三酔人の独り言

ルポライター・星徹のブログです。歴史認識と国内政治に関わる問題を中心に。他のテーマについても。

現米政権の安全保障政策を前提に考えてよいのか?

2014-05-28 17:16:29 | 外交・安全保障
 「朝日新聞」2014.5.27(夕刊)【時事小言】藤原帰一(国際政治学者)「中国・ロシアの「台頭」 米国は凋落したのか」は、安倍晋三首相が主導する日本の「海外での武力行使」について考える際に、重要な論点を提供してくれる。以下、重要部分のみを抜粋で紹介する(*「・・・」は中略)。

(1)<現在のアメリカは軍事的にも経済的にも衰えているとはいえない。・・・アフガニスタンとイラクから撤兵を進めた結果、新たな紛争に米軍を投入する余力はブッシュ政権当時と比べて高まっていると見るべきだろう。経済については・・・長期の衰退や経済危機を懸念すべき状況ではない。>

(2)<では、何が問題なのか。簡単に言えば、アメリカは戦争を避けているのである。>

(3)<アメリカが軍事介入をためらうなら抑止力を弱め、米軍が介入しないという想定の下で中国ないしロシアの活動強化を招くことにもなるだろう。>

(4)<では、アメリカの「凋落」が長期化し、中国とロシアの影響力が高まるのか。私はそう考えない。むしろ、ソ連のアフガニスタン介入によってカーター政権が不介入政策を一転したように、戦争しないことでアメリカを弱くしたという批判が国内で高まったとき、アメリカが再び軍事介入に転じる可能性のほうが高いといえるだろう。ウクライナ・ロシア、中国・ベトナムなど、展開によっては軍事介入への反転を促しかねない紛争は既に発生している。>

                   ≪「朝日新聞」藤原帰一氏論考の紹介終わり≫

 藤原氏の著作については、当ブログ2013.7.21「藤原帰一氏の「平和のリアリズム」から学ぶ」で紹介している。藤原氏からは、学ぶことが多い。

 現在の米オバマ政権は、以前の政権と比べて、対外軍事行動には極めて抑制的だ。シリアに対しても、軍事介入をしなかった。

 「だから」と因果関係を示す事はできないが、ロシアや中国は近年、武力を背景とした対外強硬姿勢を強めている。ロシアは、ウクライナへの介入圧力を強め、クリミア地区を併合した。中国は、南シナ海で領海・領有権を争うフィリピン・ベトナムに対して強硬姿勢を強め、ゴリ押しで既成事実を積み重ねようとしている。

 こういった状況下で、上記(3)にもあるように、▽ロシアや中国は「米国は軍事介入して来ない」となめてかかっている ▽そういった米国の弱腰は世界を不安定にする ▽中長期的には米国の国益を損なう──等の主張が、米国内を中心に頭をもたげつつあるようだ。

 私が関心を持つのは、オバマ政権後の米国の安全保障政策の行方だ。次の大統領選(*2016年12月予定)とその前哨戦で、オバマ政権への「対外弱腰姿勢」批判が、共和党周辺から大量に発せられるだろう。その結果、民主党・共和党どちらの新大統領が誕生しても、新政権は「対外弱腰姿勢」を払拭する方向に進む可能性が高まるのではないか。

 私がここで特に言いたいのは、日本で集団的自衛権行使など「海外での武力行使」の可否について考える際に、「現在の米国の安全保障政策のイメージ」で考えるべきではない、ということだ。
 *当ブログ2014.5.13「必要は法など知らぬ 五百旗頭真氏」参照

 日本がもし「憲法解釈変更による集団的自衛権の限定的行使容認」に踏み切れば、徐々に全面行使容認に進んで行くことは、目に見えている(*当ブログ2014.5.4「集団的自衛権 質的概念から量的概念への転換が狙い」参照)。そして、当初は「封印」されるだろう「集団安全保障による武力行使」についても、そのうちなし崩しで「解禁」されることになるだろう。

 数年後には、新しい米政権が誕生している。上記のように、この米政権の安全保障政策は現在のオバマ政権のそれとは様変わりする、という事も十分に考えられる。

 もちろん、米国は中国やロシアのような軍事強国と一戦を交えるような事は避けるだろう。しかし、「もっと弱っちい」国を血祭りにあげて、「俺様を怒らせると何をやるか分からないぜ」とすごんで見せる、という事も十分に考えられる。

 米国が「2001~03年の再現」のように振る舞い始め、日本が集団的自衛権など「海外での武力行使」が可能な状況になっていれば、日本が米国の軍事行動に「付き合う」以外の選択肢はほとんど無くなるだろう。安倍首相らは「いざと言う時に米国に見捨てられないように、集団的自衛権の行使容認を」と主張しているのであり、「可能なのに行使しない」という選択は「より見捨てられる」ことにつながるのだから。

 日本の自衛隊は、約10年前の英国のように、「米国の傭兵」として海外で武力行使にのめり込んでいくのか。「米国の論理」では「正義の戦争」だとしても、武力攻撃を受けた側からすれば「侵略者の殺戮」と映り、日本に対して恨みを募らせて反撃に出ようとする。そして場合によっては、日本国内での「テロ」の可能性も高まっていく・・・。

 日本の人々は、「安全を取るか? 自由を取るか?」と問われれば、大方の人は「安全」と答えるようになるだろう。そして、自民党・日本国憲法改正草案のような国家主義的・反立憲主義的な憲法に改定されて行くのかもしれない。安倍首相らの「思う壺」だ。

 こういった展開を覚悟の上で、安倍首相らの策動に賛成するのか否か、ということだ。

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