津城寛文の徒然草Shiloh's Blog

時事問題や世間話その他に関して雑感を記し、著書その他の宣伝、関係者への連絡も載せています。

消えていく職業

2017年07月19日 | 日記
 最近、AIにとってかわられる仕事、という記事が、増えてきました。将棋でも、AIは名人級の棋士と、対等以上の勝負をするようです。社会を大きく変えそうなのは、自動運転、ドローンによる配送でしょうか。

 ミシン(ソーイング・マシン)を発明した人に、妻が「そんなのができたら、お針子さんの仕事がなくなりますよ」と嘆いた、というエピソードを読んだことがあります。文明開化の日本で、蒸気機関車が走り出したころ、早馬や飛脚仕事がなくなる、と言われた話も、中学の社会で習いました。数十年前、東京はまだ改札で駅員が切符を切っていたのに、初めて行った大阪では、自動改札になっていて、首都よりも、関西のほうが進んでいるのはなぜだろうと、不思議に思ったことがあります。その後、首都圏も自動改札になり、切符を切る仕事はなくなって、駅員も減ったのではないかと思います。

 天才的な戦略家にして、満州事変の首謀者とされる石原莞爾は、批判者と崇拝者が半ばする人物で、まだ論じつくされていない、人類史的、文明史的な問題を孕んでいます。その石原に、「最終戦争論」という著書があります。単純化して言うと、兵器が発達して最終兵器ができると、戦争は一瞬で終わる、したがって、戦争は終わる、軍隊の必要もなくなる、当然ながら多くの軍人は失業する、というものです。

 石原がこれを思いついてから、発表するまでに時間がかかったのは、自分たちの仕事がほとんどなくなるという、組織防衛のためには真逆の思想だからですが、迷いつつやがて発表しました。しかし、時代は通常戦の真っ最中ですから、それほど深刻な反響を得たわけではありません。ビジョンとしては、地球上では大きな戦争は起こせなくなる、あるいは大戦争が起こってそれが最終戦争になる、というのは、言われてみれば、天才でなくてもわかる、当たり前のことです。

 私が職業として属する大学も、とくに文系に対しては、要らないのではないか、という圧力が、政府や官庁からかかっており、またそれを忖度する執行部がさらに圧力を上げて、ある先生によれば「冬の時代」になっているようです。

 「最終戦争論」を応用すれば、文系不要論、大学不要論は、半分は当たっているとも言えます。つまり、情報、知識、教養は、「象牙の塔」からほぼ開放されて、万人にアクセス可能になっているからです。印刷術が、知的な一般人のレベルを一気にあげたように、インターネットの提供する情報は、書店や図書館のない地方でも、その気があれば、学ぶことができます。

 ただし別の半分は、当たりません。軍隊は、警察力では対応できない地域紛争の防止、鎮圧には、需要がなくならないでしょう。また、産業としてはなくなった職業、仕事、作業でも、体験や学習のために、展示されたり実践されたりすることは、少なくありません。人力車は、タクシーや電車の代わりにはなりませんが、最近は観光用に復活しています。大学に関していえば、教養を築きあげていく作法、高めていく環境としては、天才にとってすら、何らかの必要があるでしょう。それは、通信教育が、スクーリングを組み込む必要があるのと、同様です。

 そのような、消えていく職業、という意味から、現在の日本の大学の文系をみると、概論とか入門とか、本を読めばわかることは、放送大学のようにビデオ授業にして、ゼミを中心にしていくのが、1つの方向ではないかと思います。とくに、監督官庁が繰り返し選定を行なっている、トップ10、20、30といった研究大学、あるいは地方の拠点大学は、この方向になるのではないか、そうならなければ、百貨店のような衰退業界になるのではないか、と思います。教員も学生も退屈するだけの、大人数での概論や講義は、放送大学のビデオを流すか、自習にすればいいでしょう。トップ校では、必要履修単位も減らすことができます。

 14歳の中学生棋士、藤井聡太さんが、高校進学、大学進学をめぐって迷っておられる、というニュースをみると、今のままの大学では、優秀な人間には無駄なことが多いだろう、という気がしてなりません。われわれのような、凡人の教員や同級生から学ぶことは、進学を進める意見でも、「せめて高校は」という親心のほかは、集団生活や、普通の青春といった、弛緩した経験だけのようです。相撲でも、中学卒業で入門します。そうした天才的な人は、自分で学ぶことができて、あるいは周囲の別の天才から学ぶ機会が与えられます。あるいは、一段落した時点で、不足したことを痛感すれば、学びたい科目をどこかで学ぶ機会があるのではないでしょうか。

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お知らせ:
『鎮魂行法論』WEB版

http://hdl.handle.net/2241/00146643
https://tsukuba.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=41703&file_id=17&file_no=1
『折口信夫の鎮魂論』WEB版
http://hdl.handle.net/2241/00146642
https://tsukuba.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=41701&file_id=17&file_no=1

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