つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

超妹大戦シスマゲドンって……駄洒落?

2008-07-30 11:11:35 | ファンタジー(現世界)
さて、多分深く考えてはいけないんだろう、な第980回は、

タイトル:超妹大戦シスマゲドン1
著者:古橋秀之
出版社:エンターブレイン ファミ通文庫(初版:'06)

であります。

ひょんなことから、イモコン(妹コントローラー)なる怪しげな機械を手に入れた烏丸サトルが、妹・ソラの操縦者となって、数多に存在する『妹使い』の争いに巻き込まれていく物語です。
ぶっちゃけ、機動武闘伝Gガンダムのメカを全部妹にして、『S-1妹グランプリ』と名を変えた、超人オリンピックに放り込んだよーな話。
各超人――じゃなくて、妹の解説が妙に凝っており、民明書房ならぬ民萌書房の解説があったり、妹強度(単位は×万シスター)が設定されてたり、ジョジョのスタンド能力そのまんまの六角グラフ(精密動作性とか成長性などの表記も同じ)が付記されてたりと、無駄に熱いです。

熱い……?
そもそも古橋秀之って熱いか?
熱いもの(メカとか武術とか格ゲーとか)が好きで、それをネタにすることが多いようだけど、作品自体はちっとも熱くない気がするのは私だけか?
さー、盛大に喧嘩を売るぞ! ファンの方は今すぐ引き返すべきだ。つーか、読んだら絶対怒る!(自信アリ)








いいんですか? 本当に喧嘩売っちゃいますよ? かめ○め波で吹っ飛んた所に野獣の腕が炸裂し、落ちたらドリルが待っていて、挙げ句の果てに鎌で切り刻まれるなんて目に遭っても知りませんよ? あ、もちろんそーなるのは私の方だけど。(爆)


一見すると、異色作に見える本書ですが……古橋秀之作品であることを考えるとちっとも異色ではありません。
相も変わらずの物量作戦です。
ここで言う物量とはネタのことを指します。ネタとは、所謂『パロディ元』だけでなく、カテゴリーやジャンルのことも意味します。
尋常でない量のネタを投入し、そのド迫力をもって読者を圧倒する! これはデビュー作の『ブラックロッド』から続く古橋秀之のカラーであり、それ故に物量作戦と書きました。
彼の物量作戦には二つの特徴があり、これは初期から全く変わっていません。良い方と悪い方があるのですが、まず、良い方からいきましょう。

☆ネタが解る人に対してのサービス精神が凄まじい。

これはパロディを書く人に必須の能力だと思います。
書くからには、それ、が好きな人を楽しませなくては話になりません。
車の話を書くなら車について調べ、格闘ゲームのパロディを書くなら指が折れるまで遊び尽くし、レンズマンの外伝を書くなら(笑)、本家レンズマンを可能な限り研究するのは当然でしょう。
その点において、古橋秀之は隙がありません。何というか、作品から雄叫びが聞こえてくるぐらい愛を詰め込んで下さいます。恐らく非常に真面目な方なのでしょう。

しかし、問題は次です。

☆ネタの加工が壊滅的なまでに下手。

はっきり言いますが、古橋秀之の作品はとにかくくどい。何がくどいって、ネタに関する説明が。そして、くどすぎる説明の割に、ネタそのものはストーリー上さほど重要ではなかったりする。つまり、ネタを作品内で生かす能力が決定的に欠けているのです。

前述の機動武闘伝Gガンダムの監督・今川泰宏と古橋秀之が、似ているようで似てないのは、ひとえにこの能力の差だと思います。
アニメの話で恐縮なのですが、今川泰宏の作品に『ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日』というのがありまして、これが原作丸無視ぶっこいて横山光輝キャラを手当たり次第に出すという凄い話なのですが――これ、いちいち元ネタ知らなくても全く問題なく楽しめます。何故なら、監督の作った『ジャイアントロボの世界』の中に無理なく溶け込んでいるからです。
しかし、古橋秀之の作品にはそういった点が欠片も存在しません。一番マシだと思える『ブラックロッド』からして、興味のない人にとっては退屈な説明が延々と続き、読む気力を減退させます。(まぁ、サイバーパンクってそういう面があるのは否めませんが)
見せ方がとにかく下手な上、ストーリーの流れにもそっていない――これって致命的なのではないかと。

例えば、このS-1妹グランプリには『秘湯☆湯けむり地獄』というチェックポイントが出てきます。
ここは飛行タイプのキャラであろうと徒歩で渡らなくてはならず、しかもタオル以外のものは身に付けてはいけない。
もうこれだけで、どんな事が起こるのかは想像がつきます。まー、よーするにあれ――読者サービスという奴です。
期待を裏切らず、間欠泉が吹き出して女性陣のタオルが落ちる。そんなことは、ネタが提供された時点で最初っから解ってます。(笑)

でも、それ以上がないのだ。

本当に、ヒネリもなく、それしか起こらない。
そしてこれは、他の数多に存在するイベントでも同様なのです。まったくと言っていい程、決められたこと以外が起こらない。
スポット的にネタが投入され、ストーリーはそれと無関係に進んでいく……どうにかして下さい、ホント。
もっとも、ストーリーが素晴らしいかと言うと、物量作戦で投入されたネタをさっ引いたら極めて脆弱な物語しか残らなかったりしますが。(←これも、初期の頃から変わらない)

とどめに、対照的な作家として、古橋秀之と同じく初期の電撃文庫を支えた高畑京一郎の名を挙げておきます。
元ネタがあるという点では彼も同じでした。『タイム・リープ』は『時をかける少女』のオマージュだし、『クリス・クロス』は『クラインの壺』の影響下にあります。
が、しかし、ネタの処理という点において高畑京一郎の能力は古橋秀之の比ではありません。

高畑京一郎の作品はネタを知らなくても全く問題なく読めます。
しっかりとしたストーリーに、スパイスとして元ネタがちょっとだけ添えられており、全体的に見ると原作よりパワーアップした感すらあります。
何故なら、古橋がネタに対する過剰までの愛を作品に注ぎ込んでいるのに対し、高畑は飽くまで自分の物語を構築することに終始しているからです。

本書のカバーの著者紹介にある、「~『鬼才』『逸材』『この人もうちょっと売れるといいね』などの評価を恣にする~」という一文に引っかかって、長々と書いてしまいました。
結局、この方が爆発的に売れない理由って、やっぱり本人自身にあるような気がしますね~……逆に、それは熱狂的な固定ファンを生む土壌でもあるんだろうけど。
あ――本書の紹介そのものが頓挫してる。(爆)



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