しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

天使と宇宙船 フレドリック・ブラウン著  小西宏訳 創元推理文庫

2014-03-26 | 海外SF

インフルエンザ(?)で熱が下がらない中で長編を読む気が起きず、ブラウンのSF短編集である本書を手に取りました。

本書はブラウンのSF短編集としては「宇宙をぼくの手の上に」(1951年)と「スポンサーから一言」(1958年)の間、1954年に刊行されています。

今回読んだものは昨年に川崎のブックオフで見かけて450円で入手した、

2005年6月第40版のものですが...。

私の中での本書のイメージはこちら、

年末に実家から持って帰ってきました。

奥付を見ると1981年7月刊ですから小学校6年生の時買ったものです。
そういえば当時新宿の紀伊国屋書店で本書を買ったのを思い出しました。

当時の購入動機は...ありがちですが星新一の影響です。
当時の私としては結構背伸びした読書だったような記憶が残っています。

今回読み返してみて「ミミズ天使」は明確に「不死鳥への手紙」「唯我論者」はうっすら覚えていましたが他は殆ど記憶にありませんでした。

なお本書収載の「ウァヴェリ地球を征服す (The Waveries)」はwikipediaによるとディックが“「これまでに生み出された最も重要なSFかもしれない」と評した。”作品だそうです。

内容(裏表紙記載)
二つの太陽の間を、8の字形の軌道を描く惑星上では何が起こるか? 18万年前に生まれた男からあなたに届いた手紙は何を語るか? 電力を失った20世紀文明はいかなる変貌をとげるか? シンシナティ市に発生した悪魔と坊やの大決戦の顛末は? 鬼才ブラウンのSFとファンタジィの名品16編を選りすぐった傑作集。ファンならずあらゆる人々に贈る、夢と幻想の世界!

上記ずいぶんネタバレ気味な内容紹介です...。

さて、とりあえずの感想「すばらしい短編集!」
ブラウンの短編集は「宇宙をぼくの手の上に」「スポンサーから一言」と読み返してきらりと光る発想を随所に感じましたが、現代から見ると厳しい作品もありました。
本書はそういう意味でのがっかり感がなく読み通せました。(1編私には意味が分からない抄編はありましたが...)。

作品の出来がいいというのもあるのでしょうが、序文から始まり各編の間に挿入されているショート・ショートを本書のために書き下ろしたりと、掲載順もかなり意図的に組んでいる感じで相当構成に凝っている感じを受けました。
「フレドリック・ブラウン」の世界を堪能できました。

まずは序文からご紹介、「SFとファンタジーの違い」を書いています。
ブラウンによるとSFは「人狼なり吸血鬼などが登場してもその存在について説明され、実体がいかなるものか描写されている。」とのこと。

例としてギリシャ神話のマイダス王の話を取り上げています。
神話の内容は「マイダス王がバッカス神に捧げものをし、願いを一つかなえてもらうことになり、王の手に触れるものはすべて金になることを望みその望みはかなえられるが...」というお話。

これをSFにすると...ということで、NYでギリシャ料理店を経営しているマイダス氏がひょんなことから異星人を助け、そのお礼としてマイダス氏の肉体の分子構造を変え彼の手が触れると変成効果が生じるような機械を作ってやったうんぬん。
になるというように書いています。

その上で「本書にはファンタジーとSFにほぼ等分でき、両者の中間が二三編」だそうで、意図的に「ファンタジー」と「SF」の境界線を意識してまとめているわけですが、そこはブラウン、読んでみてどっちに分類するか悩むような作品ぞろい。
こんな構成にして楽しんでいるんだろうなーというのを感じました。

ということで各編紹介と感想など。

1 悪魔と坊や (Armageddon)
 シンシナティ市の劇場に出現した悪魔はハービー坊やに...。
 
 のっけから悪魔が出て来て「サイエンス」はないのですが、悪魔の出現理由も悪魔を退治できた理由をきちん作中で説明しています。
 端からブラウンの定義だとSFかファンタジーか悩む(笑)
 まぁでも「サイエンス」がないので本作はファンタジーかな。
 作品自体は軽い仕上がりです。

2 死刑宣告 (Sentence)
 ショート・ショート、アンタレスの第二惑星で重大犯罪を犯したチャーリーは死刑犯罪を受けるがその惑星の夜は....。

 これは明確にSFでしょうね。
 まぁ結末ありきのありがちなショート・ショートではあります。

3 気違い星プラセット (Placet Is a Crazy Place)
 二つの太陽の間を、8の字形の軌道を描く惑星上では何が起こるか?

