さて、ようやく二巻目です、な第978回は、
タイトル:人類は衰退しました2
著者:田中ロミオ
出版社:小学館 ガガガ文庫(初版:'07)
であります。
小さな目で見る世界は、あまりにも玄妙で美しいものでした。
不意にわたしは、自然の中に駆けていき、そのまま解けてまじりあってしまいたいという、らちもない考えに支配されていました。
「うーん、それはまたこんどでー」
……いや、今度とかじゃなくて、一生やったらダメなんですけどね。
夢追いの結末は、いつだって生々しいデッドエンドです。
ああ、新しい展開になるたびに、妖精的本能が理性を浸食していっている気が……。
「みはらしのいいところにいきたいですなー」
そうそう、妖精さんのいそうな場所を見極めるんですよ。
「そこで、おべんと?」
違います!
――本文54頁より。一人ボケツッコミをかます主人公。
―暑いのですよ~―
「こ~んにちは~、ホ~タ~ル~です~♪」
「マユだ。お前、まだ酔ってるのか?」
「そんな~ことは、ないのです~よ。暑~さが原因で~、電子頭脳~が、オ~バ~ヒ~ト気味なだけ~です~」
「(妖怪じゃなかったのかよ?)
ええい、まだるっこしい! さっさと頭冷やすなりして復活しやがれ」
「大~丈~夫~、久々~にドルアーガの塔を起~動さ~せて、60階踏~破すれば簡~単に治り~ます~」
「レトロゲーム攻略したら治るって、どういう熱暴走だ……?」
―妖精さんリターンズ♪―
「さてさて、本日御紹介するのは……すいません大分遅くなりました、ガガガ文庫の大黒柱! 『人類は衰退しました2』です!」
「(本当にあっさり立ち直りやがった……!)
前巻の紹介が二ヶ月前か……確かに、ちょっと気長に構えすぎたな」
「3もまだ読んでる途中ですしね……次はなるべく急ぐので、皆様お許し下さい。
というわけで本巻の内容ですが、人間と妖精さんの架け橋となる仕事――と言えば聞こえはいいけれど、実際はほとんど何もすることがない調停官の主人公と、とっても不思議な現生人類・妖精さんのまったりとした交流を描く、という基本ラインは変わっていません。前巻と同じく、中編二本とおまけの『五月期報告』を収録」
「第一章『人間さんの、じゃくにくきょうしょく』は、妖精作と思われる怪しいスプーンを使った主人公が、思考回路も身体サイズも妖精並みに変化してしまって苦労する話だ。パロディネタがてんこ盛りで、知ってるとかなり笑えるが、知らなくても充分に楽しめる作品に仕上がっている」
「第二章『妖精さんたちの、じかんかつようじゅつ』は、前巻で話題にされていた《助手さん》を迎えに行く話です。でも、妖精さんがくれたバナナを食べてから何かが狂いだし、主人公は何度も同じ場面に遭遇するという不思議体験をすることになります」
「ざっくり言っちまうと、『人間さん~』はおとぎ話風味のSF、『妖精さん~』はSF風味のおとぎ話だな」
「そのココロは?」
「いや、なんつーかフィーリングで」
「む~……それはどうかと思いますよ~。こじつけでもいいから何か理由を下さい」
「敢えて言うなら、一章は最初から最後まで明確な説明が付けられるが、二章ははそうでないから、かな?
