昔は貧しかったから必死に働いた。それなら今は…

2006-11-12 02:51:42 | 生活
「昔はとても貧しくて皆が必死に働いた」といった話を、誰でも(何らかの形で)聞かされたことがあると思う。そしておそらく、ほとんどの人がそのノスタルジアと批判が混在した言葉を聞き流していたことだろうと思う。


しかし実際には、この言葉は現在の勤労態度の肯定に他ならないのである(あらかじめ言っておくが、これは完全な皮肉だ)。貧しかったから必死に働いたのだとすれば、豊かであれば大して働く必要はない(最終的には、全く働く必要はない)ことになるだろう。よく現在は「ものが豊かだ」と言われる。であれば、「貧しかったから必死に働いた」という論法からすると、現在は(大して)働く必要はないということになる。


おもしろいのは、今と対比して昔の貧しさを強調しつつどれほど働いたかを言えば言うほど、それと対比される現在が(おそらく話者の意図に反して)働く必要がない状態だと逆に正当化されてしまう、という構図である。そういった話をする人たちは、なぜそんな単純な構図が見抜けないのか?おそらくそれは、「勤労は美徳である」という考えが無意識の領域に染み込んでいるからだと思われる。それゆえ彼らは勤労に対する現在の考え方や態度に批判的になるわけだが、そこからかえって現状を肯定する話しかできないのは彼らの無意識に刷り込まれた勤労観がいかに根強く、そして非論理的なもの(※)であるかを象徴している(論理的に考えれば、「貧しい⇒必死に働く必要がある」という見方は「豊か⇒必死に働く必要はない」を肯定することになる)。


まあそんな論法では何の批判にもならんのだけは確かだろう。「勤労=美徳」という観念が無意識化されるとマゾヒズムにさえなりかねない。それなら、働かないと給料が少なくなるという話をした方がよほどマシではないか(それでも家も嫁も車も名誉もいらぬという人間の勤労モチベーションを上げれるのかはなはだ疑問ではあるが)。とりあえず働かないのを批判したいなら、こねくり回さずこんな感じで言っておけばいいんじゃないだろうか?


「大人なんだし、自己責任てことで自分の食い扶持くらい自分で稼いだら?」
(簡略版)「働かざるもの食うべからず」
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6 コメント

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士道不覚悟切腹よ~♪ (かわぴょん)
2006-11-14 00:14:57
◆仕事≠労働
 『しごと』が何で『仕事』と書くかというと、『仕える事』だから。仕える対象はもちろん主君。つまり仕事とは、命懸けで主君に仕える事なので、これ、すなわち武士道。
 損得の勘定など関係なく、一途に主君のために働くのである。

 が、新選組のように主君を持たない集団は『士道』その物を至上の物とし、『武士よりも武士らしく』振る舞おうとしました(これは彼らが武士ではなかったから)。

 現在では仕える対象は仕事そのものだったり(いわゆる誇りを持って働くって奴? プロフェッショナルな世界)、上司だったり、お客様だったり様々なれど、真に仕事に満足できる人の見つけた仕事は天職と呼ばれるものでしょう。

 『労働』ってのは働くことそのもので、そこに志(こころざし)がないので、仕事よりも一段落ちる物です。

 正直、金が欲しければ、悪になればよいのですよ。
「越後屋、そちも悪よのう」という時代劇の黄金パターンである。
 現代の越後屋さんは建築会社でお奉行様は県知事だったりしますな。うむ。この構図は昔から変わらないぞ。

 そういう訳で、貧しさから脱却する為に仕事をする訳ではなく・・・・おおう! 本文中に『仕事』という単語が出て来ず、『働く』となってるよ。
 うーむ、無駄な論を張ってしまったか。
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発言者の観念 (ボゲードン)
2006-11-14 02:21:01
仕事と労働ですか。この記事で問題にしているのは「若者よ働け」という人たち(以下「彼ら」)の意見なので、そちらに限定して書きます。別に統計などを取ったわけではありませんが、私の今まで見たり聞いたりした発言内容からすると、

(1)
まず少なくとも、彼らの「働け」というのは「金を儲けろ」という意味ではないでしょう。

(2)
果たして彼らはかわぴょんさんのおっしゃるような語義で仕事と労働を考えているのでしょうか?もっと言えば、「働け」という際そのように仕事と労働を分けて考えているのでしょうか?

この二点がかわぴょんさんの記事に関して疑問です。では。
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Unknown (かわぴょん)
2006-11-23 23:28:35
ボゲードン様の疑問に対して回答です。

(1)
 もっときつく言うと、『社会の歯車になれ』だろうか? 税金を収めてくれない人達が増えると社会機械が壊れてしまうからなあ。 江戸時代だと食いぶちを減らすために、老人を山に捨てたり、子供を奉公に出したりしてたのだけどなあ(社会を存続させるにおいて、マイナス要因を減らすのは一つの方策であると思われる)
 そうですねえ。一定年齢以上で定職に就いていない人間は徴兵してはどうだろう? そもそも社会のお荷物なのだから、戦死したところで国家というシステムにとってはダメージが少ないし。あ、でもそういう奴らで構成された軍隊は士気が低そうだ。 一定年数以上勤め上げたら日本国籍を上げる…と。それはフランスの外人部隊だろーーー!(と一応自分で突っ込んでおきます)

(2)
 考えていないと思う~。そもそも『労働』を『仕事』に昇華させるのは、本人なので命じられてやるもんじゃないしなあ。
 あ、でも製造業で職人さんや技術者は、仕事の世界なので、彼らからの『働け』指令は『仕事』の可能性があるかなあ。
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問題意識 (ボゲードン)
2006-11-24 00:55:19
(1)に関して
もし「働け」という発言が「社会の歯車になれ」「税金を納めろ」といった主張をオブラートに包んだだけのものなら、かわぴょんさんの言っていることでおおむね正しいと思います。しかし実際には、無意識的な思い込みが多分に含まれているのではないか?というところを私は強調したいのです。もしオブラートに包んでいるだけなら、非常にわかりやすくてここでわざわざ書く必要もないのですが、そこに感情的・道徳的な要素が少なからず含まれていると思うがゆえに書いているのです。


(2)に関して
発言者が分けてないのであれば、発言の性格を分析する際に「仕事」と「労働」の概念を持ち出す必要はないと思いますよ。それをもとに発言を批判したりする目的なら話は別ですが。


ではこれにて。
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さらに回答~。 (かわぴょん)
2006-11-27 23:28:53
(1)に関して に対して
 訊かれたから答えたまでで、ボゲードン様が最初に書かれた事は分かっておりまする。
 やはり『勤労は美徳』というのは日本人の心の中にあると私も思います。私の心の中にもあります。
 じゃけん、ちっくと『仕事≠労働』の論を張っただけで別に批判はしとらんきに(土佐風味)。

(2)に関して に対して
 同じく訊かれたから答えたまでで、『「仕事」と「労働」の概念を持ち出す必要はないと思いますよ。』と言われてもなあ。論点が違うからなあ。
 だから『無駄な論を張ってしまった』と自分で書いてるのだがなあ。うーむ、すっかり敵視されてしまってるなあ。

>それをもとに発言を批判したりする目的なら話は別ですが。
 今回は、そげんつもりはなかでごわす(薩摩風味)。

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全体として (ボゲードン)
2006-12-04 21:30:10
別に敵視しているつもりはありませんよ。知識をひけらかしたいような雰囲気は感じましたけど。

では。
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