晴れ、ときどき映画三昧

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「セブンイヤーズ・イン・チベット」(97・米) 75点

2014-11-04 17:42:23 | (米国) 1980~99 

 ・中国とチベットの関係に一歩踏み込んだハリウッド映画の限界。

                    

 オーストリアの登山家ハイリッヒ・ハラーの自伝をもとにジャン=ジャック・アノー監督、ブラッド・ピット主演で映画化。

 '39年ナンガ・バルパット登頂隊に参加したハラーは雪崩で断念して下山する。折りしも大戦が勃発したためインドで英国軍の捕虜となり、何度も脱走を重ね5回目に成功。再会した隊長ペーターととともに悲惨な2年間の逃亡劇の挙句、チベットのラサに潜入する。外国人居住が許されなかったチベットだったが、ツァロン高官に救われ生活した7年間を描いている。

 高慢で独り善がりだったハラーが、妻やまだ見ぬ息子への想い、男同士の友情、自然への畏敬、幼いダライ・ラマ14世との交流によって徐々に心境が変化するさまを織り込んだドラマチックなストーリー。

 公開当時の記憶は定かではないが、ジョン・ローン主演の「ラスト・エンペラー」(87)に似た印象があった。ブラピを観るために足を運んだ女性も多いと聞くが、今見直すと中国とチベットの関係が象徴的に描かれ、短絡的な表現ながらハリウッドとしては思い切って踏み込んだ作品となっている。

 終盤で登場する中国共産党・中国人民解放軍全権大使の無礼で傲慢な描かれ方や、チベット人を大虐殺した映像は、中国では上映禁止はいうまでもなく、ジャン=ジャック・アノー監督、ブラッド・ピットの中国入国禁止措置は未だに解けていない。

 撮影はチベットでは許可が下りず、アルゼンチンでポタラ宮殿を再現し100人のチベット僧を動員したという大掛かりなものとなった。さらにネパールでのロケでヒマラヤの絶景が描かれ、無許可でチベット撮影もされたという。このあたりは当時のハリウッドの対中国に対する自信の現れでもあった。

 主演したB・ピットは、出ずっぱりの奮闘ぶりで彼の代表作のひとつ。ジョン・ウィリアムズの音楽・ヨーヨーマのチェロ演奏をバックに、頂上を極めることが至上主義の西欧思想のハラーが自我を捨てるチベット仏教精神に触れ、癒されて行く。フィクションでアレンジされた妻や子供との物語も、彼の孤独なイメージにはぴったりだが、焦点がボヤケテしまった感もある。

 オーディションで100人の中から選ばれたという幼いラマに扮した少年が、聡明で好奇心旺盛な雰囲気が出ていてもうひとりの主役といえる。金髪が珍しいラマがハラーの頭を撫でるシーンが印象に残る。

 その後チベットは自治区として中国の一部となり、ラマ14世はインドに亡命。現在も独立運動が耐えることはないのはご存知のとおり。

 ハリウッドと中国との関係はニューズ・ウィークによると人気冒険小説「チベット・コード」を共同製作し友好関係にあるという。9世紀のチベットを舞台にチベット犬の専門家が仏教の秘宝探しをするという物語で、同誌によると<チベットを裏切るハリウッド>とある。

 歴史は当時の権力者で塗り替えられるのが世の常。この作品は香港返還の年に完成しただけに複雑な思惑が絡むのも事実。この映画の評価に個人差があるのは当然だが、筆者にはハリウッドの勇気を称えるとともにその限界を感じざるを得ない。