前者の場合、キーアイテムのスプーンの効能ははっきりしてるし、主人公がそれによって失ったものを取り戻すという展開も自然で、読んでて最後まで話がブレない」
「うんうん、とっても解りやすい話でしたね~。
不思議の国のアリスよろしく、ちっちゃくなっちゃった主人公が、元に戻るためにあちこち回るというメインストーリーのおかげで、寄り道の多さにも関わらず最後まで混乱せずに読めました」
「だろう。
ところが後者は、当初の目的こそ助手を迎えに行くことだが、それが行方不明の彼を捜すことになって、さらに妖精の用意したバナナのおかげで時間がぐるぐる回り、その内、目的事態がどーでも良くなってくる。つまり何というか……安定感がねーんだ」
「それは仕方がないでしょう。この話、主役が主人公から妖精さんにシフトしてますから」
「確かに、最初から最後まで振り回されっ放しだったな、主人公……」
「人の理解の範疇にない妖精さんが主体となる以上、第二章は不明瞭な話にならざるを得ないのだと思います。そういう意味では、『SF風味のおとぎ話』というのは当たってますね」
「い……いつになく論理的な指摘をするじゃねぇか。何か悪いもんでも喰ったか?」
「失礼な! 私はいつもこうです。
妖精さんが主人公に仕掛けた罠(?)と、それを行った目的については序盤ではっきりと示されてますけど、それに薄く重なるように、助手さんと妖精さんの関わりが存在するのも、話をややこしくしている原因の一つですね。
一応、最後にみんな揃うシーンで、一連の仕掛けが助手さんの現実認知のために用意されたものだった可能性が示唆されていますが……実のところ、それだけでは説明がつかない部分もあって、最終的には――
やっぱり妖精さんって不思議!
で納得する以外ないのは、いかにも童話らしいと思います。でも、こういうふわふわした感じって好きですよ♪」
「ホタル――とりあえず病院行け」
「だから何でですかっ!」
―どちらがお好みでせう?―
「今回も二本立てで、どちらも面白いのですが、敢えてオススメするなら――」
「一章だな。生物のサイズと認識力の範囲が比例しているという説を軸にした思考ゲームを堪能出来る。怒濤のネタラッシュのおかげでテンションが下がらないのもいい」
「はうっ! 私の台詞消されたっ!」
「役には立たないが何が起こるか解らない妖精アイテムの数々は面白ぇし(特に『BLACK HOLE』は良かった)、言葉はおろか思考まで妖精化してしまった主人公の行動はもう笑うしかない。
『じょーい!(訳:楽しみます!)』な~んて台詞が、シリアスな状況でも出ちまうんだからなァ」
「あとはパロディネタですか。
『スプーンおばさん』『冒険者たち』『アルジャーノンに花束を』、他にありましたっけ?」
「書名ネタがあったな、『これからはじめるCOBOL~学べば一生飯が食える~』って、皮肉かよ!
カエルも何か元ネタがありそうなんだが、あたしにゃ解らなかった」
「親指姫じゃないんですか? 花の王子様は出てきませんけど」
「そんなメルヘンチックなネタはいらんっ!」
「作品の半分を占める要素をさらっと否定しないで下さい。
全体を通してみると、メインのネタは『アルジャーノン~』でしょうか。そう言えば、どこかで名前もちらっと出てました」
「それがすべてと言うわけじゃないが、妖精版『アルジャーノン~』といった感じの作品にはなってるな。面白いから無問題だが」
「私としては、ちっちゃい状態の主人公と妖精さん達の会話が面白かったですね。いつもは平仮名なのに漢字が交じってたりとか、とぼけてるけど知性を感じさせる台詞がなかなか新鮮でした」
「というわけで、二章はなかったことにして、一章を思う存分楽しんで頂きたい」
「ちょっとちょっとちょっと! 何勝手に終わらせてるんですか! 私のオススメは二章ですよ」
「ロジックが通じない世界は謹んでパスさせてもらう。
まー、あれだ、いつものように『可愛いっ!』で済ませとけ」
「だからある程度は通じますってば。さっきも少し触れましたけど、最後の主人公達の考察はそれなりに筋が通ってましたし」
「あれで納得できるかっ! ああ、読めば読む程頭が痛ぇ……」
「まぁまぁ、ジュースでも飲んで落ちついて下さい」
「(ごくごく)……おい、味がしないぞ。何ジュースだこれ?」
「私特製のバナナ・オレです」
「! ――バナナの原産地はどこだ?」
「さぁ、つるっと滑って、妖精さんワールドにれっつごーなのですよ♪」
「××××××××××××××××!!!!!」
――【つれづれナビ!】――
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◇ 『ライトノベル一覧表(その2)』へ
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タイトル:人類は衰退しました2
著者:田中ロミオ
出版社:小学館 ガガガ文庫(初版:'07)
であります。
小さな目で見る世界は、あまりにも玄妙で美しいものでした。
不意にわたしは、自然の中に駆けていき、そのまま解けてまじりあってしまいたいという、らちもない考えに支配されていました。
「うーん、それはまたこんどでー」
……いや、今度とかじゃなくて、一生やったらダメなんですけどね。
夢追いの結末は、いつだって生々しいデッドエンドです。
ああ、新しい展開になるたびに、妖精的本能が理性を浸食していっている気が……。
「みはらしのいいところにいきたいですなー」
そうそう、妖精さんのいそうな場所を見極めるんですよ。
「そこで、おべんと?」
違います!
