晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「ムーンライト」(16・米) 80点

2017-09-11 11:49:54 | 2016~(平成28~)

・ 小品だが、時代が求めていた佳作にオスカー作品賞が!




今年のアカデミー賞授賞式で手違いでハプニングを起こした作品賞を獲得し話題となったが、ほかの要因でも画期的といえる作品だった。

マイアミの貧困地区リバティシティに住む少年シャロン。内気で小柄なためイジメに遭い<リトル>と呼ばれていた。
麻薬常習者の母親との二人暮らしは家庭でも居場所がなく、優しく接してくれる麻薬ディーラーのファンと唯一の友達ケヴィンだけだった・・・。

タレル・アルヴィン・マクレイニーの自伝的戯曲「月の光の下で、美しいブルーに輝く」を長編2作目のバリー・ジェンキンスが脚色、監督した。映画化をサポートしたのが、製作会社プランBを設立したブラット・ピット。3年半の企画準備を費やし、わずか27日間で撮影し見事オスカーを獲得した。

少年シャロン(アレックス・ヒバート)とファン(マハーシャラ・アリ)の疑似親子ぶりがとてもいい。ほとんど喋らないシャロンに恋人テレサ(ジャネール・モネイ)とともに優しく接し、食事をさせたり海で泳ぎを教えたり、<自分の人生は自分で決めろ>と諭す。

ハイスクールに通うシャロン(アシュトン・サンダース)は、母・ポーラ(ナオミ・ハリス)の中毒症状に悩ませられながらケヴィンとの友情は続いていたが、孤独な日常はますます深まるばかり。そんなとき事件が起きる。それはいじめによる暴力沙汰でケヴィンに友情以上の気持ちを抑制させるものでもあった。

青年シャロン(トレベンテ・ローズ)はブラックと呼ばれ、アトランタで麻薬ディーラーとなっていた。まるで少年時代可愛がってくれたファンのように肉体を鍛え高級車に乗り回しているが、孤独な眼差しは変わっていなかった。
突然電話が掛かって介護施設にいる母親だと思って出ると、それはハイスクール時代の親友ケヴィン(アンドレ・ホランド)からだった。

3部構成からなる一人の少年の成長物語だが、それぞれトーンが違う色使いで1部の少年時代だけでは描き切れない自我が目覚めていく過程が情感あふれるタッチで描かれ、ちょっぴり異質ともいえる詩的ラブストーリーとなっている。

2部のハイスクール時代<泣きすぎて自分が水滴になりそうだ>といったシャロンが3部の青年時代で<あの夜のことを、今でもずっと覚えている>というまでの長い起伏を描くことで、自分らしく行動することを自覚した主人公を描いている。

性的マイノリティには厳格なアカデミー協会が、初めて作品賞を与えたエポックメイキングとなった本作は小品ながらオスカー史上記憶に残る作品となった。

筆者は1部で印象的なファンが突然いなくなってしまった2部で置いてきぼりを喰らってしまった感があったが、3部で「ブエノスアイレス」のウォン・カーウァイへのオマージュともいえるタッチに目を奪われた。

万人受けする作品ではないが、色鮮やかな映像美と情緒豊かな音楽による主人公の心情が心に沁みるアースティックな佳作だ。