対応する)。そこで今回は、より広い視野で君望の問題点に言及しようと思う。


<サブキャラのシナリオは有害>

(主張)
サブキャラのシナリオにおいては孝之の必然性のない行動が目立つ。これによって主人公の像がブレてしまい、全体に悪影響が出る。よってサブキャラのシナリオは有害である。

(反論)
主人公の行動や性格がシナリオによって異なるのは恋愛ADVなら普通のことではないか?

(回答)
色々なキャラとヤる宿命を背負っている(笑)恋愛ADVの主人公は、確かにシナリオによって異なる人格を持つかのような行動が必要とされるから、それによって主人公の像がブレるのは不思議ではない。しかし、そういった主人公の大半はどのような過程でゲームの時点に到ったかが細かく描写されず、それゆえ誤解を恐れずに言えば「白紙」に近いのであって、ゲーム中の行動に矛盾があったとしてもそれほど問題にはならない(一貫性のあるものとして見るなら多重人格的)。また、鳴海孝之(主人公)の場合はしっかりと第一章などを通して文脈規定がなされていることを忘れてはならない(※)。そのため矛盾した行動が主人公の理解に大きな影響を及ぼしてしまうのであり、他の恋愛ADVの主人公とは大きく異なっている(統一的人格として見られるため)。以上のことから、鳴海孝之の主人公は「感情を移入する」タイプ(プレイヤーの分身)ではなく「理解を要求する」タイプ(発言や行動を文脈のもとに解釈するのが必要な他者)だと言えるのだが、そのこともあって、サブシナリオの孝之の行動は並列化されず、彼の一側面を表すものとしてメインシナリの行動・言動と競合、矛盾し、その結果彼の理解を邪魔(=わからなく)してしまう。もし「鳴海孝之はよくわからない奴だ」と作者が主張したいのならこの矛盾は必要だが、そうでないのなら、主人公の像がブレないようにする必要がある。


でなければ、一体何のために第一章が存在しているというのか。また、第一章においては遥の告白を断るという選択肢が最初から存在していないことも想起したい。

(結論)
以上のことから、サブキャラのシナリオはメインのシナリオに悪影響を及ぼす害悪であると言える(文脈を細かく規定しているため、普通の恋愛ADVでは可能な多重人格的主人公が成立しないから)。それゆえ、評価の際にはここを大きなマイナスとしてカウントしているのである。


(結論への反論)
確かにシナリオの必然性はないかもしれない。しかし、そこで示されたテーマがメインシナリオにプラスの効果を与えることもあるのではないか?実際、「天川蛍シナリオの意味」や「星乃エンド」など、サブシナリオがメインシナリオの輪郭を浮き上がらせることを指摘しているではないか。

(回答)
確かにその通りだ。しかし、テーマ性を重視して考えても、あゆ・まゆシナリオは全く必要性が無い。妹としては茜がいるし、むしろ似たビジュアルの蛍シナリオの意味が薄れるため、二重に有害である。

(反論)
しかし、苦しい二者択一的状況から逃げる話として全体に広がりを与えるのではないか?

(回答)
「逃げ」なら、穂村シナリオがその役割を果たしている。バッドエンドだと言うかもしれないが、そもそもあゆ・まゆシナリオもまたバッドエンドの扱いだ(スタッフロールが「終わりを迎える日まで」)。


(結論2)
サブキャラのシナリオは、描き方こそ下手だが無意味ではない。ゆえに、伝え方を工夫すれば害悪から重要な意味を持つシナリオへと転じさせることが可能である。そのためには、まずあゆ・まゆシナリオをカットする必要がある。そうすると、以下の三つのシナリオにまとまる。

[蛍シナリオ]
苦しい状況でもそれで全てが終わってしまうわけではない(あまりに不自然なラブホの導入は工夫する必要あり)。

[星乃シナリオ]
誘惑に乗せられて軽い気持ちでちょっかいを出すとどうなるか。単なる恋愛ADVとの違い。

[穂村シナリオ]
文脈がしっかりした物語で、必然性のない鬼畜な選択肢を確信犯的に選んだプレイヤーにはそれ相応の報いが待っている。

下の二つによって、メインヒロイン以外に手を出す(他に逃げる)とどういう目に遭うかを明示できるし、その内容が物語の本筋が何なのか(外に逃げても救いはない)をプレイヤーに伝えることにもなる。また、他の二つが明らかなバッドエンドなので、蛍シナリオのポジティブな位置づけがより明確になるだろう。このようにすれば、多重人格的主人公像で物語をおかしくしたサブキャラシナリオも、メインシナリオを生かす重要な話として再生できると思う。


(結論2への疑い)
もしかすると孝之の必然性のない行動自体が何らかの主張を含んでいるのではないか?例えば「色々なキャラを攻略できる恋愛ADVそのものへの皮肉が込められている」というような。

(回答)
おそらくそれは正しくないが、万一そうだとしても、通常の恋愛ADVと文脈の有無という点で大きく違うため批判にならない。むしろ、文脈(主に第一章)を書いたことでサブキャラのシナリオに必然性がなくなってしまうわけだから、文脈の不在を肯定する(文脈不在の都合よさを再認識させる)ことになってしまい逆効果だ。

おそらくは、ゲーム性(色々なキャラを攻略できる)と物語性(細かな心理描写とそれを裏付ける設定)を両立させようとして失敗しただけだと思われる。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ルーツの広告とゴルゴコーヒー | トップ | ファミレス »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。

君が望む永遠」カテゴリの最新記事