 これも明確にSFですが、二つの太陽が回っているときに起こる事態やら、怪鳥の存在がいかにもファンタジーっぽい。
 ブラウンらしい奇抜な発想と軽妙なストーリー展開が楽しめる作品です。

4 非常識 (Preposterous)
 ショート・ショート アウスタンテイング・ストーリーズ(SF雑誌)を読む息子を父親は非常識というが…。
 
 これも明確にSFですね、軽い仕上がりですがニヤリとさせられる。
 

5 諸行無常の物語 (Etaoin Shrdlu)
 なぞの呪文を打ち込むのに使用したライノタイプは自分の意思で動くようになり。
 
 ちょっとミステリー(サスペンス)的手法が入っているファンタジーですね。
 (ライノタイプが自分の意志で動くようになって理由が明確に説明されていない)
 結末は仏教を若干バカにしている感ありますが...後からキリスト教の神様も思いっきりちゃかしているのでまぁバランスとれていますね。
 「シカゴ・ブルース」のエド・ハンターも植字工ですし、ブラウンはタイプやら活字関係の話が好きですね。
 もともとそっち系出身だったんでしょうか?
 どんどんエスカレートするライノタイプにはらはらさせられます。
 
6 フランス菊 (Daisies)
 ショート・ショート マイクルスン博士は草花の思考をとらえれる機械を発明するが、それを使用した夫人は....。

 SFですね。
 か~るいショート・ショート

7 ミミズ天使 (The Angelic Angleworm)
 結婚式間近のチャーリーはある朝奇妙なミミズ天使を見てその後も奇妙な事態が...。

 ミステリータッチのファンタジーですね。
 SFの手法で書かれたファンタジーという感じでしょうか...。
 本「ファンタジー」と「SF」の境界という意味では本短編集の目玉なんでしょうね。
 英語で読まないとわからないトリック(?)で結末を知っていたのですが、究極の状況が面白くとても楽しく読めました。
 この作品の前にショート・ショートを挟んで「諸行無常の物語」を置いていたのも伏線だったんでしょうねぇ。
 ブラウンが相当楽しんで書いていそうな名作だと思います。

8 大同小異 (Pattern)
 ショート・ショート 巨大な宇宙人が出した蒸気の雲は...。

 「なるほど」という軽い作品、SFですね。

9 ユーディの原理 (The Yehudi Principle)
 「こびとがなにもかもやってくれる」という気分になる機械を発明したがその機械は…。

 SFともファンタジーともつかない境界線の作品ですね。
 なんだか不思議な気分にさせられます。

10 探索 (Search)
 ショート・ショート ファンタジーかつ天国の話なのですが私には意味不明でした...。

 キリスト教の知識があれば理解できるのでしょうか?
 本作以後「人間」とか「社会」をテーマにした作品に移行している気がします。
 でも「帽子の手品」は違うかなぁ? どういう意図の作品か謎です。

11 不死鳥への手紙 (Letter to a Phoenix)
 戦争で負傷した男はとても長い寿命を得て.....。

 SFですね。
 ありがちな設定といえば設定なのですが手堅くまとめている感じです。


12 回答 (Answer)
 ショート・ショート 全銀河のコンピューターを接続し質問して出てきた答えは...。
 
 SFですね。これもありがちといえばありがちなお話。
 星新一の「声の網」との類似点が指摘されている作品。

13 帽子の手品 (The Hat Trick)
 映画を見た後の男女は帰りにお酒を飲み、男達は手品を披露し始めるが…。

 ファンタジーなようなSFなような...不思議な味わいの作品です。

14 唯我論者 (Solipsist)
 ショート・ショート ウォルター・B・エホバは唯我論者だったある日彼はすべての存在を抹殺しようと決意するが...。

 ファンタジィ...かなぁ?、宇宙論的な話のような気もするのですが....「エホバ」ですしねぇ。
 主人公の名前が冒頭に出て、タイトルが唯我論者ですからストーリーは自動的に決まるわけです。
 オープンリーチぶりがいいですね、微妙に外したラストもさすがです。
 かなり好きかもしれない。

15 ウァヴェリ地球を征服す (The Waveries)
 電力を失った20世紀文明はいかなる変貌をとげるか?

 SFですね。
「不死鳥への手紙」同様ありがちといえばありがちですが....。
 意外とこういう発想はでてこないかもしれませんね。
 ある種のユートピアを描いているわけですが「まぁこういうこともあるかもなぁ」という気にはなります。
 ブラウンらしくないストレートな作品と感じました。

16 挨拶 (Politeness)
 ショート・ショート なかなかコミュニケーションが取れない金星人にある男が放った言葉は...。

 SFですね。
 深刻な話が続いたあと最後をかざる本作は...思いっきり軽い作品です。
 この作品が最後にくるのもありかなぁという気はしました。

ということで私のカウントだと16作中 SF=8作、ファンタジー4作、「?」=3作なんですが...。
ブラウンの勘定とちがいますね。(SF・ファンタジー半々)
どれが違うのか???。

といろいろな楽しみ方ができる短編集でした。
お薦めです。

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2 コメント

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Unknown (nao(おっさん))
2014-03-28 12:00:34
ん!・・おもしろそう!
読もうと思います。
『発狂した宇宙』の歴史的名作との評、同感です。
『火星人ゴーホーム』も自分は大好きですが。
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Re:Unknown (shirokuma_2007)
2014-03-28 21:30:28

nao様
はじめまして、コメントありがとうございます。本作最近読み返したブラウンのSF短編集の中では一番ツボにはいりました。私的にはお勧めです。^_^
「発狂した宇宙」絶版(品切れ?)というのは許しがたいデスねぇ。
「火星人ゴーホーム」もですけれども。
こちらも面白かった記憶があるのですがなかなか読み返せません、なんだかもったいないような気もして....。
今後ともよろしくお願いいたします。
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