――本文54頁より。一人ボケツッコミをかます主人公。
―暑いのですよ~―
「こ~んにちは~、ホ~タ~ル~です~♪」
「マユだ。お前、まだ酔ってるのか?」
「そんな~ことは、ないのです~よ。暑~さが原因で~、電子頭脳~が、オ~バ~ヒ~ト気味なだけ~です~」
「(妖怪じゃなかったのかよ?)
ええい、まだるっこしい! さっさと頭冷やすなりして復活しやがれ」
「大~丈~夫~、久々~にドルアーガの塔を起~動さ~せて、60階踏~破すれば簡~単に治り~ます~」
「レトロゲーム攻略したら治るって、どういう熱暴走だ……?」
―妖精さんリターンズ♪―
「さてさて、本日御紹介するのは……すいません大分遅くなりました、ガガガ文庫の大黒柱! 『人類は衰退しました2』です!」
「(本当にあっさり立ち直りやがった……!)
前巻の紹介が二ヶ月前か……確かに、ちょっと気長に構えすぎたな」
「3もまだ読んでる途中ですしね……次はなるべく急ぐので、皆様お許し下さい。
というわけで本巻の内容ですが、人間と妖精さんの架け橋となる仕事――と言えば聞こえはいいけれど、実際はほとんど何もすることがない調停官の主人公と、とっても不思議な現生人類・妖精さんのまったりとした交流を描く、という基本ラインは変わっていません。前巻と同じく、中編二本とおまけの『五月期報告』を収録」
「第一章『人間さんの、じゃくにくきょうしょく』は、妖精作と思われる怪しいスプーンを使った主人公が、思考回路も身体サイズも妖精並みに変化してしまって苦労する話だ。パロディネタがてんこ盛りで、知ってるとかなり笑えるが、知らなくても充分に楽しめる作品に仕上がっている」
「第二章『妖精さんたちの、じかんかつようじゅつ』は、前巻で話題にされていた《助手さん》を迎えに行く話です。でも、妖精さんがくれたバナナを食べてから何かが狂いだし、主人公は何度も同じ場面に遭遇するという不思議体験をすることになります」
「ざっくり言っちまうと、『人間さん~』はおとぎ話風味のSF、『妖精さん~』はSF風味のおとぎ話だな」
「そのココロは?」
「いや、なんつーかフィーリングで」
「む~……それはどうかと思いますよ~。こじつけでもいいから何か理由を下さい」
「敢えて言うなら、一章は最初から最後まで明確な説明が付けられるが、二章ははそうでないから、かな?
