『カラマーゾフの兄弟』に関する覚書

2006-12-24 02:11:58 | 本関係
前に述べたごとく、『カラマーゾフの兄弟』を読み終えたのだが、正直感想などを書くのを躊躇している。というのも、2000pに及ぶこの作品への言及が、果たしてどれほどの分量になるのか想像もつかず、それを書くこと自体が非常に難儀な仕事になることを恐れるからだ。しかし一方で、このまま三巻の途中からつけているメモだけをそのまま放置し続けることも生産的であるとは思えない。そこでとりあえず、いずれまとまった形で提示するのを前提に、メモの内容だけを特にまとめることなしで掲載することにした。読む前に以下のことに注意を喚起しておきたい。まず、下の内容を見るとドストエフスキーが宗教を理性に優越するものとして描いているような印象を受けるかもしれない。しかし、信心深いアリョーシャについてわざわざ初めに断り書きまでしているところから、その解釈が正しくない、もしくは行き過ぎであることは確かだ。ドストエフスキーが、宗教と人間理性の相克、そしてまたそれぞれの問題点などを、あくまで観察者的に描こうとしていることを少なくとも頭に置いて読んでもらいたいと思う。では前置きが長くなったが、以下に覚書を記す。


[カラマーゾフの兄弟]
◎神の否定→「すべては許される」 

なぜそんなに極端なのか?法律は?
…検事たちの態度・「誤審」、尊大さ?(人を信じない)
⇒「人は人を裁けるか?」という問いかけ
(中巻におけるゾシマ長老の体験談を思い出せ)

◎「兄イワン」の悪夢
「むきになって否定するのは信じている証拠…」
※例えば習慣や取り決めの逆こそが真と主張するのは、その習慣の影響から逃れられていないと言える。⇒何が正しいかを一から考える

※とすれば、「いてもいなくてもいい」こそ神観念の究極の敗北か…?

私はそれに近いのかもしれない。私にとって興味があるのは「人が神をどう思うか」であって、「神はいるかいないか」ではない。そしてこの点こそ、私が『カラマーゾフの兄弟』を「期待していたほどには」楽しめなかったと思う理由だろう。

「いてもいなくてもいい」…「~だから神はいる」 そうかもしれない
             「~だから神はいない」  〃

(ちなみに、それぞれ神の性質が善・悪だという証明がなされなければ、どちらも単なる「感想」に過ぎない。神が善だと証明されれば、初めて無情な世を見たときに「こんな世の中を存続させているのだから、神などいない」という見解が成立する。神が悪であれば、「悪に満ちた世」はむしろ神の存在証明となるであろう) 


◎危険な証人達が弁護士によって「道義的に」さらし者にされ、その証言の価値が 否定されている(405P)

◎医者達の鑑定の相違
いかに医学(この場合精神分析か)が信用ならないかを暗に示そうとしている 
⇒精神科の難しさを説明した友人の言葉を思い出せ

◎狂人の証言で破滅が決まった

◎「検事論告」
人の行動の書き換え、解釈の妙⇒「人が人を裁けるのか」という疑問
⇒検事が論理の限りを尽くして真実と近い、しかし決定的に違った見解を長々と披露するのを見るとき、私はその主張を感じ取る。
(人はどこまで努力しても真相・真理には到達できぬ、というわけだ)

◎神―心(≒良心)
真実に対する人間理性の限界、諦めというより戒め

◎自己憐憫は生理的にむかつく⇒カーチャ、ミーチャへ
(ただし彼らの、特にミーチャの生い立ちは考慮に入れるべきだろう)

◎子供たちとアリョーシャのエピソードの意味
第二部の伏線だったと思われる。

◎「百姓たちが意地を通す」のイミ
ドストエフスキーが農民の啓蒙を考え、彼らから遊離した思想に警鐘を鳴らしていたことを思い出せ。

◎「誤審」という題名
題名から結末は見えている。その上で迷走する理性の様を見せたかったということか。

◎真相の暴露から「誤審」へという構成
いかにして誤りが導き出されるか、の過程である
=裁判=人が人を裁くこと⇔神(真理・良心)


(最後に)
宗教と人間理性だと二項対立だが、長老制度の話が様々な形で随所に表れていることに注意を喚起したい。それを「教団の問題」と考えれば、単純な宗教と理性の対立ではなく、教団への信頼、反発といった要素も宗教への信仰・拒絶に絡んでいることを暗示しているのだと思われる(「教団への不信感」と言うと、日本人にはわかりやすいかもしれない)。ただし、ギリシア正教の教会制度に詳しくないので、この描き方がどの程度ラディカル、あるいは穏健なのか、またどの程度特殊or一般的なのものか今の私には判断できない。

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