前者の場合、キーアイテムのスプーンの効能ははっきりしてるし、主人公がそれによって失ったものを取り戻すという展開も自然で、読んでて最後まで話がブレない」
「うんうん、とっても解りやすい話でしたね~。
不思議の国のアリスよろしく、ちっちゃくなっちゃった主人公が、元に戻るためにあちこち回るというメインストーリーのおかげで、寄り道の多さにも関わらず最後まで混乱せずに読めました」
「だろう。
ところが後者は、当初の目的こそ助手を迎えに行くことだが、それが行方不明の彼を捜すことになって、さらに妖精の用意したバナナのおかげで時間がぐるぐる回り、その内、目的事態がどーでも良くなってくる。つまり何というか……安定感がねーんだ」
「それは仕方がないでしょう。この話、主役が主人公から妖精さんにシフトしてますから」
「確かに、最初から最後まで振り回されっ放しだったな、主人公……」
「人の理解の範疇にない妖精さんが主体となる以上、第二章は不明瞭な話にならざるを得ないのだと思います。そういう意味では、『SF風味のおとぎ話』というのは当たってますね」
「い……いつになく論理的な指摘をするじゃねぇか。何か悪いもんでも喰ったか?」
「失礼な! 私はいつもこうです。
妖精さんが主人公に仕掛けた罠(?)と、それを行った目的については序盤ではっきりと示されてますけど、それに薄く重なるように、助手さんと妖精さんの関わりが存在するのも、話をややこしくしている原因の一つですね。
一応、最後にみんな揃うシーンで、一連の仕掛けが助手さんの現実認知のために用意されたものだった可能性が示唆されていますが……実のところ、それだけでは説明がつかない部分もあって、最終的には――
やっぱり妖精さんって不思議!
で納得する以外ないのは、いかにも童話らしいと思います。でも、こういうふわふわした感じって好きですよ♪」
「ホタル――とりあえず病院行け」
「だから何でですかっ!」
―どちらがお好みでせう?―
「今回も二本立てで、どちらも面白いのですが、敢えてオススメするなら――」
「一章だな。生物のサイズと認識力の範囲が比例しているという説を軸にした思考ゲームを堪能出来る。怒濤のネタラッシュのおかげでテンションが下がらないのもいい」
「はうっ! 私の台詞消されたっ!」
「役には立たないが何が起こるか解らない妖精アイテムの数々は面白ぇし(特に『BLACK HOLE』は良かった)、言葉はおろか思考まで妖精化してしまった主人公の行動はもう笑うしかない。
『じょーい!(訳:楽しみます!)』な~んて台詞が、シリアスな状況でも出ちまうんだからなァ」
「あとはパロディネタですか。
『スプーンおばさん』『冒険者たち』『アルジャーノンに花束を』、他にありましたっけ?」
「書名ネタがあったな、『これからはじめるCOBOL~学べば一生飯が食える~』って、皮肉かよ!
カエルも何か元ネタがありそうなんだが、あたしにゃ解らなかった」
「親指姫じゃないんですか? 花の王子様は出てきませんけど」
「そんなメルヘンチックなネタはいらんっ!」
「作品の半分を占める要素をさらっと否定しないで下さい。
全体を通してみると、メインのネタは『アルジャーノン~』でしょうか。そう言えば、どこかで名前もちらっと出てました」
「それがすべてと言うわけじゃないが、妖精版『アルジャーノン~』といった感じの作品にはなってるな。面白いから無問題だが」
「私としては、ちっちゃい状態の主人公と妖精さん達の会話が面白かったですね。いつもは平仮名なのに漢字が交じってたりとか、とぼけてるけど知性を感じさせる台詞がなかなか新鮮でした」
「というわけで、二章はなかったことにして、一章を思う存分楽しんで頂きたい」
「ちょっとちょっとちょっと! 何勝手に終わらせてるんですか! 私のオススメは二章ですよ」
「ロジックが通じない世界は謹んでパスさせてもらう。
まー、あれだ、いつものように『可愛いっ!』で済ませとけ」
「だからある程度は通じますってば。さっきも少し触れましたけど、最後の主人公達の考察はそれなりに筋が通ってましたし」
「あれで納得できるかっ! ああ、読めば読む程頭が痛ぇ……」
「まぁまぁ、ジュースでも飲んで落ちついて下さい」
「(ごくごく)……おい、味がしないぞ。何ジュースだこれ?」
「私特製のバナナ・オレです」
「! ――バナナの原産地はどこだ?」
「さぁ、つるっと滑って、妖精さんワールドにれっつごーなのですよ♪」
「××××××××××××××××!!!!!」
――【つれづれナビ!】――
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